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プロローグ:出立、もとい家出

 昨晩からの小雨により、リマの街は雨靄(あまもや)に覆われていた。

 霧雨のカーテンが降り注ぐ大通り。

 濃霧に色彩を奪われた石造りの家々。

 人も、街も、草木も、来たる日の出を待ち侘びて、今はただ眠りについていた。


「さぁエレン、日が登る前にさっさと出発するわよ!」


 それ程大きな声を出したつもりでは無かったが、透き通る空気と静寂のせいか、思った以上に声が通る。夜警中の保安隊に見つかったら面倒だ。


「ういうい、もうちょっとで連結完了するから待ってー」


 いつもの間延びした妹の声が、ガチャガチャとした金属音と共に、馬車の後ろから聞こえてきた。

 あくびを噛み殺しながら馬に跨る。自分と違って朝に強い妹が羨ましい。


「おっけー、準備完了ー」


 馬車に乗り込みながら合図を出す妹。それを聞いて無意識に手綱を強く握り込む。

 さぁ後は出発するだけだ、と自分に言い聞かせようとするが、心残りが全く無いと言ったら嘘になる。


「エレン。本当に付いてくるのね?これは唯の私のワガママなのよ?」


 父に何も言わず家を出る事や、父の商売道具である馬車を勝手に持ち出す事に対しては、とっくに罪悪感など無くなっていた。しかし妹を一緒に連れて行く事について考えると、いささか心を引っ掻かれるような気持ちになる。


「わたしがお姉ちゃんに付いて行くのは自分の意志だもん。お姉ちゃんが居ない家はつまんないだろうし〜」


 それが本心から出た言葉なのか、自分を気遣っての言葉だったのか。

 結局真意の程はエリザベスには分からなかったが、最後の心残りを押さえつけるには十分な言葉だった。


「さあ、行くわよ!先ずは計画通り、国境を越えてオーランド連邦に入るわ!」


 "カロネード商会"と題された倉庫から、馬車が勢い良く大通りに飛び出す。

 通り向かいの軒先で寝ていた犬が目を覚まし、首をもたげ、目を細めて音の方角を見つめる。

 犬の目には走り去る馬車の姿と、馬車の後ろに牽引された鈍色(にびいろ)に光る大砲の姿が映っていた。

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