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Hidden Talent Online  作者: ナート
5章 魔法都市へ向けて
93/148

5-11

この後、5章のエピローグも投稿します

(1/2)

 日曜日の朝をゆっくりと満喫していると、伊織から連絡が来ました。なんでも、何人かの都合が悪いとかで夜に挑むことになったそうです。そのため、前もって準備はしっかりとしておいて欲しいとのことでした。まぁ、前もって出来ることはしたので、装備の修理を待つだけの状態ですから、ハヅチに生産をする時間が出来たことを喜びましょう。





 午後のログインの時間です。お昼の時に葵から聞いたのですが、今のところは東側のボスについての情報を公開しているプレイヤーはいないそうです。つまり、もしかしたらもしかしてしまうとのことでした。

 まぁ、挑むのは夜なので、ちゃっちゃとログインしましょう。


 テロン!

 ――――修理アイテムが二件届きました。――――


 シェリスさんに頼んだものと、ハヅチに頼んだものの両方が送られてきていました。外套と手袋はまだ出来ていないということだと思いますが、時間はまだ十分にあります。


「こんー」


 装備を付けながら挨拶をすると、みんな準備で忙しいのか人があまりいませんでした。私の準備は終わっているので日課をこなしましょう。


「なんだ、もういたのか」

「んあ? ああ、ハヅチ。ボスの準備は終わってるけど、日課があるしね」

「そうか。ああ、装備、今から作るから、期待しとけよ」

「ふっふっふ、期待はとっくにしてるよ」


 ええ、いつ出来るかはともかく、その内容にはいつも期待していますよ。私の好みに関する情報を多く持っているハヅチですから、任せられますし。

 日課をこなしながらちょろちょろとログインしてきたり戻ってきたりするみんなから頼まれてポーションや料理を作って過ごしていました。お裾分けやお駄賃代わりにレシピを貰ったので、調合や料理で困ることはまだしばらくなさそうです。

 ちなみに、私の作る消耗品は基本値のものばかりなのですが、鞄のおかげで所持数に余裕があるため、数値が高いのはここぞという時用があれば十分だそうです。

 しばらくしてハヅチが工房から出てきました。


「お待たせ」

「出来たの?」


 待ちに待っていましたが、ここでそれを表に出してはいけません。すぐに出来たのと聞いている時点で手遅れかもしれませんが、それでもです。


「ああ、申請出すぞ」


 ハヅチからトレード申請が来たので中身を確認すると、外套と手袋が表示されています。


――――――――――――――――

【魔女志願者の外套・二式】

 魔女を目指す者が身に着けているローブ

 内側には赤い布が使われている

 耐久:100%

 防御力:▲

 魔法防御:▲

 INT:▲

 MP:▲

 MP回復量:▲

――――――――――――――――

【魔女志願者の手袋・二式】

 魔女を目指すものが身に着けている手袋

 耐久:100%

 防御力:▲

 魔法防御:▲

 INT:▲

 MP:▲

 MP回復量:▲

――――――――――――――――


 2つとも外見に大きな変化はありませんが、ローブの内側が帽子に巻かれている布と同じ色になっています。そして、帽子があるために使われることのないフードは健在です。おやや、このローブの内側の左胸の方にはポーションを何本か忍ばせることが出来る様になっています。反対に右側には普通の内ポケットがあるので、ちょっとした物を入れられそうですね。こういう部分に刻印すればウェストポーチの代わりにインベントリの小を使えるように出来るかもしれません。今度その内気が向いたら実験してみましょう。


