3-11
露店を一度閉め、特にすることもなかったのでエスカンデの南東にある森へとやって来ました。深い意味は無いと言い張りますが、ヤタと信楽を召喚したままで戦える保証がどこまであるのかわからないので、ここを選びました。
さてそれでは久しぶりのワタワタ狩りでもしましょうかね。前はボール系を使っていましたが、面倒なので冥魔法のシャドウにしましょう。たまには魔法陣を使わずに詠唱するのもアリですし。まぁ、MOBの強さ的にスキルレベルが上がるとも思えませんが。
ワタワタは相変わらず群れていますね。ボール系は外周にいくほどダメージが減るので、下がりながら数の減ったワタワタをまとめて次を撃つという風に戦っていましたが、流石はシャドウ、一発で終わります。近付きすぎると詠唱中に攻撃されますが、距離をあけていれば問題ありません。
一番の問題は、思った以上にプレイヤーが多いことです。あきらかに装備の整ったプレイヤーに率いられたパーティーもいるので、新人指導の一環でしょうか。タゲが被らない様に注意しながら行動しましょう。
ほら、言ってるそばから、トラブっているパーティーがいます。近くにいた引率者のパーティーが仲裁に入っていますが、近付かないでおきましょう。
周囲のプレイヤーの位置を把握しながら動いていると、保護者のいないプレイヤーも多いので、付与して見付かる前に立ち去ります。初心者が多いようなので、急な変化に戸惑っているため、私が付与していることには気付いていません。装備から必要な付与を判断していますが、違っても気にしません。
「ほらほら早く来いよ」
「ま、待ってよ」
今度は7人組ですか? ……7人ですか? パーティーの上限は6人なので、2パーティーで行動するにしても非効率的というか何というか。
「次はっけーん。フブキ、お前が加わるとペナルティかかるから、手、出すなよ」
「え、僕、まだ一度も戦ってないんだけど……」
「うっせーなー。ここは集団が多いから、一人じゃ無理だろ」
あー、面倒なのが近くにいますね。まぁ、声は聞こえますが、十分遠いので問題ないでしょう。
しばらく歩いているとヤタと信楽が空腹を訴えてきました。先程までは街でじっとしていましたが、今はフィールドを歩いているので満腹度の減りが早いのでしょう。
ゴブリンの丸焼きと焼き魚を取り出し、私はセルゲイさんのところで買った飴を口にします。衝動買いしましたが、これは中々美味しいですね。現実と違って栄養バランスを考える必要はないので、三食これにしたいのですが、流石に食費がかかってしまいます。それに、飴では満腹度の回復量が足らないので、焼き魚で残りを回復させましょう。
「よーし、次はこっちだー」
食事は静かにしたいのですが、フィールドでは無理ですね。
「アルフレッド君、そろそろお腹空いたよ」
「うーん、確かにそうだな。これ以上動くとペナルティ発生するよな。よーじ、ここで休憩だ」
「さんせーい」
「ほらフブキさっさと料理出せよ」
「で、でも……」
「何だよ、早くしろよ」
「さっきも、出したから、……もう無いよ」
あー、騒がしい一団が近くに来てしまいましたね。もぐもぐ。
「はぁ? ちゃんと用意しとけよ」
喧嘩なら遠くでやって欲しいのですが、何故こんなところでやるんでしょう。
「あ、そこのオバサン、俺達に食料アイテム頂戴よ」
何故にこういう人は目敏いんでしょうか。面倒なのでからまないで欲しいです。さて、子供には厳しく行きましょうか。
「人に物を頼む態度じゃない。却下」
私は他人に厳しく、可愛くない子供には冷徹なんですよ。
「もー、アルフレッドは引っ込んでて。綺麗なお姉さん、クルミに食べ物ちょーだい」
そうそう、こっちのちょっと勝ち気そうな女の子はわかっていますね。
「見え透いてても、ごまをするのは大事だからね。はい、飴あげる」
「……ワーイ、アリガト」
笑顔が引き攣っていますね。もう少し丁寧にごまをすらないと中途半端にしかならないと言うのに。それにしても、思い通りに行かなかった表情で飴を舐める女の子は見ていてもつまらないですね。もう、行きましょうかね。
「それじゃ、私はもう行くから」
もとよりじっとしているのに飽きたからフィールドに出ただけでなので、ここでのしっかりとスキルレベルを上げる気はありません。ある程度体もほぐれたので、戻りましょうかね。
『KAAA』
『TANUTANU』
「ん? どした?」
ヤタと信楽が何かに反応しています。何かはわかりませんが、警戒しなければいけないようです。ミニマップを確認しますが、近くにMOBはおらず、プレイヤーもあまりいませんね。いえ、よーく目を凝らすと、かなり薄いですが 赤い丸が二つあります。ヤタと信楽が反応したのはこれですか。
……ここって出来ましたっけ?
