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鋼と魔法の英雄伝  作者: 武本 丈
皇子直属部隊、その名はラグティウス
4/15

初陣

 アーサーが出征の準備を始めてから数日が過ぎた。新鋭の宇宙戦艦に選りすぐりのクルー、補給部隊の確保など、準備は着々と進んでいる。しかし、戦力の主力となるべき機動部隊の手配は順調とは言い難い状況だった。

 魔力を動力としてのみ利用する機械兵装であるパペットやビークルアーマーと呼ばれる戦闘艇の部隊に関してはアーサーの満足のいく機体と人員が揃いつつある。だが、アーサーが直接率いて闘うことになるはずのゴーレムがまるで集まっていない。

ゴーレムとパペットでは性能が違いすぎて連携がとりにくい。いくら強力なパペット部隊が編成できても、ドラゴンと連携をとるゴーレムがいなくては戦力は大幅に落ちる。最低でもあと二体はゴーレムが欲しいところである。

ゴーレムを集められない要因としては、数が少なく貴重なゴーレムやそれを操る魔操機士を軍や貴族などの勢力が手放そうとしないということもあるが、カイゼルが手をまわしていることが大きい。


「ドリュオン本国では、カイゼル殿下の影響力が強すぎて難しいですね~。」

 アーサーの執務室では、リルムが大量の報告書に眼を通しながらため息をつく。

「ゴーレムは新造された物の中から何体か入手できそうなんですけど~、実戦で戦力になりそうなレベルの魔操機士が見つかりませんね~。」

「私を皇位争いに担ぎ上げたがっている貴族が抱えている魔操機士も使い物になりそうもないな。」

権力の主流から距離をとって生きてきたアーサーの持つ人脈程度では、皇位を獲るために長年活動してきたカイゼルの持つ人脈には到底太刀打ちできない。アーサーを担ぎ上げようとしている貴族たちも、どちらかと言うと主流から外された者が多い。

「だが、兄上の影響も辺境にまでは及んでいない。アペオイ侯のご息女シアトリヤが協力を申し入れて来ている」

アーサーは手元のプレートを操作し、卓上のクリスタルからシアトリヤの資料を浮かび上がらせた。

「シアちゃんなら、小さいころに逢ったことありますよ~。魔操機士になっていたんですね~。」

リルムが嬉しそうにシアトリヤの資料を覗き込む。

「実戦経験はないみたいですけど~、模擬戦の成績は素晴らしいですね~。」

「彼女だけでなく、魔操機士を数名部下として連れて来るとのことだ」

アーサーがプレートを操作すると、クリスタルの映像はザコア、ツコーブ、モブシー、そしてコスモの資料に切り替わった。


 一ヶ月後、アーサーの執務室にシアトリヤ・アペオイ・スターロが訪れた。

「シアトリヤ・アペオイ・スターロです。アーサー殿下のもとで我が剣を振るわしていただきたく参上いたしました。」

「アーサー・ザン・ロイド・ウェイグ・ドリュオンだ、よろしく頼む。」

アーサーは深く頭を垂れて挨拶するシアトリヤに顔をあげるように促し、握手を求めて右手を差し出した。

「そう畏まらないでくれ、皇子と言っても私は庶子だ。そんな大した者ではない。それに、これからは命を預けあう戦友じゃないか。」

「そう言っていただけると大変有難いです。なにぶん宮廷でのマナーもろくに知らない田舎者ですから。それに……。」

 こわばっていた表情をいくぶん和らげてアーサーの差し出す手を握ったシアトリヤであるが、言葉を続けようとしたところで眉をひそめて言いよどんでしまう。

「どうした?、何か言いたそうだな。遠慮はいらないぞ。」

シアトリヤの様子に気づいたアーサーが続きを促すと、側に控えていたリルムもにこやかにアーサーの言葉を肯定する。

「そうよ~シアちゃん、アーサー様は寛大なかただから、言いたいことは言っちゃった方がいいわよ~。」

二人の言葉で懸念事項を片付ける覚悟を決めたシアトリヤが切り出す。

「実は私が魔操機士にするつもりで連れて来た者なのですが、戦士としての素養はかなりのモノを持っているのですが……。なにぶん元々が平民からの徴用兵でして、その……礼儀というものをまったく知らないのです。」

