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Hidden Talent Online  作者: ナート
3章 夏に向けて
47/148

3-10

 レイドボスであるレイクサーペントを討伐し、サウフィフを開放した後、ザインさん主催の宴会をすることになりました。会場はザインさんのクランハウスで、いろいろと増築しているらしく、宴会用の広場があるそうです。クランハウス内ですが、屋外になっているのはフルダイブだからなので突っ込んではいけません。そもそも、ある程度行くと進めなくなるそうなので、全方向が何かしらに囲まれた空間なのでしょう。


「料理スキル持ちはこっちに集まってちょうだい。作業台があるわ」


 ユリアさんが集合をかけたので集まりましたが、思いの外少ないですね。しかも、サバイバルが得意そうな雰囲気を醸し出している人が大半です。まぁ、スキルレベルが高い人の料理は美味しそうなので、文句はありませんが。

 とりあえず手を上げて発言します。


「ユリアせんせー、簡易料理セットあるんでスキルで量産していいですかー」

「せ、先生……。ごほん、場所を取る人がいるから自前のがあるなら助かるわ」


 何とも形容し難い表情をされましたが許可は貰いました。では、スキルを使って量産してしまいましょう。さり気なく宣言しましたし。

 それでは何を作りましょう。おお、鹿の肉が71個あります。これは使った記憶がないのでまずはぶつ切りにしましょう。その後串にさして、焼くだけです。鹿の肉が串焼きに適しているかなんて知りません。システム的に出来るのですから、気にする必要はないのです。

 焼き加減のメーターを久しぶりに見ましたが、鈍ってはいないはず。頃合いを見計らい、火から上げます。

 ふっ、結果は大成功です。多少のブランクはありましたが、私にかかればこんなものですよ。


「……それ、何の肉なのかしら?」

「鹿です」

「鹿なんていたかしら?」

「シカジカのドロップですよ。最初の大成功品ですけど、どうぞ」


 ユリアさんは疑問を浮かべながらも鹿の串焼きを手に取り食べることにしたようです。ハヅチ経由で緑色の欠片の情報を持っていっているので、知っているはずですが。まぁ、気にせずレシピ再現で量産してしまいましょう。


「君君、その鹿の肉、分けてもらってもいいだろうか?」


 そうやって声をかけてきたのはお髭のマッチョさんです。巨大な包丁を背負っていますが、普通の包丁も手にしているので、後のは武器なのでしょう。


「いいですよ」


 食材の手渡しは避けたいのでトレード申請をすると、了承されたので鹿の肉を10個渡すと対価として【果物】というアイテムを貰いました。これは野菜と同じ仕様のようなので、そのまま食べても楽しめますね。


「それはうちのクラン【料理の里】で売っている。気に入ったら買ってくれ」

「その肉はMOBからのドロップです。気に入ったら狩り尽くしてください」

「ハハハ、そうかそうか。絶滅しない程度に狩らせてもらおう」


 まぁ、MOBはある程度すると再出現するので絶滅することはありえませんが。入手方法を教えてくれたのですから、お返しに入手方法を教えたまでです。


「お嬢さん。そのお肉、私にも分けてくれませんか?」


 今度は普通のシェフのようなプレイヤーです。先程のプレイヤーの後だとインパクトに欠けますね。


「いいですよ。ところで、鹿の肉って珍しいんですか?」

「先程はシカジカと言っていましたが、そのドロップの有用性から一部のプレイヤーが出現エリアを秘匿しているのです。そのため、手に入れるにはそのプレイヤーが流している物を買うしかなく、レシピを考え、探究するほどの数が手に入らないのですよ」


 トレード申請をしながら聞いてみると、【茶葉】を対価にしながら教えてくれました。流石に出現エリアを教えてくれとは言ってこないようです。ただ、おかしいですね。


「ユリアさーん、緑色の欠片のこと、ハヅチ経由で伝わってますよね」

「ええ、でも、レイドの方を優先していたから、手を付けていないわ」


 なるほど、そういうことですか。


「この人達に伝えるつもりはありましたか?」

「ええ、【料理の里】は同盟クランだもの」

「そうですか。料理人の皆さん、そういうことらしいので、すぐにわかりますよ」


 料理人の人達は今の会話で察したようで、これ以上追求しようとはしませんでした。ただ、現物は早く欲しいようなので私の手持ちと交換しましたが、香草と交換したり、茶葉が大量に手に入ったのは嬉しいことです。

