ウザ絡み後輩幼馴染と俺
「せーんぱいっ!」
後ろからいきなり大声で呼びかけながら、肩を叩いてきたのは後輩の新城貴子。
高校1年生で、金髪に染めたショートカット、着崩した制服、まあ黙ってれば美少女と言える。
「あー、うるせーな。毎回毎回。」
いや、ホントうぜぇんだよな。って思っているのは俺、今井翔太。
ごく普通の高校2年生。
俺と貴子は小学校からの幼馴染で、小さい頃は妹のように俺の後をくっついて回っていた。
だが、俺が中学を卒業する辺りから、貴子は見た目が派手になっていった。
それから俺をからかうというか、小馬鹿にするようになった。
「またまたぁ!そんなこと言っても嬉しいくせに!」
「いや、マジでうるさいんだよ。」
「先輩いっつも一人ですもんね!私が構ってあげないと寂しいですもんね?」
「俺は静かな方が好きなんだよ。それに一人の方が気が楽なんだ。」
「可哀想な先輩!そんなだから彼女どころか友達もいないんですよ!」
「俺がそれでいいって思ってんだから可哀想なんかじゃねぇよ。」
「強がっちゃって!今日も一緒に帰ってあげますよ!」
「あーもー放っておいてくれないか?」
「はいはい。今日はどこ行くんですか?」
「本屋寄って帰る。」
「じゃあ、行きましょう。」
いつものことながら、付いてくるんだな。
本屋に着き、目当ての本を手に取る。
異世界物のラノベだ。
会計を済ませて、店を出る。
「うわー、先輩そんなの読んでるんですか?現実では無理だからってハーレムもの読んで現実逃避するんですか?」
「これは別にハーレムものじゃねぇよ。いいだろ、俺がどんなのを読んでても。」
「もー、オタクはモテないですよ!ラノベなんか読んでないで自分磨きしましょうよ!」
「自分磨き?」
「そうです!勉強とか、運動とか、オシャレとか。」
「俺の趣味を貴子にどうこう言われる筋合い無いんだが?」
「先輩は地味で勉強も出来るわけでもないし、スポーツもダメですよね!だったら何か為になる事をしましょう!」
「余計なお世話だ。それは俺が決めることだ。」
「もう、そんなだから先輩はダメなんですよ!私は何かに一生懸命な人がカッコいいと思いますよ!」
「ふーん、だったら俺の事は放っとけよ。」
「なんでですか!私が放っておいたら先輩寂しいでしょ?」
「別に。」
「もー、ホント素直じゃないんだから!」
いや、ホントに本音言ってるだけなんだけどな。
「あー!貴子じゃん!何してんの?あれ?その人だれ?彼氏?」
ん?誰だ?貴子の友達か?
「えっ?ち、違うよ!彼氏なんかじゃないよ!」
「えー?だってなんか仲良さそうじゃない?」
「こ、この人はただの幼馴染!こんな冴えない人、彼氏にするわけないじゃん!」
「あー。まあ、そうなのかな?ごめんね?変な勘違いして!じゃあね!また明日!」
「う、うん。またね。」
…冴えない人、ね。まあ、そうなんだろうけどな。
「あ、あの先輩、さっきのは…。」
「友達か?友達だったら俺なんかと一緒に居ないであの子と遊びに行ったらいいんじゃないか?」
「い、いいんです!だって私は…………。」
「まあ、俺はもう帰るけどな。じゃあな。」
「あっ!ちょっと待って下さいよ!私も帰ります!」
……何でコイツは付いてくるんだ?こんな冴えない俺に。
翌朝。
「せーんぱいっ!おはようございます!」
いつものことながら、何で俺を待ってるんだ?
