表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/100

第四十六話:遊撃騎馬砲兵隊、結成!(前編)

 ノール軍の次期侵攻先はコロンフィラであると踏んでいた連邦諸侯達にとって、ノール軍の首都侵攻開始の一報は、彼らの心中に霹靂(へきれき)たる感情を湧かせるに余りあるインパクトを持っていた。

 遠い北の辺境で立ち昇った戦の炎が、今明確な意思を持ってこのタルウィタへと迫っている現実を、彼らはこの土壇場で漸く認めたのである。


「連邦軍の集結地点をコロンフィラからタルウィタへ変えなければ!誰ぞ行軍指揮が出来る者はおらんのか!?」

「軍を移動させるだけなら誰にもできよう!誰でも良いから今すぐコロンフィラへ向かわせたまえ!」

「そもそも連邦軍の編成はまだなのか!?既に編成決定から一ヶ月は経過しておるぞ!?」

「サリバン議長はどこに行った!?あの老耄(おいぼれ)、肝心な時に議会を欠席するとは何たる不届き者か……!」


 議長不在のままに催行された臨時連邦議会は案の定、紛糾の渦中にあった。連邦諸侯達は、自分達の領地から徴兵した兵士の数こそ把握していたが、オーランド全体としての部隊規模数までは把握出来ていなかったのである。より正確に言うとするなら、誰も把握しようとしていなかったのである。


「どうか静粛に!」


 ただ一人。


「編成途中で軍集結地点を変更するのは更なる混乱を招きます!完全編成まで待ち、全軍集結を確認次第、タルウィタへと軍を移動させるべきかと!」


 すり鉢の中央で、渦を掌握しようと奮闘するコロンフィラ伯を除いて。


「オーランド連邦軍の指揮は、コロンフィラ伯である余が直々に執りましょう!連邦軍諸侯の面々、並びに畏くも辺境伯のお歴々におかれましては、各々の領地から徴兵した兵士の員数並びに兵種を取り纏めて頂き、余の元へ書状を以ってご報告をお願いいたします!」


 自ら旗振り役を名乗り出る事により、事態の沈静化を図るコロンフィラ伯。しかし、所詮は一伯爵である彼一人の力では、場を治めるまでには至らない。


「編成が完了していない領地はどの様に報告すれば良いのだ!?」

「タルウィタ中央銀行からの融資承認がまだ降りていない場合は!?カネが無い事には徴兵も軍備もままならんぞ!?」

「オスカー・サリバンに再度融資の陳情を行おうと思っていたのに、本人が不在とあってはどうにもならん!」

 

 口々に自分の要望と問題を叫ぶ連邦諸侯の姿に、いよいよもって辟易の念を抱くコロンフィラ伯。


「き……貴様らそれでもオーランド諸侯か!?一々狼狽えるな!良い加減に――!」


 コロンフィラ伯までもが議会の渦中に呑まれようとした、その矢先。

 連邦議会にピストルの銃声が轟いた。


「なっ――!?」


 銃口より発せられた鋭い黒色火薬の発砲音が、議事堂内の壁に反射して響き渡る。その頭に残る残響音に、思わず諸侯の幾人かが耳を塞いだ。


「皆々様。議事堂内では、お静かに」


 連邦議事堂の入り口。両扉を背にしたエリザベスが、ホイールロックピストルを構えながら和かに述べる。議事堂天井に向けられたその銃口からは、黒色火薬の硝煙が紫煙となって立ち昇っていた。


「パルマ辺境伯アリス=シャローナ・ランドルフ、並びにリヴァン辺境伯ジョン=パトリック・アスター卿。只今ラーダ王国より帰参致しました」


 エリザベスの背後に立つパルマ女伯の声が、静まり返った議事堂内に朗々と響いた。



「なるほどな。庶民の癖に自分を交渉材料にするたぁ、貴族みてえな事するじゃねぇか」


「貴族ではありませんけど、商家の娘ではありますので。自分の市場価値という物は把握しておりますわ」


 コロンフィラ伯とエリザベスの二人が、並んで目抜き通りを東へ歩いて行く。

 ノール軍が接近している事はタルウィタ市民達の間でも周知の事実ではあったが、世は並べて事も無くと言った様子で、市民達は普段と同じ営みを続けている。


「んで、わざわざ連邦議会から俺を引っ張り出して来た理由は何だよ?」


 背後の連邦議事堂を親指で指差しながら尋ねるコロンフィラ伯。

 つい先程まで白熱の最中にあった連邦議会は、パルマ女伯とリヴァン伯、そして二人が持ち帰ったラーダ王国の借用契約書の力で、一気に鎮静化していた。


「少しお願い事が御座いますの。町外れまでご一緒頂けないかしら?」


「お前ん所のご主人みたいな長話は御免だぞ。さっさとコロンフィラに戻って軍を纏めにゃならん」


 後ろ髪を掻きむしりながら溜息を吐くコロンフィラ伯。

 金と武器の目処はついたとはいえ、オーランド連邦軍を真っ当な軍隊として機能させる為には、やらねばならぬ事が山積みである。ため息の一つくらい出ようものである。


「それほどお時間は頂きませんので、ご心配無く〜」


 道案内の為、彼の数歩先を進みながら説明するエリザベス。


「……にしても、お前の親父さんも薄情だよな」


 彼はエリザベスの後頭部に言葉を投げかけた。


「薄情?どうしてですの?」


「普通、自分の娘を前にしたら、何がなんでも取り戻そうと躍起になるもんだろ?だのにランドルフ卿の一言で易々と引き下がるなんてよ、娘なのに薄情だとは思わないのか?」


「別に思いませんわよ?」


 振り向かず、歩調を少し早めながら答えるエリザベス。


「商家の人間は、家族も利害関係者として見做しますわ。恐らくお父様の中で、わたくしを無理矢理カロネード商会へと連れ戻すコストと、このままオーランド連邦軍に残すメリットとを比較検討したのでしょうね」