「手袋の方にはなんにもねーぞ」


 おや、期待を込めていろいろと見ていたのですが何もないようです。まぁ、ここにポーションを仕込んでもすぐに壊れてしまいますよね。


「このローブも手袋もいいよ、いい感じだよ。ありがとね」


 忘れないうちに魔力付与をしておかないといけません。他の装備は定期的にMPを供給していましたが、ボスに挑む予定なので、満タンにしておきました。

 そして、手袋は装備切り替え欄の課金枠に入れますが、外套は夏装備が入っているので、インベントリにしまっておきましょう。

 この後、新しい装備を着た状態でヤタと信楽をお供にしてセンファストをぶらぶらしてからログアウトしました。





 夜のログインの時間です。前もって集合時間を決めていましたが、それより前に全員揃ってしまいました。


「よし、全員そろったな。忘れ物が無いか確認したら出発するぞ」


 ハヅチの合図で全員が確認を終えてから移動を開始しました。

 中間ポータル【魔の森】へとやってきました。私は時雨パーティーに入っているので、いつもの様にグリモアに合わせて魔法を使うだけです。


「出発前にもう一度確認するが、右側と前を俺達が、左側と後を時雨達が担当する。やばくなったら声をかけるように」


 ホワイトウルフの群れを抜ける時と同じ方法らしいのですが、私はやっていないので今回が初めてです。まぁ、木の上から見た限り、どんなに多くても一つの群れは6体までなので、何とかなるでしょう。


「リーゼロッテ、ちょっといい?」


 出発直前に声をかけてきたのはモニカです。何をするのかは知りませんが、手を怪しげに動かしながら私の両肩に手をかけました。


「どしたの?」

「ふっふーん。【アンダーエスティメイト】」

「ぐあー、やられたー」

「はいはい、二人共、行くよ」


 何だかわかりませんが、やられたふりをしようとしたのですが、倒れ込む前に時雨に捕まり、立たされてしまいました。何かをしたモニカはすぐに前に行ってしまったので、何をしたのかはよくわかりません。まぁ、HPやMPの辺りに見たことのないアイコンが増えているので、それを見ればわかりますね。


「あー、ヘイト低下系のバフか」


 そのアイコンに視線を合わせて詳細を表示すると、攻撃によるヘイト増加量を低下させると書かれています。確か、攻撃時にヘイトを増加するスキルがあったので、あれの逆なのでしょう。前に時雨が受け持ったMOBのタゲを奪ってしまったので、気を利かせてくれたようですね。

 そこまで長持ちするバフではないので、こまめにかけ直す必要はありますが、戦う回数が半分ですむはずなので、維持できると思いましょう。






 少し時間はかかりましたが、例の広場が見えてきました。モニカから貰ったバフはなかなかに有用で、下手にタゲを奪うこともありませんでした。道中では、オークの群れ一つ一つを余裕を持って確実に処理している所に複数の群れが多方向から攻めて来たので焦りましたよ。まぁ、魔法職が4人いるので、ボム系を使ってタゲられるのもお構いなしに強引に殲滅したので、ことなきを得ましたが。


「さて、他のプレイヤーはいないみたいだな。複数で来れば案外来れるのに」

「まぁ、ワールドメッセージを流したい人が多いんじゃないの? それで、どっちから挑む?」


 ザインさん曰く、ここまで来れるプレイヤーなら倒せる相手とのことでしたが、私達は2パーティーでここまで来ています。なので、倒せるプレイヤーに該当するかは微妙なところです。

 ハヅチ達が石版を見ながら順番を話し合っています。それを尻目に何人かはメニューとにらめっこです。なぜなら。


 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――

 【鉄魔法】がLV50MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【結晶魔法】 SP5

 【鍍金魔法】 SP5


 【冥魔法】がLV50MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【災禍魔法】 SP5

 【暗黒魔法】 SP5


 これらのスキルが取得出来ます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 こんなことになっているからです。他のみんなも何かしらのスキルが取得できる状態だったり、新しいアーツを覚えたりしているらしいので、手早く取得と確認をしたハヅチ達が話し合いを担当することになっているわけです。

 とりあえず全部取得したところ、所持SPが200を切ってしまいました。ヤタと信楽のなつき度が100%になったら一気に減るとは思いますが、普通にプレイしていてここまで貯まるゲームも珍しい気がします。

 さて、気を取り直して取得した魔法についてです。結晶魔法ではクリスタルボムという鉄属性のボム系を覚えたので、こちらが攻撃系ですね。鍍金魔法ではメタルコートというちょっと変わった魔法を覚えました。これは触媒に使った金属によって性能が変化するらしく、時雨から銅を借りて試してみたところ、物理防御力が少し上がり、雷属性耐性がダウンしました。要するに、その金属の特徴を得るということでしょう。

