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黒瀬と姫の雨宿りラジオ  作者: ラジオタルト
1/5

何故人は生きているのか



「木曜日の夜10時半。さあ始まりました『黒瀬と姫の雨宿りラジオ』! 本業画商の黒瀬です」

「数学者の姫でーす」

「今回は一応初回となりますのでnot芸能人である我々がラジオを持った経緯を説明いたします」

「おk」

「まず、『一般人にワンクール任せてみたラジオ』はご存じでしょうか。その名の通り芸能活動をしていない人が3ヵ月間ラジオのパーソナリティを務める人気番組です。そこに私と姫が出演しまして、見事大当たり。続けて欲しいという意見多数の結果、雨宿りラジオが出来たという次第です」

「ですですー」

「あ、興味ないです?」

「ですですー」

「あとタイトルの由来だけ説明させてください。リスナーの皆様を叩きつける雨を止めることも、傍に赴き傘をさすことも出来ません。ですが雨宿りの屋根となることは可能です。雨に濡れ憔悴した方を温め、回復させることくらいはしてあげたいと、そして人によっては傘を見つけ、ガウンを見つけ、雨合羽を見つけ、歩きやすくなって欲しいという思いから雨宿りラジオに決まりました」

「本当は?」

「姫と出かけていた時、急に雨が降り始めて雨宿りをして車を待っていたんです。そこにディレクターも来て、気にせず姫とお話ししていたら『僕のラジオ番組に出てみない? 絶対伸びるよ!』と一般人ラジオの出演オファー。というのがきっかけで始まったので、タイトルなんて何でもいいので雨宿りラジオにしました」

「分かったでしょ初見リスナー。コイツの言う綺麗事は信じちゃ駄目」

「初めに言った方も嘘ではありませんよ、ひどいな。

「さて! 早速お便りを読んでいきましょうか。ラジオネーム『迷える小泉』さん。何故人は生きているのでしょうか」


……


「以上?」

「以上です」

「シンプル。重い。哲学」

「単語止めて、迷える子羊さん達に救いの御言葉を」

「何故生きているのかぁ? 死にたくないからじゃない。俺はゲームしたいから生きてる」

「ふむ、したいことをするための大前提として生きることが必要である、と」

「うーん、黒瀬は?」

「そうですね。まず文法的に見ていきましょう。このような言い回しでは、何故勉強するのか、何故走るのか、何故山に登るのか。これらを例にしましょう」

「はぁい」

「受験勉強を頑張っている高校生、何故勉強するのでしょうか、目標の大学に入学するためです。朝、寝坊をしてしまい駅まで急いでいます、何故走るのでしょうか、予定の電車に乗るためです。これらからを一般化すると何かゴールがあり、そのために努力する、という構図が浮かび上がります」

「そうすると、生きる先にあるゴールは()?」

「はい、そうなってしまいます。しかし死ぬために生きるというのは変ですね。目標を達成するのは早い方が良いですから、さっさと死ね、と言うことになってしまいます」

「やばば」

「他にも例えがあったのを覚えていますか?」

「あー?」

「何故山に登るのか」

「そこに山があるから!」

「イギリスの登山家、ジョージ・マロリーの名言ですね。正しくは何故エベレストに登りたかったのか、と聞かれBecause it's there.そこにエベレストがあるから、と答えたそうですがその辺りは今、どうでも良いことです」

「じゃあなんで言ったの」

「リスナーは面白い上に学びがある、と私たちのラジオを好んでくれているようなので。誤解を誤解のまま進めるのは求められていないかと」

「たしかし」

「では話を戻しまして、何故山に登るのか、そこに山があるから。他の例についても言えますね、何故勉強するのか、知らないことがあるから。これらを一般化してみるとどうでしょう」

「したいからする」

「ええ、その通り。したいからする。だとすれば私たちは生きたいから生きているのでしょうか」

「反語と予想。いいえ、違います」

「流石は姫、反語です。山に登るという行為は学校の遠足でもない限り能動的な行為になります」

「まあ強制イベの可能性もあるけど、さっきの例えは登りたくて登ってるしね」

「この飽食の時代、生きたいと行動しないと生きていけない人達もいますが、このラジオを聞いている方々のほとんどは生きたいと思わなくとも生きている人ではないでしょうか」