 ついでに情報を貰いましたが、なんと、野菜や果物といった料理を作る際に何かに変化させる食材とは別に、ゲームオリジナル風の変化しない食材を使うと、一時的なバフが付くそうです。ただ、肉系だけではダメらしく、まだ研究中とか。

 そういえば、香草ってハーブのことらしいですね。

 茶葉は緑茶や紅茶を内包しているようで、そこから一手間加えたりして味を変化させられるらしいです。私は緑茶派なので急須と湯呑みを何処かで入手しなければいけません。ちなみに、コーヒー豆はまだ数が少ないので外に出せないと言われましたが、私は困りません。


「あ、ゴブリン肉って食べられるようになりません?」


 その瞬間、料理人の皆さんの表情が曇りました。流石に料理専門のクランでも無理なことは無理のようです。残念ですが、ヤタと一緒にゴブリン肉を堪能するのは不可能のようです。

 料理スキル持ちが準備をしている間に他のプレイヤーは会場の準備をしていたそうです。料理を置くためのテーブルや、椅子やシートなど、攻略に関係なさそうな品もしっかりと備蓄しているとは、流石ですね。

 準備が整った後、ザインさんの挨拶を合図に宴会が始まりました。従魔の召喚許可も貰ったので、ヤタと信楽を召喚しておきましょう。PTからは抜けているので、制限にひっかかりませんし。


「ほーら、ヤタと信楽の好物だよー」

『KAAA』

『TANU』


 狸の鳴き声って何でしょうね。絶対にこれじゃないことはわかりますが、触れてはいけないのでしょうか。まぁ、可愛いのでこのままにしましょう。

 食べたことのない料理を堪能しつつ、目的の人物を探すと、ぽつんと空間が空いていたので見つけやすかったです。


「セルゲイさん、ちょっといいですか?」

「あ~ら、リーゼロッテちゃん、どうしたの?」


 くねくね動いていることは気にしないでおくとして、早速聞いてみましょう。


「セルゲイさんのお店って小物とか、いろいろありましたけど、急須と湯呑みってあります?」

「あ・る・わ・よ」


 ウィンクされてしまいました。女に用はないと言っていたので安心しているのですが、やはり安心してはいけないようです。ですが、背筋の震えをねじ伏せて見せましょう。


「……そ、それで。……どんなの……です、か?」

「普通のから、可愛いのまで、沢山あるわよ。今度直接いらっしゃいな」


 どうやら動揺がバレていたようで、少し抑えてくれました。内心を悟られるとはまだまだですね。ですが、知りたいことが知れたので、問題はありません。


「お店っていつも開いてるんですか?」

「私がいたり、クランの子が手伝ってくれたり、NPCを雇ったりしてるから、基本的には開いてるわよ」

「そうですか。では、なるべく早く行きますね」

「ふむ、話は終わったようだな。では、リーゼロッテ、ワシとも話そうではないか」


 そう言って背後から現れたのは筋骨隆々で破戒僧風のマスタークンフーさんです。セルゲイさんとマスタークンフーさんが揃うと威圧感が凄いので出来れば並ばないで欲しいですね。

 私が二人の存在感に圧倒されていると、マスタークンフーさんから口を開いてきました。


「お主、フルダイブ格闘技に興味はないか? 気功操作は体術スキルと組み合わせることでその真価を発揮する。そして、体術スキルは体の動かし方を理解することでより強力な武器となるぞ」

「いや、私純粋な後衛なので」

「後衛だからこそ、近付かれた時の備えは必要であろう」

「備えを充実させて、本命が疎かになったら意味ありませんよ」

「ふむ、のってこんか。それではしかたないか」


 はたして本気で勧誘していたのか、それともフルダイブ格闘技を広めようとしていたのかは知りませんが、魔拳の話で体術スキルを持っているのはバレてますよね。

 最後に笑いながら去っていったので後者だとは思いますが。

 さて、セルゲイさんに聞くことも聞いたので時雨達の元へ戻りましょう。途中、つまみ食いしながら歩いていたので、遠巻きに観察することになりましたが、時雨達に声をかけようにも気後れしている人達がかなりいるようです。何というかまぁ、華やかな所に近付きづらいということでしょうか。


