第十五話 タイムアタックのせいでレオラ師匠が降臨しました
「掲示板に載ってない進化先が出ちゃったけど、いまいちその理由が分からないってことですね!」
「はい、うちのブレアが特別なのかそれとも何かキーがあるのかわかりません」
「取り合えず掲示板に書き込む事をお勧めしますな」
「ですよね……頑張って書きます、コントラクターの板はモフモフ同士の為に何とか頑張ってかけるんですけど、それ以外が」
「もし書き込みたい情報あったら私が代筆しますよ! 点数稼ぎです!」
「ありがとうございます」
「掲示板の様子はどうですかな?」
コントラクター板は他と比べると賑わっていないけれども、それでも常時人がいる。今も私の書き込みで段々とスレの進むスピードが上がっている。
「やっぱり皆さんコボルトウォーリアーになっているみたいです」
「掲示板でも聞かれていると思うけど、何か特別な事してないんですか?」
「特別……うーん、私初めてなので何が特別で何が特別じゃないのか……」
「ではブレア殿の最初のご様子はどのような感じでしたかな?」
ズグルさんとけんざんさんも一緒に掲示板を見て考えてくれている、ありがたい。
「えっと、モフモフで目が血走っていて涎が垂れてて、普通のコボルトと変わりはないと思うんですけど」
「レベル上げは基本どこでなさいましたかな?」
「ボスオークの所です」
「先ずは第一の可能性として書いてもよろしいですかな」
「あっ、このことに関しては許可いらないので、お願いします。私だと気が付かない事とかもありそうですし」
「任されましたぞ、では……ふむ、どうやら他にもボスオークで進化した者がいたようですな、結果としてはウォーリアーでしたが。では次に行くのですな」
「んーじゃあ最初会った時と進化した時の違いはありますか!」
「えっと、最初は全然撫でさせてくれなかったのが、進化前は甘えてくるようになってました。それに多少毛並みも良くなって、ガリガリもちょっとだけ緩和してました」
「成る程! かきかきっと…………おっ、その情報はないみたいですね! 何をしたらその状態に?」
「ご飯を上げました」
「ご飯、ですかな?」
「はい、やっぱりモフモフのご飯は私が作りたかったので、料理してあげたら皆沢山食べてくれて。ブレアも勢いよく食べてましたし、餌付け効果? で距離もぐっと縮まりました」
「……それかな!」
「……それですな!」
「でも不思議ですね、掲示板で懐き度みたいなのは無いって結論だったと思いますけど」
「多分特定のモンスターにだけ用意されてるデータがあるんじゃないですか!」
「その意見には同意ですな、若しくは他に切っ掛けがあるのか……掲示板も盛り上がっているようですな。それと、料理の件で出どころが知れてしまったようですからな、しっかりと気を付けておくことをお勧めしますな」
あっ、そうじゃん。あの時料理作って注目浴びてたのに、料理にコントラクターで私に結び付けるのなんて簡単じゃん! 迂闊! でもこれも同士の為だ……人が近づいてきそうになったら出来るだけ避けよう。うん、そうしよう。
出来るだけ人に会わないためにはどうすればいいのか?
そう考えた結果、私はボスオーク周回をその日することに決めた。
いつものようにセーフティーエリアまで行くと、私をロックオンして近づいてきた人がいたので速攻でフィールドに入った。
料理はボスを斃した後にフィールドで、いつ追い出されるか分からないけれども今のところいきなりボスフィールドから通常フィールドに戻ることは無いので割かしゆっくりしている。
ゆっくりしてから、速攻でフィールド間を出て入ってしているので、人と話す事は無い。嫉妬とか、情報とか、何かを初めてこなした人はVRMMOでは絡まれる可能性があるって沙織に聞いていたから、そういう人に会わないようにしている。
翌日、ゲームにインすると、皆どことなく浮足立っていた。
私は昨日溜めこんだ皮やらを売るためにけんざんさんに連絡を取って、いつもの場所で待つことにした。
ありがたいことにけんざんさんは直ぐに来てくれたけれども、今後は集合場所を変えるかもと言われた。此処も人が多いから妥当だよね。
「今日はなんだか皆さんそわそわざわざわしてますね」
「あれ? 運営メール見てないのですか?」
「メールですか?」
メニューを開いてみると、確かに運営からメールが届いていた。全然気が付かなかったよ。
内容は、第2陣が来る前の小イベントの告知と、2陣が来てから直ぐにあるイベントの案内だった。
前者の方を纏めると、折角1陣を獲得した運のいい皆さんの為に、1陣記念メダル的な物を配布するのと、イベント専用ボスのタイムアタックだった。タイムアタックの相手はオーク・プロトタイプという奴らしい。なんでも、ボスオークのレアとして稼働させていたけれども、バランス的に無しになったモンスターらしく、勿体ないからイベントで使うらしい。そこまで書かなくてもいいと思うけど運営……。
期間は今日の現実時間で正午から、第2陣が来る前日まで。アイムアタックは全体と各職業別でランキングが発表されて、両方5位までなら商品がでるらしい。商品に関してはお楽しみで教えてはくれないらしい、残念。
後者の方は、2陣受け入れの翌日に開始するらしい。内容はフィールド探索だ。珍しいモンスターやダンジョンがあるらしいので、私も楽しみだ。もふもふいるといいなぁ~。
