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Hidden Talent Online  作者: ナート
3章 夏に向けて
42/148

3-6

 日曜日の午後、今日はクラスメイトとゲーム内で会わなければいけません。一応は約束に分類されるはずなので、守るとしましょうか。

 昼食の後、ログインの準備をしているとスマホにメールが来ました。ああ、連絡が来てしまいましたね。向こうから連絡がなければ合法的にすっぽかせますし、それを理由に今後は断れたのですが、残念です。えーと、最初の町にログインすると書いてあるので、ログインしてからミニマップをメッセージで送ってもらうとしましょうかね。

 ログインしました。

 さて、向こうからのメッセージ待ちです。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 現実とフルダイブ中では時間差があるのである程度待つとは思っていましたが、思いの外早かったですね。えーと、ポータル近くの教会にいるそうです。ここはフィールドでHPを全損させた時に戻ってくる場所なので、一人でどこかに行ってきたのでしょうか。まぁ、ポータルからは近いので楽でいいですが。

 センファストの教会へ足を踏み入れると、そこそこの広さがあるのにがらんとしています。第二陣の低レベルのプレイヤーに保護者もいるのでしょうか。

 あー、目的の人物を発見しました。というか、NPCと私以外にプレイヤーは一人しかいません。その人の頭の上には私のフレンドリストと同じ、カオルコという名前が表示されているので間違いないでしょう。


「お待たせ、カオルコさん」

「……みたら――」

「本名を言ったら帰りますよ。カオルコさん」

「ごめん、最初に注意するよう言われてたのに」


 用心していてよかったです。話の内容から察するにネット上の交流に慣れていないようだったので、最低限のネチケットを身に付けていない可能性がありました。まぁ、PT会話ならまだいいのですが、オープンでやらかしたらそこまでです。


「ところであんた、あんま変わんないのね」


 まぁ、髪を伸ばして色を変え、瞳の色も変えただけですから、知っている人がいれば分かる可能性はあります。けれど、その程度しか変えない人は多いものです。そういうカオルコさんは……金髪ロングで全体的にふんわりカールしてますね。現実との違いは知りませんが。


「話の前にPTでも作りますか」


 面倒事が避けられないのであれば、早く終わらせるに限ります。ただ、オープンで話していると興味本位で近付いて来る人がいるのが厄介ですし、さっきのように本名を口にしかねませんから。

 そういえば、職業名を魔法使いBにしたままなので、空欄に戻しておきましょう。後は、カオルコさんにPT申請をして、ヤタと信楽を召喚したら準備完了です。


「……今日は来てくれてありがと」


 ああ、カオルコさんが座っているのはHPを全損した人が出現する棺桶なので、場所を変えたほうがいいですね。とりあえず、窓の近くに椅子があるので、そこに並んで座ることにしました。


「それで、MOBを倒すことに対する忌避感でしたね」

「そうよ。晴人達がモンスターを殺すのを見るのは我慢出来るんだけど、私がやるとどうしてもダメなの」

「我慢してる時点で無理なんじゃ……」


 大丈夫ならまだいいと思います。けれど、その時点で我慢する必要があるのなら、諦めるというのも一つの手です。そもそも、その人と我慢してまで一緒にプレイしたいというのがわかりません。


「クラス内でグループ作らなくても平然としてられるあんた達にはわからないと思うけど、私達は晴人が中心なの。今は私が隣にいるけど、クラスメイトのプレイヤーも増えたから、話題に付いて行けなくなったら誰かに場所を取られるの」


 メンドクサ。


「それで、そのクラスメイトは今ログインしてるの?」

「今は、第二陣のクラスメイトを手伝ってる。私はログイン状態を隠してるから、ログインしてないことになってるけど……」


 試しにフレンドリスト見てみると、カオルコさんの横にログアウトという文字が見えます。なるほど、個別で出来るかは知りませんが、こういった機能もあるわけですか。というか、第二陣のクラスメイトがHPを全損した場合、ここで復活するわけですから、下手したら鉢合わせですね。私としては問題が悪化する可能性はあっても完全に私の手から離れてくれそうなので、場所の移動を提案するのはやめておきましょう。ええ、何も気付きませんでした。