「みんなー、茶葉手に入れたから、湯呑みは好きなの用意してね」

「ねぇリーゼロッテ、緑茶を常備する気なのはありがたいけど、紅茶とかを選ぶ気はない?」

「えー、面倒」


 私は手軽に気軽に飲みたいので、美味しく飲む注ぎ方をする気はありません。そのため、飲み物は一種類あれば十分です。そして、何よりも私は緑茶派です。


「まぁ、時雨がやるなら止めないよ。【料理の里】ってクランで売ってるらしいし」

「あそこって茶葉も売ってたんだ。そういえば、最近は行ってなかったかも」


 とりあえず、湯呑みやらティーカップやらをどこで用意するかを相談しているようですが、何体かの従魔が見当たらず、周囲を見てみるとモニカがモフモフに囲まれていました。連れていた信楽もいつの間にかモニカに捕獲されていたので驚きましたが、あのモフモフ天国には惹かれるものがありますね。

 その後、しばらくして流れ解散となりました。ただ、夏休み中の週末ということで少し夜更かししようという話になり、サウフィフの街を散策することにしました。特にPTを組まなくとも、クランの機能で位置はわかりますし、会話も出来るので問題は何もありません。

 ちなみに、あくまでも街の景色を見るだけなので、NPCに話しかけてクエストを探すようなことはしていません。湖の上にある街を観光しているだけなので、売っている物を見たりはしていますが。

 観光の結果、クエストの開始地点らしきものは何箇所か発見しました。ただ、今日の目的は観光なので、記録するに留め、具体的な検証は後日にし、時間が来たのでログアウトしました。





 土曜日、レイドの後に少し夜更かししたため、少し起きるのが遅くなりましたが、まぁ誤差の範疇だと思っておきましょう。

 昼過ぎにログインして倉庫からハヅチと時雨に頼んであった装備を受け取ると……おや、片手剣は見た目と性能が反比例しているのは要望通りなのですが、ハヅチに頼んだ装備が二つになっています。私はローブかマントと言ったのですが、ローブとマントが用意してありました。そこにはメッセージもあり、両方作ったから、代金二個分な、とありました。ふむふむ、それでは渡す時にはどちらが似合うか考えて渡すことにしましょう。そしてもう一つ、時雨がしっかりと150,000G、で売るための武器も用意してくれていました。あまり時間がなかったのにも関わらず、用意してくれるとは、足を向けて眠れませんね。

 必要なものも取り出したのでセンファストへ向かいました。ログインするポータル付近は会場として使えないことになっているのですが、ログインしたばかりのプレイヤーの待ち合わせ場所になっており、人で賑わっていました。初期装備やそれに近いプレイヤーが多く見受けられるのは、開催を前もって知っていたから装備更新を後にしたのでしょうか。そんなことをするよりも、順に更新していった方が良いと思うのですが。

 露店を開く前にセルゲイさんのキューピット・グッズへと向かっています。昨日、急須や湯呑みを扱っていると聞いておいたので、まずはそれを手に入れましょう。

 セルゲイさんのお店はフリーマーケットの開催区域から外れているので人通りは少ないのですが、禍々しい雰囲気を醸し出していることが人通りと関係ないと信じたいですね。

 入り口の扉を開くと、鐘の音が聞こえました。いろいろなお店でよくある鐘ですね。


「いらっしゃいませ」


 セルゲイさんの野太い声が聞こえると思っていたのですが、店番をしているのは小さな男の子でした。昨日言っていたクランメンバーだとは思いますが、中々可愛い子ですね。


「えーと、セルゲイさんいます?」

「マスターはちょっと席を外してるよ。すぐ戻るって言ってたけど」

「そっか。ところで、急須と湯呑ってどのへん?」

「あっちだよ」


 小さな男の子がゆっくりと示した方には相変わらず禍々しい配置の小物の数々がありましたが、全体を見なければ問題ありません。一つずつ見ていきましょう。えーと、ティーポットとティーカップが多いですが、隅の方に急須がありました。それも、普通のやつですね。少し小さいですが、一人用だと思えばこのくらいでしょう。変に凝った作りをされるよりも、普通の物の方がいいですし。後は、大人数用のも用意してと。次に湯呑みですが……、マグカップと湯呑みがごっちゃになっていました。まぁ、湯呑みと言えば、回るお寿司屋さんとかであるようなデコボコしているのが好みなのですが、流石に魚の名前が書いてあるのは嫌です。まぁ、無難に白いのにしましょうかね。その場で購入画面を表示し、【購入】を選べばインベントリに入ります。目的の物は手に入りましたが、こういった場所では他にも買いたくなってしまいます。大抵は買いたくなっても買いたいものがないので問題ありませんが、ここではどうでしょうか。


「あのー、お姉さん」

「ん? 何?」


 カウンターに一人でいる小さな男の子が話しかけてきました。言葉には表しませんでしたが、お店に関係ないことを聞こうとしているのか、少しおどおどしている感じがいろいろなものを刺激してきますね。


