第1話 勇者だった男
バレンシア王国。
賢者ユリフラが治める辺境の国、そこに現れた一台の馬車。
中から現れた1人の女性は何やら叫び声を上げながら王宮に入ると謁見室に向かった。
「久しいのシルビア。どうした、いつもの美しさは?」
シルビアの来訪を聞き、1人の女が姿を現した。
美しい黒い髪、切れ長な瞳、魅惑的な身体は訪問して来た女と双璧だろう。
だが憔悴しているもう1人の女とは今は比ぶべくも無かった。
「ふざけないでユリフラ!
早くランティスを出しなさい!!」
血走った目で叫ぶシルビア。
ランティスが姿を消して1ヶ月、方々を捜索したが足取りは杳として知れず、考えあぐねたシルビアはバレンシア王国に2週間を掛けやって来たのだ。
「お前は何か勘違いをしているな」
「勘違い?」
哀れみの目でユリフラは呟いた。
「ここに偽勇者は来ておらん」
「な?」
『偽勇者』ユリフラの言葉にシルビアの目が更に燃える。
怒りと焦り、2つの激情が彼女を支配した。
「お前こそ、まだあの者が本当の勇者だと戯れ言を!」
「そうだ」
間髪を入れずユリフラは言う。
その気迫にシルビアは息を呑む。
「...あの者の意識が戻ったと」
気迫に圧されたシルビアは椅子に座り直した。
マリウスの意識が戻ったなら何かしら事情が分かるかもと考えての事。
「...意識は戻ったが話す事は出来ぬ。
身体を動かす事もな。
ただ私と目で語るしか出来ぬのだ」
「目で語る?」
寂しそうなユリフラに構わずシルビアが聞いた。
「私のスキル[読心]だ、マリウスの心中をな。
今のマリウスは隠し事が出来ぬ、心の中が全て見えてしまうのだ」
「それで?」
シルビアは食いつき気味に先を促した。
「裏切った男に興味が有るのか?」
「なんですって!?」
ユリフラの煽りに我慢出来ないシルビア。
再び立ち上がりユリフラを睨み付けた。
「結論から言うぞ、魔王の封印が解けようとしておる」
「な!?」
「マリウスが命掛けで行った封印が不十分だったのだ」
「封印はランティスが...」
「黙って最後まで聞け!!」
シルビアの言葉にユリフラが叫ぶ。
初めて聞く彼女の大声だった。
「10年前にマリウスが魔王に行った魔法は完全な物では無かった...
私とお前を守る為に魔力を使いすぎてな」
「...ええ」
ユリフラの言葉にシルビアは10年前の戦いを思い出す。
魔王の圧倒的な強さにシルビアとユリフラは倒れマリウスは2人を庇いながらの戦いになったのだ。
「このままではみんな殺される、そう考えたマリウスは残った魔力で最後の魔術を魔王に...
私とお前は意識を失っていて見て無かったが」
「....」
苦しそうなユリフラの言葉にシルビアは黙って聞くしかない。
「不十分ながらも魔王を封印したマリウスは駆け付けた討伐隊員のランティスに託したのだ」
「託した?まさか?」
「そうだ、勇者の力を全て...だ」
「そんな....」
驚愕の事実にシルビアの顔が歪む。
意識を取り戻した時、マリウスの身体から勇者のオーラは消え失せ、紋章すら無くなっていた。
そして自分を介抱するランティスの身体から発っせられるオーラと紋章に本当の勇者はランティスだったと信じたのだ。
「嘘よ!!」
「嘘ではない、私を見ろ。
そして鑑定するが良い、私が嘘を言ってるかどうか」
ユリフラを見つめるシルビア。
鑑定を、すがる気持ちで全力の鑑定をユリフラに行った。
「...そんな」
ユリフラの言葉に一片の嘘も無い、事実のみを伝えたと出ていた。
「どうしてランティスは私に...」
「言えなかったのだろう、元々小心な男だったからな」
「それじゃ私は!?」
「『ランティスに騙された』そう言いたいのか?
勇者のオーラや紋章が消えてるのを見ただけで、命懸けで私達を、世界を救おうとしていたマリウスが偽勇者と決めつけたお前がか?」
吐き捨てる様なユリフラの言葉にシルビアは項垂れるしか無い。
「『オーラが見えるのは私だけ、だからランティスを信じた』
それは逃げ口上にすぎん、結局お前の目は節穴だったんだ。
教皇に頼み、新しい王国を築いて貰って、名君にランティスを仕立て上げたが結果はどうだ?」
「それは...」
「話は以上だ。
消えろ、お前は目障りだ」
立ち上がったユリフラは扉に向かい歩きだした。
「待って!マリウスに一目...」
「お前にあの人の名を口にする資格は無い!
裏切り、偽勇者の子まで成したお前に!」
「アァァァ!!」
テーブルに突っ伏し、泣き叫ぶシルビア。
その姿にユリフラは告げた。
「ランティスが聖剣と姿を消したなら。
魔王を再び封印しに行ったのかもしれん」
「...ユ、ユリフラ」
シルビアの言葉に返す事無くユリフラは続ける。
「復活の兆しはまだ本格的では無いだろう。
『俺が目覚める事があれば封印が解けたと考えろ、その時は再び魔王の封印を頼む』
勇者の力を奴に託したマリウスが意識を失う直前、そう伝えたそうだ」
「...マリウスが」
再びマリウスの名を口にするシルビア。
ユリフラは振り返らずに扉を開いた。
「マリウスは私に任せろ、お前達はすべき事をするんだな。
...ランティス次第だが」
そう呟くと扉を閉めるユリフラ。
1人残されたシルビア、長い沈黙が続いた。
「...行こう、ここに私が居る資格は無い」
数時間後、シルビアはバレンシア王国を後にした。
その行き先は魔王の封印されている城を指していた。
「これで良かったの?」
出ていく馬車を王宮の窓から見送ったユリフラは振り返った。
「そう...ありがとう最後まで一緒よ」
ベッドに寝かされた男の目を見たユリフラは笑顔で呟いた。




