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二人の切り札


……許せ。王女のためにこいつを使わせてもらう。


俺は胸元の御守袋おまもりぶくろを取り出した。中には一発の9ミリ弾。とある日本人の女が俺のために念を込めてくれた特別な銃弾だ。

辺境伯はふらふらと立ち上がり、虚ろな目で俺を見た。右手には魔剣がいつのまにか戻っている。

「……キリシマ。あなただけは許さない」


「いろいろと誤解がある……と言っても駄目そうだな」


「イヴレール。あなたは、その魔剣に操られているの。現実認識がひずんでいるのよ」


「歪んでいる? そんな男に抱かれながら言うセリフでは無いでしょう」

俺はエルフィラの手を強く握った。気持ちは分かるが今は俺から離れてはいけない。


「……ようやく分かりましたよ、キリシマ。あなたの弱点が。人間風情が調子に乗りすぎましたね。いくら――が肩入れしようが、そんなもんはたかが知れてる」


そして右手の剣を高く掲げわらう……「前言撤回です。今のあなた程度、私でも壊せます」

次の瞬間、俺は崩れ落ちた。



何が起こったのか分からなかった。

気がつくと俺は……俺は何本もの魔剣に全身を貫かれていた。俺は胃液を吐いた……いや違う。こいつは血反吐ちへどだ。あまりの痛みに俺は気が遠くなる。


「あなたは不死身ではありません。違いますか?」


「どう……かな」


すでに俺の再生能力が発動している。テロメアが燃え寿命を代償に、失われた組織が異常な速度で回復しつつある。俺は震える手で9ミリ拳銃を伯爵に向けた。ホドス本体である剣を狙うのはもう無理だ。分裂していてどれが本物なのか分からない。


だが次の瞬間、視界がブラックアウトした。


……俺は伯爵の声を聞く。

「頭をつぶされてまだ動きますか。顔だって、もうぐちゃぐちゃだ。左腕はもげてますし、肺も心臓も潰した……やはりあなたは化け物ですね。ですがその異常な再生能力は寿命を削った代償に過ぎない。それがあなたの限界です」


銃だ……銃はどこだ……どこにある?


右手が何かに当たる。銃だ。

エルフィラの叫び声が聞こえた。何を言っているのか分からない。身体を包む暖かい魔法の感触が俺を覆った。俺は口を歪める……顔は残ってないようだが苦笑のつもりだ。回復魔法は俺に効かない。何回も言っただろう。そんなことより、エルフィラ……頼む


「無駄ですよ」


……頼む、エルフィラ


「これで終わりにしましょう」


俺……に……


「頭部切断、右腕切断、ついでに胴体真っ二つ。さあ、あなたはどこまで保つんでしょうね?」


時  間   を



……まだ……生きてる?


俺は地獄から舞い戻ったようだ。なんせ俺みたいな化け物が死んだとしたら、行き先は地獄で確定だ。左目の奥が焼けるように痛む。この痛みは良い知らせと悪い知らせ、両方の意味がある。


良い知らせ――痛みを感じる俺はまだ生きている。

悪い知らせ――再生能力が限界だ。


視力が回復している。身体も一応人間の形を保っている。切断されたところは繋がってるし、欠損した腕は――まあ何と言うか――新しいのが生えている。寿命をどこまで削ってここまで再生したのか。恐ろしくて考える気にもなれない。もし日本に戻れたらドクターに滅茶苦茶めちゃくちゃに怒られそうだ。


伯爵が憎々しげに俺を睨んでいた。

俺とエルフィラは光輝くドームに覆われており、伯爵はドーム内の俺たちに手出しが出来ないらしい。

だから再生が間に合ったのだ。


俺はやっとの思いで立ち上がった。

「エルフィラ。この魔法……あんたにも使えたんだな」


彼女は俺の声に振り返る。「良かった。復活出来たのね」

目が赤い。泣いてくれたのか。


この魔法には見覚えがあった。

彼女の使った魔法は、“絶対魔法防御”だ。今は亡きシャルロッテ第一王女のユニーク魔法で、彼女しか術者は存在しないはずだった。展開した光のドーム内部では、文字通り全ての魔法が拒絶される。神聖魔法でさえ、この光のドーム内では効力を失う。ホドス希少竜の操る強力な魔法でさえも、中に入ってはこられない。

だがこの魔法は第一王女の文字通り最後の切り札だ。効果が大きいだけに代償も大きいはずだ。


しかしおかげで俺の再生が間に合った。


「すまない」


「気にしないで。私は大丈夫――その代わりこれが私の精一杯」


エルフィラの展開する光のドームは外側から、無数の魔剣の群れで押しつぶされようとしている。


「後は任せて欲しい」


王立軍が盾なら、自衛隊はほこだ。対ホドス戦において、その役割は今でも変わってはいない。



俺は9ミリ拳銃を構えた。中には一発の特殊弾。俺のことを愛してくれた魔術師――いや、正確に言えば魔術師見習いだった――が持たしてくれた魔除け代わりの銃弾だ。


「情けない男ですね。それが英雄のやることですか? エルフィラにどんな負荷をかけているのか分かっているのですか?」


ホドスの本体は、伯爵では無く魔剣の方だ。伯爵は魔剣に操られている。

しかし今や魔剣は無数に飛んでいて、どれが本物なのか分からない。それとも、全てが本物なんだろうか。特別製の弾は一発しかない。一つ壊せば全ての剣が消えるんだろうか? それとも全部壊さないと駄目なんだろうか?