「お姉さんってリコ姉が言ってた人?」


 リコ姉……、まぁどう考えてもリコリスのことですよね。まぁ、彼岸花なのか甘草なのかは知りませんが、流石に二人もいないはずですし。


「リコリスのことだよね。何を言ってたのかは知らないけど」

「えーと、リコ姉がいろいろお世話になった人だって言ってたよ。何か言ってた格好と少し違う気もするけど」


 そういえば最後に会ったのっていつでしたっけ。夏装備にする前だった気もしますね。


「それで、何か用?」

「いや、リコ姉が来たら教えてくれって言ってたから、確認しようと思って」

「そっか。ところで、そのカウンターの上の飴は売り物?」


 確認も終わったのでリコリスに伝えているはずですし、衝動買いを済ませてしまいましょう。まったく、カウンターの上に気軽に買える商品を置くとは、小売業の魔の手はどこにでも迫っていますねぇ。


「これは売り物だよ。値段はメニューを見てよ。クランマスターが設定してるから、わからないことも多いし」


 なるほど、この子は留守番をしているだけなんですね。ただ、このくらいの歳だとフィールドに出たいんじゃないんでしょうか。


「ふむふむ、手軽な値段だね」


 それでは買ってしまいましょう。


「リーゼロッテさーん、やっと見付けましたよ」


 おや、金髪で前髪が目を隠している小柄な少女はリコリスではないですか。相変わらず目が隠れていて表情がわかりづらいですが、見えないからこそ良いものもあるんです。


「あー、見付かっちゃった。それで、何かようでもあったの?」


 探されてたとは知りませんでしたが、見付けたと言われた以上、見付かったと返すのが礼儀です。


「いえ、用という程のことではありませんが……、その……」


 何かを言い難そうにしています。そこまで言い難いことなのかも知れませんが、口を開くまで目があるであろう場所を見つめ続けました。


「……えっと、魔力操作についてなんですけど、他の子に教えてもいいですか!」


 ようやく口を開いたと思ったら勢いに任せて口を開いたようです。けれど、そんなことですか。


「いいよ」

「そうですよね、だめで……えっ、いいんですか?」

「ダメならリコリスにも教えないよ」


 そもそも私は無条件に教えないだけで、可愛い子や何かの利益を提示する相手などには教えています。情報には対価が必要ですから。もっとも、その価値を決めていいのは当事者だけなので、価値を感じないものを対価にされたら教えません。


「あ、ありがとうございます」

「理由は聞かないけど、何か頼ってきたら追加料金だからね」


 魔法陣を取った人がいるのか、別の使い道を発見したのか、判明している使い道をさせるのかは知りませんが、面白いものが見れるといいですねぇ。


「さて、それじゃあ私はそろそろ行くよ」

「あ、すみません、何か用事があるんですよね」

「んー、自己満足の露店をするだけだよ」

「じ……、自己満足……」


 私が楽しめないことはしないので、私がすることは全て私の自己満足です。


「じゃーね」


 それだけ言い、キューピット・グッズを後にしました。





 さて、フリーマーケットって割り当てられた場所へ向かうわけですが、ずっと装備したまま使っていない蜃気楼の腕輪をどこで使いましょうか。老婆の振りをして歩くのは時間がかかるので、なるべく近くで使いたいですね。いざとなれば物陰やら脇道やらで使えばいいですし。

 そう考えながら歩いていると、いい感じの場所があったので、ここで腕輪の機能を使ってしまいましょう。使用確認と被せる姿がウィンドウに表示されています。かなり前に作った姿ですが、シワ多め、鉤鼻長め、老け具合増々で、怪しい魔女風の老婆です。前は初心者用の杖でしたが、露店主がそれを装備していては怪しいというよりも不審でしかないので、ずっと使っている杖をそのまま使います。後は、ヤタと信楽を召喚して、準備完了です。少し腰を曲げながらゆっくりと歩いて向かいましょう。

 この辺りには個人露店が集まっていますが、皆怪しいですね。黒い三角の覆面だったり、黒いマントで全身を覆っていたりと。まぁ、私が言えたことではありませんね。

 指定された場所に着いたので、露店を広げましょう。あ、しまった。クッションを用意するのを忘れていました。最後に露店をしたのもかなり前なので、しかたありませんね。

 時雨に作ってもらった剣を並べるのですが、この時、綺麗順に並べては不自然なので、ある程度混ぜて並べます。そして、購入者に対する条件として、第二陣か、総プレイ時間の短い者か、スキルレベルの合計値が低い者の三点を選びました。どれかを満たしていればいいので、あまりプレイ出来ていない人も対象です。後は出店開始ボタンを押せば、ホームページの方にも開店状況が反映されるそうです。

