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第六十一話:ラカント村邀撃戦(中編)

重装騎兵(Cuirassier)!、密集(En)陣形(Muraille)前へ(Mars)!」


 ラカント村の北端に、鼻先揃えたノール帝国重騎兵軍馬の横隊がその姿を表す。その隊伍の間には、脚一投足を挟む隙も無い。彼ら一人一人の胸には、その伝統と精強と堅牢を形にしたかの様な胸甲(キュイラス)が光り輝く。

 苔むして古びた街道の、端から端まで敷き詰められた二十騎の重騎兵、それが縦に七列。石畳の隙間から苦しそうに顔を覗かせる雑草を、彼らの跨る鹿毛や芦毛の蹄が容赦無く踏みつけて行く。


「よし!我らローヴィレッキ軽騎兵も続け!」


鱗次櫛比(りんじしっぴ)の陣容で進む重騎兵の五十メートル後方から、今度は比較的に間隔を広く取ったローヴィレッキ軽騎兵が征く。重騎兵の第一突撃後反転時に、ローヴィレッキ軽騎兵という名の第二突撃隊と容易にすれ違える様にする為である。


「……行進(Marsz)前へ(Naprzód)


 ローヴィレッキ軽騎兵の更に後方には、(やじり)を思わせる鋭い陣形で、オルジフ率いる有翼騎兵(フッサリア)が続く。整列した有翼騎兵(フッサリア)達の隙間は、重騎兵の()()よりも更に狭い。長槍(コピア)を天へ捧げ、槍の林を形成する彼らが跨る(くら)には、有翼の名を表した大羽根の飾りが聳える。互いの距離が近すぎる為、隣り合う大羽根同士が擦れ合い、不気味なガサガサとした羽音となって響いている。並の雑兵であれば、干戈を交える前に逃げ出すであろう威圧感だ。


「村前で屯していた敵騎兵共は何処へ行った?」


「我々の進撃開始と同時に、村内部へと退避して行きました」


 騎兵戦列中央に自らを配したベルナールが、付近に侍らせた斥候騎兵達とやり取りを交わす。


「退避した敵騎兵の後を斥候に追わせているか?」


「いえ、明らかに誘引を目的とした退避行動でしたので、追撃はさせておりません」


「それで良い。して、ラカント村の地図は出来たか?」


「はっ、こちらに」


 斥候兵が、今出来たばかりの新鮮な地図をベルナールへと手渡す。


「……大分、簡略的だな」


「申し訳ございません、カロネード商会の地図ではラカント()という呼称だったのですが、実態は小街に匹敵する大農村でして……望遠観察で把握できる限りの地図を作成致しましたが、細部は不詳のままです」


 街道沿いの建物地形のみが記された簡素な地図を眺めながらボヤくベルナール。


「これでは、昼にあって暗闇の中に居るのと同義ではないか……」


「当初の予定通り、村内中央広場まで進み次第、各隊へ散開制圧の命令を下しますか?」


「いや……」


 地図を斥候に戻すと、ベルナールは首を振った。


「まともな村内地図が無い状況で散開掃討を始めれば、あらゆる奇襲に対して脆弱になる。先ずはこの隊形を維持したまま、街道路の安全を確保。村南端に到達した所で本格的な掃討作戦を開始する」


「承知致しました、伝令!ここへ!」


 斥候の号令で、ローヴィレッキ軽騎兵の幾人かが隊列を離れて集結する。ベルナールが発した言葉の内容を一言一句正確に記した紙を手渡され、隊列前方の重騎兵、隊列後方の有翼騎兵(フッサリア)へとそれぞれ命令が届けられた。二分と掛からず、返答を託された伝令がベルナールの元へ戻って来る。


有翼騎兵(フッサリア)大隊指揮官モラビエツスキ男爵より返答!委細承知、以上!」


「良し、まぁそちらは問題無いだろう。問題なのは――」


 次いで前方の重騎兵の元へ駆けていた伝令が、返答内容を読み上げる。


「えー、重装騎兵第二大隊指揮官ブランシャール中佐より返答!我が方の戦力並びに士気、大いに優勢、我が大隊だけでも散開掃討を命じられたし、以上!」


 その返答を聞いたベルナールが、口元を両手で覆いながら空を見上げる。

 