俺はエルフィラに触れ心の中で囁いた。

“剣が多すぎる――どれがホドス本体だと思う?”


“ごめんなさい。私にも分からない”


覚悟が決まった。いずれにしろこのままではじり貧なのだ。


「辺境伯。提案がある。このままだとらちがあかない。あんただってこの魔法はそう簡単には破れないのだろう? そしてこれだけ派手にやればいずれ人が来る。その前に一対一で正々堂々と勝負しないか」


「一対一で? 面白い……と言いたいところですが、それではあなたに勝ち目が無い。それは分かっているはずだ。いったい何を企んでいるのです?」


「提案はこうだ。俺には銃がひとつしかない。だが、あんたは何十もの魔剣を同時に操る。不公平だと思わないか? だからあんたは一本の剣だけで剣士として戦う。そして俺はこの銃で戦う。安心しろ。銃弾はあと一発しか残っていない。それを防げばあんたの勝ちさ」


「私が普通に剣を振るったら、それで勝てると思った訳ですか……いいでしょう。ですが、後で文句を言うのは無しですよ。私はこれでも剣士として一流です」


「文句は言わない。爺さんの名誉にかけて誓おう」


「そこは、本人の名誉を賭けてくださいよ……まあいいです。その言葉、忘れないでください。いずれにしろ私の勝ちで決まりなのですから」


辺境伯が片手を掲げると、エルフィラの光のドームに張り付いていた無数の剣が消えた。代わりに一本の魔剣が奴の右手に現れる。「さあ、これで文句は無いでしょう……エルフィラ。魔法を解除してください。あなたがそんな無理をする必要はどこにも無い」


「でも……」エルフィラは戸惑い、俺の顔を見た。


俺は拳銃のトリガーを引く。

狙った先は伯爵の胸。心臓のど真ん中だ。



だが、それを予期したかのごとく伯爵の剣は既に奴の心臓を守っていた。


「私の勝ちです」


漆黒の剣のやいばが弾丸を受け止める。


「どうかな?」


「負け惜しみを」


「よく見ろ」


今、伯爵が持っているのは剣のつかだけだ。漆黒の刃は消えていた。弾丸が刃に当たった時点で消失したのだ。


「なんで……」


それだけ言うと伯爵は崩れ落ちた。本体であるホドスが消滅したようだ。


「剣の腕前、なかなか見事だった」俺は言った。「最初からあんたの技量は認めてたんだ」


「イヴレール!」エルフィラは叫び声をあげると伯爵に駆け寄る。


「お友達は無事だ……銃弾は身体に当たってない」


俺のことを舐めきって提案に乗ったのが辺境伯――あんたの敗因だな。

いや。違うか。ホドスに意思を乗っ取られてなお、エルフィラにいいとこを見せたかったのかも知れない。男ってのは本当に業が深い。


「ホドスの気配をまだ感じるか?」


「……もう消えてる。居ないわ」


エルフィラは心配そうに伯爵に触れると安心したように言う。「良かった。眠ってるだけ……キリシマ。あなたいったい何をしたの? さっき使った銃弾。あれは何? あのホドス、希少種並の強さだった。戦車使ってようやく倒せるかどうかってレベルよ。それをあんな銃弾一発で……」


「悪いな。そこらへんは言いたく無い」


エルフィラは、厳しい目つきで俺を睨んだ。

「それで済ます気? あなたは私に対して、もう少し詳しく説明する義務があると思うのだけど」


……こういう時の定番“怒った君の顔はなかなかセクシーだ”と言うセリフが喉元のどもとまで出かかった。だが本当に怒りそうなので自制する。


俺は倒れている侯爵と副官の元に向かった。

「侯爵はもう駄目だな。残念ながらあんたの副官も同じだ。二人とも既に息絶えている……気にするな。君のせいじゃない。俺としては下手に生き残られるより、こっちの方がありがたい」


「そんなこと……」自責の念に駆られてるらしきエルフィラに向かって俺は口を開いた。


「何が起こったのか、君は俺に説明する義務があると言ったな……確かにそうかも知れない。君にはそう要求する権利がある。知ってることは教えるさ。だが、その前に」


「……何よ?」


「替えの服があったら……その、ありがたいのだが」


俺の身体は再生するが、着ている服はそうじゃ無い。隠すべきところが隠れているか、現状かなり怪しい状況だ。“大丈夫よ。立派なものをお持ちのようだから”とか大人のジョークで返して欲しかったが、代わりに王女の顔は真っ赤になった。


今ようやく、俺が半裸だってことに気がついたらしい。


◆◆◆

別班調査部による補足資料:特殊魔法について


絶対魔法防御、もしくはAMPアブソリュート・マジック・プロテクション

どちらの名称も自衛隊内における仮の呼称である。セレニーティス王族の血筋を持つ者に、ごく希に発現するユニーク魔法(以下、王族魔法と呼称)の一つと考えられるが、王室は当魔法に関する情報提供を拒否しており詳細は不明。

王都防衛戦において、核搭載のオスプレイを守るためにシャルロッテ第一王女が使用したことが確認されている。その後の王女の衰弱死に関連性がある可能性が高い。


……以下文面は塗りつぶされており判読不能

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