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反撃


俺はエルフィラと共に野盗どもが待ち構える村の入り口へと向かう。

ヘッドセットの着信音が鳴った。


“中隊長。聞こえますか? 服部です”


「聞いている。怪我の方は大丈夫か?」


“私の怪我はたいしたことはありません。敵兵は全て無力化しましたが、味方にかなりの損害を出してしまいました。申し訳ありません。重傷者6名 うち2名は生命が危険な状況です。軽傷者多数。こちらの魔術師だけでは治癒が間に合わず、王立軍の支援を要請致します。機動戦闘車、及び偵察警戒車の各1両は戦闘継続が可能ですが、戦闘車1両が揮発性液体を投げ込まれ現在使用不能です”


「敵の不意打ちに耐えて、よく持ちこたえてくれた。危篤きとく状態なのは誰だ?」


“太田陸曹長と支援魔術師のアニキエフ1曹です。二人の活躍で敵を殲滅できたようなものです。ですが彼らの生命維持だけで、こちらの魔術師は手一杯の状態です。他の負傷者まで手が回りません”


予想以上に損害が大きい。敵を甘く見た俺のミスだ。だがこれならまだ戦える。問題は重傷者だ。近くに敵が集結しているこの状況で、王立軍魔術師が村から支援に向かうのはかなり危険だ。


「エルフィラ、すまない。服部の隊に重傷者が6名出ている。うち2名は危篤きとく状態だ。治癒が得意な魔術師の助けが欲しい。危険だが行かせられるか?」


「……二名なら可能よ。イライザにイオアンナ。彼女達は勇敢で優秀な治癒魔術師。頼ってもらっていいわ」


「ありがたい。恩に着る。こちらのマリサとヴァレリオを護衛につける。うまく送り届けてくれるだろう」


エルフィラが魔術で部下に命令するのを横目に見ながら、俺はインカムでマリサ・トスティ陸曹長を呼び出し護衛の命令を出した。


「ところで服部二尉。901飛行隊の状況を教えてくれ。こちらの援護に向かってるのだろう?」


“……報告が遅れ申しわけありません。ヘリ部隊への応援要請は棄却されましたが、状況をかんがみ特例として、テスト運用中の901飛行隊にスクランブルが発令されました。既に本国の千葉基地から緊急転移し当地に向かっています。しかし、よく901が来ると分かりましたね。私はあの時、賊に襲われて報告の途中でした”


「あれだけ聞けば十分だ。テスト運用中の飛行隊と言えば901しか無いからな」


901飛行隊。まもなく正式配備が予定されている謎の多い飛行隊だ。第五世代戦闘機であるF-35Bで構成され、専用の基地が日本の千葉におかれている。出撃命令が下ると専任魔術師により、パイロットごと千葉基地からセレニーティスへ緊急転移。転移後に離陸、攻撃に向かう。


F-35Bは垂直離陸が可能で、当地に飛行場が無くても飛び立てる。もともと軽空母いずもの艦載機として調達されたものだが、改修の上セレニーティス防衛に投入されることになった。


しかしそれだけの手間をかけて飛ばせるのは、一度にせいぜい戦闘機が2機にすぎない。本来なら地上部隊の支援の為に飛ぶ飛行隊では無いのだ。901の本当の狙いは核攻撃機としての運用と噂されている。セレニーティスにある武器庫の地下奥深くには、米国との秘密協定で供与された核爆弾“B61―12”が保管されていると言う噂も聞いたことがある。もちろん、今回はさすがにそいつを爆装して飛んでくるとは思わないが。


それにしても、とうとう901まで飛ばさせちまったか。さすがの俺も、今回は間違い無く責任とらされて本国送りだろう。まあ本部が901まで投入した理由は察しがつく。なんせ俺とエルフィラが死ねば、貴重な情報のかなりの部分が失われるのだ。俺の飼い主である八木原陸将もたいそう胃が痛かったはずだ。


“しかし中隊長。賊が王女殿下の拉致を狙うのは分りますが、中隊長の拉致は意味が分りません。敵の目的は何でしょうか?”


「さあな。俺にも見当がつかん……ああ、エルフィラ、了解だ……服部二尉。今、王立軍魔術師がマリサ達と一緒にそちらに向かっている。王女選りすぐりの治癒術者だ」


“ご協力感謝致します。第九王女殿下。このご恩は忘れません”


「俺からも礼を言わせてもらう」


「お互い様よ。気にしないで」


「では服部二尉。俺たちはそろそろ行く。901の到着と同時に攻撃を開始してくれ。その後は王立軍の援護を頼む――後はよろしく頼む。貴官に俺の指揮代理を命じる」


“――何仰ってるんですか? 中隊長! まさか死ぬ気では――いえ……失礼致しました。私には指揮権委譲の意味が分りかねます”


「心配するな。野盗どもとダンスを踊るだけだ。忙しくて命令する暇がなくなりそうだからな」


“ダンス――了解致しました。どうぞ、あいつらの足を思いっきり踏んでやってください。あと中隊長。今度、日菱電気の大滝さんと会ったら伝えておいてくれませんか? 服部が一杯おごりたいと”


