第十一話:謁見!パルマ辺境伯
市内中央に鎮座するパルマ市庁舎。
その名の通り、市政に関わる業務が遂行されるこの建物は、領主の家としての役割も備えていた。
郊外に建てていれば大層目を引いたであろうこの市庁舎も、パルマ中央広場に門を構える錚々たる建物群と一緒に置かれては、些か小さく見えてしまう。
事実、市庁舎と軒を連ねる都市貴族の屋敷の方が高さは上であり、そのまた隣に聳える大商人の商館の方が敷地も広い。
しかしそれでも、真っ白に磨かれた大理石造りの市庁舎からは、他の建物には無い荘厳な雰囲気が醸し出されていた。
「ふぅーん。中々いいデザインしてるじゃない」
謁見の準備が整うまでの間、カロネード姉妹は市庁舎三階の貴賓室で待機する様に申し付けられていた。
「外観もそうだけど、内観も質実剛健って感じで。嫌いじゃ無いわね」
室内に置かれた調度品を見て回りながら独り言を呟くエリザベス。
「お姉ちゃん、これ食べないのー?」
テーブルに置かれた小麦のパン、つまり白パンを見つめながら尋ねるエレン。
「食べていいわよ。私は黒パンの方が好きだから」
「うぇ〜い、お姉ちゃんの貧乏舌〜!」
「ひ、費用対効果に優れた舌と言いなさい!」
白パンを頬張りながら姉をからかうエレン。
「お気に召された様で何よりで御座います。お代わりは御所望されますでしょうか?」
壁際で待機していた男性使用人がエレンに尋ねる。
「頂けますでしょうか!」
ビシッと手を挙げるエレン。
畏まりました、と使用人は一礼して部屋を後にした。
「うわー、外すごいね。お祭り状態だよ」
パンを片手に、窓から外の様子を伺うエレン。
エリザベスも外に目を遣ってみると、中央広場では凱旋パレードの余興として、大規模な市が開かれていた。
町中から職人が集まり、己の腕を振るって自分の作品を拵え、露店に展示している。
「金細工職人が一等地に露店を構えてるわね。どの街でも金細工職人が序列一位なのは変わらない、か……」
露店の種類や並び方を見れば、この都市がどの様な産業を軸にしており、そこで働く職人達がどの様なヒエラルキーに服しているのか、おおよそ検討がつく。
「銅板金職人、鋳物師は中々いい地位に居そうね、戦争景気ってヤツかしら。錠前職人と焼物師、製本職人もそこそこの地位ね……あら、リュートとヴァイオリン職人までいるのね、この街」
大都市になればなるほど、職業は高度細分化されていくものである。その原則に則れば、この街は十分大都市と言えるだろう。
ある程度市場の様子を見終わった所で、使用人がキッチンワゴンを押しながら入室してきた。お代わりのパンと紅茶を配膳しながら、使用人が謝罪の言葉を述べる。
「貴賓である御両人をお待たせしており、大変申し訳ございません。閣下は現在、ノール軍の占領により機能を喪失していたパルマ市参事会の現状復帰に努めております故、今暫くのご辛抱の程を……」
「ノール軍から奪還してまだ一週間ですもの、構いませんわ。むしろ一週間でここまでの活気を復活させたパルマ辺境伯閣下の御手腕に感服致す所で御座いますわ」
「ご高配を賜り恐縮に存じます」
すると使用人は、エリザベスの前に銀覆を被せた大皿を差し出した。
「こちらの方がお好みと仰っておりましたので」
使用人が銀覆を取り払うと、大量の黒パンが姿を現した。
「……お、お心遣いありがとう御座いますわ」
これは一種の当て付けなのでは、と思いながらも黒パンを手に取るエリザベスであった。
◆
「エリザベス・カロネード殿!同じくエレン殿!両名ご入来!」
使用人の仰々しい物言いと共に、パルマ領主の執務室へと入るカロネード姉妹。
顔を下げたまま執務室中央まで進むと、二人はドレスの裾を摘みながら片膝をついた。小慣れた様子のエリザベスに対し、エレンは些かぎこちない。
