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エピローグ 勇者を待ち続けた者 後編

 

「ちょっとだけでいいので、来て頂けませんか?」


「お願いします」


 待ち構えていた男女に呼び止められたアルクとサーシャ。

 強引に逃げても良かったが騒ぎを起こす事は本意では無い。

 2人の正体と真意を知りたいアルク達はおとなしく列から離れた。


「この部屋でお願いします」


 男は城門に併設された一室にアルクとサーシャを案内した。

 部屋の中は粗末なテーブルを囲むように椅子が置かれている。


 部屋の外に人の気配は無い、アルクは昔の勘を働かせて辺りの状況を把握する。

 いざとなればサーシャを連れ、ここを逃げるつもりだった。


 サーシャに緊張感は無い。

 冷めた目で椅子に座りながら向かい合わせの男女を見ていた。

 サーシャの視線に2人は何も言えない様子。


「サーシャ」


「分かった」


 アルクの言葉にサーシャは男女から視線を逸らす。

 男は大きく深呼吸をし、改めてアルクを見た。


「マリウス様、ユリフラ様、お久し...」

「俺はアルクだ」

「私はサーシャ、ユリフラでは無い」


 男の言葉を遮るアルクとサーシャ。

 隣に座る女が息を飲む。


「お前も今はランティスじゃないだろ?」


 アルク達の真剣な眼差し、向かいに座るのはランティスとシルビアの生まれ変わった姿と確信していた。


「...今はハンスと申します」


「じゃあ今からハンスと呼ぶぞ」


「は、はい」


「お前達はいつ生まれ変わった?」


「私も、シルビアも16年前です。

場所は旧マンダリン王国、生まれた時から前世の記憶もありました」


「俺達より1年前か」


 アルクは腕を組み頷いた。


「で、勇者と聖女とはお前達の事だな?」


「はい、去年の神託で」


 サーシャの質問に女が答えた。



 ハンスは背筋を伸ばしてアルクを見つめた。


「ハンス、どうして俺達がここに来る事が分かった?」


「それはこの国がユリフラ様の故郷だからです。

 マリウス様とユリフラ様が生まれ変わったらここで神託を受けると思い、1年前からお待ちしておりました。

 そして今日、賢者の神託が下ったと教会で聞いたからです」


「で、城門で待ち構えていたと」


「はい、ユリフラ様は賢者に選ばれたら王都を去ると思い」


「読まれてたな、アルク」


「全くだ」


 行動を読まれていた事に苦笑いのアルクとサーシャだった。


「やっぱりサーシャは賢者か」


「困ったな」


 次の問題はこれからの生活、賢者は行動が制限される。

 剣士のアルクと暮らす事は叶わない。


「大丈夫です」


「大丈夫?」


 ハンスは明るい顔でアルク達を見た。


「はい、私の勇者の力をアルク様に託します。

 そうしたらアルク様とサーシャ様は一緒に居られます。

 勇者の命なら行動の自由も保証されますし...」


「馬鹿!!」

「おい!ハンス!」


 アルクとサーシャの罵声が部屋に響いた。


「どうして?...今は魔王もいませんし」


 アルク達の剣幕にハンスは固まり、代わりに女が呟いた。


「魔王が居ないなら尚更だ、賢者みたいな堅苦しい物に誰がなりたがる?」


「それに勇者はハンスと世界に知られてるだろ。

 魔王もいない今、何で俺が託されなければいけない?」


「...それはマリウス様に借りを返す為です」


「借り?」


「はい、マリウス様、貴方に私はとんでもない事を...」


 ハンスが苦しそうに俯いた。


「待て、借りって前世の話か?

 なら教えてくれ」


「教える?」


「そうだ、俺がお前に押し付けてしまったあの時から10年後に目覚めた時までを頼む」


「そ、それはユリフラ様から」


「マリウス、ユリフラから聞いているでしょ?」


 慌てるハンス、そして隣に座る女が口を挟んだ。


「アルクはハンスの口から聞きたのです、それと貴女」


 サーシャは再び女を見つめた。


「はい」


「私はサーシャ、ユリフラと呼んで良いのはマリウ...アルクだけ」


「ご、ごめんなさい」


 女はサーシャから逃れる様に視線を逸らした。


「お前の名前は?」


 アルクはサーシャを再び制すると女に尋ねた。


「は?」


「名前だよ、何て名前だ?」


「わ、私はシル...」

「ランティスの妻、シルビアは20年以上前に死んでおろう」


 女の言葉を遮る様にサーシャが呟いた。


「...ニーナと申します」


「分かったニーナ、すまないが黙っててくれ。

 俺はハンスの口から聞きたいんだ、教えてくれ」


 アルクの言葉にハンスは頷き、語り出した。


「私はあの後...」


 最初の魔王討伐でマリウスが封印したのを自分と偽った事。

 シルビアに勇者と(たてまつ)られ、引くに引けなくなった事。

 ランティスが目覚めたと聞き自分の積み上げて来た物が崩れる恐怖に怯えた事を...


