4-24その1
夜のログインの時間です。今日はイベント最終日なのですが、先程公式ホームページを確認したところ、イベント期間が一日延長されると発表されていました。ただ、ストーリー的なものではなく、完全におまけのようです。大判でのアイテム交換の残りはボス戦後に発表されるので、それを確認してから、追加で稼げるようにしたらしいです。
最後の護衛イベントですが、これ自体は八度目なのでMOBが雷属性だということと襲撃者の陣営に入っているプレイヤーが襲ってくることに注意すれば、問題はないでしょう。
いつもの様に木に登り、いい位置を確保しました。今回は【遠望視】があるので、襲撃にいつもより早く気付くことが出来ました。まぁ、射程外なので、何も出来ませんけど。
「いたよ。かなり遠いけど」
遠くがよく見える。それを体感した瞬間、私はあることに気が付きました。勢いよく振り返り、今回の中心へと視線を向けます。そして、遠望視を使い、ある一点へズームします。
見えました。
「姫巫女めっけ」
今回は鉄の姫巫女なので、髪も袴も銀色です。可愛いロリっ子が大麻を左右に振っているのが見えました。あの大きい岩と注連縄もありますね。ただ、まだ始まったばかりなので、銀色の光の柱はまだ出現していません。
「……リーゼ、ロッテ、……くる」
「あ、うん」
そろそろ準備をしなくてはいけませんね。相手が雷属性なので、接近戦を主体にしているみんなは戦い難そうなので、私達も工夫をしなければいけません。
一つ試してみましょう。
「【石化眼】」
魔法を放つついでにモニカが戦おうとしていた相手に魔眼を使いました。忍者型MOBの抵抗値が低いのか、簡単に成功しましたが、石化の速度はゆっくりで、しかも体の端から石化し始めました。とりあえず対象を指定しただけですが、場所も指定できたら援護にもってこいですね。そう思い、もうしばらくしてから別の忍者型MOBの肩を意識して石化眼を使ってみました。その結果は一応成功です。位置を指定したため、判定に成功するまで余計に時間がかかった気はしますが、確かに肩から石化し始め、時雨がその部分へと攻撃を加えています。石なんて斬ったら刃こぼれしそうですが、それを気にせず斬り捨てるとは、自分で修理する気まんまんですね。
なお、石化していない部分に刃が届いた瞬間、かすかに電気による反撃があったようで、そこまで便利というわけではありません。
最後の護衛クエストにも拘らず、プレイヤーキラー達は現れませんでした。しかも、守り人の里へと戻る前に報酬が手に入り、リザルト画面が出てきたので、これは確実に何かありますね。
少し間を起き、足元が揺れると同時に遠くで八色に変化する光の柱が出現しました。
ピコン!
――――World Message・レギオンクエスト【ナツエオロチの討伐】が開始されます――――
封印された龍【ナツエオロチ】が復活しました。
このクエストは【封龍の地】にいる全てのプレイヤーが参加可能となります。
また、【封龍の地】へ足を踏み入れることにより、参加可能となります。
ナツエオロチの討伐……参加人数【0/∞】
※レギオンシステムについてはヘルプを参照してください
――――――――――――――――――――――――――――――
やっぱりですか。メニューのイベント項目にも変化があり、ナツエオロチの封印状況が表示されています。全ての封龍の儀が成功しているので、かなり弱体化しているようですが、それでも龍ですから、きっと強いはずです。
「マップ変化してるよ」
時雨が何かに気付いたようで、マップを見てみると、表示できる範囲が拡大し、今までの儀式の場所も表示されました。どうやらナツエオロチはこのフィールドの中央のようですね。
「ねぇ、参加人数0だけどさ、これってあそこまでいって何かしないとだめってこと?」
私の言葉の後、みんなで顔を見合わせました。そして。
「走れ」
アイリスの指示で全力ダッシュです。ありがたいことに忍者型MOBが出現することはなく、ただ森の中を走るだけです。
「まだ光ってるだけだけど、どういう状況かな?」
「確認出来ればいいんだけど」
今は森の中を走っている状況なので、遠望視を使っても木が邪魔で光の根本は見えません。高い木に登れば見えるとは思いますが、そんなことをしている時間があるとは思えませんし。
「モニカ、私を背負って走れる?」
「布装備だから、何とかなるけど、何で?」
まずはヤタを召喚します。6人パーティーでも一体だけの場合は数にカウントされません。これ、こういった状況で使うことを想定しているのでしょう。
「ヤタの目を借りるの。一応両方見えるらしいけど、まだ使ったことないから、見ながらは走れないと思うんだよね」
杖を非表示にし、補助武器の素手を選択します。後はモニカにおんぶをされれば私は完全に荷物になります。
「お願いね」
「任せて」
「ヤタ、光の方へ飛んで」
ヤタは素直に光の方へ飛んでくれました。それを確認すると、憑依眼を発動します。スキルレベルが低いこともありMPの消耗が激しいですが、何とかなる範囲ですね。
