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オペレーション 朱雀(すざく)


“とぼけてる訳じゃなさそうね……聞きたいことを簡単に言うわ。あなた方、セレニーティスを見捨てる気?”


俺は顔をしかめた。簡単すぎて意味が分らん。

しかし、ここまで慌てているエルフィラは久しぶりだ。俺は通信機から応答を求め続けるマリサに待てと伝え、怪訝そうにしている周囲に告げる。


「第9王女からの念話だ……頼む、エルフィラ。もう少し分るように話してくれ」


副官が不愉快そうに俺を睨んだ。エルフィラは本部の厳重な魔術結界をくぐり抜け俺に話しかけている。その気になれば、盗聴だって出来た可能性が高い。しかしエルフィラ本人はそれを気にしている様子は全く無い。と言うかそんな余裕が無いようだ。


“前線から一斉に自衛隊が撤退を始めた。いったいどういうことなの? 理由を教えて欲しい”


“そんな話は聞いてないな……部隊訓練じゃないのか?”


“ふざけないでよっ! 王室からの通信を、一切無視されてるのっ!! 我が国に対する最大の侮辱だわ。だいたいあなた方、いつも礼儀だけは守るじゃない! こんな無礼な真似は初めてよっ!!!”


なるほど。異常事態が起こっているのは確かなようだ。



王女からの話を伝えると副官の顔が歪む。俺は尋ねた。


「あなたは事情を知っているはずだ。何が起こっている?」


「……その質問には答えられない」


木村班長が指をパチンと鳴らした。それに応じるように影が……人型の影が部屋の隅に浮かび上がる。

影は徐々に膨れ上がり見知った女の姿と成る。いつも木村の側に居る例の守護魔術師の女だ。


「班長、魔防の結界を展開しました。これで盗み聞きは出来ません。第九王女と言えど私の結界はそう簡単に破れません」と女魔術師は自慢げに言い、どうだとばかりに俺の顔を見る。確かにエルフィラの念話は切れており、マリサからの通信もどういう訳か切れている。


木村班長は、副官に向かって言う。


「この状況はオペレーション“白虎びゃっこ”とは違いますな……“朱雀すざく”実行中であると推測します。合っていますか?」


副官は何か言おうとした、が思い直したらしく沈黙を保つ。


「つまり、あなたも知らされていない……ならば“朱雀すざく”実行中と考えて間違いは無さそうだ」そして木村は女魔術師に命じる。「斉藤に連絡して状況を報告させろ。至急だ。機密保持プロセスは無視して構わん」


おおせのままに」女魔術師の姿が再び薄れていく。


「“朱雀すざく”とは何だ?」俺は言った。


「オペレーション“朱雀すざく”とは」 木村班長は淡々と続ける。「我が国が壊滅の危機にある、もしくはそれが明白な場合に発動される特種オペレーションです。陸上自衛隊内で朱雀の存在を知っているのは、恐らく八木原陸将だけでしょう」


