第三話 神との邂逅③?
続きを待っているとやっと天照が口を開いた。
「お願いとはいいましたが、正直これは私の願望です。」
途中まではなんとなく予想した文面だったが、最後の部分で聞き返したくなる単語が耳に入った。
疑問が頭の中を埋めつくした。
「それでそのお願いは、なんですか。」
発言をしながら、平静を装いつつ、二人の方を見るとポカーンとした表情でこっちをみていた。
俺と天照を交互にみて、混乱しているであろう頭で質問をしてきた。
「なんで、私たちなんですか。」
霧香が意を決したように言葉を発した。
「まぁー。普通そんな疑問が出ますよね。春希が異常なだけですが。」
天照が賞賛とも貶しているとも取れる眼差しでこちらを見つめていた。
「霧香、おそらく優真も同じ疑問をもっているでしょう。まず、理由の一つとして人柄です。恐らく分からないと思いますが、私とあなた方とは面識がありますよ。」
天照の告白には、さすがの俺も呆気にとられた。
「面識って、どこでだ?」
俺が質問したことが、嬉しいと言った表情を浮かべていると、みるみる姿が変わっていった。
「この姿ならさすがに分かりますよね。」
面識があると言われて驚いたが、思い当たる節がなかったわけじゃない。
しかし、あまりに予想外の人物だった。
「倖が神様だったのか。」
さすがにいつもの行動や雰囲気を知ってるだけに意外と思う他ない。
「倖、いや天照と呼ぶべきかな。」
俺がからかい混じりのセリフをぶつけると
「別に今まで通りでいいよ、春希と私の仲じゃないか。」
俺に笑顔を向けながらいつも通りの口調に戻して言ってきた。こそばゆいと思っていると
「おっと、霧香の質問の答えがまだだった。」
咳払いを一つして、話題を強引に転換しながら改めて解答を始めた。
「一つはさっき言ったように人柄の点。もう一つは、私があなたたちを信頼している点だね。さすがにこれ以上は必要ないよね。」
霧香と優真は、まだ納得していないという顔で頷いた。
「しっかりとした説明はあとでするから!」
懇願する様子を見て、表情がいつも通りのものになった。
「内容を簡単に説明すると、異世界に行って欲しいということだよ。」
流石にこのお願いには驚いた。いつもの倖を知ってるだけにこんなことを頼んでくるとは、一度も考えなかった。引っ込み思案だと思ってたのにあれは、猫を被っていたのか?と考えてしまった。
「春希、それ地味に私のこと貶してない。」
倖が半泣き顔でこちらを見てきた。
「悪かった。心の声聞こえるんだったな。」
純粋にその情報を冗談だろうと記憶から消し去っていた。
「猫なんて被ってないもん。覚悟したお願いだったからいつもより頑張って思い切った頼み方したんだもん。」
倖は、すっかり拗ねてしまった。
霧香と優真がこっちを見て、しっかり慰めろと無言の圧力がかえってきた。
「倖、後でいくらでも付き合うからさっきのことは水に流してくれ。」
そうやってしばらく慰めてやっと機嫌を直してくれたのだが
「「「もう、春希はデリカシーがないんだから。」」」
3人から同じお小言をもらってしまった。
「こほん、それよりも倖、説明はどうした。」
強引な話題転換に三人は呆れているようだったが、二人も同じことを考えてたのか視線は倖に向いていた。しばらくして話が始まった。
「その世界は、限りなく地球に近い世界で名前はアストリア。文明的に見て、1930年くらいのものなんだけど、こっちと違って魔法がある分発展しているともいえるね。」
俺はある疑問を持った。
「ちょっと待て、聞いた感じ、世界の危機は感じられないが、あっちにいく必要あるのか。」
倖は、どこか悪戯が成功した子供にように続きを話し始めた。
「薄々感づいていると思うけど、あっちの世界は魔法の有無以外こっちと同じ歴史をたどっているんだよ。そこでお願いはその世界の人々を導いて欲しいんだ。それが、お願いの全容。」
盛大なこと言われて一瞬驚いたが、
「分かった。具体的に何をすればいいんだ。」
倖が今度は目を見開いてこっちを見てきた。
「あいかわらず、あっけらかんとしてるね春希。今言われたことをすぐに飲み込めるのは春希だけだからね。後ろの二人を見てみなよ。」
言われたとおり後ろに振り返ると二人の頭から煙が昇っていた。比喩ではなく本当に。
「おい。二人とも大丈夫か。」
慌てて二人にかけ寄りながら、
「倖、さっさとこの状況をなんとかしろ。仮にも神なんだろ。」
と言葉をなげる、しかし、俺の言葉を聞き流していたのか
「じゃあ。さっそく、アストリアに行ってきてね。」
俺は思わず、倖に向かって、どついてやると拳を出そうとすると白い壁に阻まれた。
「霧香と優真の説明はあっちの世界神に任せたから。後、あっちでは、それなりの地位に就けるようにいろいろと弄っといたから転生先は大日本帝国だから多分大丈夫だと思うけど頑張ってね。」
矢継ぎ早に話を進めていったが、何かを思い出したようにして、数拍の間の後に言葉が出てきた。
「待って……肝心なこと聞いてなかった。春希いきなりで悪いけど、……この世界を楽しいと思ってた?」
急ぎ気味な質問に俺は
「正直、物足りないと思ってた。」
ただ、単純明快に答えを発した。
そんな俺の言葉を聞いて、倖は
「それだったら、あっちの世界は君たちにあっていると思うよ。私ねそうなんじゃないかと思って今回のことに及んだんだ。不謹慎かもしれないけど楽しんできてね。」
倖は、笑顔をこっちに向けてからとびきりの告白してきた。
「あっちの世界のことが終わったら、霧香、優真共々お願いがあるからその時は逃げずに話を聞いてね。」
倖の表情と言葉に息を呑みつつも笑顔で倖に言い放った。
「あぁー。まかせとけ!」
そして、光に包まれていった。