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特殊作戦群と王立軍部隊“エネルローリエの盾”


ヘリから降りた北村二佐と、第三王女のエウラリアがこちらに向かって歩いてくる。

俺と服部二尉は彼らに向かって敬礼した。エルフィラも王立軍式の礼で第三王女を迎える。


北村二佐は俺たちの前で立ち止まると敬礼を返した。そして厳しい表情で口を開く。


霧島きりしま和也かずや二等陸佐。戦闘団本部より発出された命令を貴官に伝える。エステ村周辺における一連の野盗対処に関する事案ついて、特殊作戦群が後を引き継ぐ。第二特別偵察隊は基地に帰投、貴官はすみやかに戦闘団本部へ出頭せよ」


予想はしていたが戦闘団本部はこの案件から俺を降ろすようだ。もともとホドスが人を操るとか、そういう物騒な事件を追うのは俺の隊のやるべきことじゃ無い。本部としては一度は野盗退治に協力することを認めたものの、出てきた事実が手に余り以後の対応を外に丸投げしたと言うことだろう。


そこで出てきたのが特殊作戦群。陸上自衛隊が誇るエリート部隊のお出ましと言う訳だ。

そのエリート隊を率いる男、北村二佐は不愉快そうに俺をにらんだ。


「霧島。貴様、本部からの無線連絡を無視していたな。一体どういうつもりだ?」


俺はとぼけることにする。せっかく手がかりを掴んだのに、報告やら何たらで基地に戻されるのが嫌で、適当に通信をさぼったのは事実なのだ。


「ちょっとした電波状況の不良だろう。セレニーティスではよくある」


「ほう? それで901を呼ぶときだけ電波状態が良くなった訳か」


「多分そうだ。何しろ俺は、貴官と違ってこの世界の女神に愛されてる。それくらいの幸運は当然だ」


「……ふざけるのもいい加減にしろ。お前はいつだってそうだ。貴様の独断でどれだけ周りに迷惑かけたのか分ってるのか?」


「自然現象を俺のせいにされてもな……ところで俺は貴官と口論している余裕は無い。部下に6名の重傷者が出ている。応急手当は済ましてあるがそちらの輸送ヘリで基地まで運んで欲しい」


北村は憎々しげに俺をにらむと言った。「……1機を基地に向かわせてやる。貴様の隊も一応は自衛隊らしいからな」

そう憎まれ口をたたくと自分の隊の救護員を呼ぶ。


「服部二尉、案内を頼む」彼女は俺に敬礼すると救護員を連れて負傷した部下たちの下へと向かう。


服部はっとり寿々音すずね二尉の後ろ姿を見ながら、北村が言う。

「お前の下で腐らせるには惜しい人材だ」


「優秀な女性士官を引き抜こうとしても無駄だぜ。自分で育てろ」


「貴様の意見など聞いていない」


「北村。あんた今回やけにからむな。虫の居所が悪くて人に当たるなんぞエリートの名が泣くぞ。俺の後始末をさせられるのが、そんなに不満か?」


「後始末だと? お前の隊には荷が重いから、精鋭の俺の隊が投入されたんだ。からんでいるのは貴様の方だろう。外されたことを恨むなら自分の無能を恨め」


「恨むも何も、こっちは楽になるんで別に構わんが。お国の為に給料分は働いただけだ」


「その負け惜しみは聞き飽きた」


第三王女のエウラリアが俺たちのやりとりを見て何故か微笑み、話しかけてきた。


「仲がおよろしいんですね」


一見冷たそうな感じに見えたが、優しく話しかけられると印象も変わってくる。

透き通るように綺麗な銀色の髪。クールで理知的な顔は王室内でも水準以上の美貌びぼうだろう。めずらしい種類の指揮官用の軍服を身にまとい、薄手の生地の上からスタイルの良さが見て取れる。出るべきとところがちゃんと出ている分、スタイルの良さはエルフィラ以上かも知れないな……と王族に対して不埒ふらちな考えが頭をよぎるが心配は無用だ。俺に魔術は効きにくい。そう簡単に閉じた心は読まれない。


「第三王女殿下、残念ながらそれは違います。腐れ縁と言うやつです……北村のせいで自己紹介が遅れました。私が第二特別偵察隊の指揮官、霧島和也です」


「キリシマ様のお噂はよく伺っております。お目にかかれて光栄ですわ。すでにご存じのようですが、私はセレニーティス王家の第三王女、名をエウラリア・クラウディア・マルティネス・マルティノッツィ・シュテファニア・ルイーザ・クサヴェリア・ネポムツェーナ・ダ・セレニーティスと申します。女王陛下より、王立軍部隊“エネルローリエの盾”の指揮官を拝命しております。今回、キタムラ様の部隊と共同して作戦に従事することになりました」