 抱えている杖にヤタが止まり、信楽は私の膝を枕にしています。これは気が向いたら信楽に触ることが出来ますし、ヤタにゴブリンの丸焼きを上げやすいので、ちょうどいい位置です。

 そのまま人が来るのを待つわけですが。このプレイヤーイベントのために運営はどれだけの手間をかけたのでしょうか。いろいろと協力的すぎる気がします。私でも思いつく理由は、今後のイベントの参考にすることくらいでしょうか。

 おっと、早速誰かが見に来ました。杖に止まったヤタや、私が抱えている信楽が目立つようで立ち止まる人は多いのですが、すぐに立ち去ってしまいますね。時雨に作ってもらった武器はガッツリやっている人向けではないので、しかたのないことですが。


「ケッ、婆さん、商品の質くらい安定させろよ」

「うわっ、ぼろっ」


 冷やかしながら文句を言っていくプレイヤーもいますが、そういったプレイヤーは他の露店も見るだけで何も買いません。それどころか、そんなプレイヤーが自分の露店を見に来るとあからさまにアイテムを引っ込めるプレイヤーもいます。そういった失礼な相手に自信のある装備を使われたくないのでしょう。

 ある程度時間が経つと、何やら店を巡っている謎の集団がいました。装備からして明らかに第一陣のエンジョイ勢以上でしょう。そんな人達が何故フリーマーケットを巡っているのでしょうか。


「すみません、露店主の方でしょうか?」


 そう言ってきたのはその集団の一人で、ヴィジュアル系バンドのボーカルのような外見のプレイヤーでした。せっかく赤い髪で顔の右半分を覆っているのですから、髪をかき上げるなどの外見にそった行動をして欲しいものです。


「そうじゃが、どうかしたのかのう?」

「私は自称ネットアイドル候補生のネコにゃんというプレイヤーを応援する非公式ファンクラブ【応援するにゃん】というクランに所属しているルシフェルといいます。少々お時間よろしいでしょうか?」


 ……あれ? 独自の世界観に基づいた言葉を話すと思っていたのですが、まったくもって普通に話しています。これはどういうことでしょうか。ちなみに、自己紹介と同時にクラン名とプレイヤー名を表示しているのですが、違いますね。


「堕天せし……傲慢なる神の、使いさんかのう?」


 長いのでスムーズに読むとばれてしまうのでゆっくり読むことにしました。


「ルシフェルと呼んでください」


 そこは独自の世界観に基づいていたようです。まぁ、長いのでそうしましょう。


「るしふぇるさんが何かようかのう?」

「はい。実は今回のプレイヤーイベントを私達が応援しているネコにゃんさんが許可を取って生放送するのですが、映りたくないプレイヤーもいるため、事前に確認しています。初期設定では、生放送には映らないようになっているのですが、生放送に協力していただけませんでしょうか?」


 数をこなしているはずなのでもう少し手短に話してもいいと思うのですが、ネコにゃんさんのライブ配信に映りませんかということですね。さて、どうしましょうか。


「その人は、どんなことをするのかのう?」

「このフリーマーケットでは、ネコにゃんさんがここの通りを映しながらたまに取材するという形を取らせてもらいます。ただ、全員にインタビューをするというのは不可能なので、映っても、必ずインタビューするということではありませんが」

「ほうほう、ところで、映らないというと、どうなるのかのう?」

「その場合、放送上は何も映りません。使っている撮影用のツールが透過処理……、映りたくないプレイヤーを透明にします。それに、ネコにゃんさんも、その人について言及することはありません」


 なるほど、大昔に生放送は運営の用意している撮影用のツールを使わないと出来ないと聞いた覚えがありますが、それが仕事をするのでしょう。個人の設定も読み込むには、運営側の協力が必要不可欠ですし。


「なるほどのう。それじゃあ、質問に答えてくれたお主に免じて、協力するかのう。何をすればいいんじゃ?」

「本当ですか、ありがとうございます。それでは、私がメニューを見せるので、同じようにやってください」


 そういうとルシフェルさんは自身のメニューを見せられるようにし、設定画面の操作方法を教えてくれました。何でも、生放送の番組別に設定できるようで、そこから時間単位やコーナー別にも出来るようですが、せっかくなので、今回のネコにゃんの生放送全体に映る許可を出しました。


