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黒瀬と姫の雨宿りラジオ  作者: ラジオタルト
4/5

理想の社会制度



「10時半となりました。ここから30分『黒瀬と姫の雨宿りラジオ』の時間です。本業画商の黒瀬と言います」

「天才数学者です」

「事実なんですよね、ツッコみたいけど否定できない」

「そうだよお前らは勘違いしてるけど俺、ホントーに凄い人だから。たっくさんのスカウトが来たけど一番好条件を出した日本の黒瀬がオーナーしてる研究所を選んだだけで。海外の有名な大学からもお誘い来てるから」

「金額で姫を釣れると思ったら大間違い」

「日本語さえ不自由なのに外国語とかできないし外国はハードル高いでしょ? お休みも沢山欲しいし大人数の前で話すとか教え子とかそういうの苦手だから大学も却下でしょ?」

「日本国内の研究所に絞られました」

「こっから、休日、朝何時に出勤とかいろいろ条件がまだまだあって」

「自由度も大切でしょう? 自分が興味持った研究をする」

「重要、最重要、大重要、必須要素よ。講演も押し付けるんじゃなくて毎回交渉しましょうってルールなの。ほんと黒瀬ってば分かってる。金額は低い方でさえあったけど充分な額でしたもんで」

「それに、これは他の優秀な研究者たちを呼び込むためですが美味しい食堂も完備してます。散歩できるような広い庭園も用意。こちらは有料で一般の方も入れます」


「黒瀬って研究者を分かってるんだよ。こんなやつが研究所作ったら研究者にとっては理想の研究所よ」

「寄付金を募ったり、庭園を有料で一般公開したり、講演してもらったり、安上がりに済むように施設に気を使って給料で勝負しないように、などと金策はしていますが赤字の年も多いです。本来国がやるようなことを小規模に個人でやっているから当然ですが」

「研究者にとっては有難いけど」

「基礎研究とか大切なんです。他所でお金稼いで研究所で散財ですよもう」

「採算無視しないとあんなこと出来ないんだ。研究所ってそんな資本主義に逸脱したシステムなの?」

「そうじゃありません。

「ただ基礎研究は採算が取れない場合も多くあるわけで。資本主義だと数年で成果出さないといけない風潮にはなりますよね。私の研究所の場合は10年単位で約束しますから、それが無駄になることも多いわけで。役に立たないことが分かったというのも立派な成果にはなるんですがお金にはならないという」

「ふーん」

「だから貴方は貴重な存在です。対したコストも無しに数学界を牽引する論文を書くんですから」

「でっしょー」

「この話に関係あるお便りが届いていたはずです。えーと。


「ラジオネーム『表も裏もインド人』さん。黒瀬さん、姫、こんばんは。私は今高校生で将来の夢が見つかりません。いろんな仕事を調べてみたりしていますが全くイメージが湧きません。お二人は就学者と画商という変わった職業ですが、どのような流れで仕事をしていますか。また、バイトエピソードも聞きたいです。おすすめの職業もあったら教えて下さい」

「数学者の生活を教えてやろう」

「姫は数学者の中でも異端ですから数学者の生活とは違いますが、まあ需要はあるでしょうから詳しくどうぞ」

「朝起きるのは人より遅めね。起きて朝ごはん食べて仕事場に行きます。俺の仕事内容だと全然在宅ワークで良いんだけど偶然っていうの、刺激があった方が良きる気力にならん? あと家で仕事って出来ないんだよね俺。ついついサボっちゃうし集中できない」

「出勤したらパソコンですか」

「そうそう」

「姫は天才ですから悩む時間というのがほとんどないんです。小説家みたいな仕事ですよ。大学ノートに大まかにまとめたプロットのようなものが書いてあるので、それを元にパソコンで清書を書くのが仕事」

「幾らでも世紀の論文出せるよ、やる気さえあれば」

「大学ノート2冊分は溜まってますよね」

「うん、高校生くらいから貯めてるから。数学で使う脳みその分野ってピークが早いんだよ、詳しくは知らんけど黒瀬」

「お任せあれ。

「ざっくり言うと頭の良さで指標にされるのは流動性知能と結晶性知能の二つがあります。流動性知能は、既存の知識では解決できない問題を推論して解決する能力を指し、結晶化知能は、過去の学習または経験を通じて得た知識を使用して解決する能力を指します。