「やはり重騎兵は背馳(はいち)の姿勢を見せるか、面倒な事この上無い……」


「指揮階級上は閣下が優越しております。厳命に付す様申し送りましょうか?」


「いや、それでは反発を招く。重騎兵閥の不興を買うと後々面倒だ。何とか円満に抑えねばならん」


 口元を覆っていた両手を自身の輪郭に沿って持ち上げていき、最終的には頭を抱える姿勢になるベルナール。


「これだから重騎兵閥は面倒なのだ……」

 

 ノール帝国は、伝統的に重騎兵偏重の部隊構成を取る。これは銃が生まれるより前の時代から、帝国の重騎兵がその対外拡張において重要な役割を担っていた事に起因する。ノール帝国の版図拡大の裏には、正面切っての突撃を行う重騎兵の働きが常にあったのである。

 そういった戦働きに対して、時の皇帝は重騎兵に対して数々の特権や褒賞を与え続けた。その特権の中には当然、世代を超えて受け継がれる権利もあった為、帝国重騎兵という兵種は、年月と共に増加の一途を辿った。

 時代を下り、黒色火薬の硝煙が戦場の全風景を灰色に染め上げつつあった現代にあっても、彼らの胸甲中央に輝く双頭の鷲が色褪せる事は無かった。むしろ騎兵が蹴り上げた土煙や、戦列歩兵の一斉射撃、銃剣が放つ白刃の煌めきの中でも渇仰の的であり続けたのである。

 これが不幸にも、ノール帝国軍内における組織的硬直化を招く事となった。数が多く、特権を持ち、なまじ戦で目立つ彼らは、軍政治の両面で強大な力を有する一大派閥と化していたのである。

 ラカント村制圧作戦において彼ら重騎兵が最前線を張っているのも、戦術的な妥当性故というよりかは、政治的な理由という面の方が大きかったのである。


重騎兵(奴ら)はこのオーランド戦役において、未だまともな戦果を得ておらん。そればかりか、敵軽騎兵や砲兵に対して敗退すら重ねている状況だ」


「手柄を得ようとする重騎兵の矜持が、今彼らを躍起にさせているのでしょうか?」


「それも一つとしてはある」


 黒鉛を用いた筆記具で、伝令用の紙に再度命令を書き込むベルナール。


「一番は、重騎兵閥内における発言力の向上だろう。自分達の政治力向上の為に、戦争を利用しないで欲しい物だな」


 そう言うと、書き終わった命令文を渋々伝令へ手渡すベルナール。


「本作戦中において、ローヴィレッキ軽騎兵、並びに有翼騎兵(フッサリア)が挙げた戦果は、全て帝国重騎兵の戦果とする。その代わりに命令には従ってくれと伝えてくれ」


「……宜しいのですか?」


 手紙を受け取った伝令が目を丸くする。


「従ってくれるならそれが一番よ。有翼騎兵(フッサリア)部隊も戦果に対しては殊更に無頓着だ。容認してくれるだろう」


「承知いたしました!」


 先ほどと同じように前方へ駆けていく伝令。今度は一分と掛からずに戻ってきた。


「重装騎兵第二大隊指揮官ブランシャール中佐より返答!委細承知、以上!」


 その言葉に安堵したベルナールが、肩の強張りを収めようとした瞬間。

 隊列前方から爆発音が響いた。


「なっ――!?」


 爆発の衝撃波がベルナールの元へ到達するのとほぼ同時に、納屋の大扉が弾け飛ぶ破裂音、前を行く重騎兵の悲鳴、軍馬が(いなな)き倒れる音。

 そして。


撃てぇ(Fire)!」


 建物の窓から、路地の奥から、農家の屋根裏から、生垣の隙間から。

 その顔を覗かせていた銃口が一斉に火を吹いた。

 