 次に、災禍魔法ですね。最初のアグラベイションですが、これはちょっと便利な魔法です。ピュリフィケイションの闇版とも言える一部の精霊系MOBの確率即死に、かけられているデバフの悪化、つまり、効果を高めることが出来るそうです。最後に暗黒魔法ですが、これはブラックボムを覚えたので説明不要ですね。


「あ、これ別エリアに転送されるのか。順番関係ねーじゃん」


 魔法陣を知るために試し打ちしていると、ハヅチが何かに気付いたようです。

 詳しく聞いてみると、石版の近くでなら観戦用エリアに移動することも出来るそうです。


「そんじゃ、同時に行くか」


 情報が欲しくもありますが、何も知らずに突っ込むのも楽しいので同時に挑むことになりました。


 ピコン!

 ―――System Message・エリアボス【オークサージェント】を解き放つことが出来ます―――

 魔法都市の門前に立ち塞がる【オークサージェント】と戦うことが出来ます

 【オークサージェント】を解き放ちますか?

 【はい】 【いいえ】

 ――――――――――――――――――――――――――――――


「失敗したらクランハウスで情報交換な」


 ハヅチの合図でパーティーリーダーになっているハヅチとアイリスが【はい】を押しました。

 一瞬の暗転の後、円形に芝が刈り取られた草原の中心へと移動していました。60秒がカウントされており、オークサージェントの出現位置が示されています。流石に近くで出現を待つつもりはないので、バフを掛けながら出現位置の反対側へと移動します。モニカの【アンダーエスティメイト】は触れている相手にしか掛けられないそうなので先にかけておいてもらいましたが、掛けた本人はオークサージェントの相手をしなければいけないので、維持は期待出来ませんね。まぁ、取り巻きが無限湧きでないなら維持し続ける必要はなさそうですが。


「取り巻きがいた場合は、私と時雨で受け持つ。出現数はわからないが、始めは取り巻きを優先し、無限にある程度続くと判断した場合は本体を優先してくれ」


 相手の階級は軍曹なので集団行動をされるととても面倒な相手のはずです。簡単に倒せる取り巻きで無限湧きされてもとても厄介ですね。さて、どうなることやら。

 準備が出来たのでカウントが0になる前に開始です。


『BUHIIIIII』


 雄叫びとともに一体のオークが出現しました。オークサージェントという名前ですが、その装備は蛮族風で、流石に腰ミノだけということはないようです。


『BUHHIHHI』


 今は演出中なので動けないため増援のオークが出てくるのを眺めていなければいけません。その数は5体で、剣と弓持ちが2体ずつに、杖持ちが1体、遠距離主体のようで厄介な相手ですね名前もオークサーバントという名前なので、フィールドにいるオークよりも強そうです。

 オークサージェントを含めて6体のオークが揃ったところで戦闘開始です。


「【ハウル】」


 まずはモニカが6体全てにヘイト増加のスキルを使いました。時雨とアイリスが取り巻きは受け持つと言っていたので別のスキルでタゲを取ると思っていたのですが、どうやら一度全部惹きつけるようです。私はグリモアの指示で杖持ちの個体から対処することになりました。ちなみに、オークサージェントにはHPバーがあるのですがオークサーバントにはHPバーがありません。共通だとは思いたくないので、扱いが一般MOBだということにしましょう。


「属性ないよ。【フレイムランス】」


 閃きを使って最大火力で杖持ちを叩きます。遠距離というだけで厄介なのに、範囲攻撃などをされては面倒ですから。


「【フレアレーザー】」


 私から少し遅れてグリモアが火炎魔法の3本の赤い光を放ちました。魔法陣のスキルレベルの差があるにしても時間がかかっていると思ったら、使っている魔法自体が違うわけですか。


「ボムの次、使えるんだ」

「火炎を放つ魔法のみ、我は一つ先へ進んだ」


 えっと、火炎魔法だけはLV15を超えたということでしょう。1属性だけでもレーザー系がつかえるのなら、ヘイト減少のバフはグリモアにつけるべきだったのかもしれませんね。モニカが知らないとも思えませんし。