苦々しげに言うシアトリヤに対して、アーサーは「なんだ、そんかことか。」と拍子抜けしたように笑みを浮かべる。

「ならば、その者には式典のような公の場では口をきかせるわけにはいかないな。彫像のように立たせておくか。なんという名だったかな、確か……。」

アーサーは冗談めかして言うと、記憶を探ろうと視線をさ迷わせかける。

「え~と、予定ではザコア・エイブ下級宙士とコスモ・ライトニング下級宙士の二人でしたよね~、シアちゃん?。」

すかさずリルムが捕捉をしてシアトリヤに確認した。

「コスモ・ライトニングです。残念ながらもう一名のザコア・エイブは、訓練中に敵と遭遇、戦闘にて命を落としてしまいました。」

シアトリヤは沈痛な面持ちで告げると、懐から一枚のカードを取り出してアーサーに差し出した。

「このカードにその戦闘の模様が記録されています。」

「ちなみに、その戦闘にはコスモ下級宙士も参加していたのかい?。」

カードを受け取ったアーサーが興味深げにシアトリヤに問う。

「はい、教官を含めて三名で訓練中にアディードの妖魔と遭遇、生き残ったのはコスモのみです。」

「それでは、コスモ君の闘いぶりを見せてもらおうか。」

シアトリヤの答えを聞いたアーサーはクリスタルの台座のスリットにカードを差し込む。

 これまで緩やかに色彩を変化させながら淡い輝きを放っていたクリスタルの輝きが変化し、カードに記録された映像を映し始めた。


 編隊を組んで三体の機動人形が宇宙空間を飛行していた。その機動人形は丸みを帯びたボディに華奢な手足を生やし、手にはライフルを持っている。

「ショートソードか。」

「教官の乗る先頭の機体は通常のパペットですが、コスモとザコアの機体はイミテーションゴーレムです」

アーサーが映し出されたパペットの名を口にすると、シアトリヤが機体の解説をする。


 通常のパペットは機士の運転操作を機械が魔法信号に変換して機体を動かすのに対して、コスモ達の乗るイミテーションゴーレムは本物のゴーレム同様に機士の精神と動力となるジェルーンを直結して機体を操作できるように操縦系統が換装されている。ただし、使用されているジェルーンの純度や機体に張り巡らせた魔力回路の構造はパペットと同じなので、機体の性能そのものはパペットと大した違いはない。


 映像が流れ始めて数十秒後、突然クリスタルに映し出されたのショートソードの一体が爆発した。

『ザコアがやられた!?。訓練やドッキリ……じゃねぇよな。下からの攻撃だ! 教官、どうすりゃいい?。』

『……………。』

 コスモのショートソードは即座にその場に停止してキョロキョロと辺りを見回して敵らしき存在を発見し、教官に呼び掛けるが、教官からの反応はない。

『教官?、お~い、教官さ~ん。しっかりしてくれ、迎撃していいんだろ?。』

『バ…バカな、辺境とはいえ本国のゲートの内側の宙域で敵襲だと?。』

 コスモの方は突然の攻撃にもさほど取り乱した様子は見せていないものの、教官の方はかなりの動揺を示している。

 襲ってきたのはアディードのイミテーションゴーレム・グールが七機。アディードには支配種族であるディヴァル以外にもゴブリンやインプ、獣人など妖魔と呼ばれる様々な亜人がいる。妖魔は人間と違い、ほぼ全ての者が機械の助けを借りずにジェルーンから力を引き出すことが出来る。

 今回襲ってきたグールは複雑な魔力回路を必要とする品質の高いゴーレムではなく、パペットとさほど性能の変わらないイミテーションゴーレムである。操縦しているのもゴブリンなどの知能が低い下級妖魔なので、魔法などの特殊なスキルもないし機体の出力もさほど高くない。それでも二対七ではショートソードに勝ち目はほとんどない。

『ダメだ、訓練中だからろくな武装もない上に、敵の数が多すぎる。無理に闘おうとせず、逃げることだけ考えろ。』

 教官の判断は間違っていない。普通ならば……。ところがここに普通ではない男がいた。

『教官は先に逃げていいぜ。俺はちょっとコイツ等を墜としてから還るから。』

そう言うとコスモのショートソードは両手に持ったライフルを構え直し、グールの方に向きを変えた。

「行くぜ、なんかこのショートソードってヤツは軍の訓練で使ってたパペットと違って、自分の身体以上に思い通りに動くんだ。雑魚妖魔の操るイミテーションゴーレムなんかに負ける気しねぇぜ!」