これまで俺の事を散々小馬鹿にしているのに。
「なあ、俺の事を待っていなくてもいいだろ?」
「待ってなんかないですよ!先輩、自意識過剰なんじゃないですか?」
「…なら、先行くわ。」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!せっかくなんですから一緒に行ってあげますよ!」
「いや、遠慮する。」
「もー、素直じゃないんだから!照れなくてもいいんですよ?」
「照れてなんかないけどな。」
「はいはい、わかってますから!はい、行きましょう!」
いつものやり取りだ。なんか疲れてきた。
「本当に先輩には感謝してもらいたいですね!こんな可愛い女の子と二人で登校出来るんですから!」
「別に頼んでないんだけど。」
「ホントに先輩は素直じゃないんですね!私じゃなかったら、もう構ってあげてませんよ?」
「構ってほしくも無いんだけどな。」
「はいはい。学校までの道のりを私と過ごせる幸せを存分に味わってくださいね!」
「あ!おはよー!貴子!いつもお熱いねー!」
「ち、違うって!そんなんじゃないから!」
昨日の貴子の友達とは違う女の子に声を掛けられる。
「またまたー!そんな照れることないじゃん!」
「だから違うって!こんな地味な先輩、私とは釣り合わないでしょ?」
「あー、そーかもだけど、いつも一緒に居るじゃん?」
「そ、それは、この先輩が独りぼっちで可哀想だから!」
「ボランティアってこと?」
「そ、そう!ボランティア!」
「へー、優しいんだ、貴子って。」
「で、でしょ?」
「ふーん、そっか。なら揶揄っても面白くないなー。」
そう言って貴子の友達は行ってしまった。
ボランティアね…………。いい迷惑なんだが。
「なあ、もう俺に付きまとうのやめないか?」
「へっ?な、何でですか?」
「ボランティアなんかしなくて良い。俺もいい迷惑だ。」
「なっ!いい迷惑って何ですか!いいんですか?私が居ないと先輩は独りぼっちじゃないですか!」
「だからずっとそれで良いって言ってるだろ?」
「そ、そんなこと言って後悔しますよ?!どうなっても知りませんよ?」
どうなるって言うんだよ。
「いいよ、それで。」
「分かりました!先輩なんかもう知らないんだから!」
そう言って走って行ってしまった。
まあ、いいか。
その日の放課後、貴子は俺を迎えに来なかった。
久し振りに静かな時間が過ごせる。
今日は早く帰って昨日買った小説を読もう。
そう思って帰宅していると、前に見覚えのある姿が見えた。
貴子と…………知らない男子生徒だ。
仲良さそうに腕も組んでいる。
彼氏でも出来たのか?良かったな、貴子。
と、俺に気付いたのか、こちらをチラチラ見ながらその男子生徒と貴子は会話している。
「今日、貴子の家行ってもいい?」
「えー?どうしよっかな?」
「いいだろ、付き合ってんだから。な?」
やっぱり付き合ってるんだな。
「えー、だって付き合った初日でしょ?」
今日から付き合い始めたのか。
「そうだけどさ、俺マジで貴子の事好きだからさ。」
「もー、しょうがないなー。ちょっとだけだよ?」
まあ、高校生だからな。そういう事もあるだろう。
ここで貴子の家の方向との分かれ道に差し掛かった。
そのまま自分の家の方向に進んで数分後。
「ちょっと先輩!」
貴子から呼び止められた。
あれ?彼氏は?
「?どうした?」
「どうしたじゃないですよ!なんで止めないんですか?!」
「止めるって何を?」
「何をって…。私が彼氏を家に連れ込んでもいいんですか?!」
「いいんじゃないか?まあ、節度は持って付き合った方が良いとは思うけど。」
「はあ?えっ?なんで?」
「えっ?なんか変な事言ったか?」
「…先輩は私が誰かと付き合ってもいいんですか?」
「ああ、もう高校生だし、いいんじゃないか?」
「……ちょっと、先輩、お話があります。そこの公園で話してもいいですか?」
「…大事な話か?」
「はい、お願いですから。」
「…わかった。」
俺の家の近所の公園に着いた。
「…あの、先輩。今までどうして私が先輩と一緒にいたかわかります?」
「ボランティアだろ?俺がぼっちだから。」
「…ホントにそう思ってたんだ……。あのですね、それは違います!」
「だって、そう言ってたじゃないか。」
「そうですけど!違うんです!」
「じゃあ、何だよ。」
「…………これは、言わなきゃ伝わらないヤツだ…。」
「?」
「あ、あのですね、私はずっと先輩の事が好きだったんです!」
「はあ?」
「はあ?じゃなくて!ホントに先輩の事が好きだったんです!じゃなきゃ毎朝先輩の事待ってたり、放課後一緒に帰ったりしません!」
「さっきの彼氏は?」
「あ、あれはクラスの男子に頼んで彼氏の振りをしてもらっただけです!」
「……なんでそんな事を?」
「だって、そうしたら私の事気にしてくれるかなって思って…。」
「そんなワケないだろ……。」