「大滝技師に? 一体彼が奴がどうしたって言うんだ?」

あの男は優秀な技術者なんだろうが、俺からすればチャラそうな印象しか無い。女性の部下に声かけまくってるし。


“彼が開発したE-LRAD(対呪音響兵器)のお陰でうちの隊は命を救われました。あれ欠陥兵器なんかじゃないですよ。ものすごく効果的でした”


「じゃあ俺から、奴におごっておこう。自販機のコーヒーだが」


“本物のコーヒーくらいおごってあげましょうよ、中隊長……ではご武運をお祈りしております。私もこれより戦闘準備に入ります。今度こそ、ご期待に応えて見せます”



“遅ぇぞ。あと3分で来なかったら、もう一発ぶっ放す!”


「慌てるな。慌てる乞食はもらいが少ないそうだ」


“憎まれ口を叩けるのも今のうちだけだぜ。たっぷり後悔させてやるからな”


村の入り口に到着すると、ベネガが手下を連れて既に来ていた。奴の右隣にはなまめかしい雰囲気の女がいる。魔術師だと思うが、身体の線を強調したその薄いローブ姿は情婦のようにも見える。左隣には身長が三メートルを優に超える大男。厚い胸板はまるで戦車の正面装甲だ。大ぶりのバトルアックスを構えている。エルフィラの身体をよだれを垂らさんばかりに見つめているその様子は、ちょっと頭が弱そうに見えた。ベネガの用心棒だろう。


「キリシマ。てめえが何か企んでるのは分かってる。だが、もう遅い。手遅れだ」


「ねえ、ベネガ。わたし、キリシマが気に入ったよ。なかなかいい男じゃないか。わたしにちょうだい」と隣の女魔術師が言う。


いい男ってのは俺のことらしい。最近、けなされてばかりで褒められるのは珍しい。


「欲しけりゃ親方様に頼むんだな」


「なんだよ、自分だけお姫様に熱あげちゃってさ。昨日なんて、わたしのこと抱いてくれなかったじゃないか。健気けなげに耐えるわたしにご褒美くれたってバチはあたらないよ」


「うるせぇ。少し黙っていろ」


「ボス。おで、もうたまらない。おうじょさま綺麗。だいていいか?」と左の大男。


「誰がてめぇにやると言った? お前も黙ってろ……では、エルフィラ・ブランケ第九王女。こちらへ来てもらおうか。おっと、変なことを考えるなよ。竜の攻撃で村が灰になるぜ」


「卑怯な男ね」ベネガを睨み付けるエルフィラ。「それ以外、何も出来ないんでしょうけど」


「俺様に逆らうな、と警告しておいたはずだ」


「逆らってない。あなたの言うことは聞く。だけど王族を敵に回す恐ろしさをあなたは知ることになる。謝るなら今のうちよ」


ベネガはエルフィラの言葉を鼻で笑った。

「王族が何様よ。親方様の前ではお前らの威光などゴミのようなものだ……なあ、俺は言ったよな。素直にするなら熱いキスだけで許してやる……しかしお前の態度見て気が変わったぜ。生意気な女にはおしおきが必要だ。自分の立場を分らせてやろう。おい、デノン、この王女様を好きにしていいぞ」


「おで、おで やってもいい? おで王女様、大好き」


「いいぞ、但し殺すな。絶対にだ」


「ころさない。ころさない。重さかけない。体重かけないようにする」


「やめなよ。人前でデノンになにやらせる気だよ」と女魔術師。


「うるせぇ。俺様はこの女の泣き叫ぶ姿が見てぇんだよ……第九王女、心配するな。こいつはタネなしだ。それに、裂けちまっても治癒魔術師のいいのがいる。あっという間に元通りだ」


「やめなよ。いいのかい? 初物かも知れないんだよ?」


「いくらなんでもその歳で初物はねえだろう。なあ、第九王女、違うなら教えてくれ。俺様の気がかわるかも知れねぇぜ」


下卑た笑いにエルフィラは後ずさりした。手が救いを求めるように俺の身体に触れる。“……大丈夫。あなたは手を出さないで。私は大丈夫だから”


“それは無理な相談だ”


“……あなた……あなたに言っておきたい事があるの”


