可哀想なおじさんのメガネ
「ないない、ないなー」
駅前で可哀想なおじさんが這いつくばって何か探しているよ。
「どうしたのおじさん?」
僕は暇なので聞いてみたよ。
「実はメガネを落としちゃってははは」
可哀想なおじさんは半泣き笑いで僕を見上げたよ。
「ふーん、じゃあぼくもさがしてやるよ」
僕は本当に暇だったのでいい人をやることにしたよ。
「あ、ありがとう見えなくてどうしようもなかったんだよ」
感謝されてとても気分がいい。僕は笑顔でメガネを探すよ。
グシャ
あれ何か踏んだよ?
「あっ!」
つい声が出たよ。
「あったかい?」
僕は急に気持ちが悪くなったよ。
これを返すのはさすがに可哀想だよ。
もしかしたらおじさんが自殺しちゃうよ。
「何でもないよ」
僕は嘘をついたよ。
とても気分が悪いよ。
嘘にしなければいいんだよ。
このおじさんのメガネを踏んで壊したことを言わずにメガネ見つければいいんだよ。
でも壊したことを言わないのは嘘をついたことにならないかな?
僕はとても悪い人だよ。
いい人になるつもりが悪い人になってしまったよ。
壊れなかったことにすればいいんだよ。
僕は考えるよ。
そして思いついたよ。
修理だそれもすぐに。
壊れたメガネをおじさんにわからないように拾い上げる。
「僕もう少し向こうを探してみるよ」
「うん、わかったよ」
おじさんは僕を疑っていないよ。
心がチクリチクリとするよ。
もういい人になるのは無理だよ。
だけどなんでもないひとには戻れるかもしれないよ。
まだ取り返せるよ。
駅前の眼鏡屋さんにメガネを修理してもらって戻ってきたよ。
「おじさんあったよ。あそこの眼鏡屋さんで預かっていたよ」
眼鏡屋さんには口裏を合わせてもらったよ。
眼鏡屋さんにまで嘘をつかせたよ。
悲しいよ。
つらいよ。
「ありがとう、本当にありがとう」
可哀想なおじさんは感謝して去っていったよ。
心が冷えて寒いよ。
眼鏡屋さんが可哀想な目で僕を見てるよ。
僕は可哀想なおじさんになったんだなー。
僕はそれからいい人になるのをやめたよ。
いい人になるのは大変なんだよ。
それがわかったんだ。
「あーそういうことだったんだ」
その時僕は、なぜあの可哀想なおじさんを誰も助けなかったのかがわかったんだよ。
それから数日たったある日のことだよ。
ふと振り返ると駅前で財布を探すおじさんが泣きそうな顔で探しているよ。
僕は気づかない振りをして通り過ぎるよ。
心が苦しいよ。
「どうしました?」
後ろでそうおじさんに声をかける声がしたよ。
僕はホッとしてそのいい人に心の中でエールを贈ったんだ。