「それで、何をしたいの?」

「何とか、モンスターを倒せるようにしたいんだけど……」


 いや、それは知っています。


「もっと具体的に。MOBを倒しに行って慣らすとか、別のことをするとか」

「モンスターに攻撃するのは私一人でもやってみたんだけど……。ところで、前から聞きたかったんだけど、何でアンタはMOBって言うの?」


 どうやら何をすればいいのかわからなくなり、話を逸らすことにしたようです。これは誰も答えを知らない問題を解決しろと言われているようですね。


「MOBってのは、Moving Objectの略で動く物体とかだけど、ネットゲームでは敵とかモンスターとかを指すの。私は弟がゲーム内でそう言ってたから、そう言ってるだけ」


 どんな言い方をするかは人それぞれですが、昔ハヅチにそう教わったので、それ以降MOBと呼んでいます。


「動く物体……つまり、動物じゃなくて、物ってこと?」

「そう。それに、私はデータと割り切っているから、動物だとは思ってないし」


 まぁ、ヤタや信楽のように可愛がることもありますが、それは現実でぬいぐるみを可愛がるのと同じことです。ですが、カオルコさんはモンスターと口にしているので、生き物と思ってしまっているのでしょう。最初のマップのラビトットはどう見ても兎ですし。


「物……、こんなリアルなのに……」


 おや、私の膝の上にいる信楽に興味津々のようです。まぁ、少しくらいなら触るのを許しましょうかね。

 少し荒療治を試しましょうかね。そう思っていたのですが、ここの利用者が一気に増えましたね。それも見た目から判断するに、第一陣のプレイヤー達です。ガラの悪そうなプレイヤーとお金のかかっていそうな装備のプレイヤーが大量に出現しました。その上、一部の人達が何やら言い争っています。

 まぁ、聞くに堪えない罵り合いなので、放置しましょう。


「エスカンデには行ける?」

「エスカンデって東の街? そこなら守ってもらいながら何とか行ったけど」


 それはよかった。場合によっては東を突っ切って草原の門まで行かなければいけませんでしたから。エスカンデへ行けるのなら、そこからフィールドへ出るだけですみます。


「それじゃ――」

「おう、久しぶりだな」


 何だか盗賊風の大男が話しかけてきました。ですが、知らない人なので……、いえ、知っている人ですね。何せ、グラートという名前が見えていますから。全員に表示していない限りは、知っている人のはずです。それに、カオルコさんが小声で誰か聞いてくるので、きっと見えていないのでしょう。