「あーそっか。森は東じゃなくて南東だから外れてるのか」
「どうしたのよ、急に」
「プレイヤーキラーの相手をするのは面倒だから逃げるだけ」
勝ち気そうな娘が聞いてきたので状況を伝えましたが、襲われると思っていなかったようで、子供達が騒ぎ出してしまいました。ここで騒ぐとプレイヤーキラーに気付いたと教えるようなものなのですが、こういった経験がないのでしょう。それでは置いていきますかね。
「あ、お姉さん、待って下さい」
待ちません。それに、相手の狙いはこの子達だと思うので、一人逃げても気にしないでしょう。
私が待つ様子を見せなかったため、もう一人の女の子が周囲に声をかけて動き始めました。うーん、こっちの女の子は可愛いですね。……あ、この娘、隣の露店で杖を見ていた娘です。これは少し親切にしておきましょう。
「知り合いいるなら、助け呼んだ方がいいよ」
「そ、そういえば、アルフレッド君のお兄さん、攻略組だって」
「そういえば、そうだったよね」
最前線のプレイヤーが身内なら、動いてくれた場合、間に合えば何とかなるでしょう。私はリターンで逃げることも出来るので、最悪見捨てますけど。
「お、おう。にーちゃんに連絡して見る」
「はいはい、足は止めない」
メッセージを送ろうとして立ち止まってしまったので、歩き続けるよう促しますが、目に見えて遅くなっています。向こうは初心者の集団に対し、保護者に見える私がいるので、少し警戒しているのか、ゆっくりと近付いてきています。その身内が近くにいればいいのですが。
それにしても、私の索敵範囲では、人の多い方向にプレイヤーキラーがいるので、遠回りしなければいけません。さて、どうしたものか。
まぁ、この距離なら、少し多めにMPを使えば届きますね。
「【シャドウ】走って」
遠隔展開で射程距離を水増しして発動しましたが、範囲魔法なので、魔法陣は発動場所に描かれます。ほぼ奇襲をしたに等しいのですが、二人共範囲魔法の範囲にいて視野を一時的に奪われるとは、どれだけ下手くそなのでしょうか。まぁ、下手で損をすることはまずない……、いえ、突発的な対人イベントなのにつまらないのはしゃくですね。
子供達の索敵範囲はスキルレベルが低いようで私よりも狭いため、私を見失わないようにしています。そのせいで物凄い視線を感じますが、私のステータスでは振り切ることは出来ないのでそんなに見ないで欲しいです。
まぁ、つまり、相手に追いつかれるということですが。
「お前は!」
「あんときはよくも」
いや、プレイヤーキラーに知り合いはいませんよ。名前を知っているのは一人いますが、赤と青のバンダナをした二人組なんて知りません。そもそも――。
「初心者相手じゃないと勝てないプレイヤーキラーなんて知らないし」
おっと、口に出してしまいました。他人のプレイヤーキラー観に興味はありませんが、スキルレベルの低いプレイヤーを相手にして悦に浸るようなプレイヤーに関わる気はありません。楽しいからやっているのでしょうが、所詮はその程度です。
「このクソアマ」
「ぜってー殺す」
ああ、頭に血が登っているのか、動きが単調ですね。二人組みで、私達よりも脚が速いのですから、一人が回り込むとかすればいいのに、ただ追いかけてくるだけです。こういうときは。
「【ファイアストーム】」
私が魔法陣を描いても一切警戒せずに追いかけてくるだけでした。同じ手に引っかかるなんて、これは本当にダメなプレイヤーキラーですね。火の竜巻に包まれるなんて貴重な体験でしょうが、まだ生きているのを前提に逃げ続けます。
「はいはい、足止めない」
子供達は油断して止まっていますが、安全が確保できるまで油断は禁物です。そもそも、ここはフィールドなので、MOBもいるのですから。
