エピローグ 勇者を待ち続けた者 前編
分けます。
「さて行くか」
「ええ。帰りに少し観光して帰りましょ」
「そうだな、せっかく来たんだし」
ここはバレンシア王国。
[王都ユリフラ]にある巨大な教会に入った男の子と女の子。
2人は神託を受ける為1ヶ月を掛け辺境の村からやって来ていた。
手続きを済ませ、神託の順番を待つ。
中では数人の若者達も緊張した様子で待っていた。
「俺は剣士が良いな」
「私は賢者よユリフラ様みたいになりたいの」
2人は若者達の他愛も無い会話に耳を傾けながら時間を過ごしていた。
「君たちは?」
「え?」
「どんな神託が良い?」
若者達は2人に聞いた。
「俺は勇者以外なら」
「私も賢者と聖女以外なら何でも」
「なんだそれ?」
「変なの、憧れの神託よ?」
2人の答えに皆呆れた顔を一斉に向けるが彼等は本当にそう願っていた。
「でも安心しな、勇者は無いぜ」
「ええ、聖女も無いわよ」
2人に若者達が言った。
「勇者はもう神託されたそうだ」
「ええ、聖女も一年前同時に」
「...知らなかった」
「うん」
「そうなのか?有名な話だぞ」
「王都では知らない人は居ないんじゃない?」
「「成る程」」
納得顔の2人、人里離れた田舎から出てきたので王都や世界の噂が耳に入らないのは当然。
「それでは神託を始める、最初の者は中に」
扉が開き、神父が声を掛けると次々と若者達は中に入って行く。
やがて最後に2人の順番が来た。
「「失礼します」」
2人同時に中へ入ると祭壇の前には神父が立っていた。
「それでは名前を宣誓し祈りなさい」
「アルクです」
最初に男の子が名乗り、祭壇に跪いた。
「ふむアルク、お前は剣士じゃ」
「へ?」
神父の言葉に意外な顔を浮かべた。
男の子の家は300年続く農家、今まで剣士を誰1人輩出した事が無かった。
「アルクは明日、王宮に参内するように」
「...はあ」
困惑顔のアルク。
鍛えれば強くなる剣士を国が囲う為に神託を受けた者は国での登録を義務付けられていた。
『面倒な事になった』そんな顔のアルクを見ながら次に女の子が祭壇の前に立つ。
「次の者」
「サーシャです」
サーシャと名乗った女の子も同様に跪いた。
「....こ、これは」
神父の顔色が変わり教会内に緊張が走る。
サーシャは途轍もない嫌な予感を感じていた。
「サーシャ...明日必ず王宮に来るように」
「え?」
「以上じゃ」
神託の結果を言わないまま神父は足早に教会を出ていく。
サーシャとアルクは教会内に取り残されてしまった。
「とりあえず出るか」
「...そうね」
アルクは呆然とするサーシャを連れ教会を出る。
ショックを受けているサーシャは黙ったまま広場の噴水に腰を降ろした。
「...不味いわ」
暫くしてサーシャが呟いた。
「不味い?」
「ええ前回と同じなの」
「前回って、まさか賢者?」
「うん...ユリフラの時」
真っ青な顔のサーシャ。
2人は前世のマリウスとユリフラ。
80年の時を経て転生した2人は前世の記憶が残っていた。
「どうしよう?明日は鑑定されちゃうよ。
そうなったらアルクと離れ離れになっちゃう」
泣きそうなサーシャを見ながらアルクはしばらく考えていた。
「帰ろう」
「アルク?」
「このまま家に帰ろう。
世界に魔王も居ないし、賢者不在でも問題無いだろ」
「家に追手が来るわよ」
能天気なアルクにサーシャが呟いた。
「それならこのまま国を捨てるか。
家族に会えないのは辛いけどサーシャと離れる方が嫌だし。
冒険者でもするかな、前回も魔王討伐に駆り出されるまでやってたし」
あっけらかんとした態度のアルク、その顔は前世のマリウスを思い出させた。
「そうね。分かった!」
サーシャもスッキリした顔で立ち上がる。
もう涙は消えていた。
「そうと決まれば行くか!」
「せっかくの王都が見納めになっちゃうのが残念だけど」
後ろを振り返るサーシャ、視線の先に荘厳な建物が映っていた。
「懐かしい、あれから100年近く経ったのね」
バレンシア王国は王女ユリフラを失ったが、隣国の縁戚が王位を引き継ぎ、存続していた。
「俺達まだ15歳だぞ」
「そうね」
少年の言葉に少女が静かに微笑む。
木漏れ日の中、弾ける様な美しい笑顔だった。
「に、しても...」
2人は広場に置かれた巨大な石像を見上げる。
4人の男女が何かに立ち向かう様子を表していた。
「ちょっと違うよな」
先頭に立つ石像を見た少年が笑う。
「そうね、マリウスはあんなに厳つい顔じゃなかったし」
「ユリフラもあんなに凛々しく無かったよな」
「あら、私はあんな感じだったわ。
マリウスったら覚えてないの?」
楽しげに石像の前で語り合う2人に1人の男性が近づく。
身なりから警備の者らしい。
「マリウスって名前なのか?
勇者マリウス様と同じ名前とは格好いいな」
人の良さそうな笑顔で男が少年達に話しかけた。
「ああ違います、俺はアルクって言います」
「今はね」
困った顔で否定する少年、少女は相変わらずの微笑みを向けた。
「そうか、でもマリウス様に憧れるのは分かる。
アルクも勇者マリウス様の様に賢者ユリフラ様と英雄ランティス様や聖女シルビア様を連れて世界に名を轟かせる人になれたら良いな」
男はマリウスとユリフラ像の隣に立つ二つの石像に指を差した。
「ランティスとシルビアか...」
男の言葉にアルクは笑う。
石像は最初の魔王討伐を再現しているつもりだろう。
だがマリウスにあるのは魔王に敗れた苦い記憶。
「呼び捨ては止めなさい。
マリウス様の意思を継いで魔王を倒した英雄ランティス様達なんだぞ」
「あら勇者を騙った男と裏切った女って話もあるけど?」
サーシャは意地悪な笑顔で言った。
「そりゃ違う、中にはそんな話もあるけどな。
でも、マリウス様の意思を受け継いで魔王を倒し、その後マリウス様の名誉を守ったんだ」
「ちょっとは反省したのかしら?」
男の言葉が少し厳しくなるが気にする様子を見せない。
「まるでランティス様とシルビア様を見たような口振りだな」
「まさか」
「すみません」
アルクとサーシャは慌てて男に頭を下げた。
「今日は観光か?」
「はい、もう帰ります」
「私も」
「そうか、また来なさい。
バレンシア王国はいつでも待っているからな」
「「ありがとうございます」」
「神の加護を」
アルクと少女は礼を言うと男は去っていった。
「おいサーシャ」
「何?」
アルクは溜め息を吐きながら顔で少女に振り返る。
「もう良いだろ?」
「うーん...まだかな」
「全くサーシャは」
「ユリフラ」
「は?」
「私はユリフラ、今だけはお願い」
「分かったよユリフラ」
「うん!」
アルクの手を握ったサーシャ。
2人は王都を出る門に並んだ。
「久し振りです」
「やっと会えた...」
後ろから声が掛かり、振り返ると初めて見る若い男女が涙を流しながら立っていた。
「まさか」
「どうして?」
アルクとサーシャは2人にランティスとシルビアの姿を見ていた。