「この度は、生まれ貴き辺境伯閣下の御尊顔を拝し、幸甚に存じますわ」
「……顔を上げなさい」
パルマ伯の声と共に顔を上げるエリザベス。そこには椅子に腰掛け、両脇に衛兵を侍らせたパルマ辺境伯の姿があった。
声色から察してはいたが、領主にしてはかなり若い。フレデリカとそう変わらない歳だろう。加えて驚くべき事に、パルマ辺境伯は女性であった。
「……恐れながら、生まれ貴き辺境女伯閣下でいらっしゃるとは存じ上げませんでした。先程の言を訂正致しますわ」
「それ如き些事、構いません」
「お言葉、痛み入ります」
後ろで纏めたブリーチブロンドの髪に薄緑の瞳、貴族らしく透き通った肌。領主様、というよりはお姫様の風貌だ。やや伏せ目がちなのは緊張からだろうか。
「先の第二次パルマ会戦では自ら進んで前線へと赴き、敵重騎兵の撃退を成し遂げたと聞いています。ラーダ人の身でありながらパルマ奪還に尽力してくれた事、大変嬉しく思います」
「かような御好評を頂戴し、有難き幸せに存じますわ」
威厳のある、ゆっくりとした声色で、抑揚を抑え込む様に話すパルマ女伯。少し喋り辛そうにしているのは、この様な声色で話す事に慣れていないからだろうか。
年齢の若さといい、フレデリカに騎兵士官になってくれと泣きついたエピソードといい、本来はもっと温和な性格なのではないか、とエリザベスは推察した。
「余、パルマ辺境伯アリス=シャローナ・ランドルフの名において、貴殿両名に褒美を取らすものとする」
深々と頭を下げるカロネード姉妹。
「貴殿に褒美の如何について望みがあれば、この場で申してみなさい」
向こうから本題に切り込んで来てくれた為、心の中でガッツポーズをするエリザベス。
「はい、閣下の御高配に拝して、畏れながら言上奉りますわ」
「善し、申せ」
「一つは、私共にパルマ市民権の授与を賜りたく――」
「いいでしょう。それだけの助力に値する働きをしてくれましたので」
「……え?あ、有難う御座いますわ!」
あっさり了承してくれた事に焦りつつも謝辞を述べるエリザベス。
この方は、外国人に市民権を与える事の重要性を理解しているのだろうか。頼んだ側とはいえ、一抹の不安を覚えずにはいられない。
「恐縮ながら加えてもう一つ、私エリザベスを砲兵士官として登用して頂きたく――」
「いいでしょう。先の会戦でその実力は十分に発揮してくれたでしょうから」
「……有難き幸せに存じますわ」
先ほど抱いた一抹の不安が、次第に不信感へと変貌していく。
「最後に、此度のノール帝国軍による侵攻に備える為、構えて申し上げます。どうか、オーランド連邦軍の正式編制を、連邦議会へご進言頂きたく――」
「いいでしょう。どちらにせよ、連邦議会には近々オーランド連邦軍の編成を直訴しにいくつもりでした」
余りに、余りにも都合が良すぎる。
巨大な不信感を抑えきれなくなったエリザベスは、とうとうパルマ女伯に食って掛かった。
「……あ、あの、閣下?」
「如何されました?」
エレンも流石に不穏な気配を悟った様で、不安そうな表情でエリザベスを横目で見つめてくる。
「わたくしの所望を悉く聞いてくださり大変恐悦至極なのですが、その……もしや、私めに何か代償の様なモノを期待していらっしゃいますでしょうか?」
「……代償ですか?」
エリザベスが代償という言葉を発した瞬間、今まで伏し目がちだったパルマ女伯が、初めてカロネード姉妹を真っ直ぐ見据えた。
その顔は確かに笑っていた。しかしながら、彼女の強烈な三白眼と細目の所為で、微笑みとは程遠い表情に成り果てていた。強いて言えば、獲物を前にした獣、或いは対象を追い詰めた者から溢れる様な、嗜虐的な笑みを浮かべていたのだ。