「これで終わりかのう?」

「はい、ありがとうございます」


 深々と頭を下げたルシフェルさんですが、私の露店を見ようとしている人が来ると脇に避けたりして、かなり気を使っていました。そんなに賑わう露店ではないので、売上には響きませんが、気を使われた以上、気を使うのが礼儀です。

 最後に、生放送の見方を教わったので、見ながら露店することにしましょう。

 おや、今度は子供の一団です。特に引率しているプレイヤーがいるようでもないので、同じクラスとか、そんな仲でしょう。


「おっ、剣だ」

「かっけーのがあるけど、大半はぼろいな」

「俺ー、でっかい剣使いたんだよな」

「お前らは弓と棒だから、見る必要ねーよな」

「そんなこと言わずに見せてよー」

「そうだよ」


 ワイワイやっていますが、綺麗な武器しか手に取らず、ボロくも性能のいい武器には目を向けません。手に取れば今の装備と比べて上がるか下がるか同じかがわかりますが、どのくらい上がるかはわからないので、少ししか変わらないこともあります。そのため、作り手からしっかりと素材などを聞く必要があります。まぁ、性能の低いうちは、そこまで大きな差にならないので、気にしなくてもいいらしいです。ただ、上限と下限では、通常攻撃一回分くらいの違いは出るらしく、気にした方がいいらしいので、どっちだよと言いたいですね。

 見る目のない数人のプレイヤーがきれいな武器を買っていきましたが、何人かのプレイヤーには見透かされた目でボロい武器を買われてしまいました。あれは絶対に経験者です。まぁ、値段相応の武器なので、見透かしたつもりでも、お得な武器ではないのですがね。


「なぁ、婆さん、あんたも同類だと思うが、蜃気楼の指輪まで買ったのか?」

「……ふぉっふぉっふぉ、やるならとことんじゃわい。手間は惜しまんわい」

「くー、中々やるじゃねーか。でも、あの指輪って流通量は少ないんだけど、よく手に入ったな」


 消費アイテムの指輪ではなく、持ち物装備の腕輪なので、流通量は関係ありませんが、ここは話を合わせましょうかね。


「ふぉっふぉっふぉ、取りに行くという手もあるんじゃぞ」

「まー、そうだけどよ。あれ? 他にも生放送してるやつがいるな」


 そう言ってお隣さんが示した方を見ると、何やら騒がしい一団がいました。ここは露店を行っている通りの端の方なのですが。ここから生放送していくつもりなのでしょうか。


「はーい、みんなのネットアイドル、まなりんだよ☆」


 今、語尾に星が見えた気がします。語尾に音符やハートや星を付ける技術というのは、どうなっているのでしょう。私の理解の範疇にはありません。


「みなさーん、まなりんの生放送に映ってくださーい」


 嫌です。


「何じゃろうのう、あれ」

「あー、第二陣から参加したネットアイドルらしいぞ。その界隈だと有名らしいが、さっき来たところのネコにゃんは一応素人だけど、こっちは多分セミプロって聞いたな」


 せっかく説明してくれていますが、まったくわかりません。芸能には疎いので、細かい違いなんてわかりませんよ。

 少し様子を見ていると、ネコにゃんさんのように事前に話を通しておくのではなく、その場で直接交渉するようです。少し強引に迫っているようにも見えますが、拒否された場合はしっかりと引き下がっているように見えます。

 アイテムを買おうとしているプレイヤーがいてもお構いなしなので、行儀悪いですね。ああほら、怒らせてます。ただ、ああいうのが好きな人もいるのか、取り巻きや自分から映りに行く人もいますね。まぁ、何が好きかは個人の自由ですが。


「あれれーお婆さんがいるぞ☆」


 あ、まずい。

 周囲を見渡してもお婆さんと言われるのは私しかいません。というか、本物のお婆さんなんてフルダイブゲームで見たことありませんよ。どうするか考えている間にネットアイドルが正面に来てしまいました。正直なところ、相手をする気はありませんが、逃げるのはしゃくです。


「おばーさん、まなりんの生放送に参加して欲しいな☆ 申請送るから、許可してね☆」


 なるほど、映る許可にはこんな方法もあるわけですか。ネコにゃんさんの方も、本人なら、これを出せたのでしょう。

 まぁ、拒否するだけですが。


「嬢ちゃんの生放送には映る気はないのう」

「えー、そんなこと言わないで、まなりんにインタビューさせてよ☆」

「わしゃー拒否したんじゃがのう」

「そっかー、まなりん残念。それじゃあ、気が向いたらお話聞かせてね☆」


 一応は引き下がりましたし、私への興味を失ったようで他の露店を巡っています。ちなみに、ネコにゃんさんの生放送もフリーマーケットを巡っていますね。まぁ、まだ入ったばかりのようなので、結構遠いですね。


