関興、再び呉への復讐に向かうこと
力が落ちているな、と感じた。
そして多分これからは衰えてくだけなんだ、とも痛感していた。
残された時間はあまりない。
せっかく巡り会えたとて、剣を振るうこともできなくなっていれば本末転倒である。早く目的地に向かいたいところだが、負担はあまりかけられない。
出来る限り無駄はそぎ落とすべきだし、病が進んでいかないよう体力も温存せねばならない。
太陽を見た。
それで蜀呉の国境への方角を探り、東へと向かう。
力を込めて歩き続ける。走って体を疲れさせないようにはしたいが、だらだら歩いていてもいけない。
ときおり腹が痛んだ。
息も切れやすくなっている。
しかし立ち止まらない。
まだ耐えられない程ではない、なんとか。
よしいける。いけそうだ。いけるぞ。
そう己に言い聞かせ、なおも歩む。
そしてあの頃のほとばしる激情を、歩きながら彼は思い返そうとしていた。
何しろもう10年以上も前の事である。その時に比べれば、怒りも、悲しみも、恨みも、時間によって落ち着いた静かなものへと変わりつつあった。
しかし消えたわけではない。
決して忘れられるようなものではないのだ。
父を討たれた無念など、決して。
何より、決して消えるようなものではないのだ。
何としても仇を討とうと心に決めて、一たび燃やした炎など。