「……その結果、お前を連邦軍に残しておく方に利益を見出したって事か?」


 そうですわ、と短く答えるエリザベス。


「お父様の立場からすれば、オーランドの敗北は貸し倒れを起こす事と同義ですの。娘をオーランドに残して少しでも連邦側の勝算を上げる方が、自分にとっての将来的な利益になると考えたのでしょうね」


「そんなモンかねぇ。親なら損得勘定抜きで娘を取り戻そうとすべきだと思うけどな」


 顎の無精髭をガリガリと弄りながら、顰め面のままに歩を進めるコロンフィラ伯。


「……娘の為にそこまでしてくれる父親だったら、どんなに嬉しかった事でしょうね?」


 エリザベスは振り向き、作り笑いを見せながら呟いた。

 彼女の地雷を踏み抜いたと直感で理解したコロンフィラ伯は、申し訳無さそうに咳払いを漏らすと、謝罪の言葉を述べた。


「コホン……すまない、貴様の苦衷(くちゅう)を軽んじた発言であった。詫び申し上げる」


「お気になさらず。それにしてもコロンフィラ様は、その……生まれ貴い御仁にしては、はっきりした言葉遣いをなさいますのね?」


 言葉遣いが汚いと言う訳にもいかず、適当に(ぼか)してみたが、コロンフィラ伯には筒抜けだった。


「口汚いって言いたいんだろ?自覚はあるさ」


 左頬の切り傷をさすりながら、自傷気味に笑う。


「デュポン家は他の地主共と違って、戦士階級上がりの家系だ。お作法を学ぶ機会に恵まれなかった、哀れな家柄だよ」


 十字路に差し掛かり、交差点を横切ろうとする馬車に道を阻まれ、二人が横並びになる。


「またまたご謙遜を……そういえば馬車の方はお使いになりませんの?貴き御仁が御御足(おみあし)で移動なされると目立ちますわよ?」


 彼が身に纏っている深緑のコートを横目で見ながら尋ねる。


「町外れなんだろ?わざわざ馬車なんて使わなくても良い距離だ」


 右手に向かって走り去って行く馬車を苦々しく見つめるコロンフィラ伯。


「それに、馬車は遅いし窮屈でかなわん。手前で馬を駆る方が何倍もマシだ」


 彼の左胸に佩用されたコロンフィラ騎士団の大綬章が、自己主張するかの様にキラリと光った。


「コロンフィラ騎士団、でしたっけ?リヴァン市撤退戦では、その勇姿を存分に拝見させて頂きましたわ」


「大分、手垢の付いた称号だけどな。今じゃ、騎士ですら無いヤツまでコロンフィラ騎士団員になってやがる」


「あら、今は騎士でなくとも騎士団員になれるんですの?」


 再び一歩前に出て道案内を始めたエリザベスが首を傾げる。


「成金庶民共が銀貨を引っ提げて頼みに来るんだよ。『私にも騎士団員の称号を授けて下さい』ってな」


 負い目を感じてほしく無い為か、エリザベスから目を逸らしながら話すコロンフィラ伯。


「あぁ、そう言う事ですのね。コロンフィラ様はそれを受け入れてるんですの?」


「無論、受け入れてるとも。勲章一枚で結構な額の銀が貰えるんだ。受けない道理が無い」


 青銅で出来た大綬章を指差しながら、意地汚い笑顔を見せる。


「騎士団員の中には、騎士団章の乱発に反対する方もいらっしゃるんじゃありませんの?」


「昔はそんな事抜かす奴も居たな。だが今じゃ四の五の言ってらんねぇよ……もう、誇りで飯が食える時代は終わったんだ」


 そう述べるコロンフィラ伯の顔は、どこか寂しげだった。

 二人はその足取りのままに街を抜け、石畳から未舗装の街道を進む。暫く歩き続け、耐火レンガの二本煙突が見えてきた辺りで、エリザベスの足が止まった。


「お待ちしておりました。コロンフィラ伯フィリップ・デュポン卿」


 出迎える様にして片膝を着いたのは、パトリック・フェイゲン大佐だった。


「……これはこれは誰かと思えば。リヴァン退却戦の総大将さんじゃありませんか。余に何か御用で?」


 両手を広げ、辺りを見回しながら問うコロンフィラ伯。


「態々ご足労頂き、感謝の念に耐えません。この度は、是非に、デュポン卿のお力を拝借出来ればと、考えた次第に御座います」


「お力を拝借――?」


 コロンフィラ伯が、膝を着いたフェイゲンの背後に目を遣る。そこには、エレン・カロネードとヨハン・マリッツ。

 そして、たった今完成したばかりの新式カノン砲の姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