「このクソ。熱いだろ」
「もう許さねえ。これでもくらえ」
「きゃっ」
可愛い悲鳴が聞こえたので背後を振り返ると、投げられた短剣が隣の露店で杖を見ていた女の子を掠めていました。そのせいでバランスを崩し、転倒しています。
「ノインちゃん」
えーと、あの男の子は誰でしたっけ。
一瞬、私の方を振り返り何かを操作した後、すぐに転んだ女の子を助けに行きましたが、バンダナの攻撃に割って入ったところでステータス差から、すぐに――。
「おりゃ」
「くそ、このガキ」
なるほど、タックルですか。それならステータスに差があっても、接近を妨害出来ますからね。タックルする前の申請といい、良い判断ですよ、フブキ君。
「【ライトニングランス】」
前にもやったことがある気がしますが、双魔陣で二つの魔法陣を描き、別々の対象を狙います。あー、何か、本当にこんな下手なプレイヤーキラーを相手にした記憶が……、ないですね。
フブキ君はダメージを受けないにしろ、影響は受けるので、痺れて動けないようです。ミニマップを見る限り、安全は確保出来そうですが、行動阻害の時間は短いので人質にされないようにタックルをした青バンダナから引き剥がしておきましょう。
「【マジックスィング】」
ついでの追撃です。純粋な魔法使いなので、その高INTからなる魔法攻撃力から繰り出される打撃は、かなりのもののようです。赤バンダナは起き上がろうとしていますが、それはあちらに任せましょう。
「このクソアマが――」
「こっちだ」
ミニマップに映っていましたが、赤を基調とした鎧のプレイヤーが何かしらのアーツを使い、赤バンダナを斬り捨てました。斬撃系なので、気絶やらの行動を阻害する結果にはなりませんでしたが、かなりのダメージのようで、たたらを踏んでいます。
「PK発見。ボックス兄弟だ」
どうやらこのプレイヤーキラーはボックス兄弟と呼ばれているようですね。ただ、発言主に見覚えはないので、状況から考えると、助けを呼んだ子供の知り合いでしょうか。
そのまま遅れてきた鎧の一団がプレイヤーキラーを拘束したので、逃げる必要はなくなりました。では、私は帰りましょう。
「ああ、待ってくれ。弟を助けてくれたお礼を言いたい。ありがとう」
お礼も言われたので帰りましょう。
「それではさようなら」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。このPKの処遇を相談したい。君、PKK制度について絶対に知らないだろ」
「なんですかそれ?」
「PKを倒した時の報酬のことだ。倒すと、倉庫にある金と所持金の合計から半分を貰えるんだ。まぁ、PKのランクによっては変動したり、アイテムも貰えたりするが」
なるほど、PKをするのなら、それなりの代償を覚悟しろということですか。完全に旨味のないロマン職ということですね。
ですが――。
「お金持ってなさそうなプレイヤーキラーですよね」
「な、なん、いてて……」
バンダナのどっちかが反論しようとしたようですが、鎧の一団に抑え込まれているので、そのまま黙ってしまいました。何とも哀れです。
「面倒だし、任せた」
面白い相手なら考えますが、つまらない相手の場合、何をするにしても面倒です。倒す価値すら無いというやつですね。
「本当にいいのか?」
「くどいですね。それじゃ、さよなら」
今度こそ、戻りましょうか。
「あの、リーゼロッテさん、さっきはありがとうございました」
ああ、そういえばそのままでしたね。リターンを使ったら一緒に戻ってしまうところでした。
「あの状況でフブキ君がパーティー申請送ってきたから出来たことだよ」