ヤタが中央の八色に変化する光の周りを旋回しています。光から八本の龍の首が這い出してきています。色も分かれているので、属性の違いですね。それとは少し離れた位置に、赤く光る鳥居が立っており、いかにもどこか遠くと繋がっていますと言わんばかりの渦巻きがあります。そこから出てきたのは赤を基調とした鎧の一団です。あ、いえ、他のプレイヤーも出てきましたね。あー、これが護衛クエストに参加していないプレイヤーの移動方法なのでしょう。よく見れば、フィーネさんがいるので、あの時作った印籠が関係しているはずです。
後は、巻物を使って何かしています。
報告できる範囲はこれくらいですね。
「その巻物が今回レギオンを組むためのアイテムか」
どうやら私の報告を聞きながらレギオンシステムについてのヘルプを確認していたようです。簡単に言えばレイドと同じですが、人数の上限がないのがレギオンとのことです。後は、レギオンバトルの時でないとレギオンは組めないそうです。レイドは南の街を開放する時のレイドバトルを経験すれば開放されるので、レギオンはイベントのギミックとしての面が強いのでしょう。
何せ、討伐に成功すると、ジャンル別貢献度ランキングがあるそうで、今回は大判が追加で貰えるそうですから。
ハヅチにもクランチャットで連絡したので、そこからわかっている限りのこの場にいるプレイヤーに連絡しているようです。さて、ヤタを送還し、自分で走りましょう。
私達が到着しても首が出きっていないので、まだ時間に余裕はありそうです。
「レギオンに参加する方はこちらへ」
赤を基調にした鎧の一団が受付をしています。まぁ、参加しないと他のプレイヤーの攻撃でダメージを受けてしまうので、メリットはあってもデメリットはありません。レギオンの参加者は味方になるので、範囲バフの対象に出来ます。
ナツエオロチの出現を待ちながら、数人のプレイヤーが作戦会議をしています。そして、首の付根が見え始めた頃、その会議が終了したようです。
後は、そこで出た結論を周知しています。
ナツエオロチの首は全部で八本、ロイヤルナイツとアカツキが三本ずつ、残りの2本は他の派閥のプレイヤーが受け持つそうです。自由参加で好き勝手するプレイヤーもいるようですが、誰も強制出来ないので、しかたありませんね。
私達は黒い闇属性の首を担当することになったので、他の闇属性の首を担当にっなたプレイヤー達と大まかにですが、話をつけます。
まぁ、その辺りはクランリーダーのハヅチがやってくれるので、MPを回復しながら出現を待ちましょう。
『はっはっは、有象無象が集まっておる』
八本の首を持つ龍が出現し、八色に変化する光が収まると、将軍らしき格好のNPCが現れたようです。声は大きいので聞こえてきますが、どこにいるのか……、あ、いました。ナツエオロチの首の付根の方です。
『どれだけ集まろうと、復活した我の行く手を遮ることは出来ぬと知れ』
将軍らしきNPCがナツエオロチの中へと入り始めると、八個の頭にHPバーが出現しました。やはりボスなのでHPが見えるようです。
首もそれぞれの属性の色をしているので判別しやすいのでとても戦いやすそうです。
「封龍の印籠よ、悪しき龍を封じよ」
フィーネさんが印籠を掲げながら恥ずかしげもなく言い切りました。すると、印籠から光が広がり、周辺を覆い尽くしました。フィールド効果で龍特攻と龍特防が付いたので、これがプレイヤーを有利にするギミックのようです。レギオン全員にバフを付けてくれるなんて太っ腹ですね。
「行くぞ」
準備も終わったので、ボス戦の開始です。私達からはモニカとロウが壁役で前へ出ます。他にも何人かいるので、上手くタゲを維持してくれることを期待しましょう。
私とグリモアは分担して付与をします。相手をする属性によっては属性付与もするのですが、闇属性が相手なので、付与のしようがありません。
それぞれの首を担当しているパーティーが上手くヘイトを稼ぎ、お互いが邪魔にならない位置へと誘導しています。
それでは準備も終わったようなので、攻撃しましょう。まずは閃いてから、魔法陣を四つ描きます。
「【ホーリーブラスト】」
相手は巨体で動きが鈍いため、ブラスト系を問題なく当てることが出来ます。ただ、当たり判定の問題もあり、根本に近すぎるとダメージを与えることが出来ません。流石にボスということもあり、HPを目に見えて減らすことは出来ませんが、何人ものプレイヤーが攻撃することで、着実にHPが減っていきます。
念の為【魔力視】を使ってみましたが、妙な場所はなく、逆鱗もありません。
見ている限り、攻撃パターンは頭突きやなぎ払いが主で、時たま上空からの噛み付きがあります。後は、首と同じ属性のランス系の雨を降らせてくるのですが、これがまた厄介です。何せ、遠距離攻撃をしているプレイヤーを狙ってくるので、当然の様に私達の方へ向かってきます。まぁ、よく見れば回避できるのですが、時々まともにくらっているプレイヤーがいますね。それが魔法使い系のプレイヤーならいいのですが、弓とか、遠距離物理職ですと、魔法防御力が低いようで、HPが一気に危険域を示す赤色へと変化しています。ちなみに、当たりどころが悪くそれだけでHPを削りきられているプレイヤーもいました。
