出発
翌朝、まだ日も登らない時間からエマ、白雪、ユリウス、そしてアンバーの四人は汽車に乗り込んだ。
当たり前のように用意された一等車に感動するエマとは対照的に、ユリウスはまるで我が家であるかのように椅子の上に足を乗せ、大いびきをかきはじめた。白雪はそんなユリウスをじろっと睨みながら、エマに言った。
「昨日は眠れましたか?」
「正直あまり……ベッドには早めに入ったんですが、なかなか寝付けなくて」
「そうでしたか。長い旅ですから、エマさんも寝られそうだったら寝てくださいね」
「ありがとうございます。そういえば……アンバーさんも同行するんですね」
アンバーはにこっと笑って頷く。
「はい。パイロットは任務地にもご一緒して、皆様の身の回りのお世話をします」
「大変ですね」
「あちこち行けて楽しいですよ。あ……ごめんなさい、皆様は命をかけて戦うのに楽しいだなんて……」
「あ、いえ。私もこうしてあちこち出かけることがなかったので、ワクワクする気持ちはわかります」
アンバーはホッとした顔になり、気を取り直してから言った。
「ハンター様、現地についたらクリスマスマーケットに行ってみませんか?」
「クリスマスマーケット?」
「はい。きっとお母様と妹様へのプレゼントが見つかると思うんです。クリスマスですもの、なにか贈り物をしないと」
「そうか……クリスマス……。最近毎日が目まぐるしく過ぎていくので、もうすぐクリスマスだって忘れてました」
「まあ!それはいけませんよ!クリスマスは大事です。そうだ、私からハンター様に何かクリスマスプレゼントをお贈りしますね」
「ありがとう。そうだ、じゃあ私も何か用意します」
無邪気にプレゼントを考えるアンバーのおかげで、エマは一瞬自分が旅行に来ているような気分になっていた。ただ、太ももに巻きつけたホルスターの重さを感じるたびに、これが死ぬかもしれない旅の始まりだということを思い出させられるのだ。
白雪はそんなエマを思いやるように、明るい口調で尋ねた。
「ハンターさんはスコットランド支部で働いていたと聞きましたが、生まれもスコットランドなんですか?」
「そうです。『ナイト』の候補になるまでスコットランドから出たことがありませんでした」
「そうですか。島が多くて美しい国だと聞いたことがあります。残念ながら私は一度も訪れたことがないのですが」
「とても美しいところですよ。白雪さんはどこの出身なんですか?」
すると白雪は少し困った顔になって言った。
「元の生まれはわからないんです。この顔ですから、東の方の出身なのかもしれません。気付いた時には『ラミアの愛し子』のドイツ支部で育てられていました」
「そ、そうだったんですね……なんか、すみません……」
「いいえ、お気になさらず。ここでは出生が曖昧な者など珍しくありませんから」
エマは気まずさをごまかすために、慌てて話題を変える。
「ところで、ドイツ支部は本部とは随分雰囲気が違うんですね。殺伐としているというか……」
白雪は苦笑いして答えた。
「本部とは違って、各支部は"前線"ですからね。日常的に人が傷つき、そして死にます。スコットランド支部も同じだったのでは?」
「スコットランドにいた時は厨房を出ることがなかったので……。でも、そうですよね。戦っているんだから」
そう呟くエマをちらっと見ながら、白雪は言いにくそうに口を開いた。
「ハンターさんには心から同情します」