「残置だ!下がれ!さっさと納屋から出ろォ!」


 納屋の裏手から、砲兵数人を引き連れたイーデンが鼠の様に飛び出す。


「納屋に敵兵だ!撃て(Feu)撃て(Feu)!」


 先程まで彼らが居た納屋に、ノール重騎兵の一斉射撃が降り注ぐ。蝶番が吹き飛び、飛び出してきた木製のドアが木片を撒き散らしながら地面へと倒れ込む。


撃てぇ(Fire)!」


 ノール側の一斉射撃に応射するかの様に、今度は村内の至る所からオーランド兵達の射撃号令が響く。


「砲撃効果は!?」


「敵最前列の重装騎兵隊列に散弾が直撃しました!味方銃兵隊の挟撃も合わさり、敵は混乱中です!」


「よっしゃあ!してやったぜ!走れ!走れ!次の大砲まで走れ!」


 右拳を突き上げ、畑の囲いを飛び越えながらイーデンが叫ぶ。


「敵隊列から約十騎が分離しました!こちらを追撃中です!」


「やっぱり追ってきやがったな!この俺に追いつけるもんなら追いついてみろ!」


 農家の窓を叩き割りながら屋内へと転がり込むイーデン。後ろに続く砲兵達も窓枠に手を掛け、我先にと屋内へと雪崩れ込む。寝室であろう部屋のベッドを踏みつけ、居間への扉を蹴破る。


