目覚めた先は、国外の……
「……ここは?」
ガイアが目を覚ますと、そこは真っ暗で何も見えなかった。
決して夜だからと言うのでは無く、何かで光を完全に遮っているからであろう。
地味にだが何かが走る音や車輪の回る音が聞こえ、ガイアのいる場所に揺れが生じていた。
「この感覚、成る程……俺は今馬車で輸送されてると言うことか。」
ガイアは状況を分析してある程度把握しつつ、前方から二人の男の声が聞こえてくるのを確認した。
「にしても、あの当主も馬鹿だよな~?」
「あぁ、違いねぇ。 国家反逆なんてどう考えたって無謀なのにな!」
「そうそう! そもそもこの国には賢者様や数多くの有能な魔道士が居る上にあの四英雄まで居るんだ。 天地が引っくり返っても此方の完全勝利が揺らぐことなんて無いさ!」
二人の兵士は笑いながらそう言い、馬車を走らせる。
そう、この二人の言う賢者とは、人界に於いて魔法を極めた英知を持つ人間に与えられるモノで、言葉通り魔法に於いて右に出る者がいないとされている程の人物である。
賢者は一千万人に一人の逸材とまで言われる程希少な存在だ。
一応賢者に成り得る可能性のある魔道士は賢者候補生として、日々魔法の極意を学んでいるのだとか。
そして、四英雄……王国の最大戦力と言っても過言ではない四人の人間で、それぞれがある大戦で女神が授けたとされる、特殊な魔装具である神器を使うことが出来る。
確認してる限りでは、現在王国にある神器は四つ……その四つが今王国の防衛システムや王国の兵士や魔道士達の力を向上させる加護等に大きく関わっており、何やら神器の動力エネルギーを利用した結界を張っているらしい。
この力のお陰で他種族は王国に進行することは不可能で、王国を攻めることが出来ず、人間に一方的に攻められるのだ。
しかも後者の加護に関しては常時適応されてる為、例え一兵卒であってもかなりの戦闘力を持っており、並大抵のモノであればそこそこ戦える程なのだ。
そんな兵士が数に任せた戦法を取ろうものなら相手が壊滅まで追い込まれるのも無理はないし、先ず人類がこのままでは追い詰められる様な事はもう起きないのだろうと嫌でも理解させられる。
すると、突然馬車が止まり、外から二人の焦る声が聞こえてきた。
「な、なんだよあれは!?」
「お、おい……アレ此方に来るぞ!?」
「や、やべぇ……逃げるぞぉぉぉ!!」
「あっ!おい、置いてくなよ!」
そう言い、二人の足音が聞こえ、それが遠退いていく。
その代わりに、何かが空から迫っている様な音と強烈な熱風を感じた。
「これは……もしや彼奴の!」
ガイアがそう言うと、空から迫る何かが馬車に衝突し、辺り一帯が焦土と化した。
馬車は当然全焼……と言うより跡形も無く消し炭になってしまったのだが、ガイアはと言うと……
「……ふぅ、随分荒っぽい出迎えだな? ルナティール。」
馬車があったであろう場所に立っていた。
それもあれだけの強力な隕石が直撃したのにも関わらずに、無傷で……だ。
ガイアは何事も無かったかの様に上へと視線を移し、何も居ないであろう空へとその名を呼ぶ。
すると、何も居なかった筈の場所の一点の空間が歪み始め、その歪みから裂け目の様なモノが開き、そこから一人の女性が此方に向けて飛び出してきた。
「ガイア様! ご無事ですか!?」
「ぐっ!? お前のタックルのせいで、余り無事とは言えんな……」
「えぇ!? ご、ごめんなさい!!」
ガイアはその女性に抱き付かれる際に勢いが強すぎたのか、全身に強い衝撃が響いて大変なことになりつつあったが、女性は直ぐに離れて平謝りをして事なきを得た。
「それより、現状の説明を頼む。」
「はい! 現在、王国側はガイア様がやって来た功績を全て別の魔道士の功績として捏造を図りました。 後は住居の解体と再建築ですね……ガイア様の家が取り壊されてガイア様が御作りになられた魔導ノ宝玉生成装置やら魔法についての本やらだけ押収したようです。」
「最早何でもありのやりたい放題だな……」
ガイアは王国のやっている事に最早呆れて居た。
魔導力宝玉生成装置とは、私生活や公共施設等で使われる動力源の宝玉を作る装置の事である。
魔導力宝玉とは貴族や王国に優先して配布され、街側の方には余裕があれば金銭取引にて渡すと言う決まりがあり、街ではこのコアが金銭不足や向こう側の都合で取引が成立せずに不足する場合があった。
その上取引としてコアを出した来ても高額な事が多々あり、市民はこの不条理に対し、これも王国の技術発展のためだと我慢を続けて、人類の発展を願ってか、特に言及しようとはしない。
だからガイアは、そこを狙い目としてあの装置を作ってそこそこの安値で提供していたのだ。
因みにだが、あの装置は王国側と専門店にのみ置かれている為、街側の人間がコアを作る際には専門店に行くしかないのだが、専門店の製作所を借りるのに莫大な資金が必要で、その上作るためには最低限中堅層クラスの魔道士でもないととてもじゃないが出来ないのだと言う。
そして本に関しては特に何か特別なことが記されてる訳でもなく、その辺の商店に並ぶようなモノばかりなのでそこまで痛手でも無い。
しかし、ガイアは別に王国の市民が好きと言う訳でもなく、ましてや愛国者でもない。
だからこそもう王国とは関係無いかと自己完結をして直ぐに別の事に思考を移した。
「となると、先ずは拠点探しになるな。 まぁ、暫くは野宿かもしれんが我慢しろよ?」
「はぁーい。」
二人は呑気にそう言いながら、そのままその場を後にしようとする。
そこで、ルナティールは何かを思い出したかのように立ち止まってガイアを呼び止める。
「あ、ガイア様!」
「どうした?」
「毒……抜かなくて良いんですか?」
「あぁ、忘れる所だった……ハァァァァ!」
ガイアはそう言い、片腕を上げて唸り始める。
すると、どす黒い何かが浮き出て上げている方の腕に集まりやがてそれが掌から出て球体となった。
「ふぅ……運送代金代わりにこれを渡しておくとする……ふん!」
「えっ?な、何を……」
ルナティールのその問いに、ガイアはそう返してその球体を思い切り投げ飛ばした。
その球体は走り去っていく兵士の真上に降り注ぎ二人の体内へと侵食した。
かなり遠くに居るためか悲鳴自体は聞こえぬものの、毒に身体を犯されてのたうち回ってる姿だけはギリギリ肉眼で視認できた。
「あっ……やっちゃいましたね。」
「気にするな……遠い地まで運んで貰った礼をしただけだ。」
「ガイア様も中々えげつないですねぇ?」
「お前程じゃないさ。」
ニヤついてそうからかうルナティールにガイアはそう言い、足を進めてその場を後にする。
余談ではあるが、その後にガイアが投げた毒により二人は絶命し、運悪く他種族の上位個体により殺されたと言うことで事故として処理されたのだった。