「何というか、可愛い子ではあるんだが、俺は苦手だな」

「わしも苦手じゃのう」


 よく知らない人にいきなり生放送してるから出ろと言われても、それに興味のない私からすれば迷惑でしかありません。ネコにゃんさんのファンクラブの様に段階を踏んでくれば話は別ですが。


「そういえば、お主の杖も仕掛けがあるのかのう?」

「ふっ、婆さん、あんたと同じだ。まぁ、杖は剣と違って外見を誤魔化しやすいから、普段じゃこの値段で買えないのもあるがな」

「お主も中々いい趣味を持っとるのう」


 杖の作り方は知りませんが、私が杖を作ってもらった時にはボスからのドロップ品を使いましたね。あれがなくても同じ外見の武器は作れる可能性はありますが、性能には大きな違いが出るのでしょう。


「それと、水を差すことになるから黙ってたけど、声、結構若いぞ」

「……あ」


 ボイスチェンジャーなんてないので意識して作っていましたがどうにも無理があったようです。まぁ、無理があるとわかっているのなら、それを前提に開き直ればいいだけです。

 たまに露店を見に来る人がいるので会話は飛び飛びになってますが、お互いかなり暇です。まぁ、有名プレイヤーでも、有名クランでもないので、しかたのないことですね。


「ほーら、お前ら早く来いよ」


 おや、今度は集団ですね。前にも同じような子供の集団がいましたが、さっきよりも大人数ですし、こっちには可愛い女の子もいますよ。まったく、けしからんですなぁ。

 子供の集団で男の子は私の露店にある剣を見ていますが、女の子は魔法使いのようで隣の露店の杖を見ています。定番であろう剣を選んだばかりにこんなことになろうとは。横目で気付かれないように妬んでおきましょう。


「なぁなぁばーさん、どれが強いんだよ」

「ほとんど同じじゃぞ」

「ケッ、使えねーな。ほら、早く行こーぜ。うちのにーちゃんがロイヤル何とかってすっげークランにいるから、頼めばもっといい武器もらえっし。露店見るのはやめて、フィールド行こーぜ。綿まみれのモンスターとかいっぱいいるらしーし」


 リーダー格の男の子に率いられ、他の子も離れますが、隣で杖を見ている女の子と、しゃがんで真剣に見比べている男の子だけが残りました。


「おい早く行こーぜ」

「え、あ、うん。おじさん、また来ますね」

「おう、フリーマーケットの開催中は大抵いるから、いつでも来いよ」


 追加で妬んでおきましょう。


「早く行かないと、みんな先に行っちゃうよ」

「……う、うん」


 男の子も促されて他の子達を追いかけていきましたが、最後にじっと見ていた剣、追加で作ってもらったのを抜けば、一番性能のいいやつなんですよね。思わぬ目利きがいたので、ちょっと引っ込めておきましょう。せっかくですから、また来たら特別な商品を見せてあげてもいいですね。

 さて、また静かになりましたね。


「おいおい婆さん、そっちもしまったのか?」

「そういうお前さんもじゃろうが。一番いいのを見付けられたのかのう?」


 お互い、不敵な笑みを浮かべています。こういう場所では、こういう場所なりの楽しみ方がありますから。

 おや、ネコにゃんさんの生放送を見ていたらこの辺りに近付いてきましたね。前もって話を通してあったためか、多くのプレイヤーが映っています。例のファンクラブは少し先行して、そろそろ来るという連絡をしています。ただ、映るかどうかは任意なので、気が変わったら設定を変えてもらって一向に構わないとのことでした。


「この辺りまで来ると、実用品というよりも、面白いものが増えてきたにゃ。回復量1%のポーションってどうやって作ったにゃ……」


 完全に趣味の領域ですね。HP調整が必要なスキルがあるとも思えませんし、本当に趣味なのでしょう。そのうち、ダメージを受けるポーションが……、いや、それは普通に実用品ですね。