「敵騎兵が表口に回ろうとしています!正面口から出るのは危険です!」


 窓外を横目に見ながら駆けていた砲兵の一人が、迂回して先回りを仕掛けようとするノール重騎兵に気付く。


「へっ!最初から表口なんて使う予定はねぇよ!一生玄関で呼び鈴でも鳴らしてろ!」


 そう言うと、地下へ向かう急階段を三段飛ばしで降りていくイーデン。


「こっちだ!ラカント村の大農家は地下で他の大農家と繋がってんだよ!」


 土壁から地下水が滲み出る狭い通路をカニ歩きで抜けると、大人が屈まずに通れるほどの高さを持った小部屋に出た。


「ラカント村が誇る共有穀物貯蔵庫だ!見学してるヒマは無ぇぞ!」


 穀物を保存する為、無造作に並べられた樽の横を走り抜けながら、右に左にと曲がりくねった通路を進んでいくイーデン。


「なんでこんなアクセスの悪い所に穀物貯蔵庫なんて作ったんですかね!?」


 あちこちに頭をぶつけた砲兵が、イーデンの背中を追いながら悪態を吐く。


「アクセス悪い方が隠しやすいだろ?収穫量を過小評価すれば税も少なくて済むんだよ!村の叡智だ!」


 目当ての梯子を見つけて両手を掛けるイーデン。


「お前!その銃ちょっと貸してくれ!」


 砲兵の一人が持っていたマスケット銃を受け取ると、梯子上に設置された落し蓋を銃口で突き、僅かに持ち上げて外の様子を伺う。


「よーし、流石に敵は居ないな。来い!」


 落とし蓋を一気に持ち上げ、畑のど真ん中から顔を出すイーデン。後から梯子を登ってきた砲兵達の腕を取りながら、近くの納屋を指差す。


「あそこが次の陣地だ!行け!行け!」


 霜の降りた麦を踏みしめながら畑を走り抜けるイーデン達。すぐ付近から、ノール騎兵部隊の怒号とオーランド兵達の射撃音が聞こえてくる。


「大尉殿!ご無事で何よりです!敵の追撃は!?」


 納屋に入ると、大砲の射撃準備を進める二人の砲兵がイーデン達を出迎える。


「上手い事撒いてやったぞ。今の敵状について何か聞いてるか?」


「つい先程、移動射撃中の輜重兵から報告を受けました!敵本隊は密集陣形を維持したまま、強引にラカント村を南に突破する機動に入った模様です!」


「了解だ!敵進路に変わりはないか?」


「ありません!引き続き重騎兵を先頭として、街道を南進中です!」


 砲兵の報告が終わると同時に、けたたましい馬蹄音が街道向こうから響いてくる。イーデンは納屋の壁に耳を押し当て、彼らの足音に耳を澄ませる。


「……馬の足音が四拍子から二拍子になってるな。奴ら、常歩から速歩に部隊速度を上げてやがる」


「き、奇襲の効果はもう切れてしまっているのでしょうか……?」


「いや、そうじゃねぇ。むしろ混乱から立ち直れていない証拠だ……よし、薬包装填!」


 顔を壁に当てた所為でズレた制帽を直し、不安な表情を浮かべつつ火薬の装填を始める砲兵達の元へ戻る。


「敵にとって、この街道は殺し間だ。一刻でも早く抜け出したいんだろうよ」


 装薬と散弾が込め矢で砲身基部まで押し込められたのを確認し、火門から導火線を差し込むイーデン。


「ただ後ろに退かず、前に強引に進むって事は、後退指示が効くほど指揮統制が回復してねぇって事だ」


 ノール騎兵達の声が、納屋の中からでも明確に聞こえる程に近づく。


(Canister)(shot)発射用意(Present)!」


 イーデンの号令と共に、砲兵が導火棹を構える。


「要するに作戦大成功って事だよ!撃てェ(Fire)!」


 火を移された導火線が、歓迎する様な速さで火門の中へと火を送り届ける。小さな花火が火門へ吸い込まれた瞬間、砲口からその花火を何百倍にも増した砲火が、白煙と共に納屋中へ轟く。床に敷かれた藁が爆風で宙を舞い、車輪が藁を盛大に巻き込みながら後退する。かように騒然極まりない砲尾側とは対照的に、砲口側からは行儀良く整列した幾百もの小銃弾が敵騎兵目掛けて突進していく。

 納屋の大扉を貫通した散弾が、今まさに納屋を横切ろうとしていたノール重騎兵達を襲う。真横から散弾を浴びた重騎兵達が衝撃で吹き飛び、隣に並んだ騎兵達を薙ぎ倒しながら街道端の家壁へと叩きつけられる。力無く壁からずり落ちた()()は、人馬共に原型を留めていなかった。


「眺めてる場合か!さっさと出ろ!退避だ!」


 新たに砲兵二人を加えたイーデン達が、再び扉を蹴り破って転がり出る。


「畜生!また直射砲撃だ!撃て(Feu)!撃ち返せ!」

「ブランシャール中佐が撃たれた!第一中隊指揮官は何処だ!?指揮権の移譲を求む!」

「前進は継続しろ!この魔の街道を抜け出すんだ!足を止めるな!進め!進め!」


 先程と同じ様に重騎兵が短銃で応射するが、指揮系統の乱れから効率的な一斉応射が出来ず、散発的な銃声が納屋へと響く。


「さっきよりも反撃が弱まったな!散弾の接射が大分堪えてるみてぇだ!」


 いくらか風通しの良くなった納屋の壁面を見ながら、再び南に向けて孟走するイーデン達。


「次は……あれだ!」


 他よりもやや大き目の農家を指差しながら叫ぶ。


「次は誰の家にお邪魔するんですか!?」


 並走する砲兵が尋ねると、イーデンは自身を親指で指し示す。


ランバート家(俺ん家)だ!お行儀良くしてろよ!」


 背の低い土壁の(へり)部分を両手で掴み、壁上へとよじ登るイーデン。


「こっから敷地内だ!騎兵は簡単に入ってこれねぇ筈だ、早くよじ登れ!」


 土壁の亀裂に足を掛け、登ろうとする砲兵の腕を取るイーデン。


「居たぞ!逃すな!」


 ノール兵の怒号と共に、よじ登ろうとした砲兵の後方から、騎兵銃(カービン)の鋭い発砲音が響く。


「ぐぁッ……!」


 運悪くよじ登っていた砲兵の一人に銃弾が命中し、イーデンの腕を掴んでいた手が解け、背中から地面に倒れ込む。


「追っ手か!クソッタレ!」


 イーデンは土壁に跨る様にして姿勢を安定させると、背負っていたマスケット銃を水平に構える。

 照星(サイト)の延長線上に捉えたのは白服のローヴィレッキ軽騎兵二騎。その内、馬上射撃の為に腰を浮かせた一騎の方に照準を合わせ、引き金を絞る。


「二射目は撃たせねぇぞ!」


 砲兵用として、僅かに銃身が切り詰められたマスケット銃の筒先から丸弾が吐き出される。大砲のそれと比べれば遥かに心許ない炸薬だったが、その弾丸は正確無比に軽騎兵の首元を撃ち抜いた。右前面に身を乗り出した射撃姿勢のまま、騎兵が馬上から崩れ落ちる。


