調査開始
夜が明け、エマはユリウスとピーターに連れられてヴィースブルクの中央広場に面した教会を訪れた。白雪は他のシーカーと被害者遺族への聞き込みに出たらしく、エマが起きた時にはすでに姿が見えなかった。
ようやく東の空の端がうっすらと明るくなってきたのを見て目を細めながら、ピーターはエマとユリウスに言った。
「今回発見されたのはヴィースブルクの街の外れの宿屋の娘です。今年17歳で、近所にパンを買いに行ったきり帰らず、家族や婚約者、町の人たちで探したところ、翌朝森の中で死体を発見したそうです」
「17歳……私と同い年だ……」
エマが思わず呟くと、ピーターは痛ましそうに眉間にしわを寄せる。
「来春に結婚することが決まっていて幸せいっぱいだったとか。本当に気の毒ですね」
ユリウスは二人ほど感傷的にはなっていないようで、吹きすさぶ北風に顔をしかめながら言った。
「早く死体を見せてくれ。こんなところで話していても何もわかりゃしない」
「あ、そうですね。どうぞ、こちらから入ってください」
ピーターは地下墓地の入口につながる扉の鍵をあけ、二人を先に行かせる。階段には一段おきに蝋燭が置かれていて、三人の動きに合わせて火が大きく揺れた。階段を降りるごとに深くなる死の臭いに、エマは思わずえずく。
「ここで吐くなよ」
ユリウスの冷たい声に慌てて頷き、エマは唾を飲み込んだ。気温が低くてこれなのだから、夏は一体どんなことに……と想像すると、再び吐き気がこみ上げてきた。料理人だったときに動物の肉をさばくこともあったのできっと平気だろうと思っていたが、人間の死の臭いは思っているよりもずっと強烈に鼻をついてくる。
「お待ちしておりました『ラミアの愛し子』たち」
暗い地下堂の向こうから突然しわがれた声がして、エマは思わず悲鳴をあげる。ピーターはそんなエマの反応を面白そうに見やりながら、すました顔で言う。
「こちらパウロ司教です。パウロ司教、『愛し子』ユリウス・ヴォルフとエマ・ハンターです」
ピーターに紹介されたパウロ司教は小さく頷き、三人を手招きした。ユリウスは司教を追い越さんばかりにズカズカと地下墓地の奥へと進んでいき、数本のろうそくが建てられた祭壇の前で立ち止まると、小さくため息をついた。エマは恐る恐るユリウスの陰から祭壇の前に置かれた少女の遺体を覗いて、すぐに悲鳴をあげる。
「きゃっ……!」
祭壇の前の床の上に敷かれた布の上に横たえられた少女は、顔の半分を食い破られていて、もう片方の目は大きく見開かれていた。洋服は彼女が命を落としたときのままになっているのか、ヘソのあたりまで血のシミが広がっている。血の気が全くない灰色の肌は発見されるまで寒風にさらされていたせいか、一部が凍傷のせいでどす黒く変色していた。
「かわいそうに……このエルザは私も小さい頃からよく見知った子だった。真面目でよく働く子で……本当に美しい子だった」
司教は沈痛な面持ちで呟く。ピーターは革の手袋をはめると、大きく崩れた少女の顔を掴んで、横を向かせた。エマはさらに悲鳴をあげそうになったが、ユリウスに小突かれ、すんでのところで声を飲み込んだ。
「亡くなってから発見までに時間がかかったので、顔や足などを動物に食われたようです。歯型から察するに……たぶん狼かな。大型の犬かもしれないですね。それよりもお二人に見ていただきたいのはこの傷です」