「俺らも含んで、この雨宿り世界の住民の大半は受動的に生きていると思います」

「私もそう思います。ならば、次に考えられるのはこの質問が間違っている」

「は?」

「何故人は生きているのか。この答えは無い、もしくは無数にある可能性です」

「答えられる質問じゃないってことですね? はい、そうです」

「だからといって、この疑問をこういう形で終わらせるのは随分冷たいとも思うのです」

「冷酷な男」

「冷酷な男にならないために、相談者がどうしてこのような疑問を持つのかを考えましょう」

「冷酷な男って良くない? 有益な間は優しいのに役に立たなくなった途端、捨てるの。そういう人って夢小説で絆されたりされがちなんだけど違うんだよ」

「姫の妄想タイム入ります」

「夢主には甘くても他の人には冷徹なままでいてほしいし、夢主に甘いのも夢主の為じゃないの。夢主が幸せなのを見ていたいっていう自分が主軸の願望なの、そうであれよ。まあ改心してる夢小説も読むけどさぁ」

「冷徹で自分勝手なその人が好きなのに、自分勝手じゃないその人は……ということですか?」

「そうそう。解釈違いっていうか解釈は一緒なの。ただそこから変化するかしないかってだけ。俺はしないで欲しい」


「話が脱線しましたね。一旦話を纏めます。何故人は生きているのでしょうか、に対する答えは無いか無数にあるのではないか。ですがそれでは質問者さんが浮かばれないだろうということでこの質問がどうして出来たのかを考えていきます」

「生きるということに疑問を持ったから。じゃあ何で疑問を持ったのか……ん-」

「堂々巡りですねぇ」

「人間の脳って関連を探し出すとか全てに説明を求めるって言うじゃん。その一環で生きるにも説明付けしたくなるんじゃね? つまり脳みそのエラー」

「そういう場合、昔でしたら宗教が解決してくれたのですがね。この世の真理の類は」

「なら今だったら推しが解決してくれるんじゃね」

「推しが?」

「好きな色なに? って聞かれた時、パッと思い付かない人もいるでしょ。推しがいれば推しカラーがあったり、推しの好きな色、推しに似合う色にしとけばいい」

「確かに。考えなくて済みますね」

「服を買うにしても沢山あって、どれもが良いからどれでもよくなる」

「そういう時に推しがいると推しの色、推しの雰囲気にあうものといった具合に基準がつくられるんですね! 選択は人を疲れさせますから」

「それに道徳も養われそう。死後、幸せになりたいからと敬虔に生きるように、○○オタクは良い人達と思われたいからと親切にする。推しが困ってる人を放っておけない人だから自分も困っていそうな人がいたら声を掛ける」

「私の友人に、推しがクズだからかえってボランティアするという人がいますよ。悪影響を与えるとか言わせないために。推しが洗い物が面倒で紙皿生活してるから推しの代わりに環境に配慮する子とか」

「おもろ」

「推しと同一化したいという思いから親切にするオタクもいれば、推しが世間から白い目で見られないようにボランティアに精を出すオタクもいるというのはなかなか面白いものです」

「俺を推してる人へ。俺の場合寄付はしても労働は面倒だからしてない。俺の分も合わせて二人分ボランティアとか迷子に声かけるとか、駅の階段とかでベビーカーの人に声かけて運んであげるとかよろしく」

「海外で活動するとき、日本人は誠実だからという偏見で信用していただける時があって。そういうイメージがあると第一印象が良くなってスムーズに物事が運びやすいので、外国で迷惑を掛けず、外国人に優しくし、ポイ捨てせず、列に並び、犯罪を犯さないで下さると助かります。