「陸将しか知らない? 一体誰がそれを実行するんだ?」


「当該作戦は航空自衛隊、具体的には本国直属の901飛行隊によって遂行されます。当地の長である陸将は命令権を持ちませんし、作戦に干渉出来ません」


901飛行隊。俺とエルフィラを野盗から救ってくれたあの部隊だ。

だが妙な話だ。901が出動するタイミングで陸自の部隊が撤退を始める……胸騒ぎがする。

木村は説明を続けた。


「ご存じのように901は表向きは小規模な実験部隊です。しかしこの状況で出てくるとなると可能性は一つだけです」


「……核を使う気か。だとすれば攻撃対象は何だ?」


「今調べさせています。副官、あなたの側からも聞いてもらえるとありがたい」


副官は沈黙を保つのを諦めたようだ。我慢仕切れず木村班長に問う。

「何で“白虎びゃっこ”じゃ駄目なの? 核を使うオプションなら白虎にもある。なんで陸自が閉め出されなきゃいけないの!」


木村は肩をすくめた。

「“白虎”はセレニーティス側の協力が前提と成ります。その前提が崩れていると理解すべきでしょう」


「違う。そうじゃない」大河原――俺の友人である空自パイロットの大河原は通信機から耳を離しながら言う。「それで合っているのは半分だけだ」

そういえば奴の通信機だけどうして動いているのだろう? 女魔術師の強力な結界が張られたはずなのに。気のせいかも知れないが大河原はどこか迷っているように見えた。


「あんたら陸自はセレニーティス人に近すぎる。心情的にも物理的にも。それが“白虎”ではなく空自の“朱雀”が選ばれた理由になる」


「お前は何を知ってるんだ? 何が起きているのか分るのか?」


「セレニーティスを守ろうとすれば日本が滅びる。昨日まで共に戦っていた王立軍相手に、陸自は正しい行動がとれるのか? お偉いさんはそれを疑っている」


木村班長は苦笑した。

「やはり、あなたがそうだったのですね。貴官から声がかかるなんておかしいと思っていました」


「わざとらしい男だ。内心気づいていたのだろう?」


「さてどうでしょうか。しかし、説明していただけるのでしょうな? 大河原おおがわらりょう二等空佐。いや、こうお呼びした方がよろしいでしょう」


木村班長はゆっくり言った。

「901飛行隊長殿」



大河原が901の隊長?! 

そう言えば俺とエルフィラが窮地に陥ったとき、わざわざ901が飛んできたのは意外だった。もしかするとこの男が……

大河原の端正な顔が俺を見て一瞬和らいだ。「あの時は待たせたな」

だがすぐに厳しい表情に戻る。


「現状はこうだ。我が国のCEWSS(セレニーティス早期警戒システム:複数の低軌道衛星から構成される)が捉えた情報によると、ホドスの巣において30体を超える多数の転移竜ゲートクリエイターが発生した。日本に転移してくる可能性が極めて高い」


転移竜ゲートクリエイター。その名を聞いて俺の心はざわめいた。忘れもしないあの時。ホドスが日本の千葉を襲ったあの時、俺達が戦った相手が転移竜ゲートクリエイターだ。あの竜は他の竜と違って単独で日本に転移する能力を持つ。大河原は説明を続けた。


「少なくとも27体が王都に向かって高速で飛行している。日本に転移する為の予備的滑空だと推測される」


すでに予備滑空状態か。航空機が離陸前に滑走路で速度を上げるように、あの竜は転移する為に高空を高速で飛行する。転移する為に空気中のマナをかき集めているのだ。


転移竜ゲートクリエイターなんてこれ以上発生しないはずだった……少なくとも1000年の間は大丈夫だったはずよ」


「今さら、それを言ったところで何の助けにもならん。だがすでに――俺の隊の第2飛行小隊が戦術核を爆装してさきほど出撃した。竜共が日本へ転移する前に迎撃は可能だ」


俺は安堵した。滑空中に打ち落とせば日本に転移出来ない。

だが大河原は無表情に付け加える。


「迎撃予想地点はセレニーティス王都上空になる」


「王都で核を使う……馬鹿な」


「首都で核攻撃なんてあり得ないわっ! どれだけ被害が出ると思ってる? 何人死者が出るか分かってる? 下手すればセレニーティスと戦争になるわ。通常兵器で対応すべきよ」


「たった二機のF-35、しかも通常装備で27匹もの上位竜を相手をしろと? 運が良くて落とせるのは1体。残り26体の竜が転移を終えて千葉上空に出現する」


「千葉には大口径砲塔群があるわ。対竜特化の大型APFSDS弾は、そう簡単に防げない」


大河原は静かに言った。

「それでも26体の上位竜は阻止できない。そんな沢山の竜が日本に現れるなんて、想定されてないからな。半数を無力化しても残りの竜で日本全土は甚大な被害を被る。何十万、いや数百万の死者が出るぞ……セレニーティスの防衛線を突破されればこうなることは分っているはずだ」


「では、そろそろ本題に入りましょう」木村班長は言った。「貴官がそんな話をするのは理由があるのでしょう」


大河原は迷っているように見えた。「……霧島。これを偶然だと思うか? 何故、このタイミングでホドスは日本に総攻撃をかけてきたのか」


「偶然……そう思いたいが違うだろうな」俺は言った。「これは偶然じゃ無い」


副官が言う。「転移竜を生み出す為に、ホドスも相当犠牲を払っているはずよ。相当無理してる。そこまでして日本を狙うには理由があるはず」


木村班長が考え込みながら言う。

「今まではホドスにとってセレニーティスが主敵だったはずです。しかし、セレニーティスを征服する前に日本を潰す。ホドスはそう方針を変えた。何故か? 先ほどヒントは教授からもらいましたな」


俺は言った。

「“親方様”だな。親方様が俺に拒否されてこうなった可能性は否定出来ん。ホドスが何でここまで思い詰めなきゃならんのか、想像もつかないが」


大河原が俺を見た。「霧島、何とか出来るか? 何か出来る人間が存在するなら、それはお前だけだ……そろそろ時間だ。第2飛行小隊が会敵する」

副官が心配そうに俺を見つめた。


こんな状況でどうしろと言うんだ。俺は唇を噛んだ。

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