 ちなみに、私はヘイト減少のバフの効果を信じて魔法陣を描いている間などに発動出来る時は【沈黙眼】を発動しています。けれど、成功する様子がありませんね。塵も積もればなんとやらといいますので、この辺りで見切りをつけておきましょう。


「沈黙耐性高いのかな」

「我らも高いはずだ」


 まぁそうですよね。沈黙の耐性に影響するステータスを考えれば魔法職は耐性が高いものです。それを考えるとオークメイジが特別低かったのでしょう。

 しばらくすると剣持ちの1体をアイリスが、弓持ちの1体を時雨がタゲを持っています。杖持ちは完全にグリモアを狙っているのですが、もう虫の息です。

 それでは手早くとどめを……おっと。


「【アンチショット】」


 これ、予想以上に使い勝手がいいんですよね。私のバフが消えるというデメリットはありますが、詠唱でも魔法陣でも発動までの時間が短いですし、魔法の発動を妨害することも出来ます。こちらは魔力視で詠唱しているかどうかがわかるので空打ちということもありませんし。


「魔導を操りし者は我らが排除した」

「時雨の弓持ちをお願い」


 時折回復していたこともありモニカはまだ大丈夫のようで、先に遠距離個体を倒して欲しいようです。


「弦は切ったから、思う存分叩き込んでいいよ」


 時雨はなんと弓持ちオークの装備している弓の弦を切っていました。そのためかオークが暴走……というか、無闇矢鱈に暴れているようにも見えますね。まぁ、弓を振り回しているだけなので、遠心力で振り回される弦に気をつければそれほど苦戦する相手ではないようです。

 ………………

 …………

 ……

 特に苦労せず取り巻きを倒しきりました。合間合間に少しずつ本体であるオークサージェントも削っていたので一割くらいはHPが減っています。行動パターンは難しいものではないようで、モニカは的確に盾で身を守っているため、HPが大きく減ることはありません。とはいえ、切れているバフを貰いに行けば私がやられてしまいますね。


「【アグラベイション】」


 一通りデバフを掛け直したので最後に覚えたての魔法を使ってみました。すると、デバフのエフェクトに黒い病的なエフェクトが混じっています。HPバーが見えるとは言え、膨大なHPを持つボスです。そのため、防御力がどれだけ下がろうとも、目に見えるほどの効果は出なさそうですが、勢いよくHPが減っている気がしなくもありません。

 まぁ、動きは更に鈍くなっているので、きちんと効果は出ているはずです。

 そのまま順調に削っていると、オークサージェントのHPが半分を切り、黄色へと変化しました。すると――。


『BUMOOOOO』


 おや、ブヒではないんですね。

 そんなことを考えていると、取り巻きの追加召喚が行われました。構成は先程と変わりませんが、体が大きくなっているので、強くなっているのでしょう。更に、黒い病的なエフェクトが混じったデバフが全て消えました。ここでデバフのリセットですか。


『BUHIHI』

「【アンチショット】」


 杖持ちのオークサーバントが何やら魔法を使おうとしていたので不発にしましたが、オークサージェントに触れながら何かをしていたので、放置していたら強力なバフが付いていたかもしれません。ありがちな解除不可とかがなくてよかったです。

 少し強くなった程度で崩れるようなことはなく、同じ手順で淡々と処理し、またオークサージェントを一人きりにしました。


「少し強くなって行動パターンが増えたけど、問題ないよ」


 使うアーツが少し増えたようですが、遠距離攻撃をしている私達には関係なく、モニカは問題ないと言っているので、心配する必要はないでしょう。

 オークサージェントの手にしている剣の種類はわかりませんが、前衛の三人は詳しいはずですし。

 順調にいけば次の変化は10%を切った時です。発狂モードにはいる合図でもあるので、そこは要注意ですね。


『BUMOMOMO』


 おや、魔力視に反応がありますね。


「【アンチショット】」


 オークサージェントは体が大きいので誤射の心配はありません。胸から上を狙えば大抵はがら空きですし。

 一度解除されてからもデバフは維持していますが、グリモアのフレアレーザーは結構なダメージが出ている気がします。中級スキルの単体魔法だけのことはありますね。


「そろそろだな」


 アイリスがHPの減り具合を見て危険域を示す赤色へ変化する前に注意を促しました。黄色へ変化した時に取り巻きが出現したのは初期位置からでしたが、次もそうとは限りません。いきなり背後に出現したら大変ですよ。