 まずは、PT会話の方で答えておきます。

「知ってる人だけど、このままPT会話にしといて」

 周囲の聞くに堪えない話から察するにこのガラの悪そうな人達や盗賊風の大男はプレイヤーキラーのようなので、カオルコさんが関わってもいいことはないでしょう。


「確か……PKの親分さんですよね」

「おう、やっぱリーゼロッテか。妙なところで会うなあ」


 そういえば装備が微妙に違うので人違いで誤魔化す方法もありましたね。


「あー、やっぱ人違いで」

「ガハハ、相変わらず変わってるな。けれど、もう遅いぞ」


 残念です。


「最前線のプレイヤーを襲って返り討ちにあった人達が何かようですか?」


 大量に現れたプレイヤーの人数を数えてみるとプレイヤーキラーの方が多いようです。つまり、返り討ちにあったと推測出来ます。


「ああ、こっちは全滅だが、あっちもほぼ壊滅だ。南の街を開放するためのボスを攻略するつもりの連中だったから、こりゃ、痛み分けだ」

「そうですか。では、あちらで言い争いという第二ラウンドが始まっているので、どうぞお戻り下さい」

「……まったくあいつらは。じゃあな」


 さて、それでは話を戻しましょう。


「それじゃあ、ゴブリン相手に戦ってみよっか」

「その前に、今の人、知り合いなの?」

「うーん、ランダムエンカウントの対人イベントだと思っとけばいいよ。フィールドで遭遇しない限りなにもないから」

「た、対人イベントって、人と戦うって言うの」


 あー、MOBにすら忌避感を覚えるのならプレイヤー相手なんて不可能ですね。そう考えるとやはりゴブリンは荒療治ですが、試して無理なら私には何も出来ません。


「まぁ、それはさておき、ゴブリンと戦ってみる?」

「それはさておきって……。はぁ、ゴブリンはあのダンジョンで相手にしたけど、私には無理だったの」

「着いてくるなら一つ試す。着いてこないならここまで」


 そもそも私には手伝う義理はありません。本当に面倒くさいですし。けれど、何もせずにずるずると続くのは面倒です。なら、これは面倒事を減らすための必要経費です。


「わ、わかった。行くから」


 さて、重い腰が浮いたので、エスカンデへ移動しましょう。





 そんなわけで私達はエスカンデの南側の森を訪れました。この辺りにはいい具合にゴブリンが出没してくれるので、試すにはもってこいです。


「それで試すって何するの? ゴブリンが相手でも、まともにやれる自信ないわよ」

「ちなみに、魔法スキル、どこまで上がってる?」

「……一応ファイアウォールは使えるわよ。ヒールとかエンチャントでスキルレベル上げられるから」


 なるほど、支援だけでレベルを上げたわけですか。MOBを倒せないなりにスキルレベルを上げる方法を考えたわけですね。このゲームでは純支援系のキャラは作りにくいですからね。魔法を四種類取ってから付与魔法を、光魔法から治癒魔法を、光と闇から空間魔法を……、案外いけますね。まぁ、インベントリの常用を考えると、最大MPを上げるために魔法スキル各種を上げた方がいい気がするので、現実的ではないですね。

 とりあえず、どの程度攻撃できるのかを確認しましょう。


「フレイムランス」


 適度な場所にゴブリンがいたのでまずは釣ります。


「はい、それじゃボルト系でいいから攻撃して」


 さて、久しぶりに短刀を抜き、あしらう準備です。私は前衛が向かないので、苦労しそうですが、剣と体術スキルのレベル上げと思えればいいのですが。


「え、ちょっと、いきなり! 無理無理」


 カオルコさんがそう慌てていますが、私は気にせず武器防御に専念します。


「早くしないと私のHPが0になって、このゴブリンがそっち行くよ」

「う……うう。【ファイア……ボルト】」


 何とも弱々しい雰囲気ですが、発動した魔法に当人の精神状態は関係ありません。そのため、発射されたファイアボルトは私の目の前にいるゴブリンに命中しました。

 撃ちやすいように横から狙えるような位置取りをしていたのですが、目の前のMOBに魔法が命中するのは怖いものがありますね。

 横目でゴブリンを攻撃したカオルコさんの様子をうかがうと、微かに手が震え、気持ち悪そうにしています。身に着けているフルダイブマシンが回線を切断しないので、そこまで重症ではないように見えますが、それがかえって止められずにいる原因ですかね。何せ、切断されるくらいなら、諦めも着くでしょうし。

 さて、状態も見れましたし、目の前のゴブリンを始末しましょうか。


「【パンチ】……【キック】」


 両方共魔拳を併用しているので、見た目にそぐわない凄まじい威力のようです。パンチは上から叩くようにしたのでノックバックしませんでしたが、キックの方では蹴り飛ばしてしまいました。では、主武装である杖を取り出して、一気に焼きましょうか。


「【フレイムランス】」


 魔法陣を三つ描き、炎の槍を三本飛ばしました。流石に何発必要だったか覚えていませんが、十分なダメージ量だったようで、ゴブリンがポリゴンとなって散りました。


「あんた、随分と強いのね」

「まぁ、自由気ままにやってますから。それで、体調は大丈夫ですか?」

「ええ、見てなかったから」


 それは意味がありませんね。本人がどうしたいのかは知りませんが、慣らしたいのであれば、見ていなければいけません。まぁ、慣れるまで付き合う気はないので、荒療治を始めましょう。