「先輩が全然私の気持ちに気付かないから……。」
「だってずっと俺の事小馬鹿にしてただろ?」
「そ!そ、れは…。恥ずかしくて……。」
「俺、結構嫌な思いしてたんだけど?」
「え…。先輩も照れてるんだと……。」
「なんでバカにされて照れるんだよ?意味わからんだろ?」
「え、じゃ、じゃあ、ずっと我慢してたんですか?」
「我慢って言うか、ずっと言ってただろ?もう一緒に居るのはやめようって。」
「あっ。え?素直になれなくてそう言ってたんじゃなくて?」
「俺はずっと素直だったけどな。」
「う、うそ。え?ずっと嫌な気分だったんですか?」
「だからそう言ってる。」
「え、あ、じゃ、じゃあ私を女の子として見たらどうですか?」
「さあ。女として見たことないからな。」
「そ、そんな…。」
「そもそも派手な格好した子は好きじゃないし。」
「え……。」
「それにさ、貴子も俺の事好きって言ってたけど、多分本気じゃないだろ?」
「ど、どうしてですか!」
「だって、俺は勉強にも運動にもオシャレにも努力してないぞ?」
「そ、それでも私は先輩の事」
「俺に言ったよな?何かに一生懸命の人が良いって。」
「そうですけど、先輩がそうなってくれたらって思って…。」
「じゃあ、今の俺の事は好きじゃないだろ?」
「ち、違います!今のままでも私は」
「俺はさ。貴子の価値観を否定するわけじゃないけど、その価値観を俺に押し付けるのは勘弁してほしい。」
「そ、ん、なこと…。」
「確かに頑張ってる人は凄いと思う。尊敬出来る。けど、俺は貴子に好かれる為に何か努力しなきゃいけないのか?」
「…………。」
「俺が貴子の事を好きだったら努力するべきなんだろうけどな。」
「…………。」
「貴子もそういう人が現れたらその人の事を好きになるよ。」
「…………。」
「今はたまたま今までの一緒の時間と情があるから俺の事が好きだと思ってるだけだと思うけどな。」
「…なんかわかんなくなっちゃったよ……。」
「ゆっくり考えてみてもいいんじゃないか?」
「…うん。」
「じゃあ、これでこの話は終わりでいいか?」
「…………うん。あっ!あの!ご、ごめんね?今まで酷いこと言ってた!」
「ああ、もういいよ。」
「ごめん…。あ、あと、これからも話しかけるくらいはいいかな?」
「別に幼馴染の縁を切るってワケじゃないから、構わないよ。」
「そ、そう。うん。わかった。ありがとう。」
「じゃあな。」
そう言って貴子と別れた。
好きだと言われるのはイヤじゃないが、好きでもない子の為に自分を変える努力は出来ないだろ。
そもそも、好きな子の為の努力ってどうなんだろう。
自分を変えなきゃ好きになってもらえないなら、変わったとしてもその後苦しくないか?
表面的なものなら大丈夫かもしれないけど、性格的な事だったらどうなんだろうな。
本当に性格自体が変わればいいが、無理して変えたなら必ずどこかで辛くなると思うんだが。
楽しいと思う事が変わったり、ツラいと思う事が変わったり、努力でどうにかなるんだろうか?
恋愛を、一人の人を、そこまでしてもいいと思えるほどになるんだろうか。
偉そうな事を言っちゃったけど、俺だって恋愛したことないからわかんないんだよ、貴子。
「おー、貴子、どうだった?」
「えー?なんか脈無しだった………。」
「そっか。残念だったな。まだアタックすんの?」
「わかんない。わかんなくなっちゃった。」
「へぇ…。なら俺とマジで付き合わねえ?」
「は?なんでよ?」
「いや、実は俺マジで貴子の事いいなって思ってて…。」
「へ?う、嘘だよね?」
「いや、マジだって。」
「でも私アンタの事好きでも何でもないよ?」
「付き合ってみて俺の事好きになれそうになければ別れてくれてもいいから!」
「え?そんな感じで付き合うの?おかしくないの?」
「別におかしくないんじゃね?ダメなら別れりゃいいんだし。」
「…………ちょっと考えさせて。」
そう言ってクラスの男子と別れた。
そんな軽い感じで付き合うっていうのもアリなのかな。
両想いになって、告白してから付き合うんじゃないんだ……。
彼氏出来たことないし、何が正しいのかわかんなくなっちゃったよ。
私は先輩に好きになってもらう為に努力するべきなんだろうか?
好きな人の為に自分を変える努力をするのが正しいの?
それとも、クラスの男子みたいに今の私を好きだって言ってくれる人と付き合うのが正しいの?
全然わかんないよ、どうしたらいいの?
……わかんない、わかんないけど、でも、でもね?先輩?
私は…………。
金曜日に貴子に告白され、土日を挟んで翌週の月曜日。
「お早う御座います、先輩。」
家の前に、着崩さず制服をちゃんと着て黒髪に染めた貴子が立っていた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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