『BUHIHIHIBUUUU』


 おや、手にしている剣を掲げながら振り回しています。これは、何かの合図のようです。ちなみに、このモーションの間は攻撃してもHPが減っていないので無敵モードですね。魔力視にも反応がないので中断も出来そうにありません。

 モーションが終わると、オークサージェントに様々なバフがかかり、取り巻きが出現しました。魔法由来のバフではないようですが、折を見て試してみましょうかね。


「うわっとっと」


 急激な変化を見せたオークサージェントの一撃でモニカが後へ大きく下げられてしまいました。その上、しっかりと盾で防いでいるのにもかかわらず、HPがかなり持っていかれています。


「【ハイヒール】」

「【アンチショット】」


 グリモアがオークサージェントの動きを見て回復の準備をしていたので、私はあのバフを剥ぐのを優先しました。


『BUMO』


 けれど、オークサージェントの剣によりアンチショットが切り裂かれ、剥ぐことが出来ませんでした。それでも大きな隙を作ることには成功したので良しとして貰いましょう。


「あの取り巻きに注意してね」


 時雨が何かに気付いたようですが、何でしょうか。今までと同じオークサー……、オークサーバントではあるのですが、装備がしっかりしていますね。これは各ステータスも高そうです。


「モニカへの支援は厚めにかな」

「うむ、我も同じ考えを持っている」


 あらためて担当分けをした結果、私はデバフ担当になりました。アグラベイションがあるのが大きいですね。

 グリモアがフレアレーザーの他には闇と無属性の魔法を使っているので、この2つはまだカンストしていないようです。他にもあるかもしれませんが、目の前で便利そうな魔法を使われたら、私も欲しくなりますよ。まぁ、ランス系では中級スキルのレベル上げになりませんが、ここでボム系を使うわけにもいかないので、今回は諦めます。

 今までと比べ、時間がかかっていますが、少しずつ取り巻きの数を減らし、剣持ちが2体になりました。杖持ちが魔法を乱射してきたり、弓持ちの弦が切れなかったりと変化はありましたが、剣持ちが剣の二刀流になっているのを超える変化はありませんよね。時雨とアイリスはやりにくそうにしていますが、MOB限定でなければ二刀流スキルがあるということでしょう。何度か二刀流アーツと思われるものを使っていますし。

 そして、最後の取り巻きがポリゴンとなった時、オークサージェントに変化が訪れました。


『BUHIMOOOO』


 今度はなんですかね。特に魔法の反応はありませんし、増援が来る様子もありません。ただ、無敵モードで血の涙を流しています。

 おっと、デバフが全解除され、バフがかかりました。


「【アンチショッ――

『BUMO』

――ト】 ひゃ」


 デバフを剥ごうとしたらその辺に落ちていた何かを投げてきました。驚いたお陰で回避できましたが、ヘイト無視で後衛狙いなんてレイドボスとかエンドコンテンツでやるべきことであって、こんな街の開放ボスでやっちゃだめですよ。まったく。

 これでデバフが剥げていたらよかったのですが、アンチショットが命中しているにもかかわらず、バフがかかったままです。ちなみに、デバフも無効化されましたが、後衛狙いの投擲攻撃はなかったので、バフ解除にのみ反応する特殊行動なのでしょう。血の涙を流しながら強化しているのですから、解除されたくないわけですね。

