調査開始3
ユリウスたちが教会の地下墓地で調査を始めた頃、白雪はシーカーを一人連れ、今回の事件の被害者である少女・エルザの家を訪ねていた。エルザの両親は憔悴しきっていて、特に母親は娘の形見のハンカチを握りしめ、泣きはらした目から涙を流し続けていた。
白雪は膝をつき、エルザの母親の手に自分の手を重ねる。
「このたびは何と言っていいか……。本当にお気の毒でした。お嬢さんのためにも、少しお話を聞かせてください」
しかし母親は泣くばかりで、何も答えない。見兼ねた父親が弱々しい声で言った。
「悪いが家内はずっとこんな感じなんだ。私が答えよう」
「では……まずお嬢さんが誰かに追われていたとか、狙われていたという心当たりはないでしょうか?」
「そんなものないさ。娘は本当に真面目な子で、ふしだらな行いをしたことなんて一度もない。婚約者のオットー・ホフマンは幼い頃からの許嫁だし、この辺りの人はみんなそれを知っている。だからエルザに横恋慕する不届きものなんていなかった」
「なるほど。では、お嬢さんが最近見知らぬ人物と接触したということは?」
「うちは宿屋だからね。毎日見知らぬ人物がやってくる。宿帳は先日来たあんたがたのお仲間に渡してあるが、偽名のやつだっているかもしれない……。でも、娘がいなくなった晩に出かけた客は一人もいなかったよ」
「では客の中に犯人がいたという線はうすいかもしれませんね。当日、お嬢さんがパンを買いに行くことを知っていた人は?」
父親はすぐに首を横に振る。
「私らだけだろう。うちは毎朝家内がパンを焼いているんだが、その日の午後、突然オーブンが壊れちまったんだよ。ちょうど夕食の準備を始める時間だったから、私や家内は手が離せなくて、それで娘が翌朝の分のパンを買いに出ることになった。最近若い娘が行方不明になる事件のことは知っていたから、途中で婚約者のホフマンの家を訪ねて、送ってもらうように言っておいたんだが、いつまでたっても帰ってこなくて、とうとう19時をまわった。パン屋までは往復したってせいぜい30分ってところだ。ホフマンの家でお茶を出されたとしても、一時間もすれば帰ってこられるだろう。それが家を出て3時間をすぎても帰ってこない。それで、もしやホフマンの家で夕食をということになったのかもしれないと思って、宿の食事の準備を大方終わらせたところで、私がホフマンの家に行ったんだ。ところが、ホフマンの家に娘は行っていないという。そこでオットーを連れてパン屋に行ったんだ。だが……」
父親は言葉に詰まり、奥歯を強く噛み締めた。白雪は言葉を引き受け、続けた。
「パン屋にもお嬢さんは来ていなかったんですね?」
「ああ……そこで私たちは娘を探すことにした。途中で家に使いを出して、家内も一緒に探すことになった。手分けして探したが、夜が深くなっても娘の姿は見つからない。その頃は近所の人たちも探すのを手伝ってくれた。そして、最後に森の中でオットーが娘を見つけたんだ……。まさかあんな姿に……」
とうとうこらえきれなくなったのか、父親も泣き出した。二人のすすり泣きを黙って聞きながら、白雪は顔をしかめた。エルザは両親からも婚約者からも、ひいては町に人たちからも間違いなく愛されていた。吹雪の中多くの人間がエルザのために外を歩き回った。
ーーーそれなのに、見つかったのはボロ雑巾のようになった冷たい亡骸だったなんて……。
生まれてからというもの、「家族」というものを知らない白雪にも、エルザの両親の心中は察するにあまりある。なにより、目の前でうちひしがれている二人の姿を見れば、どれほどのショックだったのか痛いほど伝わってきた。
白雪はもう一度同情の言葉を口にせずにはいられなかった。それでいて、彼女はどこか冷静に尋ねた。
「本当にお気の毒なことです……。ところで、最近頻発してた行方不明事件については何かご存知ですか?」
「いや……町のみんなが知っていること以上は知らない。若い娘ばかりが立て続けに行方不明になっていると……」
「お知り合いでどなたか行方不明になった人はいますか?」
「知り合いというほどではないが……鍛冶屋のとこ後妻の姪っ子が行方不明になったらしい。私は会ったことがないが、たしかうちの娘と同い年か、少し年上だったはずだ。鍛冶屋とはもう何代も前からの知り合いだから、もし会いに行くなら紹介しよう」
「ぜひお願いします」