“後でゆっくり聞く”俺はエルフィラを背後に庇う


俺をせせらわらうベネガの背後に青い空。そこに一瞬星が見えた気がした。


「王女様の騎士気取りか。いいだろう。お前には特等席で王女の泣き叫ぶ姿をおがませてやる。お代はいらねぇぜ。一緒に愉しもうぜ」


「おで、キリシマ倒す」


「殺すなよ」


「あい」


空に現れた星は見間違いでは無かった。すぐに4つの流星となる。

その流星の名はアムラーム。F-35Bの放った空対空の中距離ミサイルだ。音速の4倍で飛んでくる。

ミサイルは戦闘機からの誘導を離れ、内蔵センサーを使った最終誘導に入っていた。


「何を見ている?」

俺の視線に気がつき、ベネガは後ろを振り返る

空中の大型竜は危険を感じて回避しようとするが、竜の機動性でアムラームは振り切れない。


「……あれは何だ?」 


ミサイルは吸い込まれるように大型竜に接触。爆発。浮力を失った竜は地面にたたきつけられた。

地面に落ちた竜は機動戦闘車の餌でしか無い。もうこれで村への攻撃は無くなった。


「やりやがったな!!」 ベネガが怒りのあまり叫び声をあげた。


大男がバトルアックスを構え、一歩こちらに踏み込む。

「服部二尉、聞いているな。大男を撃て」そして、エルフィラを引き倒し一緒に地面に伏せた。


次の瞬間、ぼんっと破裂音がした。大男の身体が水を入れた風船のようにぜたのだ。この威力は偵察警戒車の25ミリ機関砲による砲撃だ。竜相手には威力不足だが、いやしくも装甲車両の撃破用だ。人間相手には明らかにオーバーキルな代物だが、服部は鎧が魔道具である可能性を警戒したのだろう。


「次、女魔術師……撃て」


「止めて!! お願いよっ!!!」 女魔術師が叫んだ。


25ミリ砲弾が魔術師を襲う。

だが青い透明の壁のようなものが砲弾をはじく。物理防御の結界が張られているのだ。しかし25ミリ砲弾の連射に耐えられず結界は徐々に光を失っていく。


「……ねえ。助けておくれよ。お願いだよ」女魔術師は必死に結界を強化しようとするが、追いつかない。


「あんた、いい腕だ。だが運が無かったな」


砲弾の雨はついに結界を貫通し、次の瞬間、女魔術師の身体はぜた。

俺はエルフィラに手を貸し一緒に立ち上がる。そして彼女を庇いながら、俺は拳銃をベネガに突きつけた。


「さて、どうする? あんたの守りは無くなったぜ」


「……まだ負けた訳じゃねぇ。俺には300の部下がいる。村に攻め込めばどうなるかな」


俺はせせらわらった。

「どこに300も兵がいるんだ?」


「何?」


野盗どもはてんでバラバラに逃げ出していた。竜を殺られて戦意喪失したのだろう。それでもベネガを助けようとこちらに向かった少数は重機関銃の的になっている。


「さあ、どうする?」


「気をつけて!」エルフィラの叫び声。ベネガが、人間とは思えない速さで俺のふところに飛び込んだのと、ほぼ同時だった。


「……テメェは詰めが甘いぜ」 見ると、俺の腹は真っ赤な血に覆われていた。ベネガは腹にナイフを突き立てたままニヤリと笑う。


「テメェを殺しちまって親方様には叱られるが……王女は俺の好きにさせてもらう」



「詰めが甘いのは、あんただ」


俺はベネガを思い切り突き飛ばした。

ナイフを持ってるのに気がつかないとでも思ったか? 少し腹が痛いのはまあご愛嬌だ。服に穴があいたのは、納税者の皆様に謝罪する。


突き刺さったナイフを引き抜くと地面に捨てた。抜くそばから傷は修復されていく。

ベネガを撃ってやろうかと思ったが、考え直して銃はホルスターに収める。そして呆然ぼうぜんとしているベネガの腹を力を込めて蹴った。奴はもんどりうって地面に転がる。呼吸が出来なくなったのだろう、苦しそうに咳き込んだ。有り難く思え。これでも一応手加減はしたぜ。死なない程度には。


奴の顔が恐怖にひきつった。

「……てめぇ化け物か? 腹を……裂いたん……だぞ」 「そうだ俺は化け物だ。しかし貴様に言われたくはないかな」


俺にはさっきから女の子の泣き声が聞こえていた。医者が言うところの過剰再生能力が発動している。腹の傷などすぐに修復される。ま、多少寿命は短くなる。


「安心しろ、その蹴りはちょっとした利子に過ぎん。これからが本番だ……こいつがエルフィラへの王族侮辱罪」


口ごと頭を蹴った。痛みの為か奴の身体が折れ曲がる。かけた歯が飛び散った。


「そして、これは俺に泣きついてきた可愛そうな母親の恨みだ」


もう一度、腹を蹴った。苦しいのだろう。奴は胃液を吐く。何か言っているが聞き取れない。


「キリシマ、お願いもう止めて。死んじゃうわ」


「この程度で死にはしない」


「あなたらしくない。こんなところでなぶり殺しはいけない。あなた自身の誇りを汚すだけよ」


「妙なことを言う。この男がやろうとしたことを思えば、これくらいしないと俺の誇りは傷つくぜ。それに腹を刺されたんだ。立派な正当防衛だと思うがな……だがまあ。君がそう言うなら」


俺は血まみれのベネガの肩を持つと持ち上げ、座らせた。


「感謝するんだな。エルフィラはお前の命を助けたいそうだ。俺は嫌だが、あんたが協力するなら王女の言うとおりにしてやってもいい」


「……何を……」


「質問に答えろ。“親方様”とは何だ?」

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