 それにしても、取り巻きがいないので攻撃が集中できているとはいえ、HPの減りが早い気がします。


「かの部隊を預かりし者、己が命を燃やし戦っている」


 一番最初に答えを出したのはグリモアでした。えーと、オークサージェントはHPを消費しながら戦っている、でしょうか。


「そっか。このバフの維持にHP使ってるんだ」

「じゃあ、時間の問題?」

「そうだと思うけど、流石に自滅を待つのはね。止まるかもしれないし」


 時雨達はそんな消極的な行動は取りたくないようで、果敢に攻めています。まぁ、戦法としてはありですが、それは女が廃るというものですよ。それに、ハヅチ達が先に倒したら、姉の威厳にも関わりますし。


「よーし、とっておきはないけどやってみようかな。グリモア、フレアレーザーのクールタイムは大丈夫?」

「刹那の時があれば、合わせることは可能」


 えっと、もう少しで終わるから、合わせられる、でしょうか。


「そんじゃ、私の魔法の後にお願い」


 付与魔法は詠唱で発動してもすぐに発動します。ええ、この魔法、使う触媒によって効果がかわるだけでなく、詠唱も違うという設定らしく、魔法陣が使えないんですよね


「みんなの攻撃、無属性だよね。……【アーマーエンチャント・ゲイル】」


 オークサージェントから緑色のオーラが吹き出しました。

 インベントリに1個だけあった【緑色の水晶】を消費し、オークサージェントへ風属性の中の付与が成功した証ですね。これで、火属性ダメージがかなり増えるはずです。みんなは属性攻撃をしている様子はありませんでしたし、グリモアは火と闇と無だけでした。私も属性を合わせれば問題ないので、ダメージが減る理由はありません。


「汝に感謝を【フレアレーザー】」


 風属性の相手に火属性の魔法はよく効きます。その証拠に、オークサージェントのHPが目に見えて減った気がします。勝手に減っているということもあり、文字通り時間の問題ですね。


 ピコン!

 ――――World Message・エリアボス【オークサージェント】が倒されました――――

 プレイヤー・【ハヅチ】率いるパーティー【いつものめんめん】によって、エリアボス【オークサージェント】が初討伐されました。

 【オークサージェント】に阻まれた街【マギスト】が解放されました。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 動揺のあまりに動きが止まってしまいました。けれど、そんな初歩的なミスをしたのは私だけで、みんなは何事もなかったかのようにボス戦を続けています。慌てず落ち着いて集中し直しましょう。ハヅチ達が倒せましたし、HPの残りわずかなんですから。

 しばらくして、オークサージェントが手にした剣を落としました。


『BU……MO……』


 その声と共に、空中に文字が現れました。


 ――――Congratulation ――――


「やったか?」

「リーゼロッテ、それフラグだけど終わってから言うセリフじゃないよね」


 ちょっと言ってみたかったのですが、流石に倒す前には言いたくありませんよ。


「直したばっかの盾がボロボロだよ」

「モニカ、ボスを抑えきってくれてありがとう」

「……つか、れた」

「我らの勝利だ」


 最後の最後で集中を切らせてしまいましたが、何事もなくてよかったですよ。もしあそこでモニカがHPを大きく減らしていたら反応出来た自信がありませんし。


「あ、ハヅチ達に先こされちゃったんだ」

「結構ギリギリだったけど、気付いてなかったの?」

「……戦闘中は設定で出ないように出来るよ」


 おう……。何ということでしょうか。時雨達が集中していて気付かなかったのではなく、表示されていなかったわけですね。そんな設定があったとは、知りませんでした。


「後で設定方法教えて」

「いいよ。とりあえずハヅチ達が待ってるはずだから、行こ」


 中央に出現した台座に触れることで元の場所に戻ることが出来ました。そこには、街に入らずそのまま待っていたハヅチ達がいました。ハヅチが何とも自慢げな顔をしているのが癪に障りますね。いっそのこと、後で折檻しましょうかね。


「負けちゃったね」

「ほとんど僅差だろ。いつまでもフィールドにいないで、街入ろうぜ」


 一度だけ私の方を見たハヅチはすぐに顔をそらしてそれ以降こちらを見ようとしません。そんなに私のジト目が怖いんですかねぇ。

 スキルレベルも上がっているので確認したいのですが、ポータルを開放してからということで、霧が晴れ、見えるようになったマギストの門をハヅチが開きました。

 そこには街の北側に大きな時計塔のある街並みが広がっています。そして、時計塔の対極には何やら大きな塔が立っていますね。一番上がドーム状になっているわけですが、あれは何でしょうか。