「察しがいいですね。勿論、代償は頂きます」
パルマ女伯の目が、見る間に鋭くなっていく。
嗜虐的な三白眼の眼差しに晒され、エレンは蛇に睨まれた蛙の様に縮こまっている。
「ラーダ王国の父の元へ強制送還されたくなければ――」
ここでエリザベスは漸く理解した。彼女が本当に与えたかったのは褒賞などでは無い。
「余の命令に従いなさい。いいことね?」
服従だ。
「閣下、恐れながら申し上げま――」
ドン!と衛兵が槍の柄を地面に叩き付ける音が部屋中に響く。その脅迫的な音に恐怖したエレンが小さく悲鳴を上げる。
「失礼、返事が聞こえないのですが」
「……承知致しましたわ」
さしものエリザベスも、完全に場の主導権を握られている状態では、大人しく頭を下げる他無い。
「大変結構。では早速ですが、余から第一の命を下します」
口元を扇で隠すパルマ女伯。おそらく笑っているのだろうが、目付きのせいで一層邪悪な印象を受ける。
「余は明後日、連邦首都タルウィタに向けて出立します。姉の方は余に同行しなさい」
扇を畳んでエリザベスを指図するパルマ女伯。
「恐懼ながら、かかる命を発する意図をお尋ねしたく」
「貴殿の願いを叶えてやろうと言っているのです」
貴族にしては珍しく、歯を見せて笑うパルマ女伯。目つきの悪さも相まって、悪人面に更なる拍車が掛かる。
「タルウィタ連邦議会における限定発言権を貴殿に授けます。連邦軍編制の進言中、折を見て余の掩護をする事。その儀よろしくて?」
「……承知致しました」
心の中で舌打ちをしながら、エリザベスは頭を垂れた。
◆
謁見後、パルマ市郊外に位置するパルマ軍兵舎にて。
「んあああああ悔しいいいいいいい!!!!」
水に濡らした雑巾をフルパワーで絞り上げるエリザベス。
「その様子じゃ、流石のベスもパルマ女伯相手にゃ分が悪かったみたいだな」
ヒッヒッヒと笑いながら、部屋の窓を全開にするイーデン。
カロネード姉妹は、つい先程あてがわれた士官用寝室の掃除を行っていた。長い間使われていなかった為、床にはホコリのミルフィーユが出来上がっており、部屋の四隅には蜘蛛の巣が張っている。
「ズルいわよアイツ!最初はいかにも自信なさげな箱入り女領主を騙っておいて、こっちの要望と弱みを握った瞬間に本性を出しやがりましたわ!」
べしっ、と床に雑巾を叩き付けると、そのまま足を使ってゴシゴシと床の拭き掃除を始めるエリザベス。
「私もパルマ様にちょっと苦手意識ついちゃったかも……えへへ」
箒に体重を預けながら、力無く笑うエレン。
「パルマ女伯は一二歳で先代から所領を継いでるからな。色々と経験してきた結果があの性格らしいぞ?」
「ふん!あの目つきの悪さも、色々と経験してきた結果なのかしらね。あそこまで強烈な三白眼を備えてる人、初めて見たわ」
「やっぱ目付きの悪さは印象に残るよな。あの性格も相まって、連邦領主達の間ですら中々の曲者扱いされてるって噂だぜ」
そこまで言い終わると、イーデンは一度大きく咳き込んだ。エレンが箒で地面を掃く度にホコリが部屋中に舞い上がっている。
「あぁチクショウ、想像以上にホコリまみれだな。エレン!やっぱ掃き掃除は後にした方がいいぞ。先に拭き掃除やらねぇとホコリに殺されるかもしれん」
「うぃ。雑巾取ってくるー」
扉が閉まらないように箒をつっかえ棒代わりにすると、エレンはドタドタと廊下を走り去っていった。
「でもまぁ良かったじゃねぇか。お望み通り、晴れて士官候補生になれたんだからよ。しかも市民権まであるなら、この街に定住することだって可能だぜ?」
「定住って言うよりは、縛り付けられたって感じね。謁見の終わり際に領主命令も受けちゃったし。はぁめんどくさ……」
