異性との友情は成り立つ?
「木曜日夜の10時半になりました。『黒瀬と姫の雨宿りラジオ』! 本業画商の黒瀬です」
「先ほど地雷踏み抜いて不機嫌な数学者、姫です」
「どうしたんですか?」
「BL小説を読んでたの。まず聞いて、俺地雷無い方なの。雑食なの。唯一と言っていい俺の地雷は妊娠」
「あ、のー。このお話やめません? ラジオが終わってから聞きますよ」
「やだ」
「はぁ、皆さん、しばらくの間18禁ファンタジーの話に耐えて下さい」
「に・ん・し・ん! こんな事が起こるならタグ付けして! 頼みますほんと。オメガバースのアルファ×オメガ物ならタグ付けなくとも想像つくよ? 男だけの世界とかだって受けが妊娠するかもって想像つくよ? けど、現代が舞台だったらいくら攻めが物の怪だったとしても妊娠すると思わないだろ。それなのに男性妊娠のタグが付いてないとかあり得ない。タグが入りきらないなら概要欄に書けばいいじゃん、男性妊娠表現ありって」
「ここまで一息?」
「ごめん、何回か息吸った」
「はーい、お便りに行きましょう! ラジオネーム『下拵衛門』さん。黒瀬殿、姫殿、こんばんはでごさる。拙者、友達だと思っていた異性から突然告白されてしまった。ラ〇ンを見返すと当時はなんとも感じなかったが、アタックされているようであったのでござる。拙者、裏切られたような気がして冷たくフッてしまったでござる。やはり、異性間の友情は成り立たないのであろうか。かたじけない」
「最後のかたじけない、必要ある?」
「書きたかったのでしょうね、微笑ましいです」
「成り立つ」
「男女の友情はあり得る派ですか。理由はあります?」
「じゃないとバイには友達いなくなる」
「なるほど確かに。ですが、男性も女性もイケると言ってもタイプがあるでしょう。背が高い人を好きになる人だったら、背が低い人と友達にはなれても背が高くてタイプどんぴしゃな人と友達になれると思います? 分かりにくいですね。えーと、バイだとしても全人類が恋愛対象かと言われると違うと思うんです。タイプがあるでしょう。タイプでない人、つまり恋愛対象外の人とは恋に発展しないから友情が成り立つかもしれません」
「はいはい。えーわかんなくなってきた」
「恋愛対象同士での友情は成立しますか?」
「ん-……黒瀬は?」
「私の場合は成立する、としか。実際私は成立してますから」
「あっそうじゃん。黒瀬が生き証人」
「ですが『異性と長年の大親友!』は難しそうです」
「ほう」
「まず、一々配慮する表現を探すのが面倒なのでお互い異性愛者の男性と女性の友情で考えます、と前提を決めさせてください。女性に彼氏が出来ました。彼氏側は2人で遊ぶのをやめて欲しいと言ってきました」
「そういう心配もあるか」
「はい、本人同士では本当に友情が成立していても、恋人心としては複雑。という話もよくあります。私も彼氏がいる女性とは、彼氏さんがそういうのを気にしない人だと知っている場合を除いて、プライベートでは二人っきりで会いません。マナーとまでは思いませんが彼氏さんへの気遣い、でしょうか」
「分かる分かる。
「逆に彼氏彼女いる人に二人っきりで会おうって誘うのが意味わかんないまである。彼氏彼女いるくせに異性と2人で会おうとかさ? 浮気も疑ってないし、束縛する気もないし、別にその行為自体は嫌いじゃないけど、だけど、デリカシーないなって思う。デリカシーっていうか彼氏の事大切にしてないなって」
「そうそう! 相手の事思ってないような気がするんです。ああ、勿論お互いが気にしない人なら構わないと思いますが、彼氏さんがもやもやしているのに束縛激しいという判定を出して男の部屋で夜通しゲームだとか」
「それやだぁ。もうそんなことされたら冷めるかも。そのこと自体はどうでも良くて、けど、俺の事大切じゃないの? ってなる」
「そこですよねぇ」
「今まで付き合った子にそういう子はいなかったわ。サンプルが少ないけど」
「私はいましたけど、私が気にしない人なのでお互い自由な交友関係のままだったり」