「置いてくぞー」

「あ、ごめん」


 2つの大きな塔に関して考えていたら置いていかれそうになってしまいました。何を考えるにしてもまずはポータルの開放です。

 ポータルは街の中心にあるので大通りをまっすぐ進んでいけばたどり着くわけですが、街の住人の大半が魔法使い系の格好をしていますね。私の記憶が正しければ魔法学院があるらしいので、制服なりローブなり、共通の何かがあるとは思うのですが、思い当たる装備が多すぎてどれかわかりません。

 中央には見慣れた地球儀のようなオブジェがあり、今はまだ沈黙しています。街に関しては開放した時点でワールドメッセージが流れるので最初にポータルに触れても何かが流れることはありません。けれど、ここは先程ワールドメッセージをながしたハヅチが最初に触れるべきです。それはみんなが思っているようで、ハヅチが触れるのを今か今かと待っています。


「あー、またメッセージか」


 先程から何か操作していると思っていたら、フレンドメッセージがき続けているようです。ハヅチは私と違いフレンドが多いようなので、こういった時は大変ですねぇ。


「よし」


 きりが良くなったのか、ハヅチがポータルへ手を伸ばします。すると、地球儀らしきものが浮かび上がり、ポータルが起動しました。軽く拍手をしながら私達もポータルを開放します。それが終われば反省会と情報交換です。

 会場はもちろんこのポータルがある広場です。私達以外にプレイヤーはいませんから、貸し切りですし。


「リーゼロッテ、後で情報まとめとくから、ザインさんとの情報交換は任せるぞ」

「えー、私がやるの?」

「当たり前だ」


 まぁ、情報はまとめてくれるらしいので、大人しくやりましょう。


「ねぇリーゼロッテ、何でボスの属性変更出来たの?」

「へ? 何が?」

「……その顔はわかってないよね。付与魔法の防御属性の変更はMOBには出来ないって言われてるんだよ」


 おや、どういうことでしょうか。


「ものは試しと思ってやったんだけど、普通は出来ないの?」

「出来ないはず」


 おかしいですね。なら、なぜ出来たのでしょうか。


「とりあえず運営にメールしとく」

「そうしといて」


 思わぬバグが見つかった可能性があります。まぁ、出来なくても倒せたはずなので、大丈夫だと思いましょう。

 その後はボス戦での出来事を話し、取り巻きやボスのアーツについてあーだこーだと言い合いました。まぁ、私が何度か発動前に潰したので、知らないこともありましたが。逆にキャンセル可能かどうかがわかっているということにもなりますね。


 テロン!

 ――――運営からのメッセージが一通届きました。――――


「あ、運営から返事が来た」


 えーと、何々、一部のボスに対して、付与魔法によるある程度高い属性値の防御属性の付与が可能になっていたということが長々とした文章で書かれています。要するにバグだったようですが、今回は知っていて利用したわけではなく、すぐに報告があったということで、問題ないそうです。これは公式HPで公表し10月のアップデートの修正内容に加えるそうです。つまり、公表されてから修正されるまでの間に同じことをしたら運営対応されるということですね。まぁ、結晶自体手持ちが少ないので私はそうそうやりませんよ。

 問題がなかったということを伝えると、時雨達が安堵の表情を見せました。これで巻き戻すのでボス戦やり直しなんて言われたら溜まったものではありませんね。そうなったら私が怒られますし。


「それじゃあ、時雨達の方はいいとして、問題はこのドロップだな」


 ここに来るまでに同じものがドロップしているのは確認しているのですが、【オーク軍曹のメダル】とは一体何なのでしょう。誰にも心当たりはなく、アイテムの説明にもフレーバーテキストにもヒントらしきものは一切ありません。素材ではないようで、まったくもって謎のアイテムです。


