第2話 勇者に憧れた男
全身を己れの血で染めた男、目の前に佇む魔王を前に項垂れた。
「これが魔王の力か...」
塞がりかけの瞳で魔王を見つめる。
彼はランティス、勇者の力を引き継いだ男。
マリウスと交わした10年前の約束を果たすべく、勇気を振り絞り魔王に挑み続け5日。
完全には程遠い筈の魔王にランティスの力は全く及ばなかった。
1人で魔王に挑んだのは彼の意地だった。
シルビアが真実を知れば彼の元を去るだろう。
国王の地位を失うのは構わない、だがシルビアと子供達を失うのが怖かった。
1人で魔王を倒せたなら、そう考えたが。
「所詮俺は偽物か...」
右手の紋章と聖剣は既に光を失っている。
食料は食べ尽くした。
宝物庫から聖剣と共に持ち出した最高級ポーションも最後の一本となっていた。
勇者になってからも鍛鍛を続けていた。
勇者の名に恥じぬ強さを手にしたと思っていたのだ。
「まだだ!」
ポーションを飲み干す。
紋章と聖剣に光が戻り、ランティスは再び魔王へと駆け出した。
貰った!
今度こそ、そう思い振りかぶったランティスだが聖剣は魔王に届かない。
次の瞬間魔王のオーラに聖剣は弾かれる。
ランティスは吹き飛ばれると、元の場所に倒れ伏していた。
「...畜生」
魔王は動かない。
未だに封印が解けない魔王はその場所から動かずランティスを見つめていた。
おびただしい出血、全身の打撲、もうポーションは無い。
ランティスは意識が遠退くのを感じる。
このままでは魔王が動き出すのは時間の問題、そうなれば真っ先に殺されてしまう。
絶望の中ランティスは意識を失った。
『...勇者マリウスの様に』
ランティスはマリウスに憧れ討伐隊に入隊した。
子爵家の三男坊、『功績を挙げれば男爵くらい俺も』そう考えての事だった。
剣には自信があったがマリウスの強さを見て自信を失った。
圧倒的な強さ、マリウスの振るう剣に実力の差を思い知った。
『勇者の力だ、俺に勇者の力が有ればあれくらいは』
そう考えた。
聖女シルビアの美しさに心を奪われた。
女神の如き美しさ、気品漂う仕草、分け隔ての無い人柄。
ランティスにとって理想の女性だった。
だがシルビアはマリウスの婚約者。
[聖女は勇者と結ばれる]
そう決まっていた。
『マリウスが勇者だからだ、俺が勇者ならシルビアは俺の妻になれたのに』
仲睦まじい2人を遠巻きに見つめながら呟いた。
そして旅は続き最後の決戦となった。
そこで見たのは圧倒的な強さの魔王、討伐隊は次々と倒されていく。
『お前達は逃げろ!』
マリウスの言葉に残された討伐隊は逃げた。
ランティスも命の危機に、マリウス達を残して逃げた。
『せめて聖女様を』
逃げながら頭に浮かんだのは聖女シルビア、彼女だけは失いたく無かった。
勇気を振り絞り1人、元の部屋に戻る。
『...これは』
そこに居たのは封印された魔王と倒れ伏す勇者と賢者、そして聖女シルビアだった。
『お前に勇者の力を託す...』
マリウスはランティスに勇者の力と魔王の封印を託し意識を失った。
ランティスはシルビア抱き上げた。
意識を取り戻したシルビアは言った。
『貴方が勇者だったのですね?』
否定すれば良かった、だが出来なかった。
(シルビアを自分の物に出来る)
悪魔の誘いに乗った。
マリウスを貶め、シルビアを騙し、
...自らを勇者と偽ったのだ。
「....そうだったんですか」
「え?」
聞き覚えのある声にランティスが目を開けるとそこにはシルビアの寂しそうな顔があった。
「...何が?」
「貴方の心を見ました。
そう言う事だったんですね...」
怒りでも無い、シルビアは寂しそうな瞳でランティスを見つめていた。
「...すまない」
ランティスは覚悟を決めてシルビアに頭を下げた。
「私も同罪です」
「...シルビア?」
意外な言葉にランティスはシルビアを見た。
「都合の悪い事から目を逸らし、マリウスを偽物と決めつけた。
命を懸け私を...ユリフラを護ったマリウスを私は...」
苦しそうにシルビアは呟く、その目から涙が溢れていた。
「もう手遅れか」
絶望するランティスが呟く。
もう全ては遅い、魔王には勝てない。
マリウスの約束も果たす事も...
「私の力を使いなさい」
「何?」
「私の力をランティスに捧げます。
せめて最後は勇者らしく」
シルビアはランティスの身体を抱き締める。
傷が消え身体の中から魔力が沸き上がっていく。
「ありがとう」
ランティスは立ち上がる。
全ての魔力を使い果たしたシルビアは静かに微笑みランティスを見上げた。
聖剣と紋章は最高の輝きを見せている。
もう覚悟は決めた、これが最後の一撃。
ランティスの姿に魔王の表情が変わる。
今回初めて見せる焦りの色だった。
「これが勇者の力だ!!」
ランティスは叫んだ。
聖剣は魔王のオーラに食い込んで行く。
もう少しで魔王に、しかし届かない。
「マリウス様、俺に力を!!」
ランティスの叫びに聖剣は一層の輝きを増した。
「..ナゼダ!?」
次の瞬間、聖剣は魔王の身体を二つに切り裂いた。
「やった...」
「...ええ」
魔王が消え失せ、ランティスはそのまま倒れる。
シルビアは静かに頷いた。
こうして魔王は倒されたのだった。
「勇者ランティスが再び魔王を!」
魔王城の前で待機していた王国の兵により噂は世界を駆け巡る。
ランティスとシルビアは必死で真実を話すが無駄であった。
皮肉にもシルビアがランティスこそが勇者と言い続けた為であった。
それに対しユリフラ達は一切の沈黙を続けていた。
「ユリフラの元に行きます」
「そうだな、俺も行こう。そして真実を一緒に話そう」
ランティスとシルビアはユリフラとマリウスの居るバレンシア王国に向かう。
バレンシア王国の王宮に案内された2人、そこで聞いたのは....
ユリフラとマリウスの死だった....
次ラストです。
胸糞は...無い筈...