 ライフルを構えたまま突撃するショートソードに向かってグールが持つ大型のバズーカが一斉に火を噴くが、ほとんどの弾はまったく的外れな方向に飛んでいき、ショートソードにはかすりもしない。

「オイオイ、さっきザコアを1発で墜としたのはまぐれか? 俺もまだ数える程しか射撃訓練してねぇけど、アレに較べりゃ俺の方がはるかにマシだな。ひとつ射撃の見本てヤツを見せてやるぜ。」

そう言うとコスモは一気にショートソードを加速させ、グールとの距離を詰める。

「よ~し、そろそろ射程距離に入ったな、ターゲットをセンターに入れてっと、射つべし!射つべし!射つべし!」

ショートソードが両手で構えたライフルが立て続けに火を吹いた! しかし、ほとんどの弾が命中したにも関わらず、グールは動じる様子がない。

「ゲッ、効いてねぇ。訓練用の豆鉄砲じゃ、まったく通じねえか……。うわぁ!?」

 これまで漫然とバズーカを撃つだけで、ほとんど動きを見せなかったグールが突然バズーカを棍棒がわりに襲いかかって来た。

「避けぇっ!!」

ショートソードは間一髪で攻撃をかわすと、一体のグールの背中についた。

「くらえ! 零距離斉射!」

ショートソードは残った弾を全弾を叩き込むが、グールはまったくダメージを感じさせない動きで振り返ると、再びバズーカを棍棒代わりにショートソードに撲りかかる。

「なんて鈍いヤツだ。いや、このショボい武器が悪いんだ。」

全ての弾を射ちつくしたライフルをグールに投げつけつつ攻撃をかわしたショートソードは、腰に収納されていた作業用のカッターを取り出した。

「射ってもダメなら、斬ってみろ、ってね」

コスモのショートソードがカッターを振りかぶってグールに斬りかかろうとした時、教官のショートソードがコスモのショートソードとグールの間に割って入った。

『そんな工具を振り回していないで、さっさと逃げろ。今の装備ではゴーレムは倒せんと分からんか!?』


「確かにあんな作業用の工具でイミテーションとはいえ、ゴーレムを七体も相手にしようとは、普通ならただの蛮勇としか思えん」

「でも、コスモさんは生き残ったんですよね~」

クリスタルの映像を覗き込んでいたアーサーとリルムが感想を述べていると、突然映像より閃光がはしる。教官のショートソードがグールのバズーカの砲弾をまともに喰らって爆発したのだった。

「彼も優秀な機士でした。コスモにかまわずに一人で離脱しようとすれば、この状況でも逃げ延びることが可能な腕があったのですが、残念です」

「これでコスモは一人か。ますます絶望的な状況だな」

 沈んだ声を出すシアトリヤを慮り、アーサーは愉しげだった表情を神妙なものに改めて再びクリスタルの映像に見いった。


「クソッ、教官の仇だ。ぶった斬ってやる!」

カッターを手にしたショートソードは、飛び交う砲弾をかいくぐって一体のグールに突撃すると、すれ違いざまに斬りつけた。しかし、グールは毛ほども傷ついた様子はない。

「チッ、このナマクラが。いや、気合いを入れりゃ斬れるハズだ。この俺が持った瞬間からコイツはただの工具じゃない……。‘どんなものも斬り裂く無敵の剣だ!斬れる、斬れる、斬れる、斬れる………。‘」

カッターに向かって語りかけるコスモの言葉の質が変化し始めた。コスモには自覚がないが、言葉が魔力を帯び始めている。それはすなわち、魔法を発動させるための呪文であったた。

ショートソードが持つカッターがコスモの呪文の反応して淡い光を放ち始めた。そしてその光は徐々に強くなっていく。


「あれは……、まさか魔力付与(エンチャント)したのか!?。」

アーサーが驚愕の声をあげた。

 それもそのはず、魔法が発動しやすいように様々な処理をほどこしたゴーレムと違い、イミテーションゴーレムであるショートソードには魔法を発動する補助となるような能力はない。それにも関わらずショートソードの持つカッターが放っているのは、明らかに魔力による輝き。武器に魔力を通わせて、その威力を上げる《エンチャント》の呪文であった。