足で床を拭く事に限界を感じたエリザベスは、ため息をつきながら膝を折った。
「領主命令?」
「そう、パルマ領主様直々のお願い。単刀直入に言うと、領主様と一緒に連邦議会に出席することになったわ」
「同行って、お前が?連邦議会に?パルマ女伯と?」
珍しく目を丸くして問いただすイーデン。
「ええそうよ。オーランド連邦軍の動員を議会へ提言する為に、私の証言が必要みたい」
「なんだってベスがそんな役目を負うんだ?証人が必要なら他に沢山適材が居そうなもんだが」
「私に聞かれても困るわよ、領主様には何かしらの意図があるんでしょうけど……あと突っ立ってないで貴方も掃除手伝いなさいよ」
「あぁスマンな。正式に士官候補生となったからには、おいそれと手伝うことは出来ねぇんだわ。自分の力で頑張りな」
腕を組みながら、ひらひらと手を振るイーデン。エリザベスは口をパクパクさせながら何か物申そうとしていたが、結局何も発する事無く口をつぐんだ。
暫くの間、せっせと雑巾掛けをするエリザベスを冷やかし混じりに見つめていたイーデンだったが、ふとドアに立て掛けられた箒を一瞥しながら口を開いた。
「……そういえば結構意外だったな」
「意外って何が?あ、名門商人令嬢たる私が文句も言わずに拭き掃除に従事してる事?」
「いやお前の話じゃなくて、エレンの話な。パルマ女伯に苦手意識が付くほどビビってたみたいだが、それが意外だなって思ったんだよ」
「あー、そっちね。エレンはっ、ああいう場にっ、慣れてないからっ、しょうがないわよっ」
雑巾を絞るタイミングに合わせて言葉を絞り出すエリザベス。
「戦場ではあんだけ肝が座ってんのに?変な所で小心者だな」
「エレンはね、理不尽な敵意を向けられるとすぐに萎縮しちゃうのよ」
言いながらエリザベスが顔を上げると、イーデンがいまいち解せない顔をしていたので、手を動かしながら言葉を続ける。
「……えぇっとそうね。言い換えれば"なぜ自分に敵意が向けられているのかが分からない状況"が怖いって感じかしらね。理由もなく怒られるのがとんでもなく苦手というか何というか……」
「それを言うなら戦場こそ、敵兵から理不尽な敵意を向けられる場所だと思うけどな」
「エレン曰く、戦場で向けられる敵意は別に理不尽じゃないみたいよ?敵だからっていう明確な理由があるからなんですって」
「……なんじゃそりゃ」
詳しくはエレンから直接聞いてみる事ね、と言いつつエリザベスが立ち上がる。
「これで大体床はキレイになったかしら。にしてもエレンは遅いわね、雑巾取ってくるだけでなんでこんな時間が掛かって――」
「イーデン隊長殿ー!」
ドタドタと足音を響かせながら、エレン……を小脇に抱えたオズワルドが部屋に突入してきた。
「隊長殿!こちらへ向かう最中、エレンが無断で大砲倉庫内に立ち入っている所を目撃した為、取り急ぎ確保してまいりました!」
「ごめんなさい~っ!もう勝手に入らないから許して~!」
オズワルドの小脇に抱えられながらジタバタと暴れ回るエレン。
「おお、捕獲ご苦労だった。丁度こっちも探してた所だ」
「ご、ごめんなさい。好奇心が抑えられなくて、つい……」
床に下ろされたエレンが深々と頭を下げる。
「あんたホント大砲見掛けるとお構いなしに突撃して行くわね……じゃあ罰としてコレあげるわ。床はもうやったから後は壁をお願いね」
「うへぇ、わかりましたぁ」
渋々エリザベスから雑巾を受け取ると、エレンは両手に雑巾を持って壁を拭き始めた。
「よし、そんじゃオズワルド、あとは頼んだぞ」
「承知致しました!」
「ちょ、ちょっと!どこ行くのよ?」
部屋を出て行こうとするイーデンを引き止めようとするエリザベス。