そう、あの時、私の方を振り向いてパーティー申請を送ってきていました。彼だけが仲間外れにされていたので、すぐに組むことが出来ましたが、理由を考えると何とも言えないものがありますね。
「ま、俺のにーちゃんが来てくれたから、オバサンも助かったんだぜ、感謝しろよな」
ああ、いましたね、こいつが。ただ、物凄い勘違いをしています。プレイヤーキラーからはリターンで逃げられますから。
「フブキ君、私は街に戻るけど、どうする? リターンですぐに戻れるけど」
「えっと……」
何やら友達の様子を伺っているようですが、仲間外れにされていたのなら、気にしなくていいと思うのですが。
「何々、オバサン、リターン使えるの? だったら俺達を街まで戻してよ」
「おいアルフレッド、恩人にその口の利き方は何だ」
「だってー」
「だってじゃない」
えーと、私とヤタと信楽とフブキ君で四人ですから。
「後二人までなら連れて帰れるけど、どうする?」
そうですよね、気を利かせる気がなかったので忘れていました。ここにはフブキ君が守った女の子もいるのですから、その子の分も考えなければいけませんね。
ちなみに、ヤタと信楽を送還するつもりはありません。
「えっと、その……、ノインちゃんはどうする?」
「私は、一度街で休みたいけど……」
ノインちゃんと呼ばれた女の子は友達と思わしきプレイヤーの様子を伺っていますね。
「あーすまんすまん、自己紹介がまだだったな。俺はロイヤルナイツのオンボロ号だ。君がそっちの子を連れて行ってくれるのなら、連れてきた魔法使いに他の子を連れて帰って貰えるんだが、頼めないか?」
何だか勝手に話がまとまりそうです。どうせならもう一人くらい魔法使いを連れてきてくれればよかったのに。まぁ、そっちで勝手に話をまとめてくれたので、もう一人のノインちゃんがパーティーに加わりました。
「そんじゃ、戻るよ。【リターン】」
視界が暗転しました。
暗転した視界がもとに戻ると、目の前にセンファストのポータルがありました。横にはフブキ君とノインちゃんがいますね。少し離れた場所には他の子達もいますが、鎧の人は一人だけになっています。
……魔法使いなのに鎧ですか? まぁ、悪影響も設定されていないので、個人の自由ですね。
あの生意気な子供以外は、プレイヤーキラーに襲われるという珍しい経験をしたため疲れてへたり込んでおり、鎧の人にログアウトを勧められています。攻撃される前に逃げ始めたので、そこまで危険な目にはあっていませんが、念のためらしいです。
「君達、とりあえずこの飴を上げるよ」
「ありがとうお姉さん」
だいたいこんな感じでお礼を言われましたが、生意気な子もお礼を言ってきたのは驚きました。場合によってはこれから混乱することも考えられるので、甘いもので一旦落ち着いてもらいましょう。
「二人はどうするの?」
フブキ君とノインちゃんにも飴を渡しながら聞いてみました。すると、やはり今は落ち着いているようです。
「えっと、買おうと思ってた剣を買おうかと……」
「私は……。あ、フブキ君の気にしてたお店、閉まっちゃってるよ」
「え、嘘……」
うーむ、こっちの可愛い子が隣で杖を見ていた娘ですし、こっちの男の子、よく見れば私の露店で剣を見ていた目利きの子ですね。ここで正体を伝えるのはつまらないので、悪趣味全開で行きましょう。
「近くの露店の人に聞いてみれば?」
「あ、ノインちゃんの気にしてた露店は開いてる。この人に聞いてみることにします」
他の子達がログアウトするなか、二人は仲良く露店を見に行くことにしたようです。ウィンドウを見ながら話していたようですが、予定が決まったことで、私の方を向きながら二人が並んでいます。