「なんだ?、この光は……。俺なんか変なスイッチ触ったか?。」

しかし、コスモ自身は自分が何をしたのかまったく理解していない。突然輝き始めたカッターを見て戸惑っている。

「よくわかんねぇけど、なんかパワーアップしたような感じだな。とりあえず、もう一回斬ってみるか。一度でダメなら、刃が折れるまで何度だって斬りつけてやるさ。行っくぜぇ!。」

 ショートソードはじっくりとタメを作ると、タイミングを見計らって再び猛スピードでグールに突進、すれ違いざまにグールの脇腹にカッターを突き立て、そのまま振り抜いた!。すると、これまでかすり傷もつけられなかったのが嘘のように、カッターの軌跡に沿ってグールの胴体が大きく割れた。

「いけるっ、このまま他の奴も斬り刻んでやる。‘飛び交え斬撃、嵐となって吹き荒れろ……’」

 コスモの口から再び魔力を帯びた言葉が流れ出す。すると、その呪文に反応したショートソードが本来の機体性能ではあり得ない動きを見せ始めた。

 先程一体のグールを斬り裂いたショートソードは、スピードを緩めることなく離脱して一旦残りのグール達から距離をとっていたのだが、再びグールの群れに向かって突進を開始した。そして、攻撃を掻い潜ってグールの懐に飛び込むと、カッターを閃かせスピードを緩めることなくすれ違いざまにバズーカごとグールの腕を断ち斬った。猛スピードでグールの群れを突き抜けたショートソードは、慣性の法則を無視して急停止すると、そのまま百八十度転進してさらにスピードを上げてグールの群れに突入。すれ違いざまにグールを両断して群れを突き抜けると、再び急停止して転進。休むことなく同じ攻撃を繰り返すショートソード。しかも、スピードはますます速くなり、もはや肉眼では捉えられない速度に達していた。その様子は、グールの群れを巻き込んで吹き荒れる斬撃の嵐だった。

 しばらく後、クリスタルの映像に動くものは映らなくなった。あるのは全身を斬り刻まれたグールの残骸と、全ての力を使い果たしてもはや指一本すら自力では動かせずに宇宙空間を漂うショートソードの姿だった。


「コスモ・ライトニングか、まだまだ素人の域を脱してないが、魔操機士としての才能は目を見張るものがあるな。頼もしい者を連れて来てくれてありがとう。」

アーサーは満足げに呟くと、台座からカードを抜きシアに渡しました。

「そう仰っていただけて安堵しました。出陣までの僅かな間でありますが、戦闘訓練は勿論のこと、殿下の配下として恥ずかしくないよう機士としての礼儀と規律も徹底的に叩き込みます。」

シアは受け取ったカードをしまうと、微笑みを浮かべてアーサーに答える。

「フッ、あまり厳しくして牙を抜いてしまうなよ。それよりもコスモのゴーレムを決めてしまわんとな。現在手配出来ているゴーレムでマスターのいない機体のリストを出してくれ。」

軽く肩をすくめて笑ったアーサーはすぐに真面目な表情になってリルムに指示した。

「かしこまりました~。少々お待ちくださ~い。」

リルムが左手にはめた腕輪に埋め込まれた小粒のジェルーンをいじると、先程のクリスタルに今度は何種類かのゴーレムの映像と細かいデータが映し出された。


【ミノタウロス:陸戦型・パワー重視の格闘向け、装甲は………

ワイバーン:空戦型・スピード、射撃に特化し………

ヒドラ:水陸両用・遠距離攻撃に長け………

グリフィン:宙空地汎用型・高い機動力を有する。固定武装は両腕のアームガードに装備された一対の剣。さらに射撃用のオプションも装備可能、ただし出力は低め………】


「コイツかな……。汎用性も高いし、コスモには出力の低さをカバーできる魔力がありそうだ。」

そう言ってアーサーが目を止めたゴーレムは、肘から肩口まで覆うような巨大なアームガードを備えた両腕を持つ漆黒の機体、グリフィンであった。

かくしてシアトリヤに見いだされ、皇子であるアーサー直属の部隊の一員となったコスモ・ライトニング。

鋼の機体で宇宙を駈ける魔操機士の物語が始まろうとしている。

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