「そっか、黒瀬はそうか。黒瀬も『女子と遊ばないで!』っていう子と付き合ってた時は避けてた?」
「もちろん。仕事は別ですが、あと複数人でもダメだとかメッセージのやり取りも止めてなんていうのは無理でした。別れます」
「なるほど」
「バイの話も出てきたことですし、次のお便りはこれにしましょう。
「ラジオネーム『すくい投げ』さん。最近のアメリカはLGBTへ配慮した作品だらけです。新作のアメコミヒーローがゲイで、また人気急落。某夢の国の女の子なネズミはパンツスーツ。美女と野獣のミュージカルでベル役は美女の枠から逸脱した人。何とかなりませんか。日本のコンテンツは被害に遭うことはあるのでしょうか」
「俺もミ〇ーちゃんのパンツスーツ衣装のネットニュース見て言いたいことがあったよ」
「何でしょう」
「あれさ、なんでデザイナーがLGBTに配慮したデザインって言うの? 新衣装です!ってあげれば『三〇-ちゃんパンツスーツも似合う』とか『これは麗人。いや麗ねずみ?』とかファッションとして受け入れるのにLGBTに配慮してこのデザインですって言われると急に大人の影が見えんの。あと、ズボン履いてる女性は女の子らしくないって言ってるみたい。ズボン履いてても普通の女の子だが?」
「かなりイラついてる様で。
「確かにLGBTに配慮したと言われるよりも『かわいいでしょ?』『こっちもいいでしょ?』というスタイルで発表された方が良かったような気がします」
「気がするんじゃなくて良いの!」
「はいはい、良いです」
「で、続いてはアメコミヒーローですか。ゲイと言っていますが正しくはバイです、因みに」
「どっちでもいい……じゃないです、ごめんなさい」
「本来は、差別をなくそうですからそれが理想のはずだったのですがね。異性愛者?同性愛者?どっちでもいいだろ、で。何故か細かく分類したがるので気を付けましょう」
「はーい」
「バイのヒーローはジョンと言って、スーパーマンのクラーク・ケントの息子です。5年ほど前からの登場キャラクターなんですが急にバイ設定が出てきたそう」
「よくご存じで」
「まあ、友人から」
「その御友人は反対派? 賛成? 怒ってた?」
「諦めてました。アメリカのコンテンツである以上、理由も無くバイになる宿命だったと」
「は? それに対する理由付けというか意味とか無いの?」
「この問題についてはそこまで知りませんが。アメリカの映画だと理由も無くバイやビアンが出てきますよ」
「なんそれ」
「理由も無くオカマだったりツンデレだったり、ツインテールだったりするキャラがいるでしょう。そのくらいに考えて下さい。逆に日本は理由が無いとトランスジェンダーなどを出してはいけないと思われてますね」
「まあ属性の一つか。トランスジェンダーは男の娘とか男装麗人いるから」
「そうですか」
「でも売上下がったのは問題だよね」
「ええ、大問題です。LGBTに配慮を! と言うのならそれらに配慮した商品を買ってやりなさい。LGBTが金になると分かれば続々と企業は喜んで参入していきます。賞にノミネートするためには、だとかLGBT関連団体を黙らせるため、とかの理由でやらせても義務感しか出てきませんよ」
「やっぱりストーリー性が欲しいよね、ばっくぼーん」
「名作に無駄な言葉は一つも入ってない。すべてに意味がある。と言いますから」
「その通り。眼鏡は頭がいいを記号化したものだったり、見た目頭良さそうだけどバカっていうギャップに一役買ってたり。いつも大きなリボン付けてる子も、キャラ付けでもいいけど理由があった方が良いよね。女の子らしい子なのか可愛いもの好きか、はたまた深い過去に理由があるのか」
「リボンを付ける深い過去とは?」
「病院のお世話になってる母がいて週末には毎週会いに行くの。そしてお母さんは毎回髪を結んでくれてた。お母さんは病気で手が震えてて、前は三つ編みとかしていたのがだんだん一つ結び、二つ結びしか出来ないの。それも綺麗に出来てないから病室から出てからこっそり外してた。そんな時、お母さんを思ってバレッタ、は難しいや。何か……簡単に刺しておしまいの髪飾りを持って、髪を一本結びに結んで病室の戸を叩く。