「士官候補生の教育だったら、俺よりもずっと適任な人物が居るからな。そうだよな?オズワルド」
イーデンに肩を叩かれたオズワルドが、二人の間に仁王立ちの姿勢で割り込む。
「イーデン隊長殿より、貴様の教育役を申し付けられたのだ!士官候補生となったからには今後一切の手加減はせんぞ!覚悟するが良い!」
フハハハハ!と腰に手を当てて高笑いするオズワルド。
「うぎゃあ!それマジで言ってますの!?」
逃げようとするエリザベスの背後首を掴み上げるオズワルド。
「言い訳無用!さあ来い!掃除はエレン殿に任せておけ、歩兵中隊長殿がお呼びだ!先ずは挨拶に向かうぞ!」
オズワルドに半ば引きずられる様な形で、廊下の奥へと消えて行くエリザベス。
「お姉ちゃん頑張ってね〜!」
雑巾をハンカチの様に靡かせながら、連行されていく姉を見送るエレン。
「……んで、エレンはこの後どうすんだよ?いつまでも俺の従卒って訳にはいかねぇぞ?」
イーデンから、自分の今後の立ち位置について質問されたエレンは、雑巾を手でクルクル振り回しながら唸り込んだ。
「うーん。どうしよっかな……お姉ちゃんに着いて行きたい気持ちは山々なんだけど、かといって軍人になるのはあんまり気が向かないんだよね〜」
「まぁ、そんな所だろうなと思ったぜ」
顎髭を掻きながらニヤニヤと笑うイーデン。
「大砲は好きだけど軍人にはなりたく無い……そんなワガママなエレン嬢に最適な職種があるぜ。砲兵輜重隊って知ってるか?」
「砲兵しちょうたい……?なにそれー?」
顎に手をやり首を傾げるエレン。
「砲兵専用の補給部隊みたいなモンでな。民間人が軍務を担当できる数少ない役職の一つなんだぜ?砲とか弾薬車を牽引したり、弾薬とか大砲の点検を行うのが仕事だな」
「それって砲兵さんの仕事なんじゃ無いの?」
「砲兵の本業は大砲を撃つ事だからな。砲兵が本業に集中できる様に、砲兵輜重隊が周りの世話を行う感じだぜ。どうだ?姉様をサポートしたい今のお前にピッタリな仕事だろ?」
いつもと違い、やけに推しの強さを全面に出すイーデン。対して、うーん、と腕を組み、イーデンをじっと見つめながら考え込むエレン。
「イーデンおじさ〜ん。なんか私に隠し事してな〜い?」
意地悪に笑いながら、猜疑心を宿した瞳をイーデンに向けるエレン。
するとイーデンは観念した様に、一枚の求人紙をエレンに見せた。
「相変わらず勘の良い姉妹なこって……実は今、砲兵輜重隊が深刻な人材不足に陥っててな。読み書き計算が一通りできる奴を探してんだ」
砲兵輜重隊求む!と題された求人紙には、応募要件や待遇、名前の記入欄等がアレコレと記載されていた。
「……ふーん?それでそれで?」
イーデンから望みの言葉を引き出そうと、上目遣いで焦らす様な口振りをするエレン。
「わーったよ。火砲知識があって読み書きも出来るお前が必要なんだ、入隊してくれ!」
「んふふ〜!良いよー!」
口元を手で抑えながら、クルクルとその場を回るエレン。
「んじゃ、明日は練兵場に六時に来てくれ。砲兵達と一緒に授業開始だ」
はーい!という耳触りの良い返事と共に、エレンは部屋の中へ消えていった。
扉がバタンと閉まるのを見届けた後、イーデンはジャケットの内側を探りながら廊下を歩き始めた。
「おっと、ベスからパイプ返してもらうの忘れてたな」
一寸立ち止まり、エリザベスが消えていった廊下の角を見つめる。
「……火気厳禁ねぇ」
頭を掻きつつ、再び歩き始めるイーデン。
「しばらく禁煙続けてみるか……」
まんざらでもない表情を浮かべながら、イーデンは呟いた。
【キャラクター立ち絵】アリス=シャローナ・ランドルフ
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