10p【あの時のスプーンの行方】
ペルシカはベッドの上でぐでーっと仰向けに寝転がっていました。 彼女の顔には疲れと安堵が入り混じった表情が浮かんでおり、深いため息が漏れています。
「め、めんどくさい…。」
いつもならば、ヤードが近くにいるはずでしたが、私用があるとかで外出中でした。 ドラゴンの件で兄を困らせてしまったペルシカは学校へも通わず、家でぐうたら生活を送っていました。 彼女の部屋は静まり返っており、窓から差し込む光が部屋をやわらかく照らしていました。 ペルシカは布団にくるまって、深くため息をつくのでした。
(私ってもしかして、適当に主人公して適当に過ごせば適当に変態王子と結婚できて、適当にグータラ生活送れるんじゃね?って、王子を変態って決めつけるのは良くないわね。まだ普通の可能性が残ってるわ…。)
部屋を見渡せば、王子からの贈り物だらけで、今日着ている服でさえ王子からの贈り物だったペルシカ。 豪華なドレスや宝石、美しい絵画など、彼女を囲むもの全てが王子からの寄贈品だった。 しかし、ペルシカの表情はあきらかにもらい過ぎだと思っている様子でした。 彼女はため息をつきながら、部屋の中を見渡し、過剰な贈り物に囲まれることの虚しさを感じていました。
(やっぱり変態かもしれない。こんな毎日毎日贈り物をされて、1度着た服は着ませんとでも言うような…小説の中の一文に「王子は恋愛において異常な執着心を見せたが、彼は…」のような事が書いてあった気もするし…。)
「だぁ~~~~~。どうやって生きていこう。」
ペルシカが人生について悩んでいると、部屋のドアに控えめなノック音が響きました。 「どうぞ。」とペルシカが返答すると、メイドが部屋に入り、謙遜のしるしに頭を下げながら、「ペルシカ様、ファディール・ジェルマンディー様がお見えになっております。」 と告げました。
「げ。馬忘れてた。」
ペルシカは急いでファディールを待たせている客室へ向かいました。 心の中で焦りを感じながらも、礼儀正しく慌てずに歩調を合わせ、客室へと足を運びました。
「お待たせ致しました。」
「家に戻ったと聞いてな。俺はあの後、しばらくここで待たせてもらったが…そのなんだ…あまりにも、おま…ペルシカ様のお兄様とやらが…まぁ、うん。色々とあったんだ!」
「何よ、歯切れがお悪いですこと。馬よね。馬を取りに来たのよのね?」
「あぁ、そうだ。愛馬のジョセフィッヌッなんだ。」
(ね、ネーミングセンス悪っ!!)
「そ、そう。此方よ。」
ペルシカはファディールを外へと連れ出し、その後、魔法のベルを鳴らしました。 その音に応えるかのように、一瞬で私用で外出中のヤードが姿を現しました。
ヤードは謙虚な態度で「お嬢様、お呼びでしょうか」と尋ねました。 しかし、普段のハーフオールバックの髪型とは異なり、彼の髪は全て降ろされており、その姿を見た瞬間、ペルシカは一瞬固まりました。
(輪郭も顔も髪型もクインシール様そっくりじゃない。違うのは髪の毛の色と瞳の色。そう、ただそっくりなだけよ。そうよ。きっとそう。絶対そうよ。)
「コホンッ。ヤード、ワタクシご友人の馬を王城に置いてきてしまったの。ここへ連れて来てくださるかしら?」
「畏まりました。失礼ですがお名前を伺っても?」 とヤードは笑顔でファディールに尋ねました。
「ファディール・ジェルマンディーだ。」
「ふむ。ジェルマンディー公爵家の御令嬢でしたか。畏まりました。すぐに連れて参ります。」と言ってヤードは謎の光と共に消え去った。
「……今、御令嬢って言ってなかった?」と真顔で正面を見つめたままのペルシカ。
「言い間違えたんだろ。」と顔を思いっきり逸らすファディール。
「うちのヤードは優秀よ。言い間違えるわけがないわ。」と変わらず正面を見つめたまま話すペルシカ。
「…聞き間違えだろ。俺のどこが女に見える。」
ヤードが瞬間移動の魔法を使い、馬を連れて戻ってきました。