 MPを回復するのを待ち、次のゴブリンを探します。


「ちょっと、まだ続ける気?」

「やめていいなら私はどっか行きますよ」

「……ごめん」


 別に謝る必要はないのですが……。謝るくらいなら、ここまでにしてもらえるのが一番ですし。


「いた。【フレイムランス】それじゃあ、さっきと同じことして」

「……【ファイア……ボルト】」


 さっきと変わっていないようですね。変わるとも思えませんが。さて、それでは荒療治です。


「そっちにタゲがいったら取り返すから、安心してね」

「え、ちょっ」


 流石にクールタイムもあるので連発は出来ないようですが、深呼吸をして落ち着こうとはしています。


「【ファイア……ボルト】」


 二発目ですね。そういえば、ファイアボルトの場合、何発必要なんでしょうか。カオルコさんのステータスにもよりますが、これは時間がかかりそうですね。まぁ、時間があるなら、それだけ言う時間も増えますね。


「ところで、ファンタジーにおけるゴブリンの設定って知ってる?」

「え? いきなりなによ」


 私の質問に対する返答以外はいりません。


「知ってる?」

「……緑色で人型ってことくらいしか」

「オーソドックスな設定なら、後は多少の知能があるのと、独自の言語らしきものがあるってことかな。それじゃあ、性別の設定知ってる? あ、ファイアボルトは続けてね」

「【ファイア……ボルト】……ぉぇ」


 おや、吐きそうなのでしょうか。まぁ、少しえずいただけのようです。


「知らない……わよ」

「何パターンかあるけど、ほとんど同じ。それなりに違う。めっちゃかわいいロリっ子。あ、これは私好みの設定だよ。……それで、一番多いのが、雄しかいない」

「【ファイアボルト】……それが、どうしたのよ」


 おや、少し慣れてきたのでしょうか。まだ手が振るえて、視線を外していますが、良い傾向なのか、強がりなのか。


「雄しかいないのに、どうやって増えると思う?」

「【ファイア……ボルト】知らないわよ」

「他の種族の雌を襲うんだよ。顕性遺伝子って設定なのかねぇ。ファンタジー系だと、女性を襲って、数を増やすの」

「【ファイア…………ボルト】……だから、何なのよ」


 ここまで言えば何を言いたいのか察しやすいと思うんですが。


「つまり、ゴブリンは女の敵なの。そんな相手に容赦するの? 罪の意識を感じるの? 傷付けたからって忌避感を覚えるの?」

「ファイア……」


 あー、へたり込んでしまいました。どうやらここまでのようです。それにしても、魔法の発動には思考操作を使っていたようで、最後まで口にしなくともファイアボルトが発動しています。何というか、ゲームですね。

 さっきと同じようにゴブリンを倒すと、カオルコさんへと歩み寄りました。


「諦めます?」

「あんた、さっきの本気?」


 まったく、私は痴漢は死刑だと思っていますがここは誤魔化しましょう。


「今日のために考えましたよ。荒療治をしようと思ったんですけど、ダメみたいですね」


 まぁ、上手くいくとも思っていませんでしたけど。何かの切っ掛けになればと思ったのは本当です。


「もう無理」

「そう。じゃあ諦めよっか。カオルコさんにとってその程度のことみたいだし」


 動く気配がないのでリターンで戻ろうかと考えていると、うつむいていたはずなのに急に顔を上げています。その表情を見ると、怒っているように見えます。


「アンタに何がわかるの!」

「人のことなんてわかるわけないよ」


 人のことがわかるというのは、結果論にすぎません。今までの相手の行動から結果を予測しているだけですから。ハヅチや時雨はわかると言っても語弊がないほど私のことを知っていますが、交流のない相手のことをわかるわけがありません。


