12p【布は布でもただの布ではない。】
荒れた海の砂浜に立つ第一王子は、その美しい金髪と碧い瞳で周囲を照らしていた。灰色の空には雷雲が立ち込め、雷が轟き、その轟音が海岸線に響き渡る。
「殿下!準備が整いました。」
「わかりました。では戦うとしましょうか。」
王子は白い布のようなものを鼻に当て、その香りを嗅いでいた。彼は深く吸い込んだ後、布をポケットにしまい、身構えて戦闘態勢に入った。
王子が布をポケットにしまう際、不器用に入れたのか、あるいは何かの拍子に布がポトリと地面に落ちてしまった。
騎士団長の顔が緊張と戸惑いに満ちている中、彼は恐る恐る王子にその事実を伝えた。
「王子、パン……パンティーが落ちました。」
言葉が出ると同時に、彼の声が少し震えていた。彼は冷や汗を流しながら、辛そうな表情を浮かべ、王子の反応を警戒していた。
その瞬間、王子の表情に一瞬だけ焦りが浮かんだが、すぐに冷静さを取り戻し、布を拾い上げる。
「っと。大事なものを落としてしまうとは。」
王子は白いパンティーを再びポケットにしまい戦闘態勢に入る。
「しかし、何度も何度も攻撃してきますね。闇の国の奴ら。」
騎士団長は焦りを隠すため、無理矢理話題を変えようとする。
「仕方がありませんよ。彼らは欲が強い種族です。貴方も闇の国等と言ってはいけませんよ。ダークジュエル王国と呼びなさい。」
「はっ!失礼致しました。」
王子は一人、軽やかに空へと舞い上がり、灰色の雲を切り裂きながら進んでいく。その先には、大きな鱗が威厳を放っていた。その鱗は一枚で、まるで人一人分の大きさがある。王子は剣を抜いて、その巨大な鱗に斬りかかった。しかし、剣が鱗とぶつかる瞬間、カキーンッと金属同士がぶつかる音が響き渡り、剣は折れてしまった。
「おや。いけませんねぇ。流石魔法でできたドラゴンです。」
王子はそう言ってニコリと微笑んだ。
折れた剣の先に、王子は魔法で火を纏わせ、火の剣を一瞬で作り上げた。その炎は燃え盛り、金属のように堅固な鱗を斬りつけた。すると、鱗はジュワッと熱を帯び、溶けだし始めた。
(やはり魔法には魔法ですね。早く決着をつけねば…。雨のせいで、だいぶと魔力を消耗しますからね。)
王子はただ数分の間に、圧倒的な力を以てドラゴンを撃破した。その時、ドスーーン、バシャーンという轟音が響き渡り、大地は微動だにせず、海に平穏が戻った。
地に降りた王子の後ろには、整然とした列をなす騎士団員たちが立ち並んでいた。彼らはただの後処理のために集められたのだ。討伐したドラゴンの処理に当たる彼らは、冷静かつ堅実にその任務に従事していた。
「流石でございますね。たったの数分で。」
「愛しいペルシカが海へ行きたいとねだっているそうですから。叶えて差し上げなくては。」
先程までの大荒れが静まり、空には青空が見え始めた。王子はその美しい景色を眩しそうに、満足げな顔で見つめていた。
「お体が非常に弱いと聞いております。大丈夫でしょうか?」
「ですから、アナタたち騎士団はペルシカが快適に過ごせるように、ゴミ拾い、雑草抜き、害虫駆除、そして海の中の危険生物の駆除をお願いします。」
王子は騎士団長の肩を軽くポンと叩き、親しみを込めた笑顔を浮かべた。
「はっ!!」と敬礼する団長。しかし内心(絶対それ騎士団の仕事じゃない。)と思っていた。
王子は一瞬のうちに姿を消し、瞬間移動の力でその場を離れた。その様子はまるで風のように素早く、周囲の者たちを驚かせた。
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授業が終わり、王立メリアライト学園の校内に響くベルの音が生徒たちの耳に心地よく響き渡った。教室では先生の指示に従い、生徒たちは一斉に席を立ち、教科書やノートを整理し始めた。
ペルシカもその中の一人で、机の上に置いた教科書をきちんとしまい、ノートをバッグにしまい込む。彼女の周りでは友達たちが笑顔で話しながら片付けをしているが、ペルシカは静かに自分の帰り支度を進めていた。
「ペルシカ、部活動には興味ないのか?」とファディールが優しく尋ねた。
「どの活動に入ってもワタクシに接待するだけの活動となってしまいますわ。それにワタクシは完璧でしてよ。」
「お前、カッコイイな。」
ファディールは目をキラキラさせて、ペルシカを見つめた。
その瞳には興奮と期待が宿り、彼の顔には喜びの微笑みが浮かんでいた。
「おっほほほほ。さて、お遊びはこのくらいにして帰るわ。真っ直ぐ帰らないと、うちの変態執事がうるさいの。」
げんなりした表情で、ペルシカはカバンを手に取り、教室を出た。
ファディールが「カバンをお持ちします」と言って、ペルシカからカバンを取り上げて持った。
「ファディール。アナタ友達なんだからそんな事しなくて良いのよ。」
「俺は騎士だからな。これくらいはしないとな。」
「生きてて楽しそうね。」
ファディールとペルシカが門に向かうと、第一王子から支給されたキラキラした痛い感じの馬車が待っていた。その前に立つヤードはニコリとした笑顔を見せながら、ペルシカを待っていた。
「いつか、ファディールの馬で一緒に帰りたいものね。」
「ペルシカ…。」
