11p【捨てきれない可能性】
ペルシカは数週間ぶりに無事学校へ登校することができた。彼女の登校路はいつもと同じように賑やかで、友人たちの笑顔や会話が耳に心地よく響いてきた。生徒たちとのすれ違いに、ペルシカは優雅な微笑みを浮かべながら、一人ひとりに「ごきげんよう」と挨拶を返しました。彼女の姿は凛としており、周囲の生徒たちからも一目置かれていました。
ペルシカが教室に入ると、違和感が彼女を襲いました。ヤードと門で別れた後から、常に後ろにファディールがついてくることに彼女は気づきました。
ペルシカが自分の席に座ると、ファディールが隣に立っていました。彼女は彼の不機嫌な表情に気づき、心配そうに声をかけました。
「ファディール様?どうかされましたか?」
彼の様子がいつもと異なることに彼女は気付いていました。
「なんだ。聞いてないのか?」
「何?またヤード絡み?」
「あのお方をヤードと呼んでいるのか?流石だな。そうだ。俺は直々に、次期王妃になられるペルシカ様付きの騎士として将来任命を受ける身となったんだ。」
ファディールは胸に拳をあて、自信に満ちた表情で誇らしげに話しました。
「はいはい。それ以上語らなくていいわ。良かったわね。将来が約束されてて。」
ペルシカはファディールの言葉に対して、適当にあしらうような態度を取りました。それに気づいたファディールは、少しシュンとした表情を浮かべました。
「だから、ペルシカ様も俺の事をファディールと呼び捨てしてくれ!」
「なら、ファディール。私達は誰よりも仲の良い友達になりましょう。だから、ペルシカと。アナタも呼びなさい。命令よ。」
ファディールを見ず、正面を向いたまま目を閉じて話すペルシカ。 彼女の声は静かで、しかし確かなものでした。
「それはできない!」
「なら、それはできない!ではなく。それはできません。ね。そもそも王妃になるワタクシの命令に背く行為がどれほどの罪になるか。罪を背負うか友達になるかの二択よ?」
(あぁ。嫌だ。少しやり口がヤードっぽくて何か嫌だわ。)
「と、友達になる。」
赤い顔をしてプルプル小刻みに震えながら座るファディール。
(喜んでるのか、羞恥に苛まれているのかどっちかしら。)
ペルシカは横目でファディールを観察していました。 すると、突然ドンッと自分の机を両手で叩かれ、ペルシカはビクリとして驚きました。 机に置かれた手をマジマジと観察し、眉間に皺を寄せました。
「私の婚約者様を虐めないで!!」
美少女が涙目でペルシカに訴える姿を見て、ペルシカはその顔に見覚えがありました。 それは初登校日、隣の席にいた白髪の男の子と瓜二つでした。 ヒューマンキル伯爵の御子息にそっくりなのです。その姿はまるで鏡のようで、ペルシカは彼が自分の隣の席に座っていた白髪の男の子だと確信しました。
「ヤト!何をしてるんですか!?未来の王妃に向かって無礼ですよ!」
「ちょっ、シルクお兄様もヤトも落ち着いてください。ヤト、俺は虐められてません!それよりペルシカから離れて下さい二人とも。」
ファディールは怒りに満ちた表情で立ち上がり、ヒューマンキル伯爵の御子息と呼ばれる男の前に立ちはだかりました。 彼の姿は威厳に満ち、胸を張って横切っています。 彼の目は真剣で、言葉がなくとも彼の決意は明らかでした。
(何がどうなってるのよ。早く静かにならないかしら。)
ペルシカは冷静な目で、現在の状況を静かに見つめていました。彼女の瞳には感情の波は見られず、まるで心の奥底に何かを考えているような静寂が漂っていました。
「ペルシカ、俺の婚約者がいきなり御無礼を。外で話してきます!」
ファディールは、ヒューマンキル伯爵家の兄妹を連れて、教室を静かに出て行きました。周囲の視線が彼らを追い、教室内には一瞬の静寂が広がりました。彼らが去った後、教室は再び騒がしさに包まれましたが、ペルシカの心はなおも冷静で静かなままでした。
シルク・ヒューマンキルとファディールが教室に戻ってきました。彼らは静かな足取りでペルシカの前に立ちました。
「おと…、コホンッ、妹がお騒がせ致しました。」とシルクは爽やかに笑ってみせた。
「おと?」と疑いの目を向けるペルシカ。
「ぺ、ペルシカの前だから緊張してるんだ!」と謎のフォローをかますファディール。
「…まぁ、そういう事にしておきますわ。」
ペルシカは内心で、ファディールが実は女性であることを知っていました。そのため、シルクがヤトの事を「弟」と言いかけたのではないかと思っていました。彼女はその疑念を抱えながらも、冷静な態度を崩すことはなかった。
授業を終え、下校するペルシカは馬車に乗り込み、すぐに頬杖をついて窓外を眺めました。馬車がゆっくりと進む中、彼女は外の景色を見つめながら、心に漂う思いにふけっていました。
「はぁ…。」
「どうかされましたか?」
馬車の中で、心配そうにペルシカを見つめるヤードの姿があった。
「どうもこうも…。ファディールに綺麗な顔した婚約者がいたのよ。」
「それはヒューマンキル伯爵家の次男ヤシュート様の事でございますね?」
「やっぱり男かー。手が角ばってて、男だろうなーって思ってたの。じゃあ、女性として届け出がでてるの?」