「ドアを引いて、『ママ、この髪飾り可愛いでしょ。今日はこれを付けて!』。娘は母を思っての行動でしかなかった。しかし、母は嗚咽して泣いた。『分かってたのよ、私はもう上手に娘の髪を結ぶことも出来ないの。飾れないって。役立たずだって分かってるわよ……』その日から母は髪を結んでくれなくなって、そうしてみるみる衰弱していき、すぐに……
「あれ。長い髪をいつも下ろしてる子が出来上がっちゃった。失敗」
「即興でよく思い付きますね」
「まあ、オリジナリティー必要ないならこんなもんよ」
「似たようなの聞いたことが無いですよ。
「アメコミでヒーローがバイだったら良いストーリーはどんなものでしょう? 敬虔なクリスチャンを助けて、感謝の言葉どころか露骨に嫌な顔されるとか?」
「あり寄りのあり。あれでもいいかも、敬虔なクリスチャンの子ども。ありがとうございますってちゃんと言われて、その後ヒーローに背を向けて帰るでしょ。帰りながら子供に『教会に行かなければ』みたいなことを言ったりね」
「うーん、モヤっとしますねぇ。その上、序章に過ぎない気がします」
「勿論。
「何がいい? 次の展開」
「男を助けて、ヒーローとしては手助けのつもりがアプローチだと警戒される、というのはどうでしょうか。男はお店を開いていてそれが怪物との戦いで壊滅。ヒーローの手助けにより再開でき、それからも度々客として来店していた」
「良いわー採用。その男に信頼していたサイドキック、この言い方で合ってる? ヒーローを手助けする人ね。そいつが忠告すんの、あいつバイだから気を付けろよって」
「うわぁ、きっつい展開です。あ、その忠告を受けた後によそよそしくなりましょう。せっかくなので」
「そんな感じで色々あって。でもアメコミだったら最後はハッピーエンドが良いよね、アメコミ見たことないけど」
「救いはある方が良いかと……」
「やっぱり? じゃあ、私服の時、一般人の時間?に」
「ヒーローじゃない時間ですね」
「その時間に道路を歩いていました。すると自分のフィギュアを買う少年を見つけた。その子は友達も一緒に居て『この人もバイだもんね。バイが活躍すると嬉しいもん?』って聞かれる。友達との会話からその少年はバイだと推測できる。でも少年はその言葉に首を振って返した。
「『彼がバイであっても、なくても、僕は彼に憧れてる』と。ヒーローははっとした。何か大事な本質を見ていなかった気がしたのだ」
「考えさせられるラストですね。白黒はっきり言葉にできない終わり方はアメリカらしくはありませんが、見てみたい作品です」
「アメコミがどんなものか分からんから、質感が違うかもしれないけど一つの案としてアメコミ業界関係者は受け取ってください」
「是非作品にして欲しいです」
「アメコミ関係者はこんなラジオ見ません」
「それは残念です。
「ところで姫、初めはLGBTでしたが今はもっと伸びているんですよ。知ってます?」
「LGBTQでしょ。ラブ、ガイ、びー? バイ! てぃー、てぃー……タチ、クイーン?」
「それはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニング又はクイアです」
「意味はなんとなく分かる」
「LGBTの最新は、LGBTQQIAAPPO2Sとなります」
「うっわ。俺アルファベット苦手」
「意味の説明は要ります?」
「要らない。ただ聞きたい。その中にケモナーを意味するアルファベットは入ってる?」
「Q、くいあ。不思議な、風変わりな、を意味しているためLGBT達に当てはまらない性的少数者はここでしょう」
「無機物」
「Q」
「数式」
「Q」
「小児愛者」
「おそらく入ってません」
「ストーキング」
「おそらく入ってません」
「犯罪系は軒並みアウトですか」
「おそらく、が付くのは悪しからず。不勉強でして。
「あらあら、もう11時になります。来週も是非聞きに来てください」
「じゃーねー」