「……アンタ、良いやつだと思ってたのに。何なのアンタ」

「それでどうしますか? 約束なので続けるというのなら続けますけど」

「方法……、変えていい?」


 おや、何か思いついたのでしょうか。私が押し付けるのではなく、自分から試した方法でダメなら、諦めてくれそうですね。


「何するの?」

「相談。晴人の迷惑にならないように、どう話せばいいか」


 よりによって一番私に向かない分野を持ち込んでくるとは……。


「じゃあ提案。正直に全部話す」

「それが出来れば苦労しないわよ」


 それしか無いと思うんですけどねぇ。そもそも、誰も答えを知らないことですし。


「それじゃあ目的の確認。どうなりたいの?」


 おっと、ヤタと信楽が空腹を訴えています。ここは御飯を上げておきましょう。


「私は晴人の隣に居れればそれで……」

「えっと、確か他のクラスメイトがHTO始めたから、今いるポジションを取られそうって状況だっけ?」

「そうよ」

「その程度で取られるポジションなの? もうさっさと話した方が早くない? その相手も忌避感が強かったかもしれないから、何か解決法知ってるかもしれないし」


 いやはや面倒です。相談事を持ちかけられることなんて皆無ですから。


「でも……」

「相談事をして仲良くなれるんじゃないの? ……知らないけど」


 流石に最後の一言を聞かれると長引きそうなので、ここは楽観的に考えさせるしかありませんね。相談をされて迷惑をかける、ではなく、相談されて喜ぶはず、と思い込ませれば私の勝ちです。


「でも……」

「胸の内をさらけ出せば、相手は自分を特別に思ってるって思うはず」

「そう、かな……」

「弱みを見せるのは、特別な相手だけだから」

「そうよね……」


 おや、もう一押しですかね。


「二人っきりで相談すれば、相手も気付くって」

「そうよ……ね」

「だから、相談する内容をちゃんと決めて、上手く話せば大丈夫だよ」

「そうよね。晴人も目移りしなくなるわよね」

「そうそう。だから、自分の言葉で話すために、しっかりと考えないと」

「そうよね!アンタを目で追ったりしなくなるわよね」

「そうそ……ん? まぁそうでしょ。だから、一人でしっかり考えて行動してね」

「わかったわ。ありがとう」


 ふっ、チョロい。

 何故上手く行ったのかはわかりませんし、妙なことを言っていたきもしますが、私がすべきことは相手が弱っているうちに、その部分に付け込んで、理論やら辻褄やら筋道なんてものは必要ありません。勢いで丸め込めばそれでいいのですから。

 とりあえず、リターンで街までは送りました。後は、冷静になって気付かれる前に姿を消すだけです。PTを解散して、私はクランハウスへと逃げ込みました。

 今からでは狩りに行くためのまとまった時間もないので、ログアウトまで宿題を進めましょう。





 日曜の夜、いつものようにログインしました。

 まずはクランハウスで宿題をしながら誰かが来るのを待ちます。ハヅチか時雨辺りなら聞きやすいのですが、クランハウスに立ち寄るのは誰でしょう。

 そう思いながら宿題を進めていると、最初に現れたのはリッカです。時雨達とPTを組んだ時には斥候系の役割を割り振られていますが、弓と短剣、どっちがメインなんでしょうね。動きやすそうな装備なので、ハンターとか狩人とか名乗れそうですし。


「……リーゼ、ロッテ、宿題?」

「そだよ。7月中に終わらせれば、後が楽だからね」

「……見て、いい?」

「はいよ」


 設定を弄り、リッカに宿題が見えるようにしました。見たところでどこの学校かはわかりませんし、まぁ、知られたところでそうなるわけでもありません。ちなみに、今やってる宿題は数学です。


「……先輩?」


 おや、どうやらリッカは歳下のようですね。数学は学年がわかりやすいです、知らない公式やら数式やらがあれば、尚更です。


「後輩ー」


 まぁ、直接的な先輩後輩ではないでしょうが、のっておきましょう。

 気を良くしたのか、リッカが隣に腰を下ろし、宿題を展開しています。


「……ここ、教えて、欲しい」

「どれどれ、……最近の子供は難しいことやってるねぇ」


 さて、定番の台詞を口にしたので真面目にやりましょうか。私が数学の宿題をやっていたので、リッカも数学の宿題を見せてきました。


「あー、これは――」


 教科書を引っ張り出して見た方が早い気もしますが、章の最後にあるちょっと難しめの問題なので、教えた方が早いのでしょう。


「……なるほど。リーゼ、ロッテ、頭、いい?」

「んー、順位で言えば、上から数えた方が早いよ」


 数えるのが上からか下からの二択の場合、中間よりも上であれば、上から数えた方が早いに決まっています。数え方を指定されなかったのですから、見栄を張るべきです。それに、教科も指定されていませんし。