「リーゼロッテ、後でザインさん達にも確認しといてくれ」

「りょーかい」


 情報交換が私の担当になったので、ここは大人しく引き受けるとしましょう。

 その後はボス戦の具体的な反省会になったのですが、モニカとハヅチパーティーの盾職であるロウが何やら動きを再現しながら話し合っています。まぁ、前衛職の話にはついていけないんですけどね。そのため、私は魔法職で集まって話すことになりました。


「お姉様は無魔法の中級スキルをお持ちなんですね」


 最初に話し始めたのはハヅチパーティーの魔法使いの一人である花火です。普段は簡単な挨拶くらいしかしないので、隣りにいるヒツジも含めてこうしてちゃんと話すのは久し振りな気がします。

 こうも素直にお姉様と呼ばれるのはむず痒いというか、腑に落ちないというか、調子が狂うんですよねぇ。


「まぁね。でも、中級スキルはまだ取れただけってのが多いよ」

「そっか。私達はレーザー系もいくつか取ったけど、あれは凄いよ」

「うむ、火炎のみ、我も習得したが、あれはこの先を切り開く力となろう」


 えーと、火炎魔法だけ……、いえ、会話の流れから、フレアレーザーだけ覚えたけど、この先も役立つと思う、ですかね。


「うーん、強そうなんだけど、そのためにはボム系を使い込まないといけないからねぇ。私としては純粋な攻撃魔法よりも、もう片方の便利系の方が楽しそうなんだよね」

「確かに、あちらは状況が噛み合えば強いですからね」

「そうそう、特にアグラベイションなんて便利だよ」


 フィールドにいるMOBを相手にする場合、そんなことをするよりも攻撃した方が早いわけですが、今回のようなボス戦の場合には、優先順位が跳ね上がると言っても過言ではありません。

 途中で面倒になりスキルを公開しながら話しましたが、跳躍スキルとその上位を見て苦笑いされてしまいました。とても便利なスキルなんですけどねぇ。

 スキル談義に花を咲かせた後の話題は装備です。


「そのワッペン、ハヅチ君がかなり前から準備していましたよ」

「そなの?」

「ええ、和装しか作らないので、夏のイベント中からワッペンが得意な人を探していましたから」

「へー、そうなんだ」


 恐らく、私が頑丈系の素材を入手した頃からですね。そんな前から私の装備を考えていたとは、今度からもう少し優しくしましょう。


「ところで、みんなは決まった人に頼んでるの?」

「ええ、細かくお願いしたいので、同性の方が……」


 装備自体は自動で補正が掛かるのでスキルを使って設定しない限り、ピッタリになるそうです。けれど、着心地にこだわる人は、正確なサイズを渡したりするそうなので、ハヅチには頼みづらいそうです。

 ちなみに、グリモアは相変わらずのゴシック系なので言わずもがなですが、こうしてみるとみんな方向性が違うんですよね。

 花火はケープの付いたワンピース系の装備で、髪や手にもアクセサリを付けていますが、装備的には頭装備や腕装備の可能性がありますね。

 ヒツジはフード付きのローブという点では私と似ています。けれど、ただの短いスカートだと思っていたらキュロットスカートで、上半身はへそ出し肩出しと動きやすすぎそうというか、露出過多というか、寒そうな装備ですね。何でも、杖がメイス系なので、状況によっては殴るそうです。

 私達が装備談義に花を咲かせている間にオークサージェントの攻略情報がまとまったようで、そのマル秘メモを受け取りました。

 この後にはマギスト巡りと洒落込みたいところですが、残念ながら夜も遅いのでログアウトしなければいけません。まぁ、短い時間で焦るように回ってもいいことはないので、血の涙を流しそうな気分でログアウトするしかありませんね。

 とりあえず、ザインさんにメッセージを送り、今日はまだ召喚していないユニコーンを召喚してからログアウトです。流石に血の涙を流しそうな気分だとしても実際にHPが減っているわけではないので、回復はしませんでした。

Tips

 【オーク軍曹のメダル】

 街の往来を妨害するオークが所持しているメダル

 これを所持しているということは、実力者の証









アグラベイションを思いついた切っ掛け

 「麻痺延長しまーす」

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