15p【海デート】
死んだ魚のような目をしているペルシカは、真昼間の海辺を散歩していました。彼女の目には失望と無気力がにじみ出ており、周囲の景色が明るくてもその影響を受けずにいました。一方、ヤードは愛しのご主人様とのデートが嬉しすぎて目を潤ませながら、一生ペルシカを見つめていました。彼の目には深い愛情と幸せが宿っており、ペルシカに対する献身と尊敬が感じられました。
「お嬢様と、こうしてのんびり散歩ができるなんて夢のようでございます。」
ヤードは少し肌を露出させているペルシカを目に焼き付けようと、片時も目を離さず凝視し続けていました。彼の眼差しは熱く、情熱的であり、ペルシカの姿を全て記憶に刻もうとしているようでした。
一方のペルシカは、ヤードの視線を感じながらも、彼の熱い視線にはあまり関心を持っていませんでした。彼女は心の中で、「コイツ刺されないかなぁ」とか、「なんなら砂浜も歩きにくいなぁ」といった些細なことを考えていました。
「ワタクシ、ヤードに泣かされてばかりですわ」とペルシカは嫌味を口にしました。
「おっと、そうでした。お嬢様、これ以上歩き続けてはお嬢様の御御足にまた筋肉がついてしまいます。散歩は終わりましょう。」
「人の話聞いてる?」
「失礼致します。」と断りを入れてから、ヤードはペルシカをお姫様抱っこして砂浜を歩き出しました。
「散歩は終わりじゃなかったの?」
「いえ、私奴がこうして散歩を続けたかったのです。」
「…そういえば、さっき、ワタクシの足に筋肉がついてしまうって言ってたけれど、どういう意味?」
「そうでございますね。私奴はお嬢様の御御足の筋肉が全て無くなって歩けなくなれば良いのにと思っておりますので、つまり、そういう意味でございます。」
ヤードがニコッと笑うと、ペルシカはゾクリと鳥肌が立ちました。
「こ、恐い事いわないでちょうだい!じゃあもし、身分の差が無くてもそんな事考えるつもり?」
「身分の差が無かったらでございますか?…そうですね。身分の差が無い場合は足の腱を切らせて頂きます。」と変わらず笑顔のヤードにゾワゾワと更に鳥肌をたてるペルシカ。
(決めた。コイツが本当に王子なら絶対に嫁にいかない。気持ち悪いを通り越してホラーだわ。)
「これでデートは終わりですか?ヤードさん。」と、ペルシカは棒読み口調で問いかけた。
「いえ、次は海辺での乗馬です。」
「海辺でわざわざ乗馬…?」
ヤードが口笛を鳴らすと、遠くの海岸線から白馬が駆け寄ってきた。馬はヤードの前に止まり、優雅に首を振って鼻を彼の手のひらに触れさせた。そのしぐさからは、まるでこの馬が彼に懐いているかのような親密さが感じられた。
ヤードは馬に手を添えた。馬はヤードの指示を待つかのように静かに立ち止まり、彼の命令を待っているかのようだった。
「一介の執事が、大層御立派な白馬をお持ちで。」と乾いた笑いを見せるペルシカ。
「ペルシカ様の為に日頃質の良い馬を調教させて頂いております。」
ヤードは優しくペルシカを抱き上げ、馬の背中にそっと乗せた。ヤードが馬の背に自らも乗り、手綱をピシッと引くと、馬はしなやかな動きで走り出した。砂浜を蹄音が軽やかに踏みしめ、夕陽が彼らの背後に広がる海を美しく彩っていた。
ペルシカは風になびく髪を掻き上げた。
ヤードは馬を手綱で導きながら、ペルシカと共に海岸沿いをゆったりと進んでいった。
「お嬢様!風が気持ち良いですねぇ~!」
「は、ははっ。」
彼女の笑顔は消え、代わりに顔には乾いた笑いが浮かんでいた。その笑いは、もはや死んだ魚のように感情のないものだった。
乗馬を楽しんだ後、ヤードはペルシカに微笑みかけ、海の中でも呼吸ができるようにと魔法をかけた。その魔法に、ペルシカは驚きの表情を浮かべた。
ヤードが丁寧に彼女をエスコートして、海の中へと潜っていった。
透き通るような海水が二人を包み込み、色とりどりの魚たちが彼らを出迎えるかのように泳いでいた。ヤードの手に引かれ、ペルシカは海の底に広がる美しい景色を楽しんだ。
様々な見たこともない骨のような魚や、目の無い魚。ヒレが6つある魚、カニ。とにかく不気味極まりない魚が多くて絶句するペルシカ。
