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「エメは死についてどう思う?」
食事中にする話題だろうか。肉を切りながらエメは目の前で貴族のように食事をするウィリアムを見た。
さきほどまでネズミを毒で殺していたエメが何か言えることでもないが。
彼のマナーは末端貴族令嬢だったエメよりもよほど完璧で、彼が何を食べていてもその食事はごちそうに見えた。彼がしなびた豆を食べていてもステーキを食べていても美味しそうに見えるだろう。
「死ですか……暗くて悲しくて冷たい感じがします」
「ふむ。君はとても素直で初々しい表現をするね」
ウィリアムはナプキンで口を上品に拭う。ウィリアムの過去について質問したことはないが、明らかにこの人は平民ではなかったに違いない。マナーはすぐ身に着くものではない。彼の洗練された動作はそれなりの年月をかけて形成されたものに見える。
「死への理解が人生への理解を深める。だって生き物には等しく死が訪れるだろう? 死生観は大切だ。正直、相手の死生観さえ分かればその相手を知り尽くしたも同然」
「死への理解と急に言われても……難しいです」
「そうだね、君くらい若いと身内に病人でもいない限り死について深く考えないだろう。往診先の患者も他人事だろう」
エメは一瞬、ビクリとした。
私は今日、というかほとんど毎週のようにネズミを殺している。毎日死は身近にあった。自分の手でネズミの生死を握っていた。それなのに、私はそれを死と認識していただろうか。ネズミの死体を裏庭で処理しても何も感じないようになっていないだろうか。
ウィリアムの患者が亡くなっても、あまり心は動かない。だって心を動かすほど知らない。
ネズミに対して毒を扱っているのはエメだ。でも、毒されているのもエメ自身かもしれない。いくら往診先で愛想を振りまけるようになったからといって、善良な人間なわけではない。患者が死んでも涙一滴もこぼれない。私はおかしいんだろうか。
「私にとって死は祝祭だよ。すべてのわずらわしいことから解放される祝祭だ」
「死が他人から与えられたものでも、ですか?」
さすが「毒の紳士」は表現が違うと圧倒されかけた。でもウィリアムはエメが自分の頭で考えて意見を述べるのを好む。
今回も頑張って頭の中でなんとなくかみ砕いてから質問をした。
「私が人を殺すのは、依頼と十分な報酬があるから。ほとんどのまっとうに生きている人間は普通、誰からも『あいつを殺してほしい』なんて依頼されない」
それはそうだ。エメだってあんなことがなければ誰かを殺したいなんていう衝動が自分の中にあるなんて気付かなかった。
「もちろん、私は殺してほしい理由も聞く。それで納得したら依頼を受ける」
「でもやっぱり他人から与えられた死は祝祭じゃないと思います。恐怖とか苦しみになるんじゃないですか?」
「毒を飲んだ者たちは一様に苦しむね。稀に苦しまない毒を使う時もあるけれど。死んだら人間はどうなるのだろうね」
「天国に行くんじゃないんですか?」
「じゃあ、それは祝祭にならないかい? 悪いことをした人でも天国に行けるのかな?」
「それは……分からないです」
「そうだね、宗教観も絡んでくる。他国の宗教で言えば、死んだ後も修行するというものもあるし。人を殺せば地獄行きということもある。それなら、私とエメは仲良く地獄に行くだろう」
ウィリアムは悩むエメを楽しそうにしばらく見つめて食事を再開した。
「死が暗くて悲しいというのは残された者の感覚だよ。死ぬ本人の感覚ではない」
エメは唇を噛んだ。先週も今日も実験で殺したネズミを思い出す。部屋に入ってきたのが嫌で叩いて潰した小さなハエも。何とも思わない死だってあった。
「私にとって死の色は赤と白だ。赤は血の色だね。白は解放だ」
「……私は、死がまだよく分かりません」
「私くらいの年齢になるとどうしても考えるものだ。死の足音、死の香り、死の色。エメも誰かを殺すなら死への理解を明瞭にしておかないと。そうでなければいざという時に迷ってブレる」
「先生は迷ったんですか?」
ワインの入ったグラスを優雅に持ちながら、ウィリアムは笑う。
「私は迷わなかった」
ワインを飲んでからウィリアムは続けた。
「エメもそろそろ現場に連れて行こうか。往診ではなくて。やはり病気で亡くなるのと本人も予想しないタイミングで訪れる死は違うからね。そこで死の足音と香りが分かるだろう」
人が死ぬ、暗殺の現場にエメを連れて行くということか。エメは驚いてナイフを落としかけた。
「期待しているよ、私の可愛い一番弟子」