「お姉さん、ありがとうございました」
「リーゼロッテさん、ありがとうございました」
そういえばちゃんと名乗っていませんでしたね。フブキ君はパーティーを組んでから名前を呼んできますが、ノインちゃんの方はちゃんと名乗るまでは呼ばない主義のようです。
「はい。それじゃ、いってらっしゃい」
まぁ、そう言いながらも露店を再開しようと思っているので、目的地は二人と同じです。そのため、パーティーは抜けていますが、少し後をついていく形になってしまいました。
距離を空けたので二人は気付いていないようですね。
目的地に着くと、隣の露店の人と何か話しています。
「おじさん、あの杖、もう、売れちゃったんですか?」
「どの杖だ?」
距離があるのと途中からなので前のやり取りはわかりませんが、しまいこんでいるのは知っています。まぁ、それは露店の人の楽しみなので、私は口を出しませんが。
とりあえず、私に割り当てられた場所で露店を開く準備をしましょう。
「あ、ちょっと待ってくれ。そこのあんた、今はフリーマーケット開催中だから、そこは使えないぞ」
あー、この格好だとわかりませんよね。
「知ってますよ」
「ん?」
声に聞き覚えでもあったんですかね。とりあえず、露店を開いて、蜃気楼の腕輪を使いましょうかね。
「それで、ワシがいない間はどうじゃったんじゃ?」
「おお、さっきの婆さんだったのか。ま、あんまかわんねーよ」
「お姉さん、お婆さんだっんですか?」
ちなみに、フブキ君は口をパクパクさせるだけで、声を出せずにいます。
「あー、蜃気楼の指輪つって、街中でだけ姿を変えられるアイテムがあるんだよ」
「これは蜃気楼の腕輪じゃよ。何度も使える持ち物装備じゃ」
「……はぁ? え、それって、一度噂になったアイテムじゃねーか」
そういえば蜃気楼の塔の情報はどうしたのでしょうか。アイリスに全て任せたため、何も知らないんですよね。
「あ、あの、リーゼロッテさん、僕、一度この露店を見てて、気になった剣があるんだ」
「ほう、これのことかのう?」
別にしておいたのとは違うけれどよく似ている剣を見せてみました。さて、どんな反応をするでしょうか。
「いえ、これじゃなくて、もっとこう……」
上手く言葉にできないようですが、手が剣の形を表そうとしています。ただ、私が扱っているのは全て同じような剣なので、違いを口で説明するのは不可能でしょう。
ちなみに、隣でも同じようなやり取りがされていますが、あちらはちゃんと特徴を持たせていたようで、しっかりと答えられえているようです。
「これかのう?」
「そ、そう。これだよ」
「そうかのう。ところで、これは装備出来るのかい?」
「もちろん」
「そうかいそうかい。ところで、武器をしっかりと見極められるお主に、一つ見せたい剣があるんじゃよ」
そう言って取り出したのは時雨に追加してもらった少し高い剣です。
「この二本の剣、お主はどちらがいい武器だと思うんじゃ?」
見た目はほとんど同じです。そこまで細かく作ってくれた時雨には感謝ですね。フブキ君はじっくりと剣を見ていますが、数値が表示されることはありません。そんな中、何を基準にするのでしょうか。
「二本目の剣、何故だかわからないけど、凄く強い気がします」
この子の直感はどうなっているのでしょうか。経験がものを言う勘ではなく、本当に直感で判断していそうで怖いですね。
「……でも、こっちの剣、高いんですよね」
「同じじゃよ。これはいい目を持っとる人のために用意したものじゃ。まぁ、今のお主にはいい剣じゃが、成長すれば、無用の長物じゃがのう」
ずっと使える武器なんてありませんから、その点についてはしっかりと念を押しておきましょう。
「いいんですか?」