「流動性知能が姫の得意とするところでして、こちらは10代後半から20代前半にピークを迎え、老化に伴い著しく低下していくと言われています。これに対して結晶性知能は年齢と共に50,60まで上がっていき、また老化による衰退が緩やかです。


「まだ世に出していないだけで、姫はもうすでに並の数学者、一生分を軽々と超える実りがありますからこの先流動性知能が衰えても問題ないんです。一生世紀の大発見を発表し続けられます」

「そういうこと。この先結晶性……知、性? 知能?」

「知能です」

「それが増えていって欲しくてたまらない。論文すらすら書けるようになりそう」

「念のためですが。姫の大学ノートの価値は計り知れませんが盗んだところでおそらく無駄になるだけです。字が汚い、順序がぐちゃぐちゃ、省略のし過ぎ、間違えも消さずに残っている、ジャンルを分けていない、もう他の誰かが証明しているものを証明していたりと解読が困難です」

「歴史上にもいたじゃん、アイザック・ニュートンだっけ? 最終定理のメモだけしててその証明に何百年かかったとか。そんな感じで俺のノート見たところで理解し難いでしょ、凡人には」

「ピエール・ド・フェルマーです。これくらいは一般常識でしょう、数学者でなくとも覚えて下さい」

「フェルマーの最終定理ね? フェルマーは一般常識に認めるが『ピエール・ド』は認めん。これは聞いたことない」

「はい、それで十分です。して、アイザック・ニュートンは大丈夫ですか?」

「りんご落とした人」

「いいでしょう」

「いいんだ」

「違う人と勘違いはしていないようなので問題ありません」

「一応弁明するとね、パッと出てきたのがニュートンって言う名前だったの。一拍置いてから話してたらフェルマーって出てきたから」

「はーい、ありがとうございます」


「次?」

「もう次に行きます?」

「何質問されてたっけ」

「私たちの仕事生活、経験したバイト、おすすめの仕事ですね」

「多い」

「お便りの要望に応えないといけない訳でもありませんから、話したい話題が特になければ次のお便りを読みますよ」

「経験したバイト」

「ほう! 大学時代ですか?」

「何でもいいから黒瀬。話して」

「あ、そういう。かしこまりました。

「私、経験というものに重きを置いていて。バイトもいろいろ手を出しました。家庭教師、コンビニ、土木、着ぐるみ着てダンス、フェスの手伝い、中高生の書いた小論文の添削、ペットシッター、ホテル、居酒屋、英語教師、ポスターのデザイン……色々やりましたねぇ。占い師のスタッフとか」

「面白そうなのいっぱいあるけど。はい、占い師を聞いて欲しいの?」

「はい、神秘的を表現するメイクの方法を教えて頂きました」

「何かエピソードない?」

「うーん。その人に30まで生きないで誰かに殺されると予言されてます」

「やば、もうすぐ殺されるじゃん」

「ええ、鹿児島県は貴方の運気下げるから行っちゃダメよって言われたんですけど、普通に用事があって何度も行ってしまってるんですよね」

「なんで生きてんの」

「言い方が酷い」

「バイトの事占うもんなの? 優良でしょ」

「それが水晶玉が曇ってるかもしれないと言って開店前に一度占いをする人でした」

「占い師って占い信じてないと思ってた。本気で占ってたんだ」

「占い師によります。その方のところはお給料が良くて、男性は皆見栄えが良かったですね。開店前の占いの相手も大抵男性に頼んでました」

「あ、もうそれ占い口実に使う奴。合コンに出没すると聞いていたが」


「では次のお便りに行きますか。ラジオネーム『未曽有の落ち』さん。黒瀬さん、姫、初めまして。お二人で理想の社会を考えて欲しいです。その世界に自分たちが今から住むとして考えて下さい。しかし、記憶も引き継がれずに転生するので生まれ、性別、見た目、能力、はランダムです。お二人が決められるのは社会制度と発展レベルだけで、人間の性質、世界の法則は変わらないものとします。どこかでこの話を聞きましたが僕は考えても考えても今がもっともマシに思えて仕方ありませんので、初めてお便りを送らせてもらいました。おもしろい回答を期待しています」


