出会い
銃弾は目を見開いたままの男の眉間の真ん中に撃ち込まれた。女性はその音を聞きながら石畳の地面に着地し、すぐに再び刀を構える。
眉間を打たれた男は何か言いたげに唇を動かしたが、何も言えないまま膝からゆっくりと崩れ落ちていく。男は木の上を見上げ、いまいましげな表情を浮かべて腕を動かしたが、その腕を踏み潰すように、木の上から男が飛び降りてきた。男のブーツの下で、つい先ほどまで人の形をしていたはずのものが砂のように崩れていった。
エマは目の前の状況を飲み込むことができず、ただ冷たい石畳の上にへたり込んでいた。
「口ほどにもない」
女性は吐き捨てるように言って、手にしていた刀を鞘に収めた。そしてエマの方に歩み寄っていって、エマは体を起こすために手を貸してやる。
「怪我はありませんか?」
「は、はい」
返事をするエマを見つめた女性は、ハッとして手をとめた。
「あら……もしかして、あなたがエマ・ハンターさんですか?」
「え?あ、はい……そうですが、なんで私の名前を?」
すると女性は赤い両目を細めて言った。
「その目を見ればわかります。本日こちらに到着すると聞いていましたし。ようこそ、ケルンへ。私は『ラミアの愛し子』ドイツ支部の白雪と申します」
「は、はじめまして。よろしくお願いします」
「それからもう一人……ユリウスさん!」
白雪は砂の塊をブーツで蹴散らしている男に声をかけた。身長190cmはありそうな大柄なその男は、ボサボサの髪を掻きながらタバコに火をつけた。そしてエマのことを頭のてっぺんからつま先までじろりと見て、訝しげに眉間にシワを寄せた。
「なんだ、そのアホ面が例の新人か?」
「そのようです。偶然にもこんなところで会うことができました」
ユリウスと呼ばれた男はズカズカと近づいてくると、エマの顔を無遠慮にじっと覗き込む。
「へえ、本当に片方だけしか『目』が入ってねえんだな」
エマはその圧倒的な態度にあんぐりと口を開け、立ち尽くしてしまう。
ーーー何この人、いきなり失礼な……
ユリウスは顔を横に向けてタバコの煙を吐き出してから、エマに尋ねた。
「おいアホ面、こんなところでなにしてたんだ?」
「えっと……道に迷ってしまって……」
「はあ?あんなにわかりやすい目印があるのにか?」
ユリウスは呆れ顔で家々の屋根の向こうに見える大聖堂の尖塔を指した。
「は、はい……すみません……」
「相当な間抜けだな」
ユリウスに鼻で笑われたエマは、耳まで真っ赤にしてうつむく。
ーーーそんなこと言ったって、初めて来る街なんだから仕方ないじゃない
そう言い返してやれればよかったが、初対面の大男に言い返す勇気はなかった。ぐっと言葉を飲み込んで恥ずかしそうに顔を伏せるエマに気づいた白雪は、ユリウスをじろっと睨む。
「ユリウスさん、彼女は初めてこの街に来たんです。そんな言い方することないでしょう。ハンターさん、気にしないでくださいね。この人はとにかく口が悪いんです」
「は、はい」
「さあ、せっかくですから一緒に行きましょう。荷物はそれだけですか?」
「は、はい!」