「あ゛ーーー」
どうやら蘇生薬を持っていないらしくパーティーメンバーらしき人が絶叫しています。まったく、うるさくて集中出来ませんよ。
私は復活の待機時間に移行しているプレイヤーに対し、レイド用に渡されていた不滅の水を小分けにした瓶を一つ取り出し、投げつけました。すると、弱々しい光に包まれ、倒れていたプレイヤーが復活しました。
「そ、蘇生薬か。すまない」
「その素材ですよ。HP1%での復活なので、さっさと回復してください」
瓶を投げるのが面倒なので樽でふりかけたいような気もしますが、あれは持ち上げるのも大変なので、やめておきましょう。
一度HPが全損したプレイヤーも素材とはいえ私が大量に蘇生手段を持っているとは思っていないようで、慎重に動いています。生産クランが量産しているはずですが、全てのプレイヤーに行き渡っているわけではありません。まぁ大量にあるので、手が届く範囲であれば使ってあげてもいいでしょう。また大量に採取できますし。
ちなみに、魔眼は判定自体がなかったので無効のようです。
ところどころで胴体へ突撃して首に挟まれているプレイヤーもいますが、あれは何でしょうか。他にも、好き勝手に首を攻撃して周っているプレイヤーもいますね。まぁ、レギオンに参加するからといって、必ずフィーネさんやザインさん達の指示を聞かないければいけないということではありません。私達は協力要請を受けましたし、バフを得るための切っ掛けを手に入れたフィーネさんをないがしろにする気がないだけです。他の人達がどう思うかは、その人達しだいですから。
『何をしようとも無駄だ』
『我を滅することは出来ぬ』
戦闘中にそんな声が響いてきます。ナツエオロチの中に入った将軍の声だと思いますが、フレーバー以外の意味があるのでしょうか。
『ふははは、悪あがきを。だが、目障りだ』
一番はやく削れている水属性の首のHPが黄色へと変化した時、そんな声と共に雄叫びのようなものが聞こえました。これで現れたのが忍者型MOBならよかったのですが、何ということでしょう、ナツエオロチの近くから出現したのはプレイヤーです。しかも、プレイヤーキラーですよ。まったく、厄介な。
即興で壁役のプレイヤーが役割分担をしていますが、プレイヤーが【ハウル】などを受けると、自分の意思とは無関係に体が向いてしまうようで、それに抵抗しようとして余計に動き難くなっているようです。これはこれで見ていて面白いですね。
プレイヤーキラーが壁役のプレイヤーの近くに固まっているので範囲魔法で一掃するために【閃き】のクールタイムが終わるのを待っていると、【気配察知】が背後にプレイヤーがいると教えてくれました。
「また」
飛び退きながら振り向くとそこには山賊風の大男であるグラートが不気味な斧を振り下ろしていました。
「チッ、偶然じゃねーな」
「邪魔しないで欲しいんですけど」
何故かグラートは私以外の後衛のプレイヤーには目もくれないため、攻撃し続けてます。けれど、他のプレイヤーはナツエオロチとプレイヤーキラー、どちらを狙うか迷っているようで、ナツエオロチのHPが削れる速度が一気に低下しました。ちなみに、私は軽業スキルで上がったAGIを駆使し、何とか逃げ回っているので、完全に手が出せません。そのせいとは言いませんが、一番減っている水属性の首とはかなりの差が付いてしまっています。流石に全ての首を同時に倒せとは言わないと思いますが、この手の龍にはありがちなギミックなので、安心できませんね。
「リーゼロッテ、お前との決着が付いていないんでな。俺が勝てば、もう仕掛けねーよ」
「私が勝利条件を満たしたので、私の勝ちで終わったはずですよ」
何とか逃げ続けることが出来ている理由は、グラートがパワーファイターだからでしょう。あの不気味な斧も重そうですし。
「ガハハ、俺は逃しただけで、負けてねえ」
厄介ですね。ここでじゃあ私の負けでいいですと言っても意味はありませんし、倒せそうにありません。そもそも純粋な後衛である私とあきらかに前衛なグラートでは同じ土俵に立ってはいけません。
『ほう、我が一部を退けたか。だが、無駄だと言ったであろう』
どうやら水属性の首を倒したようです。他の首もHPが危険域を示す赤色になっていたりするようですが、私達の担当している首はまだ黄色です。
『己の無力さを知れ』
水属性の首が復活し、他の首のHPも全回復しました。これはまさかの同時討伐必須ですか? 流石に面倒ですよ。というか、やるなら前もって情報を残しておいてくださいよ。
『それにしても、使えん奴らだ』
その瞬間、一つの大きな変化がありました。
プレイヤーキラーが好き勝手しているプレイヤーと一緒に首に挟まれました。プレイヤーキラーはボスと同じ陣営らしく、ナツエオロチの攻撃によってHPが減ることはありませんでした。けれど、今回は今までと違い、首で挟まれた後にポーションを飲んでHPを回復しているプレイヤーがいます。もっとも、すぐに理解したプレイヤーは少数のようで、ダメージを食らうはずがない状況で食らったことで戸惑っているプレイヤーキラーの方がおおいですね。