「お待たせ致しました。」と爽やかな笑みを見せるヤード。
「ほら、うちのヤードが他の男と一緒にいてこんな微笑みを見せるわけがないじゃない。」とジト目のペルシカ。
「どうされました?」
「まぁ、いいわ。外出中に呼んでしまってごめんなさいね。もう戻って良いわよヤード。」
「はい。では失礼致します。」と言って一瞬で目の前から消え去るヤード。
「フィッヌッ!!」とファディールが愛馬を撫でながら叫びました。
「さて、何も聞かなかった事にするから、さっさと帰りなさい。」
「おう…。あの…その、学校来いよな!!」
ファディールは馬に乗って勢いよく走り去っていきました。 彼の姿は風になびき、遠くに消えていく様子が美しいものでした。
「…学校ねぇ。」
小さな溜息をつくペルシカ。
ヤードはその晩、帰宅後すぐにペルシカの部屋に向かいました。 彼はペルシカが寝る前にリラックスできるよう、丁寧に全身をマッサージし始めました。 その手つきは優しく、熟練されたもので、ペルシカはその温かい手つきに安心し、心地よいリラックス感に身を委ねていました。
「ヤード、聞きたい事があるのだけれど。」
「何でございましょう。」
ヤードはいつも通りの半分だけオールバックにした髪型で、ペルシカの部屋に戻ってきました。 彼の姿はいつも通りで、変わらない安定感があった。 ペルシカは心の中で、「お前王子じゃね?」と問いかけたくなったが、もしヤードが本当に王子だったらショックで信じられないと思い、その言葉を口にすることは避けました。 彼女はその疑問をそっと胸にしまいました。
「ワタクシが使った後のスプーンを舐めてから洗う事を禁じます。」
「なっ!?どこでそれを…。いったい誰が!!」
「冗談で言ったつもりだったのに…本当に舐めてたのね。」
ペルシカは突然、顔を青ざめさせました。 その表情はドン引きしているかのようであり、まるで気持ち悪いものを見ているかのようでした。
「カマをかけられたのですね!?お酷い事をしますねぇ、お嬢様。」
ペルシカはヤードの奇行に慣れていた。 そのため、彼女は呆れながらも深い溜息をつき、話を次に進めることにしました。 彼女の心には、このような出来事が今後も続くだろうという確信がありました。
「罰として、ファディールの事、詳しく聞いてもいい?」
「はい。もちろんでございます。ジェルマンディー公爵家の長男クレマーチル様はお体が弱く、とても時期当主を継ぐ事ができそうにありませんからねぇ。その後、お生まれになったファディール様を男として出生届けをだされたのでしょう。お嬢様と同じクラスの生徒は全て身辺調査をしておりますので、間違えありません。お嬢様にとって快適なクラスをと、私奴が用意した特別クラスですので。」
ヤードは饒舌にペルシカの質問に答えながら、笑顔で彼女のふくらはぎを揉みほぐしていた。 彼の手は熟練の技術を持ち、ペルシカの疲れを癒すように優しくその答えを伝えていました。
「うわ…そこにもヤードの息がかかってるわけね。でも可哀想に。女性でも当主になれるようにすればいいじゃない。今から。」
「おや、珍しく勉強が足りないようですね。お嬢様。」
「え?そうかしら。」
「はい。魔法でございます、お嬢様。男性が跡を継がねば子に魔力が宿りません。ですので…難しいかと。」
「そうだったっけ!?随分と難しいわね。えー、そんなクソ設定意味あるの!?ただの乙女ゲームみたいな小説の癖にー!!」
「お国の言葉が出ておりますよ。お嬢様。それにファディール様は今の暮らしにとても満足してらっしゃいます。下手に干渉すべきではないでしょう。」
「ヤードがそういうならそうするわ。」
「おや、素直でございますね。」
「ところで、いつこのマッサージはおわるのかしら?」
「お嬢様がお休みになられるまでです。」と言ってニコリと笑ってみせるヤードであった。
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