「では、次のお便りに行きましょう」

「待って。何故生きてるの? 推しがいるから! じゃん黒瀬の答えは」

「そうなりますねぇ」

「俺の考え変えるわ。最初に答えたテキトーなもんから」

「死にたくないから。ゲームがあるから。と言うのも良いと思いますが?」

「わけなんているのかよ? 人が人を殺す動機なんて知ったこっちゃねーが……人が人を助ける理由に、論理的な思考は存在しねーだろ?」

「名探偵コ〇ン、ですか?」

「そ。工〇新一の名言。

「これにあやかって、わけなんているのかよ? 人が自分を殺す動機なんて知ったこっちゃねーが……人が人として生きる理由に、論理的な思考は存在しねーだろ?」

「有難いお言葉です。皆さん、名〇偵コナンの作者の〇山先生と姫に感謝なさい」

「うむ、次」


「続いてラジオネーム『膨らんだえくぼ』さん。黒瀬さん、姫、こんばんは。お二人の会話をまだまだ聞けると知った時の発狂は、かなり近所迷惑になったことでしょう。冠番組おめでとうございます。ですが、ここで問題が一つ。私は上司から転勤を誘われ、今月から放送エリア外である外国にお引越しをしたのです。お二人のラジオが続くと一月前の段階で知っていたら断っていたでしょうが。

「私は若者らしくスマホアプリでラジオを聞いているのですが有料会員にならなければエリア外から見ることは出来ません。ネト〇リも見ず、ア〇ゾンも音楽アプリの類も無料で済ませている私にラジオの月額サービスに入れだなんて、なんて酷なことを迫るのでしょう。泣く泣く有料会員になりました。ですがこの買い物は絶対に後悔しないでしょう。

「お待たせしました。ここからが質問になります。お二人はサブスクをどの程度利用していますか。私の勝手な予想ですが姫は娯楽にお金をかける人なので一通り、黒瀬さんも流行に敏感な人なので有名どころは入れているのではないでしょうか。


「と、言うことでまずは私たちの為にラジオのサブスク契約をして下さりありがとうございます」

「ねー。俺たちも元々3ヵ月の予定だったのに『番組持ってみない? 絶対ウケるって!』って言われたのが一ヶ月と……半分くらい前だよ」

「そして諸々決まったのが一ヵ月前」

「俺とかは暇人だからさして困んてないけど黒瀬とか結構話し合ってたよな」

「だって元々の内容だと週に一回ラジオ局に来ないといけないんですよ。こちとら画商、世界中を飛び回ってるというのに」

「本業画商ね。画商の仕事じゃない目的が殆どでしょ」

「否定できません。友人に会うつもりで行ったのにビジネスになったりと、何処からが画商の仕事で何処からがプライベートか自分でも判断が難しいですね。画商以外のビジネスもしていますし。

「それでサブスクですよ、リスナーの皆さんは意外に思うかもしれませんが私たち、ネトフ〇入れてないんです」

「そーそー。俺はアニメも嫌いじゃないけどゲームの方が好きで、入れようって思うことが未だない」

「私は友人に誘われて見ることが多くて、家で映画はあまり見る機会が無いので。動画配信系のサブスクは入っていませんね。ああ、〇マゾンの方には入っていました。そこも映画、動画見れましたね」

「即日配達助かる」

「便利ですよね」

「なー」

「他には食材のサブスクに入ってます」

「そーなの?」

「ええ。姫は本、マンガ系のサブスクとか入れていないんですか?」

「えーそんなのもあんの? 一冊ずつ買ってた」

「それでいいと思います。姫は商人向きの性格をしていませんから。少しでも安く、少しでも多く自分に利益に、というより推しに、製作者様の利益に。と考えるでしょう? 音楽のサブスクが広まってから歌手、作曲家の方々の多くは悲鳴を上げています。公式に貢ぐという観点で見るなら一つ一つ買ってあげるのがいいのでしょう」

「ほえー」


「ラジオに出ていながら、ラジオのサブスクにも入っていませんね」

「ほんとだよ。てか、ラジオ自体あんま見てない」

「もう、そういうことは言ってはいけないんです。

「さてさて、もう30分が経ってしまいます。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいますね。来週も是非! 聞きに来てください」



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