「何だ?」
「首になったんじゃないんですか?」
メニューのイベント項目にも変化がありました。
そこには悪しき龍が本性を表した。陣営の垣根を超え、悪しき龍を倒そう。と書かれています。メニューを確認したグラートが凶暴な笑みを浮かべました。
「ガハハ、面白い。全てが敵。そんな中で、リーゼロッテ、お前と決着が付けられるわけだ」
うわ……。厄介にも程がありますよ。別に粘着してくるわけでもないのでGMコールは使えません。ブラックリストもPKは防げないようですし、困りましたね。……まぁ、グラートは結果ではなく過程を楽しむタイプのプレイヤーキラーのようなので、付け入ることは出来るんですよね。鞄の中から一枚のアイテムを取り出し、手の中へ隠します。それをいつでも使えるように、使用確認の画面を出しておきましょう。
「グラートさん、交渉しませんか?」
「……何を企んでる」
何をって聞けばわかりますよ。
「全員とはいいません。グラートさんだけでも目的を同じにしてくれると、随分と楽になるんですよ」
グラートは訝しむだけで何もいいません。ただ、斧を下ろし、話を聞くつもりにはなってくれたようです。
「私の要求は、貴方が今日はPKをせず、イベントの攻略に協力することです。そして、私が貴方に提示するメリットは、私が貴方のPKの邪魔をしないことです」
「ハッ、リーゼロッテ、お前がPKKにでもなるっていうのか? お前から来てくれるなら、願ったり叶ったりじゃねーか」
「そうですか。では、攻撃してきたらどうですか? 私の言ったことの意味がわかりますよ」
私は杖を下げ、無防備に立ちました。何なら攻撃しやすくするために首を傾けて上げましょうかね。
無防備な私に警戒しているグラートですが、プレイヤーキラーが数を減らし始めたようで、邪魔が入る前に目的を果たすために向かってきました。それを確認した私は攻撃を受け入れるかのように両手を少し広げました。
すると、不気味な斧は首に当たる直前て止まり、私を切り裂きませんでした。
「なぜ、動かない」
その声を聞き、グラートの様子を確認すると、どうやら腕を無理やり止めたようで、体勢を維持するのがつらそうです。
「いいましたよ。私が提示するメリットは貴方のPKの邪魔をしないことだって。私の要求が通らないなら、私は全力でPKの邪魔をします。グラートさん、貴方は戦いを楽しむタイプですよね。なら、貴方と遭遇した瞬間、抵抗をやめて、大人しく倒されますよ」
そういって微笑んだ私に対し、グラートは距離を取りました。
「リーゼロッテ、お前……」
念の為にもう一つ準備をしておきましょう。いくらグラートが自分から距離を取ったと言っても、私の距離ではありませんから。
「さ、どうするんですか? 私の要求をのむんですか?」
私がグラートに対し抵抗した時点で、グラートは戦いを楽しむことが出来ます。それを邪魔するのであれば、無抵抗になればいいだけです。そうすれば、絶対に楽しめませんから。
気付けば数人のプレイヤーキラーが襲撃の手を止め、私達の様子を遠巻きに眺めています。レギオンバトルに参加しているプレイヤーも下手に手を出して敵を増やすよりは放置を選んだようです。誰か一人くらい助けてくれてもいいでしょうに。例えばさっき不滅の水を使ったプレイヤーとか。
「リーゼロッテ、お前が俺に一撃入れることが出来たら、その要求をのんでやる」
グラートが一気に近付き、その斧を片手で振り上げ、もう一方の手で何かを操作しているようです。そして、斧を振り下ろしながら姿を消しました。
そう何度も同じ手はくいませんよ。
気配察知が反応したのを合図に視線を横へとそらし、準備していたショートジャンプのスクロールの使用確認の【はい】を押しました。
私の視界が切り替わり、元々立っていた位置の横にグラートが出現していました。いつもの様に後ろだと判断して前に移動していたら危ないところでしたね。
「【ライトニングランス】」
もう一つの準備、それは手の中で小さな魔法陣を描き、遅延発動で発動待機状態にしていたことです。それをすぐに発動することで、相手が準備をする前に攻撃できます。余分にMPは使いましたが、見てから避けられる様なものではないので、スクロールを使うのも間に合わないでしょう。
「私の勝ちですね。……何度も使えば拾ったのバレバレですよ」
「……ああ、俺の負けだ。くそ、知ってたのか。まあいい。要求をのむ」
そういいながらグラートは何かを操作し始めました。負けを認めながらも抵抗するようなので、油断していないことを示すためにダークランス1つとダークバインド2つの魔法陣を描き、様子を見ましょう。
一枚のウィンドウが表示されました。
これは……。
「フレンド申請を拒否したら、また襲うと?」
「そんな往生際の悪いことはしない。ただ俺が気に入っただけだ」
面倒なのに気に入られましたね。これでプレイヤーキラー全体が私達を襲わなくなるというのなら受諾してもいいですが、そんなわけはありませんよね。