「ここは静かで良いですね。お嬢様を閉じ込めるなら、このくらい誰の手も届かないところがよろしいですね。」
「うわ。数時間前に食べたランチを吐いてしまいそうなくらい気持ちが悪いですわ。」
海を満喫した後、ヤードとペルシカは陸地へと戻ってきた。海から上がると、夕陽が西の空に沈もうとしていた。夕焼けに染まる空はオレンジ色やピンク色に輝き、その美しい景色が彼らを包み込んだ。
「わぁ…夕陽が綺麗。」と棒読みで白い目をしているペルシカ。
「お嬢様、私奴はお嬢様を満足させる事ができなかったのでしょうか?」
「え。」
「ランチの後から、ずっとお嬢様が死んだ魚のような目をされておりましたので、私奴が何か気に障る事をしてしまいましたでしょうか?」
ヤードは辛い表情を浮かべ、心が張り裂けそうなほどの苦しみを抱えているかのように、ペルシカを見つめた。
「大丈夫よ…ヤード。」
彼の眼には深い悲しみが宿り、その視線はペルシカの心に深く響いた。彼女は彼の苦悩を察し、優しく彼の手を取って囁いた。
「お嬢様…。」
「辛いのはお前だけじゃないから、安心して。」そう言って、ペルシカはホテルの方へ向かって歩き出した。彼女のステップは軽やかで、しかし心の奥底には彼女自身も抱える複雑な感情が漂っていた。
「お、お嬢様!?どういう意味でございますか!?お嬢様!?」と慌ててペルシカを追いかけるヤード。
翌日の早朝、ペルシカとヤードは馬車に乗って旅立った。太陽がまだ昇り切っておらず、空は淡い青色に染まっていた。
馬車は静かに揺れながら、緑豊かな丘陵地帯を進んでいく。周囲には鳥のさえずりと風のざわめきが響き渡り、自然の美しさが彼らを包み込んでいた。
「もう少しゆっくり寛がれても宜しいかと思いますが。」
「もう、あんな所に用はないわ。」と、ペルシカは窓の外を頬杖をついて眺めながらつぶやいた。
「そうでございますね。では飛び級試験の手配をしておきます。」
「えぇ…って、は!?飛び級って何の話をしてるの?」
流石にヤードの方を向くと、ペルシカの瞳には深い思慮が宿っていた。彼女は彼の顔を見つめ、その表情から何かを読み取ろうとしているようだった。
ヤードは彼女の視線を感じ、彼女に微笑みかけた。
「学校でございます。飛び級試験を受けて卒業してしまいましょう。」
「その必要はないわ!」
「いいえ、お嬢様。お嬢様がゆっくり寛ぐ事ができなかったは全て学校が悪いと私奴は思い至りました。」
「いやよ!学校は私にとって必要だわ!」
「いいえ、必要ございません。現に私奴と過ごす時間が減っておりますし、それに、いらぬ知恵がつきますので。」
「その知恵を学びたいの!」
「ダメでございます。必要な事は全て、この私奴がお教え致します。それに、学校等通わなくとも、お嬢様の学力は十分満たしておりますので。」
(何よ。どこで、こうなったわけ?何を怒らせたっていうのよ。怒りたいのはこっちの方なんですけど!?)
「暴走しているわね、ヤード。身分の差をわきまえなさいと…ワタクシ言いませんでしたっけ?」
「はっ!申し訳ございません。」と目を逸らすヤード。
「はぁ。ヤード、何があったの?」
「お嬢様とデートができて、浮かれてしまっていたのかもしれません。」
悲しそうにシュンとした感じになるヤード。彼の眉間には深いしわが寄り、悲しみがその瞳に宿っているように見えた。
「ヤードがしっかり一般女性が喜ぶデートプランを学んできたら、またデートしてあげてもよろしくてよ。」
ペルシカの言葉に顔を上げたヤードは、突然にパァッと喜んだ表情を浮かべた。その笑顔は彼の顔全体を照らし、彼の目には明るい光が輝いていた。
「本当でございますか!?なんという幸せ…、約束でございますよ。」
彼の声は喜びに満ちていた。彼女の優しさと理解に触れることで、彼の心は一層明るく軽やかになった。
「えぇ。だからしっかり学んで頂戴。一般女性が喜ぶ事を。」
「畏まりました。しっかりと学ばせていただきます。」
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