「わ、私がいけなかったのです!

 私が勇者、勇者とランティスを追い詰めてしまい...マリウスを裏切った薄汚い私が...」


 苦しそうなハンスの告白にニーナが叫んだ。


「おいハンス」


「...はい」


(どんな罵倒が来ても耐えよう)

 ハンスは身を強張らせながらアルクを見た。


「ありがとう」


「え?」


 アルクの言葉は意外な物だった。

 言葉だけでは無い、表情も穏やかで口元には笑みまで浮かんでいた。


「俺の失敗をお前が救ったんだ、勇者の敗北と言う危機をな」


「そんな...俺は」


「そうなんだよハンス、お前が駆けつけなきゃ勇者の力を託す事は出来ない所だった。

 そうなれば魔王を倒す事は出来なかっただろう。

 お前は救ったんだ、世界を、勇者の名誉を、な」


「でも、俺は...マリウス様の名誉を、それにシルビア様も...」


 項垂れながらハンスは呟いた。


「マリウスの名誉?」


「はい、勇者の名誉を俺は...」


「ランティスもよくやるよ、世界中を周ってマリウスの英雄譚やら、あんな石像まで作るなんて」


「少し誇張もあったな。

 マリウスはあんなに品行方正な男では無かった、もちろん今も」


「おいサーシャ!」


「事実だ」


 仲睦まじくアルクとサーシャが笑う、その様子をハンスとニーナは唖然とした顔で見ていた。


「でもマリウス様、私は...」


「俺はアルクだ、で何だ?」


「すみません、あのシルビア様の事は...」


「ん?ああシルビアか。

 ありがとうな、ちゃんと守ってくれて」


「え?」


「マリウス?」


 アッサリ、本当にアッサリとアルクは流した。


「おい、この人はアルクだ。いつまでも過去を引き摺りおって」


 思わず出たニーナの言葉にサーシャが突っ込んだ。


「まあ、そんな訳だ。

 ガチガチの教会で勇者の嫁になる事を強いられた聖女だったからな。

 あの時勇者が死んでたら、後を追ってたかも知れないだろ?

 だからハンス、ありがとな」


「...そんな」


「でもな、最後まで添い遂げてやれよ」


 アルクは溜め息混じりにハンスを見た。


「せっかく夫婦になったんだろ?

 教皇の爺さんに国まで興して貰ってさ、勇者の名誉回復なんて片手間で良いのに」


「出来ませんよ」


「でもランティスが旅の途中で亡くなったと聞いたシルビアは嘆き悲しんで喪に服したと伝えられてるぞ?

 マリウスと私が亡くなった時のシルビアの伝承とえらい違いだな」


「ち、ちょっとサーシャ!!」


 アルクの言葉にハンスとニーナも苦笑い。

 いつの間にかアルクとサーシャのペースに乗せられていた。


「まあそんな訳だ。

 俺達は感謝こそすれ、恨んでないよ。

 せっかく生まれ変わってきたんだから人生を楽しめよ」


「そうだ、私も恨みは殆んど無い。

 魔王も居ないんだし、勇者や聖女なんて関係なく楽しんだらどうだ?」


 明るく笑うアルクとサーシャ。

 ハンスとニーナもお互いに頷き、微笑む。


「そうですね」


「ありがとうございます」


 笑顔の2人はアルクとサーシャに頭を下げた。


「止めろ、頼み事をしにくくなるだろ」


「頼み事?」


「ああ、サーシャの自由だ」


「分かりました、勇者の権限でサーシャの自由を保証します」


「私も協力します」


「宜しく頼むハンス」


「頼むぞニーナ」


 アルクはハンスに、サーシャはニーナに右手を差し出した。


「「はい!!」」


 差し出された手を握りしめる2人。

 その頬には涙が流れていた。



 アルク達とハンス達は城門で分かれた。

 アルク達は生まれ故郷の村に、ハンス達は自分達の国へと。



 勇者マリウスと英雄ランティス。

 2人の物語はその後も語り継がれていくのだろう。


 賢者ユリフラと聖女シルビアの物語と共に。


おしまい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 断罪は、事実に基づいて成されなければならない。 一人の男が、勇者の手にすべき名誉を奪った。 一人の女を手に入れるために。 自分も勇者になりたいと願い、その勇者の力を授けられながら、彼は自…
[良い点] 皮肉だけど無知だったシルビアだけが己の役割を果たせていた事。 勇者が負けなければ後悔に囚われることも無かっただろうに… [一言] この話はまとめると全ての登場人物が能力に釣り合わない役割を…
[一言] ここまで読んでの感想としては 色々な人間の弱さは見えましたが、ある意味やるべきことをやった中で根本的にユリフラが一番ダメですね。 勇者は魔王に負けて何も言える状態じゃない。 聖女は原理主義(…
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