「生産職としても、新しい素材は見逃せないです! それに、2陣でいつも組んでる生産チームのメンツがまた来れる予定なのでどうぞ今後ともご贔屓に!」
「そうなんですね、私も友達が2陣なので紹介します」
「おぉ! ありがとうございます! 大歓迎です!」
あーでも、沙織は知り合いの生産者とかいるのかな? まぁでも一回は紹介しておこうかな、折角だし。
取引も終わり、これからボスに行こうと思ったけれども、折角ならイベントを待ってみよう。それまでは料理の作り置きをば。
気が付けばイベント開始のワールドアナウンスが! 場所は神殿から飛べるらしい。
生産施設を出ると、私と同じ目的地の人が沢山……そして神殿に近づくとディスプレイが浮き上がり、イベントフィールドに飛ぶかどうかの可否申請。もちろんイエス。
周囲はボスオークがいる場所と同じような森のフィールド。私は皆を召喚してその時を待つ。
<それではカウントを開始します、3、2、1、スタート>
スタートと共に森の奥からオークが現れる。体躯はコマンダーと同じだが、コマンダーよりも刃渡りの長い剣を持っている。しかもコマンダーよりもスピードがある。絶賛此方に向って疾走してきている。ただお供がいないので楽と言えば楽だ。
イベント中に減ったHPMPは帰還時に元に戻っているらしいので出し惜しみ無し。先ずは全員に補助魔法、この補助もなんだか久しぶりな気がするなぁ。
私は取り合えず観察かな。
やっぱりコマンダーよりも攻撃力とスピードが上がっているようだ。外皮も硬いままなので結構大変かもしれない。モーションはコマンダーと似ているけれども、中段ではなく上段と下段に構えて振り下ろしと上げ。基本は中段に構えつつ上段に持って行くか下段に持っていくか、若しくは突きが来るか。上段に移行中もモーションみたいなものなので、コマンダーよりも分かりやすいと言えばわかりやすい。
突きのタイミングもコマンダーと同じなので、上位互換だ。きっとこれでもある程度性能は削ってあるのだと思うけど。
じゃあそろそろ落そうかな。基本はオークコマンダーと一緒だしね。
イベントフィールドから戻って来て一息。タイムを縮めるなら、防御を捨てて皆で叩くのがいいのか、しっかりと役割を決めて叩くのがいいのか。悩むなぁ。
でも一つ案が無い事もないんだよね。
『すいません突然コールしてしまって』
『気にしないで!』
『けんざんさんは盾を御作りになられていますか?』
『一応あるって程度かな! 金属鎧の本職は2陣で来るからある程度くらいしか育ててないんですよ』
『全然かまいませんので、大き目の盾を一つと、鉄製でいいので剣を一つ頂けないでしょうか?』
『いいですよ! じゃあ生産施設前に来てください!』
『すいません、ありがとうございます』
急いで生産施設前に行くと、既にけんざんさんはそこにいた。
「すいません、お待たせしました」
「気にしないでください! ではこれですね」
ディスプレイが現れてトレード画面へ、盾と剣を買って御礼を言う。
「イベントですか! 頑張ってください! それにしても盾をモンスターちゃんに持たせるんですか?」
「はい、受け流して殴るでも蹴るでも盾があるといいかなと思いまして」
「成る程! そうなるとやっぱりモンスターちゃん用の装備の方も本格的に進めて行かないとだめですね! 思ったよりも早く必要になってきそうです! ズグルにも連絡しとかないと! 良かったらこれ試作品だけど使ってください!」
「それは凄く助かります。それにいいんですか? これ、籠手と足装備……」
「試作品だから大丈夫! それじゃあ私はこれで」
「すいません突然、ありがとうございました」
やっぱり忙しかったみたいだ、申し訳ない事をしたな。後で私に出来る事なら何か恩返ししないとね。
イベントフィールドに向かうのではなく、普通に街の外に出る。いつもならもう少し人がいるのだけれども、今日は皆イベントに行っているのか、人が少ない。
更に人目のつかなそうなところに移動してから、先ずナードに盾を渡す。そしてブレアには剣を。それから貰った装備品も一応つけてみる。
「二人ともそれ使える?」
ブレアは上下に剣を振っているので、使えそうではある。ナードはやり方が分からないようで、盾を持って首を傾げている、可愛い。
「じゃあ先ずブレアね」
身長は私の腰上くらいしかないので、膝立ちになって後ろからモフモフを堪能しつつ、振り方を教える。
「そう、そのままで振っててね」
筋がいいのか、それともモンスターAIだからなのか、直ぐに覚えてしまった。
「ナード、もう少し腰を下ろして、そうそう、あっそれじゃあ落としすぎ、うんうんそこ」
次はナードのレッスン。盾は私も苦手だけれども、一通りなら出来る。
「それじゃあ私がオークと同じような事をするから受け流してね。本当は受けきるものだけど、受け流したらそのまま殴りに移行してもいいからね」
初期の耐久値の無い剣を取り出して中段に構える。ナードも仁王立ちになって此方に盾を構えている。でも身長差があるので同じようなのは難しいけど、それでもある程度似せるくらいなら出来る。覚えるのは実戦で! 私もそうやって覚えてきたからね!
「いくよ!」
中段から上段に、そして近づいて振り下ろす。
ガキンッという音と共に剣が止まる。
「もうちょっと滑らすように、こうね」
盾を動かしながら何度も繰り返す。
漸く捌けるようになってきたけどまたまたこれからだ。それじゃあレッツプラクティス!