「何だろうね」

「私は世界政府を作りたいです。国家が持ってる程度の強い権限のある世界政府」

「マンガじゃん」

「技術はあった方が便利なことには変わりないと思うので、発展レベルは最大の現在にしたくて。すると問題になるのが地域による常識、ルールの違いだな、と」

「はいはい」

「例えば死刑の有り無し、一夫多妻制、児童労働、こういうのって改善しろー! とか言われてこっちの文化だ! 干渉するな! っていうのも面倒だし先進国と発展途上国との格差も面倒なので、アメリカの州程度の自治権をやってあとは国__世界政府が管理したらちょっとは(なら)せるかな、と」

「でも、地域格差とか言わん? 日本はまだしも中国とか海側と陸側で全然違うとか」

「もちろん国内の地域格差も大きいですが国家間よりは小さくなるんじゃないかと期待します。


「姫は理想の世界、出来上がりましたか?」

「あ、ごめん考えてなかった」

「じゃあもう少し私の話をしましょう。世界政府をつくるよりも初めは鎖国はどうかとも考えました。日本が江戸時代にやっていた鎖国の形態ですね。技術だったりだけは取り入れる形を全部の国で行うんです。今のようにグローバル経済ではなく、国家内で自給自足していけばどこかの国の大洪水で世界中が混乱することも避けられます」

「国家の大きさは? 今まで通り、それとも都道府県くらい?」

「都道府県内で自給自足だと大変そうですから日本くらいのある程度の大きさはあった方が良いかと。アメリカだとかは幾つかに分けてもいいかもしれませんね」

「これってさ、黒瀬の世界に転生しても、転生直後はこの体制かもしれないけど一人野心家いたら壊れない? 他国と連携して自国が得意なものに絞って生産した方が成長できるって誰かは思い付くよ。織田信長みたいな人が実行に移す」

「イギリスの経済学者デヴィット・リカードの比較生産費説、得意な製品を輸出し苦手な製品を輸入することで双方が利益を得て国産分業をするという説です。

「それはそうなんですけど、私たちは身分制とかを悪いものだと思うじゃないですか。そんな感じで、もし言い出す人がいたら『他国に依存ってヤバいでしょ』『時代遅れ』なんて言われるような過去と常識を求めます。あと、宗教とか習慣の違いがあると分断がしっかりと出来ると思うので多種多様の民族宗教が一般的だといいですね」


「ねね、逆に奴隷制度はあり?」

「奴隷。どういう事ですか?」

「ギリシアってたくさんの発見したじゃん。まず手塩にかけて育てられる人間と酷使される奴隷に分ければ皆がやりたがらない仕事も進むし、技術も発展しそうだし。結構よくね?」

「ギャンブルだ、奴隷になったらどうしましょう」

「ハイリスクハイリターンで行こ」

「私、姫の案に惹かれてます。一理あるというか結構良さそうに思います」

「良いよな。全人類を幸せになんて出来ないんだから」

「そうですね。奴隷制度だけつくって、身分制度は無く現代風ですか?」

「考えてなかったけど、うん。今に奴隷制度組み込んだ感じかなぁ」

「面白いですね。相談者さんが望む通り、かなり変わった答えになったと思います」

「これ他の人にも聞きたいね。なんかグループつくって意見を合わせて一つの世界に決めたりとかしたら面白そう」

「きっと面白いでしょうね。お便り募集しましょうか? 理想の社会」

「えー来週には飽きてるんでいいです」


「はい、ということで来週までも引き続き、通常のお便りお待ちしています。特別なお便りも募集してみたいです、考えておきます」

「じゃあ来週は失恋エピソード」

「来週は失恋エピソード特集になりました! リスナーの皆さん、どしどしお便り送ってください。お待ちしております。でまたは来週!」

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