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親愛なるものへ-3


                   *


 土曜日の午後、美生は気兼ねなくお天道様の下を歩いて公園へ向かった。落ちているボールや玩具を拾い集めた後、水飲み場で口をすすぐと横のベンチに腰掛けた。芝生の青々とした小山の横を犬と子供が駆け回っている。それを見守っているのは、父親だろうか。無邪気に駆け回る子供があまりに楽しそうで、つい引き込まれて見つめてしまう。しばらくその場に留まった後、ゆっくりと緑道沿いに歩き出した。自転車で駆け抜ける少年たちに驚かされながら道を楽しみながら歩くと、ふと植え込みの中に数人の女子学生がいるのが見えた。勘の働いた美生は、そっと近づいて耳をそばだてた。

「おい、これっぽっちかよ。もっとあるだろ」

一人の制服の違う少女が三人に取り囲まれて身を小さくして俯いている。それを突き飛ばすように揺すりながら、三人は声を荒らげる。

「いつもより、おとなしいじゃないの」

「ひとりじゃコワイの、なんて?」

笑い合う声の後ろで、植え込みに身を潜めてひっそりと美生は様子を伺っていた。やっぱり恐喝だと見極めると、身なりを整えて立ち上がった。

「おい、オマエら、ナニやってんだよ」

いきなり登場した美生に三人はたじろいだ。しかし、美生が一人だと見て取ると、態度が急変した。

「なんだよ、オマエ?」

しかし美生は怯まなかった。すごむ三人を前に軽く顎を突き出すと、

「ここらで、アタシのこと知らないノ?」と言ってのけた。その態度に三人は戸惑いを見せた。

「よくもまぁ、アタシのシマでそんなマネしてくれるじゃない?どこのヤツだよ、アンタら」

三人は互いに顔を見合わせながら、美生の様子を伺っていた。美生は斜に構えたまま三人を見下ろしていた。その瞬間に、取り囲まれていた少女が逃げ出して美生の後ろに回った。美生はその少女を見て、ふっと微笑むと、三人に向かって顎で指図した、行け、と。三人はまるで召使のように素直に美生の指図に従ってその場を立ち去った。美生は、してやった、と思いながらただ見送るだけだった。

「あの、ありがとうございます」

後ろから声がして、美生はからまれていた少女が残っていることを思い出した。

「あぁ、別に、気にしなくてもいいよ」

「助かりました、城西のヤツラ、高石さんらのこと目の敵にしてて、たまたま今日はあたしひとりだったから、ヤラれるかと思ったんです」

「あぁ、あれ城西の制服だっけ」

「あの…」

「なに?」

「あたし、小山って言います。ありがとうございました。あなたのお名前は、なんて言うんですか?」

「あたし?あたしは美生」

「ミキ…さん……、って、どちらの学校でした?すいません、あたしも、知らないんです」

「ま、そりゃそうだろうね」

「え?」

「あたしは、別にたいしたヤツじゃないからね」

「で、でも、さっき、アタシのシマって」

「ハッタリ、ハッタリ」

「は?」

「嘘よ、あんなの。まぁ、ああいう連中からかうの好きなんでね、ちょっと、かましてやったの」

「そ…うなんですか…」

「そう」

「でも、助けていただいて、ありがとうございました」

「いえいえ、そんな言葉なんかいらないわよ。できれば、現物がいいわね」

「え…、それって、お金?」

「それじゃ、カツアゲの便乗じゃない。ジュースでも奢ってよ」

「あ、はい。気がききませんでした」

「そんな堅苦しい口の利き方しなくてもいいよ。あんた、何年?」

「あ、三年です」

「じゃ、あたしより、イッコ上だ」

「そうなんですか。でも、助けていただいたし…。そうだ、今度高石さんに会ってもらえませんか?」

「誰、それ?」

「あたしたちのリーダーです」

「あたしたち?」

「上岡の中でもけっこう名前が知れてるんですよ」

「上岡、って、あのマンモス校だよね」

「はい」

「ま、また縁があったらってことで。そんなことより、ジュース。コーラの方がいいんだけどな」

美生にせかされるままに小山は歩かざるを得なかった。


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