現代版 閑居友 下巻第6話
日本で生まれ育った僕は国公立の大学でも1,2位を争うほど頭がよかった。これはそんな僕の体験談。一度ほどあるところで聞いたすごい人の話をここではしようと思う。
僕は高校生の時に中国のある有名な県に留学していた。その県に滞在していたら泊まっていたところのホテルマンから、以前に起こった事件の情報をもらった。以前のこの県の問題はこの県を治めている領主の妻の兄のことだったらしい。
そのホテルマン曰く領主夫人の兄は突然何を思ったのか領主夫人の管理下から去って、あちらこちらを、行き先を決めずにさすらっていたらしい。夫人の兄は貧しくみすぼらしい姿だったからこの県の人は誰もその人が夫人の兄だとは気づかなかったし、言ってみるとそこらのホームレスと変わらないぐらいだった。
夫人の兄はこの県から遠く離れ連絡もつかないことが幾度程あり、夫人はそれが煩わしかった。
領主夫人は時間をかけてやっとのことで自分の元に兄を呼びつけることができた。
そしてそこで
『これからはここで落ち着いて暮らしてください。衣服も食事も住む場所もこっちでうまいところを探して提供するので、どうかここにいてください。』
と兄に申し上げると、兄は
『では、そのようにいたしましょう』
と快諾してくださった。
その後も出歩かずに落ち着いていたのを見た夫人は安心していると、またいつのまにか人目を見はかるようにしてその日々から、夫人の監視下から逃げ出してしまった。貧しい姿で。
このようなことが幾度も幾度もあったので、領主夫人はこの兄を自分の監視下に置いて落ち着かせることはできないのだ、と気付いた。
そこで夫人は夫の領主に頼んで
『貧しく生活に困窮している人が放浪して歩いていてら、必ず宿を貸し、食べ物を用意して、手厚く面倒を見なければならない。』
というお触れを出してもらった。
夫人の兄という1人のために多くの貧しい人々はこのお触れに助かり、良い生活を送れるようになって喜び合った。
この体験をした多くの貧しい人々は領主夫人の兄の姿を絵に描いて感動し、感謝し、尊んで、誰もがこの絵を持っていた。それぐらいこの県の人々にとっては凄い人だった。それに描かれている兄の姿は貧しい人のようで、頭には木の皮を被り物にして載せ、竹の杖を突いて、藁の靴を履いたものだった。
その兄は妹の領主夫人やその他の人々に見送られ、深い眠りに意識を飛ばしていたのでその絵は非常に高価なものだった。
ホテルマンはそこまで喋ると、「あとはあなたが考えてみてください。といっても、そんなに残ってませんが疑問を自分で解決していってください。」と締めくくり、そこで話は終わった。
僕は部屋に戻り、少し自分の考えをまとめた。
この話は、その時この県には貧しい人々たちが多くて物乞いもできず貧窮して歩いていたのを夫人の兄が見て、彼らを助けようとしたためにこんな貧しくみすぼらしい姿を取ってこの県自体をも良い県となるようにしたものだ、と。
実に滅多にない程の慈愛の心であろう。
この世の中の人々の習わしは自分が豊かになってから貧しい人を慈しもうと助けようと、いずれそうしたいなという願いだが、この話では本当に深い慈悲の気持ちからと思われて、非常に尊敬できる、尊敬するべきだ。
僕はこの話を思い返したとき、今この人はどこの国に、県に生まれ変わっているのだろうか、とよく思う。その場所でも貧しい人々を第一に考えてその国を豊かにしているのではないだろうか、とも。
これはとても慕わしいことだ。
現代版古文シリーズはこれのほかにもいろいろあります。ぜひ他の作品も読んでみてください。