「二騎目が来るぞ!早く登れ!」


 白煙立ち上る騎兵銃(カービン)を、鞍に備え付けられた銃鞘に投げ込むと、返す手でサーベルを引き抜くローヴィレッキ軽騎兵。重騎兵よりも遥かに早くその間隔が狭まっていく。


「あぁ、土壁が脆い……!」


 足を掛ける先からボロボロと剥がれていく土壁に苦戦する砲兵達。


「間に合わねぇ!近接戦闘用意……!」


 白兵戦を覚悟したイーデンが将校用サーベルを抜いた瞬間。ランバート家二階の窓が割れ、鋭く甲高い、ライフル特有の射撃音が響いた。

 ローヴィレッキ軽騎兵が振り上げたサーベルが空中を一回転し、地面へ突き刺さる。


「……よっし!」


 窓枠に銃身を委託させていたリサが、ガッツポーズと共に溜めていた息を大きく吐く。


「そこに居るのはリサか!?助かった!」


 自宅の二階に向かって手を振るイーデン。


「早く下がってください!まだ追っ手が来ます!」


 窓から身を乗り出し、本隊から更に分離したローヴィレッキ軽騎兵達をライフルの銃口で指し示しながら、南下を促すリサ。


「悪い!助かる!だが一点聞かせてくれ!砲兵マスケット銃隊の動きは把握してるか!?」


「一発撃ったら後退して再装填するように厳命してるので、今の所は統制出来てます!ただ敵の応射も激しいので、どうしても被害は出ちゃってます!」


「それで良い!被害無しなんて土台無理な話だ。そのまま南下しつつ敵を牽制し続けてくれ!」


 最後の一人を壁から引き上げたイーデンは、リサに返礼の意として帽子を振ると、配下の砲兵と共に第三射撃地点へと走っていった。



「皆の者!もう直ぐだ!もう直ぐで村を抜けるぞ!」


 周囲の軽騎兵と後方の有翼騎兵(フッサリア)へ檄を飛ばすベルナール。


「残置された敵砲はどうした!」


「七門全てに蹄鉄釘を叩き込み、無力化しております!」


「良し!このまま続け!消耗した重騎兵と有翼騎兵(フッサリア)の戦列を組み替えろ!オルジフッ!出番ぞ!」


「御意」


 七度に渡る散弾の直射によってその兵数を大きく減らしてしまった重騎兵に変わり、オルジフ率いる有翼騎兵(フッサリア)が先陣を切ろうと増速する。間隔を空けて布陣するローヴィレッキ軽騎兵達の間を、水流が岩を避けるかの様にスルスルと有翼騎兵(フッサリア)が進んで行く。


「ベルナール閣下!砲兵部隊より伝令です!」


 間を抜けていく有翼騎兵(フッサリア)の羽飾りを押し除けながら、白服の軽騎兵がベルナールの元へ駆け寄る。


「街道南端に敵が集結中!馬車や砲車を用いてバリケードを築いている模様!」


 伝令の報告に、ベルナールが歯を見せて笑みを浮かべる。


「ようやっと敵も万策尽きたか!敵砲兵を逃すな!このまま撃滅する!砲兵にも射撃許可を出せ!」


「プルザンヌ公からは建物の被害を最小限に抑える様申し付けられておりますが、宜しいのですか……?」


「構わん!建物ではなく街道上の敵を攻撃する為に使うのだ、言い訳は立つ!ただ榴弾は使うな、丸弾のみを使え!」


「しょ、承知致しました」


 再び伝令が有翼騎兵(フッサリア)の羽飾りを掻き分けながら後ろへ走り去っていく。それと入れ違う様にして、丁度彼の脇を通り抜けようとしたオルジフの肩を叩き、耳打ちをするベルナール。


「オルジフ、皆の前ではああ言ったが、我が軍の被害は無視できぬ状況だ。突撃は一度に留め、その後は引くように」


 オルジフは無言で、目線を合わせずに頷く。

 その目は、街道上に待ち構えているであろう遊撃騎馬砲兵隊を見つめていた。

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[一言] また大砲壊されちゃった(´・ω・`)
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