01.
『私メリーさん。今図書館入口に居るの』
知らない番号から電話だと思ったらコレだ。今時メリーさんって何だよ。
秋人は掲示板の「図書館内ではマナーモード。通話は控えるように」というビラをチラ見する。
ブーンブーン
マナーモードにしたスマホが振動する。
番号は…先程のメリー某と同じだ。
「…出なくていいよな」
寧ろ着信拒否した方がいいかもしれない。秋人はそう考え操作する。多分無駄だとは思いながら。
『……ザザ…ザ……わた…シワタシ…メリー……ザザ……今……今…へんきゃ…』
通話にフリックしてないのに勝手に話し出した。
迷わず電源を切る。
ブーンブーン
電源を切った筈のスマホが振動する。
電話の相手はメリーさん。
着信拒否した筈なのに掛かってくるとかホラーの類か。
「どうせ出なくても勝手に喋りだすんだろうなぁ…」
秋人は誰ともなしにぼやく。
彼のぼやきも、鳴り続ける電話にも注意する者は居ない。
否、この図書館内には彼以外の生きているモノは一人しか居ない筈だ。
『…ピンポンパンポーン……私、メリーさん』
「今度は館内放送かよ。何でも有りだな」
『今あなたの後ろに居るの』
後ろから響く、低く罅割れた声。
弾けるように飛びすさび後ろを振り向く。
否、振り向いてはいけなかった。秋人は小さく舌打ちする。つい釣られて行動してしまったが、考えるのが遅すぎた。
条件を満たしてしまった。
秋人は後ろに現れたモノを視認する。
残バラな髪の間から覗くギョロギョロとした血走った目、身体に比べて頭部が異常に大きい。身体のバランスが悪いためか背を丸めて立ち、ほぼ四つ這いだ。
『私、メリー、さん。今、あなた、の前に、居る、わ』
先程とは打って変わって鈴を転がすような声。
異形の姿と相まって一層不気味さが増している。
何よりその血生臭い吐息。恐らく、図書館内に居た人間を喰い殺したのもコイツだろう。
『……■■■■■■━━‼』
大口を開け奇声を発しながら突進してくる怪物。ぞろりと生えた刃の如き歯は乱杭状であり、鮫の歯のように幾重にも重なり連なっていた。
秋人は、その突進を直撃しないように左に避わす。
右腕に鋭い痛みが走るも極力気にしない。死ぬよりかはマシだ。
『うふふふふふふふふふふふふ。お兄さんの右手おいぃぃいしいいいいいいいぃい』
怪物はグチュグチュと音を立てながら何かを咀嚼する。
秋人は自身の右腕を見た。後悔した。見なけりゃ良かった。
右肩から先が無い。右腕は何かに引き千切られたように無惨な傷口を晒していた。
「まぁ、今食べてるのが俺の右腕だよなぁ…」
秋人は今日だけでも両の手で余るぼやきを発する。
何故こうなったと思いながら。