似非(えせ)のエッセイ
似非とは、本物ではないものや、本物らしく見せかけているものを指す言葉です。中国の論語で、孔子の『似て非なるものをにくむ』という言葉からきています。
『小説家になろう』でのファンタジー小説において、中世ヨーロッパ風の世界設定を『ナーロッパ』と揶揄されることがあります。これは史実としてのヨーロッパとは異なる似非ヨーロッパというイメージでしょうか。
森の中でサザンカの木にピンクの花と白い花が咲いている。
小さなタヌキくんと、頭に王冠のようなものを乗せた白いおサルさんがいる。
二人の間にあるお皿には、月餅のお菓子が乗っている。
皿の横には湯気のあがる湯呑も置かれていた。
二人はワラをつかって履物をつくっていた。
「んとね。白猿さん。ワラジとワラゾウリって同じだよね」
「いや、草鞋と藁草履は別ものだぜ。子狸くん。ワラジは足首を固定するヒモがついている。ワラゾウリは鼻緒だけで足につけているんだ」
「そうなんだ。どう使い分けるんだろう」
「長距離旅行で使われたのがワラジだぜ。ワラジはヒモで縛るのが面倒だけど、足にぴったり固定されるから疲れにくいんだ。日常的に履いてたのがワラゾウリだぜ。ワラゾウリは装飾や色をつけたり、デザイン性も考慮されることもあるんだ」
「昔の日本人は、みんなこういうのを履いてたんだね。今は時代劇とかでしかみられないの」
「ワラジはキャンプ用品や登山用品を扱う店でも置いていることがあるらしいぜ。川の濡れた岩場をあるくのに便利みたいだ。ワラゾウリはお祭りで使われることもあるし、足裏が木板になっているやつが和風の履物店で置いてるかも」
「そうなんだ。今でも使う人がいるんだね」
「作者のアホリアSSは、ワラ細工の体験会でワラゾウリを自作して履いたことがあるらしい」
「んとね。現代人が履くと、なんかチクチクして痛そうなの」
「実際に裸足で履いたらチクチクしたらしい」
「親指が別になっているクツシタがあればまだマシだったかも。んとね。ぼくはワラ細工っていうと、ワラを木の棒で叩いているイメージがあるの」
「ワラは中が空洞で、ストローみたいになっている。っていうか、strawってワラのことなんだな。棒でたたいてつぶすことで曲げやすくなるぜ」
「んとね。むかしの『与作』っていう歌で。奥さんがワラを叩いている場面があったの」
「ところで、四字熟語で『二束三文』という言葉がある。売りたい商品が安すぎて利益がほとんどない状態のことだ。これは高級なワラゾウリでも、値段が安かったことからきたらしい。二足分の高級ワラゾウリが三文で、『二足三文』とも書くぜ」
「二束三文は売る方が言う言葉なんだね。ところで、ある野球選手がエース投手とホームラン打者を兼ねてて、『二足のワラジ』って言われていたの」
「両立するのが難しい二つの仕事をする場合にいう言葉だな。成功した場合には『二足のワラジを履く』ということわざになるけど、失敗した場合は『二足のワラジは履けない』ということわざになるな。現実的には後者の方が多そうだ」
「んとね。社会人で働く人の作品が書籍化してプロ作家になった場合は、『二足のワラジを履く』になると思うの」
「第二巻以降も続くには相当な売り上げが必要かもな。作家さんと出版社さんには宣伝もふくめて頑張ってほしいところだ」
「んとね。ワラジで思い出したけど、ダンゴムシのことをワラジムシっていう人がいたの。これって方言かな」
「いや、ダンゴムシとワラジムシは似てるけど別の虫だぜ。ダンゴムシは光沢があって、身体を丸めることができる。マルムシともいうぜ。ワラジムシはダンゴムシより少し平たくて、二本の尻尾があるぜ」
「あ。違う虫だったんだ」
「似て非なるものを似非という。ワラジとワラゾウリも似非といえるかもな」