ヤードに丁寧に案内され、ペルシカが馬車に乗り込むと、疲れた様子で座りながら大きな欠伸をしてしまった。
「お嬢様、少し休まれますか?」
馬車の中でサッとペルシカの隣に座るヤード。
「ん…うーん…今日のディナーはいらないと伝えて…それから…。」
ペルシカは馬車の揺れるリズムに身を委ね、次第に意識を保てなくなっていった。やがて、眠りに誘われるようにして目を閉じ、深い眠りに落ちていった。
ヤードは瞬間移動を使い、ペルシカの部屋へと一瞬で移動した。静かに部屋に入り、ヤードは優しくペルシカをベッドに寝かせた。彼女が快適に眠るように慎重に体を横たえ、掛け布団を軽くかけた。
「おやすみなさいませ。お嬢様。」
その後、ヤードは静かに部屋を後にした。
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ペルシカが目を覚ますと、部屋はまだ暗かった。朝だというのに外の明かりがまだ目立たない。彼女はしばらく横になったまま、天井を見つめながら考え込んだ。ヤードが起こしにくるまでに、このような状況で目を覚ますのは何回目だろうか。彼女は少し考え込みながら、あるのかないのか、とくだらないことを思い巡らせた。
ペルシカはたまにはヤードを逆に起こしてみようかと思い、服を着替えてこっそりと部屋を出た。メイドさんが通りかかり、「おはようございます。」と言おうとしたが、ペルシカは指を口に当てて静かにするように合図を送った。「しーっ」というジェスチャーで、メイドさんは驚いた表情を浮かべながらも、黙って通り過ぎた。
抜き足差し足でヤードの部屋をそっと開ける。彼の部屋はいつも鍵がかかっておらず、ペルシカが思うままに出入りできる仕組みだった。その背後には、魔法によってヤード以外の誰もが入れないようになっているという噂があったが、ペルシカだけは例外だ。
ペルシカは部屋にヤードがいないことに気づき、不審に思っていると、微かな衣擦れの音が聞こえました。その音に気づいた彼女は壁に耳を寄せ、すると壁がグルリと回転し、ペルシカは思わずドテンと床に転倒しました。痛みはなかったものの、下に人がいることがわかりました。暗闇の中で何も見えず、不安に包まれた状況でした。
「…ペルシカ?」
暗闇の中で、ペルシカの耳にヤードの声が微かに聞こえました。その声はまるで寝言を言っているかのようでした。
ペルシカは生唾を飲んで、緊張した表情を浮かべました。彼女は一か八かの演技を試みました。
「夢の中でヤードに会えるなんて嬉しいわ。」
「…じょ・・さま…わた・・・めもで・・・。」
ペルシカはヤードの呟きとともに、彼がまだ眠っていることを悟りました。
(よし、これで夢だと思い込んで眠ったわね。)
ペルシカは暗闇の中で、ヤードにぎゅーっと抱きしめられていることに気付きました。彼の力強い腕の中で身動きが取れずにいると、徐々に暗闇が解け、窓から薄っすらと光が差し込み、部屋の中に並ぶ様々なドレスが見えてきました。これまでに着たことのあるドレスや、これから着るであろう華やかなドレスが、びっしりと並んでいる様子が彼女の目に映りました。
(私の衣装室ってここにあったのね。それだけではないようね?)
ペルシカは部屋の中に飾られた額縁に、自分が以前につけた下着類が収められているのを見て、驚きと呆れを覚えました。ズラリと並んだその光景に、彼女は唖然としてしまいました。
そして、太陽が完全に昇り、部屋に明るさが戻ると同時に、ヤードが目を覚ました。彼はペルシカのパンツを握りしめたまま、眠りから覚めました。
「……ん?」
ヤードは体の上に何かが乗っていると感じ、じっと見つめると、ペルシカが冷めた目で彼を睨みつけていることに気づきました。
「おはよう。ヤード。」
「おはようございます。お嬢様。何故ここが?」
「さぁ。何ででしょうね。この部屋は何?」
「衣装部屋でございます。」と笑顔で返すヤード。
「なら、その手に握りしめているものは何?」
「此方は3日前に着用されていたお嬢様の下着でございます。」
「洗って返して。」
「そんな…。」と悲し気な顔をするヤード。
「洗え。」
ペルシカはヤードがパッチワークのような布団で眠っているのに気付き、その布団に目を凝らせました。その布団にはいくつか見覚えのある生地が使われているようで、さらに何か使ってはいけない生地を使用しているような気がしました。
「ヤード。この布団に使われている生地。何。」
「何でございましょう?」と笑顔を崩さないヤード。
「自分で作ったのかしら?」
「はい、渾身の力作でございます。」
「この素晴らしいパッチワークのタイトルを伺ってもよろしいかしら。」
「タイトルでございますか?そうでございますね。では…【パンツワーク】と。」
ヤードは人差し指を立て、爽やかな笑顔を浮かべました。その笑顔は明るく、清潔感があり、ペルシカの心を和ませるような優しさが漂っていました。
バチーンッとヤードの頬を叩いて自分の部屋に戻るペルシカ。
そして今日も平和な1日が始まろうとしていた。
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