「いらないんなら、下げるだけじゃ」
「お願いします。その剣を僕に売ってください」
さて、それでは露店に剣を並べましょう。ちゃんと魔力付与もしたので、魔力が残っているうちは多少のダメージ増加になるでしょうし。私の露店の近くには他に誰もいないので、設定を弄らなくても無事に買えそうですね。
「魔力付与?」
「おまけじゃ」
「は、はぁ……。あ、ありがとうございます」
ふむ、魔力付与については詳しく知らないようですね。効果は実戦で理解してもらいましょう。
「じゃあ、その杖、大事にしてくれよ」
どうやら隣も終わったようです。木材への魔力付与が出来れば割り込むのですが、残念ながら金属と布しか出来ないので諦めて貰いましょう。
「ところでお主、暑くはないのかのう?」
「え、えーと、夏仕様のことなら、まだ我慢できるよ」
我慢できる。つまり、これ以上暑くなると大変ということですね。私は既に夏装備を使っているので今の暑さがわかりませんが、脱いで確かめる気はありません。
「こんなのがあるんじゃよ。つけてみんしゃい」
ハヅチが用意したローブとマント、両方共夏仕様ですが、男の子ならマントですね。露店の設定で見本品にすると、買えないけど着心地を確かめられるようになるそうで。いろんな機能があるんですねぇ。
「あ、これ涼しい」
着た直後は涼しく感じるのですが、慣れると何も感じなくなります。まぁ、ずっと涼しいと思っていると、風邪をひいた気分になりそうですし。
「婆さん、そんな隠し玉が……」
「でも、これ高いんだよね? 僕、武器買ったから、もうお金が……」
「そうかのう。それは残念じゃわい」
「あのう、お姉さん、それ私が払ってもいいですか?」
「え、ノインちゃん、何で?」
ほんとに何ででしょう。
「だって、クラスのみんなとどっか行くとき、いつもフブキ君だけパーティー別で、消耗品も使わせてばかりだし……。私、何も言えなくて……」
あー、出来ればそういった話は私のいないところでやって欲しいですね。ここは楽しいことをする場ですから。
「あの、リーゼロッテさん、そのマントって一つしかないんですか?」
「ああ、マントは一つじゃぞ」
ええ、嘘はついていませんよ。マントは一つしかありませんから。それを確認したあと、値段も知らないで二人で何かを話しています。
「のう、夏仕様による気温上昇はそんなに暑いのかのう?」
「婆さんは早い段階で水属性装備を手に入れたくちか、羨ましーぜ。今は26度だったかな。8月には場所次第でもう少し上がるって告知されてるぞ」
うわぁ。よくもまぁそんな仕様を採用しましたね。涼しく過ごす方法は一つではないらしいのですが、人が逃げる理由には十分でしょうに。
「お嬢ちゃん、ちょっといいかのう?」
「え? 私ですか?」
「もうちと近くにこんかい」
「は、はい」
この二人、話が平行線なので、私が少し進めてあげましょう。
「まず、そのマント、いくらか知っとるのかのう?」
「えっと、知りません」
「そういえば僕も……」
「でも、500,000Gあります。これなら買えますよね」
おぅ……、意外に持ってましたね。これなら何の問題もなく買えるじゃないですか。ですが、それを気付かせないように立ち振る舞うのが私の腕の見せ所です。
「なるほどのう」
そういいながらハヅチに作ってもらったローブを見本品にしてノインちゃんにかぶせます。装備してくれないと効果は発揮されませんが、そのあたりはやってくれるでしょう。
「夏装備……。で、でも」
「マントは一つじゃ。ローブはあるがのう」
夏装備と聞かれればもう一つあると答えますが、マントと聞かれたので一つしか無いと答えたまでです。
「値段はここに並べとる武器と同じじゃよ」