「私にメリットあるんですか?」
「そ、そうだな。何か考えといてやる。それとログイン状況は隠してもいいぞ」
そこで一歩引かれると受諾してもいいかと思ってしまう人はいますが、メリットが不明な以上、受諾する理由に欠けます。まぁ、ここはいつも通りですね。
「貸一つ。押し返しは禁止。いやなら取り消して」
それだけ言ってフレンド申請を受諾しました。対価は後でなんて、信じる人いませんよ。
「ガハハ、そうかそうか。俺が借りを作るとはな」
「それでは私はボス戦に戻るので。レギオンへの参加は赤い鎧の人に言ってくださいね」
MPポーションを飲みながら他のプレイヤーキラーへ視線を向けると、グラートと一緒にレギオンへ参加するために移動していました。これで障害はなくなりましたね。
少し時間がかかりましたが、ボス戦へ復帰です。
「グリモア、いまどういう状況?」
「うむ、首の蘇生以降、龍は更に強くなった。それ故、龍の色を変えることすら出来ておらぬ」
うーむ、首が蘇生したら強くなって、まだ黄色にも出来ていないということですか。
『まだ歯向かうか。無駄なことを』
グラートと話している時もそうですが、あの将軍の言葉、大抵が、無駄とか、無意味とか、そういった言葉ですよね。ボスとしての台詞と言ってしまえばそれまでですが、果たして復活するボスの言葉がただのフレーバーでしょうか。
レギオン用のボイスチャットがあるようで、時折ボスの弱点やギミックを探すよう指示が出ています。レギオンの指揮官役のフィーネや、何らかの役職を与えられた数人は全体に声をかけられるようですが、他のプレイヤーは個別にしか出来ません。一応、どんな提案があったかは教えてくれるので、考えがダブることはありません。
今わかっている範囲では、逆鱗はなく、飲み込まれれば即死のようなので、体内から攻撃することも出来ません。なら、別の手段があるはずです。例えば――。
『そういえば、姫巫女ってどこにいるんですか?』
試しに思いついたことを連絡してみました。
元々は姫巫女がナツエオロチを封印していましたし、細工をされ復活したとはいえ、弱体化はしているらしいです。なら、ギミックとしてこれ以上の存在はないでしょう。
『姫巫女の陣営のプレイヤーは姫巫女の所在を確認してください』
何かを相談していたようで、しばらくしてからそんな指示が出ました。そういえば、鉄の姫巫女は黒鉄殿に戻ったのでしょうか。私は近付けませんし、護衛クエストが終わり次第、自動で守り人の里へと戻されていました。
それについて確認すると、所属陣営だけで行われる帰りの護衛クエストがあるそうです。それ自体は簡単なものらしいのですが、今回はすぐにこちらへ移動したため、そのクエストが発生していないようです。
それではまずはヤタを召喚して飛んでもらいましょう。
「グリモア、ちょっと確認してくる」
鉄の姫巫女の陣営のプレイヤーは黒鉄殿と封印石の両方へ向かっているようです。私は近くにいた赤を基調とした鎧の人に説明してから、憑依眼を使います。流石に戦闘中に目をつむるのは危ないので、護衛は確保します。
そういえば私は陣営が違うのであの線を越えることが出来ませんが、ヤタはどうでしょう。あ、先に出発したプレイヤーを抜きました。流石に森の中を走るのと空を飛ぶのでは速さが違いますね。
「あ、姫巫女が襲われてる」
私の呟きを聞いた赤を基調とした鎧の人が何やら騒がしく連絡していますが、まだ詳しい状況は把握出来ていません。もっと詳しいことを教えろとうるさいですね。
えーと。
「いつもの忍者型MOBに襲われてて、結界? で防いでる」
しばらくして陣営所属のプレイヤーが助けに入ったので、私の役目はここまでですね。ヤタを送還してMPを回復させましょう。
『姫巫女と合流したプレイヤーはそのまま護衛を』
ちなみに、御殿には誰もおらず、姫巫女が襲われているのが発覚した時点で、他の封印石へも各陣営のプレイヤーを派遣したようです。
その上で、鉄の姫巫女と合流したプレイヤーからの連絡で、再封印の儀を行う必要があるとかで、増援を送ったようです。
私の役目も終わったのでナツエオロチとの戦闘に戻りましょう。始めはHPの減りが少なかったのですが、全ての姫巫女が再封印の儀を始めたようで、光の柱が出現し、次第にHPの減りが早くなりました。そして、水属性の首のHPバーが黄色へと変化しました。
『無駄なことを。我を封じていた姫巫女の力なくして、我を滅することなど出来ぬわ』
ふーむ、本来はここで姫巫女の存在を思い出すはずだったんですね。まぁ、襲われていましたし、姫巫女がやられていたら、討伐不可能でクエスト失敗の可能性もありますから、早くわかってよかったと思うことにしましょう。
そういえば、グラートの相手をしていたせいで、ちゃんとした戦闘パターンを見ていなかったのですが、ブレスや、突然のタゲ変更といった動きが増えていました。ブレスはちゃんと防御すればいいのですが、近くの首が横から襲ってくるのは酷いですね。まぁ、見ている限り、元々狙われていたプレイヤーが攻撃を受けているので、隣の首とタゲを交換するという攻撃パターンでしょう。私は襲われないので安全ですね。