「お婆さん、露店の様子はどうかにゃ?」


 どうにもこの姿は目を引くようです。まぁ、怪しい老婆ですし。


「どうもー、ネコにゃんさんかのう?」

「そうですにゃ。自称ネットアイドル候補生のネコにゃんにゃ」

「そうかいそうかい。飴でも食べるかのう?」


 こんなことを予想していたわけではありませんが、買っておいてよかったです。想像上のお婆さんは飴とか持ってそうですし。


「ありがとうですにゃ……。にゃんか、コメントに見覚えのあるお婆さんって書かれてるにゃ。あちきとしては、そっちの杖に見覚えが……」


 そういえば遥か昔のトーナメントで会ったことがありますから、その時にこの杖を見られていてもおかしくはありませんね。まぁ、それ以降は会っていないので、思い出すとも思えませんが。


「従魔を二匹も連れてますけど、烏と狸って珍しにゃ」

「ふぉっふぉっふぉ、可愛い子じゃよ」


 おや、生放送のコメントに、今日は鞄を置いてないと書かれています。どうにも気付かれてしまったようですね。まぁ、鞄がなければわざわざ来る人もいないでしょう。


「にゃでてもいいにゃ?」

「本人に聞いとくれ」

「にゃでていいかにゃ?」


 まずはヤタに聞いています。けれど、そっぽを向いたままです。ふっ、ヤタをそう簡単に愛でようと思っても無理ですよ。私がゴブリンの丸焼きを取り出すとヤタが降りてきて食べているので、見せつけるように撫でました。


「にゃ、にゃんと……」


 これが私とネコにゃんさんの差ですね。


「にゃでてもいいかにゃ?」


 どうやらヤタを撫でるのは諦め、信楽を撫でることにしたようです。私の膝を枕にしている信楽は小さく頷き、近寄っていきました。まったく、サービス精神旺盛ですねぇ。

 ネコにゃんさんは信楽の頭や顎を撫でていますが、気持ちいいのか仰向けになって身を委ねようとしています。そこまで許しますか。


「モフモフにゃ」


 しばらく撫で続けていましたが、生放送ということもあり、ずっと撫でている訳には行きません。名残惜しそうに見せながら去っていくのは、果たして本心なのか。


「やっぱその見た目は目を引くよな」

「そうじゃのう」

「……アイテム使ってる理由、聞いていいか?」


 おや、そこまで踏み込んできますか。そもそもお互いの名前すら知らないのに。まぁ、聞かれて困る理由なんてないんですけどね。


「この方が雰囲気でるじゃないですか」

「……普通に話されると違和感が凄いな」

「前にもそう言われました」

「本当にすまん。話し方、戻してくれ」

「しかたないのう」


 踏み込む場所もないのに踏み込んできたことは許しましょう。けれど、可愛い女の子に話しかけられていたことだけは許しません。私の露店を見ていた男の子も可愛くはありましたが、それとこれとは話が別です。


「お話し中申し訳ありません、少しよろしいでしょうか」


 むむ、話し中とはいえ、接近に気付けないとは。このタキシードの人、中々やりますね。では、気付かれずに接近出来た報酬に話を聞こうじゃありませんか。


「何かのう?」


「私、自称ネットアイドル候補生ネコにゃん非公式ファンクラブ、【応援するにゃん】クランマスター、酢酸ビニル樹脂エマルジョン木材接着剤と申します。この度はネコにゃんさんのインタビューを受けてくださり、誠にありがとうございます」


 ……さ、さくさ、何ですって? しかたありません、伝家の宝刀を抜きましょう。


「すまんのう、この歳になると耳が遠くてのう。酢酸さんかのう?」

「……仲間内からはボンドと呼ばれています。後、名前を表示するのが遅れてもうしわけありません」


 あー、イギリスのスパイっぽい格好だからで……、あ、違いますね。接着剤って言ってますもんね。そっちのボンドですか。

 まったく、ボンドであってボンドでないとはこのことですね。


「それで、そのボンドさんがお礼を言って周っているのかのう?」

「ええ、私達のクランが許可を取って周っているので、最後まできちんとしませんと」


 何ともしっかりしているんですねぇ。


「ネコにゃんさんはいいファンを持ってるのう」


 この後、他愛のない話をしてから、ボンドさんは他の人へ挨拶に行きました。許可取りはクラン総出で、最後のお礼はクランマスターが行っているわけですね。

 さて、ずっと座っているのも隣の露店をからかうのも飽きましたね。ヤタと信楽を愛でるのは楽しいのですが、退屈なことに変わりはありませんし。


「婆さん、どっか行くのか?」

「流石にずっと座っとると、腰にくるわい」

「そういう設定だったな。ま、お疲れ」

「お疲れ様。まぁ、その内戻ってくるがの」


 サウフィフを探索してもいいですが、あそこは最前線のプレイヤーで賑わっているはずなので踏み込むのは後にしましょう。面倒事は避けたいので。

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