第四話 初個人イベント『消えた神を探して』始動!
扉を潜った先は中庭だった。中心にはベンチが置かれていて日光浴にとってもよさそうな場所だ。こんなところでアルフと一緒にお昼寝したい、もふもふしたい。
中庭を突っ切って行くと、小さな礼拝堂に出た。長椅子が左右に三脚ずつ置かれている。
目の前にはステンドグラスから漏れた光を浴びる15体もの石造。と言っても大きさはそこまで大きくない。一番上段には私がいた大部屋の像と同じ物。そしてその下の段には十二体の神像、一人は子子さんだったのであれが十二神の神像なのだろう。そして三段目には一番右と真ん中に一体ずつ神像が置かれていた。
「どうぞお座りになられよ」
一番前の席に二人で腰を下ろす。
「この世界の始まりは、創造神様がこの世界を御作りになられた所から始まります」
ゆっくりと語り出すお爺さん。どこか心地よくてすっと頭の中に入って来る。
「創造神シアーロ様はこの世界を生み出し、この世界を任せるために十二の御使いを使わし見事御使い様はこの世の整地に成功し神に成られたのです」
「十二神は元々は神様じゃなかったのですね」
「そうです、整地した世界にはやがて様々な動物が生まれました。最後に創造神様が人族を御作りになられてこの世界は発展していったのです」
「今も発展して行ってるんですね」
「……いいえ、何百か何千年かこの世は停滞しています」
「そうなんですね」
「続けますね、人々は大いに栄え始めましたが、創造神様は試練を残されました。それが各地にいるモンスターです。モンスターに対抗するために闘神様と技神様を御作りになられて創造神様はお隠れになられました」
ゲーム的な解釈としては、先ず運営(神)がこの世界を造って、ゲームバランスの調整や手伝いの為に高度なAIを持つNPC(十二神)を作った。そこから更にスキルに特化した神(闘神、技神)を作って安定を図り、運営は裏方に引っ込んだってところかな。
「その後は魔王とモンスターとの戦いにより停滞しているというのが通説になります」
……戦いにより停滞ね、発展してもいいはずだと思うんだけどなぁ。
それにしても、この配置気持ち悪い。
「あの、神像はどなたが配置をしたのですか?」
「それは伝わっておりませんが、どの神殿でもこの並びですよ」
「なぜ三段目は左右に配置されるのではなくあのような配置に?」
私がそう言うと、すっと立ち上がるお爺さん。そして三段目の左に近づいて行く。
「此方を」
私もお爺さんに近づき、指定された地面を見る。そこは他の場所とは少しだけ色が異なっていた。どちらかと言うとその場所だけ元の色と言った方が正しいだろうか?
「元々此処にも何かあったという事なのですか?」
「……」
実はもう一つ気になっている事があるので聞いてみる。
「闘神とは何を司っているのですか?」
「闘神様は武技を司っているのです」
武技だけ? 戦いそのものを司っているならまだしも、武技だけというのはおかしい。でもこの何かあった後が答えな気がする。
「じゃあ魔法を司っているのはどなたなのでしょうか?」
「椅子に戻りましょう」
お爺さんはゆっくりと椅子に腰かけて創造神の像を見ている。
「消された神という話があります」
「消された?」
「えぇ実際に神が消されたのか、それとも我々の記憶を消されたのかはわかりませんが、古くからの言い伝えです……しかし神殿はこれを否定しておりますので、あまり大っぴらに言えることではありません」
「ではその消された神というのが?」
「推測ですが魔を司っているのではないかと、特にこの街ではそう信じている物が多いのです。この街は元々とある神との関係が深かったそうですが、それ以上の情報は何もありません。この神殿もその神の家として作られたという話もありますが、文献はありません」
「無さすぎるので、逆にここはその消された神にゆかりの地ではないかということですね」
「そうです。そしてもし魔を司っているのだとしたら、魔神となります。響きとしては不穏ですね」
確かに魔神ってなんだかちょっと悪いイメージがある。でもその魔が魔王の魔ではなく魔法の魔だとしたら警戒することは無いと思うんだけどね。
「気になるようでしたら、本屋をご紹介します」
「本屋さん?」
「そこは不思議な本があったりするのです、此方です」
おじいさんのポケットから出た紙を渡される。受け取るとそれは消えて地図が点滅する。どうやらその本屋さんの地図を貰ったらしい。
「ではそろそろ戻るとしましょう、他に何か聞きたい事はありますか?」
「そうですね、私の他にこのことを聞いた方っていますか?」
本屋さんでかち合ってもなんだかちょっと気まずそうだし。だってこれ絶対にイベントだよね。
「神様の話を聞いた方は何人かおられますが、そこから消された神のお話をしたのは貴女が初めてですよ」
お爺さんはにっこりと笑って去っていった。
一応拝んでから私も後に続いた。
神殿を出たらインフォが鳴る。
<イベントクエストを開始しました。メニュー内のクエスト画面からご確認いただけます>