「はい。そうでございます。ヒューマンキル家の長女シルフィーユ様はファディール様のお兄様と結婚されておりますので、両家はとても仲睦まじい様子でございました。」
「ややこしい家ね。」
「そうでございますか?見ていて楽しいと思っておりましたが。」
「そういう事ね。」
ペルシカはヤードと王子の間に何らかの繋がりがあると推測していました。もしヤードが王子だと仮定して偽装届けを「楽しそう」という理由で受理させたとするなら、それは王子もその理由だろうと考えました。ペルシカはその考えがばかばかしいと感じ、それ以上そのことを考えるのをやめました。彼女は他のこれから起きる未来を考えることにしました。
次の事件は夜会で起きる。その夜会には王子が絶対に参加し、そして命を狙われる。血を流した王子を主人公がロザリオで祈りを捧げて治癒をする。王道的なストーリーだ。
問題はペルシカが夜会に無事参加できるかどうかという事だった。何かしらの病に見舞われ、王子との接触を阻害され続けてきた。
ペルシカ自身は今、王子と会いたくもないと感じているが、彼が血を流して亡くなる事になれば大変だ。
ペルシカはヤードに対して正直に事情を話し、彼にどうにかしてもらうよう懇願するか、自分でなんとか解決する方法を必死に考えていました。彼女の心は焦りと不安でいっぱいでした。
「何か…深く思い悩んでいらっしゃいますか?」
ペルシカは心の中で深呼吸をし、ヤードが悟ることのないように、急いで別の話題を見つけることに決めました。
「ううん。聖女の件。上手く誤魔化してたなーって考えてただけ。」
「あぁ。お嬢様が聖女だとバレれば色々面倒事が多いかと思いまして。」
「それでヴェールを被せたのね。でもどうして建国した王は聖女を悪だと思ってたのかしら。」
「聖女の力は神から直接授かった力だそうです。ですので、多くの人がその力の恩恵に感謝し、魅了される事でしょう。聖女の中身が良い人だとは限りません。良い人でなくとも使えてしまう力だからこそ悪なのです。王は色々と苦労したようですよ。」
「そうなのね。まぁ…もうヤードが倒れる姿を見たくはないわ。私がいなくても末永く元気でいて頂戴。」
「お嬢様、それは無理な話でございます。」
「どうしてよ。」
「お嬢様こそが私奴が生きる理由で生き甲斐でございますから。」
馬車が家に到着して、降りようとすればヤードに抱っこされてしまった。
「ヤード、ワタクシ今日はどこも怪我をしていないわ。降ろしなさい。」
「嫌でございます。」
「何かありましたの?ワタクシ今日はファディールとしか接触してませんわよ。」
(ヤードったら、また嫉妬?でも何に?)
「先程、お嬢様が 私がいなくてもとおっしゃいました。そのような事を言われてしまいますと、お嬢様がどこか遠くへ行ってしまいそうな気がして一瞬たりとも離れまいと。」
(夜会の事に気をとられて言葉に気を付けるのを忘れてたわ。あぁ、でもそうか。王子がヤードだとしたら、ヤードにずっと一緒にいてもらえば良いんだ。まぁ、ヤードじゃなかったら、どんまいだけど。)
「そうよ。ヤード、ワタクシとデート致しません?」
「なっ、本気でございますか?」
ヤードはペルシカからデートに誘われて、目を輝かせながら気持ち悪い笑みを浮かべました。その笑みは、喜びと興奮が入り混じったものであり、ペルシカに対する深い愛の情を示していました。
「えぇ、ワタクシどうしてもヤードと出かけたいの。」
「いつになさいますか?」
「学校は休みたくないから、今度の休日に。海へ行きたいわ。」
「今度の休日…でございますか。」と少し深刻そうな顔をするヤード。
(おうおう、困っとる困っとる。)
ペルシカは内心で少し悪い笑みを浮かべました。その笑みは、ヤードが喜ぶだろうことを知っていたが、同時に彼の反応を見ることで得られる面白さも感じていたのです。
「ワタクシ、ヤードが倒れて反省致しましたの。こんな事になるなら、一緒にデートの1つや2つでもしてヤードを満たしてあげれば良かったなと。」
ペルシカは見事な演技力で反省しているかのように振る舞いましたが、その内心は全く反省の色を見せていませんでした。彼女の真の目的は、夜会へのヤードの参加を阻止することでした。彼女は心の中で様々な策略をめぐらし、ヤードが夜会に行かないようにするための計画を練っていました。
ペルシカの考えは、事前に瞬間移動が可能な魔法使いを事前に雇い、ヤードと旅行へ行き、夕方に適当な理由をつけてホテルの自室へ帰り、その隙に瞬間移動で夜会に参加することでした。彼女は家の中にはヤードの息のかかった敵だらけだと考えており、その状況を避けるためには外出する必要があると判断していました。
同時に、ペルシカは王子の正体がヤードである可能性を完全には捨てきれず、彼を海辺へ連れ出して夜会から遠ざけることを計画していました。しかし、もしヤードが王子であったとしても、クインシールが彼の代わりに出席するだろうと考え、どうしても夜会に出席する必要性を感じていました。
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