一番はやい水属性の首はもうHPが赤くなっています。私達が相手をしている闇属性の首はまだ黄色ですが、再封印の儀が終わる前に倒すのはまずいので、気を付けるよう指示が出ました。
こちらはまだ余裕があるので、せっかくですし一つ試してみましょう。
閃いてから魔法陣を4個描きます。ここまではいつも通りですが、描き終わってからが違います。前に覚えた杖術のレインフォースを使い、MPを使い投入します。ええ、大盤振る舞いの手加減なし、つまり、残りのMP全てです。先程からポーションがぶ飲みなので、全回復してはいませんがそれでも半分近くはあります。こんな前衛が多い状況で試せる機会はありませんし、私のダメージ量から言ってタゲが移ることはないでしょう。
「【ホーリーブラスト】」
MPがなくなると同時に魔法を発動させました。いつもの様に光が炸裂しましたが、炸裂具合が凄いですね。星が生まれるかと思いましたよ。
さて、何故か視線を感じますが、私のMPはすっからかんなので、一休みです。
……おや? 暗いですね。
「ちょっ、え、……何で」
闇属性の首が私を睨みつけています。タゲを奪うほどではないと思っていたのですが、流石に一撃でのダメージ量が多すぎたようです。MPが少ししかない私を襲うとは、困ったものです。
『GUWAAAAA』
あ、首からも声が出るんですね。私を飲み込もうと襲ってくる闇属性の首を相手に逃げる他の魔法使いを眺めながら現実逃避していました。丸呑みは即死技らしいので、巻添いなんていやですもんね。
「【ショートジャンプ】」
今回は音声発動でスクロールを使いました。もちろん、飛ぶ先は上です。
私が元いた場所を飲み込みながら滑っていく首の上に着地し、杖を非表示にしてから腰の短刀へと武器を切り替えます。ここで使えるアーツを使ってみましたが、いかにもカスダメという感じの音がします。流石に基本スキルしか取っていない武器で攻撃してもだめですね。武器を戻しましょう。
私が背中に乗ったことで首が振り下ろそうとしますが、私は近くにあった、たてがみを掴みました。
「あーーーれーーーー。【ホーリーランス】」
その結果は簡単です。勢いよく振り回されるだけですが、一つ新発見です。片手で両手杖を持っていても、もう片方の手があいていれば装備的に問題ないことは知っていましたが、まさか片手でたてがみを掴んでいても問題ないとは知りませんでした。
まだMPの回復が済んでいないので一発だけでしたが、ここなら安全に攻撃できますね。
このゲーム、スタミナがないので、疲れて手を離すということはありません。ええ、精神が持てば、いつまでも掴んでいられるんですよ。
問題があるとすれば、STRの問題で少しずつたてがみから手が離れそうなことくらいですね。あ、しびれを切らしたのか、他の首がわたしをねらっていま……あーーー。
とうとう振り落とされてしまいました。私がたてがみから手を離した瞬間、他の首は私に対する興味をなくしたようですが、このままでは落下ダメージか、闇属性の首に食べられるかの二択です。
その二択から逃れるために今回大活躍のショートジャンプのスクロールを三度使います。それでは頃合いをしっかりと見計りましょう。
「【ショートジャンプ】」
このまままっすぐ落ちる場所に移動しては闇属性の首に襲われるので、出来る限り横へ出現地点をずらしました。その上で、もうひと工夫、向きを反転させれば、勢いに乗って上へ落下しますが、すぐにその勢いも消え、ちょっと衝撃があるくらいですみました。
そのまま薙ぎ払うように首を振ってきたのですが、MPがなくダメージをそこまで与えていないお陰で、すぐに壁役のプレイヤー達がタゲを取り返してくれました。
「……ごめんなさい」
ここは素直に謝っておくべきです。私の実験が原因で壊滅したら目も当てられませんから。
ちなみに、私がたてがみに捕まっている間、他へタゲが移らなかったようで、とても攻撃しやすかったようです。動きが勢いよく首を振るだけなので、位置も予測しやすかったとか。
まぁ、だからといって調子に乗ってはいけないので、大人しくしていましょう。
『おのれ、おのれ、おのれ。我の復活を邪魔しおって』
いつの間にか再封印の儀も終わっており、既に3本の首が萎れています。その3本を担当していたプレイヤーも他の首へ手を貸していました。残りの中でも、雷属性と鉄属性は戦いにくいようで、他の首と比べると若干HPが多く残っているため、増援が多く参加しています。
『我はまだ滅びんぞ』
4本目の首が倒れると同時に本体にHPバーが出現しました。第二形態というわけではありませんが、まだHPがあるのは素直に面倒です。
まぁ、元から4割減っているので、首1本につき、一割減るようですね。後の二割と残りの首を倒すことが出来れば、ボス戦も終わりでしょう。
一分経つごとにMPポーションを飲み続けているお陰で少しずつMPに余裕がではじめました。まぁ、だからといって先程のように実験をすると大変なことになるので、ランス系やブラスト系を使い続けています。