確認してみると『消えた神を探して』というタイトルで、本屋に行ってみようとなっていた。地図に意識を向けると目の前に広がるので、それを頼りに進む。場所は赤いマーカーで丸がしてあるので分かりやすい。
神殿から南に行き、二つ程大道りから離れて小さな路地を歩く。
辿り着いた場所は本当にただの一軒家のような佇まいだった。
間違えたかな? と思いながらもノックしてみる。
「あいとるよ」
中からはしわがれた女性の声が聞こえてきた。
「お邪魔します」
恐る恐る入ってみると、中にはぎっしりと詰まった本棚が幾つもあり、右側にはいくつもの本が積まれていた。そんな積まれている中で椅子に座りながら本を読んでいるお婆さんがここの店主なのだろう。
「何かようかい?」
「あの、神殿のお爺さんに消えた神様の話なら此処がいいと教えていただきまして」
「ほぉ、あのジジイの紹介か、それじゃあアレかね」
お婆さんは近くに積まれている本から三冊の本を私に向けた。中に上がって本を踏まないようにお婆さんから本を受け取る。
「そいつは非売品だがここで読んでくぶんには貸したげるよ」
「では読ませていただきます」
本は全て絵本だった。
一冊目は先ほどのお爺さんの説明を聞いた物と同じだった。よく読めばこれ上中下の三部作になっている。中の物語は魔王の話だった。内容は神様になり損ねた人物。もともと闘神、技神、魔神は人の中でも各々最も精通している人が神へと昇格したらしい。だが魔神は神の力を私欲に使い神から只人に堕とされてしまう。それを怒った魔王は今も神様に復習しようとしているらしい。
下は魔神の話だった。実は魔神の候補は二人いて、一人が只人に堕とされてしまったので新たにもう一人の候補に白羽の矢が立ったという。もう一人は魔王を弱体化させるためにこの世から本当の魔法を取り上げた。その結果、魔法を封印する代償として自らも人々の記憶から消えてしまったらしい。
「……これは本当のお話なのでしょうか」
「さぁてね、そいつの作者も名前だけじゃ探す気にならなくてね」
「名前」
作者の名前は知らない文字だったけれども何故だか読めた、絵本の中身は日本語だったのに。
ゴ・フレドというのが読み取れた名前だ。
「その作者の本を探していた時期もあったがね、どうもそいつはこの三作以外は作ってないらしい、元々無い本なら興味はないね」
「成る程、ありがとうございました、勉強になりました。因みに他にもおすすめの本はありますか?」
「ん? ……お前さんは冒険者か、魔法系? いや剣?」
「どっちも使います」
「ならこれはどうだい?」
またまた近場から取り出された本、そこには楽しい錬金というタイトルの本が。
「これって」
「錬金のレシピがちょっぴり乗ってる本だね、今はこれくらいがちょうどいいだろうさ」
立ち読みさせてくれたお礼もかねて買おう。
「おいくらですか?」
「3000Gでいいよ」
「……わかりました」
お金と交換で本を手に入れた。
本はアイテムボックスに仕舞う、後で読んでみよう。
「それでは」
「じゃあね」
本屋さんを出るとまたインフォが届いた。
<『消えた神を探して』に進展があります、メニューよりご確認下さい>
確認すると、本屋さんに行くはクリアになっており、その次はゴ・フレドを探してという内容に変わっていた。でも本関係でダメなら何処から探せばいいのだろう? そもそも苗字があるから偉い人なのかな?
伝手も無いしギルドに行ってみよう。
ギルドの中は未だに多くのプレイヤーで賑わっていた。特に報告もないけれど聞きたいことがあるのでカウンターに並ぶ。並んでいて気が付いたけれども、カウンターで話している人の声がざわざわとしか聞こえない、至近距離なら内容も聞こえていい気がするけど、個別依頼のイベントの進行とかで聞こえないようになっているのかもしれない。
「完了報告か?」
一番空いているおじさんのところに並んだ、おじさんに首を振って応える。
「聞きたいことがありまして」
「ん?」
「ゴ・フレドという人を知ってますか?」
「ん? 知らねぇなぁ。人探しなら俺よりも二階のキールに聞いた方がいいぞ」
「二階ですか?」
「二階は資料室だ、冒険者ならだれでも立ち寄れる」
「分かりました、ありがとうございます」
御礼を言って階段を上る。二階は小さな図書室になっているようで、本の独特な匂いがする。そう言えばあの本屋さんではこの匂いはしなかったけれども、どういう事なんだろうか。
図書室に入った所の直ぐそばにカウンターがあり、眼鏡をかけた神経質そうな見た目の男性が本を読んでいた。ちょっと話しかけるのを躊躇うが、折角の初イベントなので頑張って話しかけてみる事にした。
「あのぉ」
「はい? 何か御用ですか? 冒険者に必要な技能のお勧めなら先ほどそちらの用紙に纏めましたので好きに見てください」
どうやら必要な技能を聞く人が多かったようだ、私も後で見てみよう。
「ではなくてですね、実はゴ・フレドという方を探していまして」
「は? ゴ? ですか? 今の世の中にはいないと思いますが?」
「え? なにかご存じなのですか?」
どうやら当たりっぽい!