「え、それでいいんですか? だって、他のお店だと、もっとしますよ」
「防具としての性能が低いんじゃよ。この値段にするためにのう」
どんな店を見たのかは知りませんが、値段のために素材を抑えるのは方法の一つです。間に合わせでもいいですし、次の装備を買うまでのつなぎでもいいですし、夏装備を手に入れる方法なんていくらでもあるんですよ。
そこで、目的のものを手に入れるまで我慢するのか、妥協するのかは個人の自由ですし。
さて、この二人、かなり悩んでいます。安く快適に過ごせるけれど性能の劣る物を買うのか、暑いのを我慢しながらお金を貯めていい装備を買うのか、最初の予定とは違いますが、悩んでもらいましょう。
「なぁ、婆さん、あんた本物か?」
「何のことかのう?」
「リーゼロッテ、本人か?」
「さてのう。それを知ってどうするんじゃ?」
「……」
さて、考えてますね。どんな理由を作るのか楽しみです。
「実はな、俺の先輩があんたに会ったことがあってな。ちょっと話に聞いてたのと違う気がしてな」
ふむ、杖を売っているのでシェリスさんの関係者でしょうか。いえ、知り合いではなく、会ったことがあると言っているので、違うのでしょう。
「ま、そこの子はそう呼んどる。それだけじゃ」
二人が買うかどうか決めたようなので話もここまでです。
「リーゼロッテさん、そのマントを僕に売って」
「お姉さん、そのマントを売ってください」
「そうかいそうかい。それは構わんが、この姿のときは、お婆さんと呼んで欲しいのう」
見本品から商品に変更して、いろいろと制限をつけます。この辺りは前にやっていたころの露店と一緒なので、時間はかかりません。強いていうなら、魔力付与の時間が必要だったくらいでしょうか。
無事二人共目的の物を手に入れることが出来たようです。
「お婆さん、ありがとー」
そういって手を振りながら去っていく二人を見届け、時間を確認するとそろそろログアウトしても良さそうな時間ですね。武器は少しあまりましたが、これはこれで何かの機会に使えるかもしれませんし。
ログアウトしようかと思った頃、視界の隅にシェリスさんが映りました。今日は随分と人に会う日ですねぇ。
ただ、誰かといるようなので、プレイヤーイベントの関係で動いているのですかね。そう思って声をかけずにいると、隣の露店へと足を向けています。
「調子はどう?」
「先輩、わざわざ様子を見に来てくれたんですか? ありがとうございます」
「何言ってるのよ。シェリスと見回りしてるだけよ。ね、シェリス。……どうしたの?」
話しかけられているシェリスさんは完全にこちらを見ています。ここはどうするべきでしょうか。
「あー、気付かれてないつもりかもしれないけど、結構あっちこっちで噂になってたよ、リーゼロッテ」
とりあえず、腕輪の効果を切りましょうかね。
「久しぶりなんで誰も覚えてないと思ったんですけどねぇ」
「リ、リーゼロッテ!」
何とも敵意丸出しで名前を呼ばれた気もしますが、誰でしょうこの人。
「はいはい、落ち着いて。どうどう」
「先輩、やっぱり本人でした?」
誰だかわかっていないので、疑問を視線に載せてシェリスさんを見つめると、小さくため息をつきながらも答えてくれました。
「はぁ、5月のトーナメントのエキシビジョンで戦ったエレーナだよ」
「はて?」
「その杖で吹き飛ばされたのが私よ」
……。
「あー、あの時の人ですか。お久しぶりですね」
さて、その直後の源爺さんの方が印象に残っていますし、切り落とされた頭に残した記憶でしょう。
「まったく、対戦相手くらい覚えておきなさいよ」
「善処します」
「覚える気、ないわね。まぁいいわ。覚えなくていいから、その装備、少し触らせてちょうだい」