『GUA』
私達が担当していた闇属性の首が力なく倒れ込み、萎びていきます。
『おのれ、忌まわしき姫巫女共め』
胴体の方で何か変化があったようですが、よくわからないのでズームしてみました。すると、将軍の上半身がナツエオロチの体から生えています。将軍が魔法を使い始めたようですが、胴体と戦っているのは先に他の首を倒したプレイヤー達です。そんなプレイヤー達がいまさら魔法が増えたくらいで手間取るはずもなく、着実にHPを削っています。
首の方には十分な人がいるので、私達は胴体の方へ向かいます。将軍の方のタゲはランダムのようで、足を止めて魔法を放っていると攻撃されることがよくあります。そのため、常に動き続けないければいけません。
残っていた雷属性と鉄属性の首が萎びる頃には、もうナツエオロチのHPは風前の灯になっていました。
『我は……、我は……、我は』
HPも赤くなり、発狂モードになりましたね。今まで放ってきたのはランス系だけでしたが、見たことない魔法まで放ってきますし、将軍がブレスを吐いていました。何人かはナツエオロチの背に乗って将軍と直に戦っていたようで、何か騒いでいますが、何度かブレスを吐かれるともう対応しています。
『…………やっと、……開放、され……た』
それが、ナツエオロチを倒した時の台詞です。龍の体が光の粒子へと変化すると同時に将軍の体がドロップすると、空中に文字が表示されました。
――――Congratulation ――――
どうやらボス戦が終わったようです。
将軍の周囲に光の柱が現れ、そこから姫巫女と護衛に向かったプレイヤーが出てきました。それに、守り人の里の忍者さん達も現れ、イベント進行が始まったようです。
『城主様、我ら、ご命令を遂行いたしましたぞ』
あ、メニューのイベント項目が更新されています。
えーと、何代か前の将軍の頃にナツエオロチの魂だけが封印を突破し、将軍の体を乗っ取っていたそうです。そして、封印に細工をして、着実に力を付けていた結果、将軍の人格が表に出ていられる時間が段々と短くなっていったとか。
寸劇も終わり、ランキングの発表とスキルのレベルアップの処理が始まりました。
まずランキングですが、ダメージランキング・ヘイトランキング・サポートランキングにわかれていました。ダメージとヘイトはそのままですが、サポートってどうやって決めるんですかね。
ダメージの方は知らないプレイヤーが多いですが、しれっとザインさんがランクインしています。次にヘイトですが、私達のクランからはモニカとロウの二人がランクインしています。
そして、次にサポートです。1位はフィーネさんですね。どうやら付与魔法とかではなく、ナツエオロチの討伐に直接戦闘以外でどれくらい貢献したかが基準のようです。しっかりと内訳も乗っており、全体指揮や、印籠の作成など、項目が多いので確認が大変ですね。
「リーゼロッテ、2位って凄いね」
時雨を始め、他のみんなからも称賛されましたが、私には疑問しかありません。
「……へ? 何で?」
情報の伝達やら戦闘の支援を行っていたロイヤルナイトの面々が軒並みランクインするなか、なぜか私がランクインしていました。それも2位って集計ミスですかね。一応内訳を確認してみると、無常城の陣営の説得や、姫巫女の状況確認、他プレイヤーの蘇生に、特殊行動パターンの発見が主な内容ですね。その中でも最初の2つの比重がかなり重いようです。
まぁ、確かに私は2位ですが、1位にダブルスコアを付けられています。フィーネさんは全体の指揮を取るのに全力を注いだのでしょう。戦闘はスキルのレベル上げにもってこいなのに、それをしないとは、私には真似できませんし、したくありませんね。
結果として、討伐報酬大判50枚・サポートランキング2位報酬大判90枚・陣営目的達成ボーナス大判50枚の計190枚を入手しました。ハヅチが他のクランの知り合いに聞いた話では、どの陣営もナツエオロチ復活と同時に陣営の目的が討伐に切り替わったそうで、誰でも陣営に入っていれば100枚は確定だったようです。ええ、いつの間にか近くにいたグラートもそう言っていたので、確かです。
さて、次はスキルの確認ですね。剣スキルがLV25になって回転斬りを覚えたのは気にしても仕方ありませんが、杖術と魔道陣と魔法操作がLV45になったのは驚きですよ。ちょっと前にLV30になったばかりなのに、もう新しいアーツを覚えるとは……。流石イベント、恐るべし。
杖術のLV45で覚えたのはトランスファーというアーツで、MPを譲渡するものです。ぶっちゃけてしまうと魔力操作で同じようなことが出来ますし、MPを大量に使う私が誰かに譲渡することはありえないので、確実にゴミですね。
次に魔道陣です。ここは複魔陣の効果UPとオリジナル魔法陣の保存数UPの2つでした。つまり、同じ魔法の同時発動が5個、違う魔法が4個で、オリジナル魔法陣は各属性10個となりました。
そういえば、ソフトウェイブのデバフも全体に出来るはずですね。後でやっておきましょう。
そして、最後の通知がこれです。
ピコン!