第三王女は、すらすらと自身の正式名を名乗った。このやたら長い名前はシャルロッテ女王陛下の直系親族であることを示している。エルフィラの名前――エルフィラ・ブランケ・ダ・セレニーティス――は、第三王女に比べ極端に短いが、これはつまりエルフィラが側室の生まれだからだ。だが同時に、王国を家名とする“ダ・セレニーティス”付きの短い名前は、その持ち主が優秀な人間であることをほのめかしている。側室生まれの王族は、例えそれが下位であっても王位継承権を持つ者は希なのだ。エルフィラは優秀な術者であり美しさも群を抜く。実力で継承権を勝ち取ったのだろう。


だがエルフィラはその生まれもあって、王室内では難しい立場にあると聞く。さっきから彼女が緊張しているように感じるのは、俺の思い違いでは無さそうだ。もしかすると俺と北村二佐との関係以上に、エルフィラと第三王女の間は緊張関係にあるのかも知れない。


「エルフィラも、お久しぶりね。元気そうで何より」第三王女が微笑む。「私からあなたに伝えないといけないことがあります」


「何でしょうか、お義姉ねえ様」第九王女はつぶやくように言う。


「あなたは当件から手をお引きなさい。今後は戦闘以外でのホドスとの関わりも禁止します。この種の事案は私の方で追いますから、あなたは本来の任務に集中してください」


「……お言葉ですがエステ村はわたくしの部隊の受け持ちです。この村の安全を護ることは、私の当然の義務です」


「異議は認めません。これは女王陛下の決定事項です。私の言ったことは陛下の勅命ちょくめいとお思いなさい」


第三王女はそれだけ言うと、エルフィラを無視し俺に向かって微笑んだ。

「そう言うことですのでキリシマ様、これからホドスに何か不審な動きがあった場合、まず始めに私にお知らせください。キリシマ様の援護を含め王立軍として必要なことは全て私の方で手配させていただきます。そうそう、これをお渡ししておきますね」


そう言って第三王女は俺に身を寄せた。香水の匂いだろう。甘い香りを俺は感じる。初対面の王族が男と会話するには近すぎる距離、と言うか王族じゃなくて一般の女性でも近すぎる。たじろぐ俺に柔らかな手でてのひらに触れられる。


「この指輪は魔法遺物アーティファクトで造られております。これをはめて私の事を思って頂けば、いつでも念話が可能です。ありきたりの品と違ってこれには距離制限がございません。私を呼び出すのに真夜中でも朝方でも気にされる必要はありません。キリシマ様ならいつでも歓迎です」


そう言ってにこやかに微笑む。


北村二佐が不満そうに言う。

「しかし第三王女殿下。霧島は当件の担当から外れました。これからも関わることは無いでしょう。必要なら私の方から殿下にご連絡致しますが」


「あら、そうでしたね。でもキリシマ様とは、これから長いお付き合いになりそうな予感が致します。私の予感はよく当たるのですよ」


あまりの展開に俺も口を開く。

「第三王女殿下。いくらなんでも魔法遺物のような貴重なものを受け取るわけにはいきません。それに私の担当区は第九王女殿下のそれと重なります。最初に連絡すべきは第九王女殿下の方がよろしいでしょう。自衛隊に対する窓口が二つではこちらも混乱しますし、王立軍内部の指揮系統の統一と言う意味からも、あまりよろしく無いと思いますが」


俺は指輪を返そうと第三王女に差し出したが、彼女は受け取ろうとしない。ニッコリと微笑むだけだ。


「キリシマ様、お優しいのですね。でも、その優しさはエルフィラを守りません。それどころか逆の結果をもたらすでしょう。私の申し出が混乱をもたらすとおっしゃるなら、私の部隊“エネルローリエの盾”をエルフィラの部隊“イフエールの剣”と入れ替えればいいだけの話……それが出来ない理由が私にあるのかしら?」


この女、何を言い出す? 俺が余計なことを言えば、エルフィラの隊を追い出して自分の部隊と入れ替える、彼女はそう言っているのだ。


「本気でおっしゃっているとは思えませんが」


「さあ、どうでしょう? それに……」


突っ返そうと差し出した指輪を、第三王女は改めて俺に握らせた。

王女の柔らかい手が俺に触れた途端、脳内に甘い声が囁く。


“エルフィラが殿方にとって魅力的なのは分ります。しかし、私と親交を深めた方があなたにとっては得です。第三王女の地位は飾りではないのです。それに……”次の言葉は声として発せられた。まるでエルフィラに挑むかのように。


「……私の美しさも捨てたものではないでしょう?」 


隣のエルフィラが固まったのが俺には分った。

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