やる気が無い時の定型文ですからねぇ。
「杖ですか?」
「布装備の方よ。私は裁縫がメインなのよ」
これはつまり。
「……脱げと?」
「着たままでいいわよ。そんな趣味ないから」
「それなら、交換条件で揉んでいいですか?」
私が手をワキワキさせながら言うと、エレーナさんは自らの身体を抱きながら一歩下がりました。スレンダーなので時雨ほどのもみ心地はなくとも、私以上なので、敵ですね。
「ハラスメント警告出たら押すわよ」
「押す前に言ってもらえれば場所を変えますよ」
「……私が装備を見るのを優先させてもらうわよ」
「さー、どうぞ」
交渉成立です。そこまでして何が見たいのかはわかりませんが、手を広げて迎え入れましょう。
「まずはそのコートね」
そう言って不思議な位置で止まるコートを触り始めました。それでは私は二の腕を揉みましょうかね。あ、意外と……。名誉のために黙秘しましょう。
「ところで、どんなところを見たいんですか?」
「これ、ハヅチのなんでしょ。基本的に和装と小物しか作らないけど、いろいろと細かいから勉強になるのよ。このコートだって動きの邪魔にならないでしょ。フルダイブのシステムを上手く利用してるのよ」
……ハヅチ、何やってるんでしょう。鞄の時にはハヅチブランドなんて言われていたようですし、凝り性ですね。
「鞄とかウェストポーチは一度分解したけど、使う時のことをよく考えてあったわ。インベントリが付与してある方は見せてもらっただけだけど、魔石の位置も考えてるようだったし」
あ、それは私の意見も入っています。ど真ん中にあっても邪魔ですし。ただ、外側にあってもよかったのではないかと考えています。不用意に触ってインベントリが開いたら面倒なので、変えていませんが。
「そもそもハヅチが洋服作るってどういうことよ。和風のコートなら見たことあるけど、これ、完全に洋装じゃない。ベータの時に全員断られたって聞いてるのに」
姉の権力を使ってると言えば話は早いのですが、流石にリアルの情報を流す気はありません。なので、このまま黙秘ですね。あ、太ももは引き締まってますね。
「……ねぇ、揉みたくて揉んでるの?」
「えーと、タダで触らせるのも何だったので、反射的に条件出しました」
「終わりにしてもらっていい?」
「いいですよ」
というわけで一方的に服を見られるマネキン状態でしょうか。座って信楽を抱えているので、癒やされてはいますが。
「シェリスさん、ハヅチってそんなに凄いんですか?」
「一応生産クランに誘ってたからね。生産専門じゃないからって断られたけど」
「へぇー」
ちなみに、エレーナさんは小さくつぶやきながら私の装備を見て回っています。一度スカートをめくろうとしたので、目潰ししようとしたら避けられました。
何とも一方的に攻められるのは好きじゃないですね。
「ハヅチって好きなものには無駄に凝りますけど、既製品とか現実の服見た方が勉強になるんじゃないんですか?」
「私が知りたいのは、いかにゲームで再現するのかと、作る時に何を気にしているのかよ。スキルに頼りっぱなしだと、細かいところで納得がいかないのよ」
生産者のこだわりですね。私にはわかりませんが、魔女風のこだわりに置き換えればわかります。まぁ、スカートの中は見せませんが。
それからしばらく服をめくられ続けました。
「ふぅ、よくわかったわ。もし装備を更新したら教えてちょうだい」
「……前向きに検討します」
流石に疲れたので拒否したいですね。ただ、一方的に拒否すると面倒なので、希望がある風に見せかけます。
用事も済んだのか、二人は見回りを再開しました。
私も一度ログアウトしましょう。