――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――
【聖魔法】がLV50MAXになったため、上位スキルが開放されました。
【神聖魔法】 SP5
【閃光魔法】 SP5
これらスキルが取得出来ます。
――――――――――――――――――――――――――――――
うーむ、付与魔法といい聖魔法といい、全てではないにしろ中級スキルになると魔法が増えますねえ。
名前からして神聖魔法が正当な上位スキルとも思えますが、きっとそんなことは関係ないのでしょう。両方共取得しましたが、神聖魔法で覚えたのはピュリフィケイションで、簡単に言えば浄化魔法で、ゴーストやゾンビや悪魔などに対する特攻魔法です。他のMOBにもダメージはあるようですが、カスダメのようですね。
閃光魔法で覚えたのはフラッシュボムで、光球を作り、投げるそうです。後はどこかでぶつかれば爆発するとか。これ、使用者にある程度のSTRがないと使いにくいですね。ただ、手渡すことは出来るそうなので、誰かに投げてもらうことは出来ます。
みんなもスキルの確認が終わったのでここから出ましょうかね。何でもイベント期間中は自由に来れるようなので、イベントも一日延長したので散歩してもいいかもしれません。
「この後どうする?」
「大判との交換のラインナップが更新されてるから、欲しい物探して足りなかったらクエスト探しかな」
「あー、そっか。何と交換出来るのかな」
それも調べなければいけませんね。そろそろ杖の更新をしようかと思っていましたし、魔木と追加素材が必要ですから。
「おめでとう、リーゼロッテ」
そういいながら現れたのはフィーネを引き連れたザインさんです。最前線のクランのリーダーが二人、これはどういった組み合わせなのでしょうか。
「ありがとうございます。まぁ、内訳を見ても私でいいのか疑問ですけど」
「そこにいるグラートを引き込んだのが大きいんだろうな」
「ザインにフィーネか、せっかくの機会なのによお、要求を飲んだ以上、今日は手を出せねえぜ」
おや、ちゃんとわかっているんですね。ボス戦中ではなく、今日とした意味を。まぁ、ザインさん達に手を出すのは構いません。あくまでも私の安全のためですから。けれど、それを口にはしませんが。
「これからここで祝賀会をやる予定です。みなさんも参加しませんか?」
なんと、そんなことをする予定でしたか。周りを見てみると、赤を基調とした鎧の人達やどこにでもいそうなプレイヤーがあちらこちらで参加者を集めているようです。
参加するかどうかの返事はクランリーダーのハヅチに任せますが、みんな参加するつもりのようです。何せ、準備はロイヤルナイツとアカツキがやってくれるそうなので。
「姫騎士さんよ、それは俺達にも言ってるのか?」
姫騎士と呼ばれて反応したのはフィーネさんでした。騎士団っぽいクランですし、そのリーダーなのでそう呼ばれているのでしょう。なかなかいい二つ名ではありませんか。オークとかと戦って欲しいですね。
「ここは今セイフティゾーンのようですし、今日はPKを出来ないと聞いています。なら、問題ないでしょう」
「ふっ、そうか」
ザインさんとフィーネさんは準備があるとかでどこかへ行ってしまいました。グラートもクランの方と一度合流するとかで、行方をくらましました。
祝賀会に参加するにあたり、始まるまでの間、私達は新しく覚えたアーツの試し打ちをすることにしました。大判の交換のラインナップを確認してしまうと、かなりの時間がかかるため、それは後回しです。途中でやめられる気がしませんし。