「……そっか」


 何でしょう、この幼気な子供を騙したような感覚は。別に嘘はついていませんが、素直に受け取られると、調子が狂いますね。


「そういえばさ、リッカは茶色の欠片、持ってる?」


 確かノーサード付近に出現するゲシュペンストという名前の従魔がいるので、もしかしたらと思い、聞いてみることにしました。前にハヅチに聞いたモグラ系のMOB以外にも落とすのがいるのなら、楽に戦えるMOBがいるかもしれません。


「……これ?」

「おー、それそれ。メタルモゲッラが落とすって聞いてるけど、他にいるの?」

「……それだけ。ファントム、イーグルと、戦うのに、……邪魔、だった」


 あのゲシュペンストはファントムイーグルという種族でしたか。空と足元に注意を払わなければいけないとは、とても面倒な場所ですね。


「……いる? いっぱい、持ってる」

「なら、交換しよ」


 そう言って私はシカジカが落とした緑色の欠片を一つ取り出しました。リッカも文句はないようなので、交渉成立です。収集するだけなら、自分で倒す必要はありません。これで、四種類の欠片が……あ、青色の欠片は全てハヅチに渡してしまっているので、揃っていませんね。まぁ、その内来るでしょうから、その時に奪え……、強請れ……、提供してもらえばいいでしょう。

 そう思い二人で宿題を進めているのですが、時雨達はPT行動が休みなのでしょうか。リッカがここにいるということは個別行動してそうですし。

 しばらくすると、工房へと続く扉が開きました。


「二人並んで宿題か……。ここ、ゲーム内だよな」


 おやおや毎回私の宿題を写しているハヅチです。クラスや担当の先生が違っても宿題は同じなので、問題は起きていませんが、宿題に罠を仕掛けておきたくなりますね。


「そういうハヅチはちゃんと宿題やってんの? 夏休みの終わり間際に慌てても知らないよ」

「8月になったらちょっとずつ写すよ。それよりリッカ、頼まれてたの、出来たぞ」

「……ありがと」


 リッカの夏用装備だと思いますが、口元を隠しているマフラーを変えるだけなのでしょう。身に着けると涼しいマフラーというのも意味不明ですが。

 ええ、そう思っていましたが、全く違いました。今のリッカは、体のラインがはっきりと出るタイツに、短いジャケット、そして、ホットパンツです。タイツが繋がっているのか別でスパッツを装備しているのかはわかりませんが、中々な格好です。後は、指ぬきグローブと動きやすそうな靴に例のマフラーです。そこからマフラーとタイツは変わりませんが、他が一気に変わりました。ええ、ハヅチに頼んだということは、そういうことですよね。


「……いいかんじ」


 短いジャケットは長めの上衣に変わり、帯を締めています。指ぬきグローブは布の手甲に、足回りは足袋やらわらじになりました。ええ、くノ一風ですよ。マフラーはそのままなので、これは元々夏用になっていた可能性もあります。


「ハーヅーチー」

「ちょっ、何だよ。頼まれてた装備だぞ」

「何でタイツのままなの! そこは鎖帷子でしょ。いろいろと見えそうにしないと!」


 思わず熱くなってしまいました。確かにタイツも体のラインが出るのでいいですが、目の大きい鎖帷子も捨てがたいです。


「そこかよ」

「それ以外何があるの、まったく」

「……リーゼ、ロッテ、鎖帷子は、時雨の、範囲」


 あ、それもそうですね。ハヅチは裁縫担当ですから、鎖帷子は作れませんね。


「ところで、狩人風からくノ一風に変えた理由でもあるの?」

「……着てみたかった」

「なるほど」


 現実で出来ないことをするのは、ゲームの醍醐味です。それに、和服を普段着にする人は少ないので、着てみたいというのは、至極当然のことですね。


「……でも、忍者みたいのって、言った。……けど、装備名、くノ一風に、なってる」


 さて、この浮気野郎をどうしましょうか。装備については時雨と同じPTなのですぐに気付かれるはずなので、放っておいても問題ありませんが、ここは私の楽しみのために、何かしましょう。

 まずはジト目を向けます。


「ハーヅーチー、趣味、混ぜたでしょ。というか、欲望、混ぜたでしょ」

「……な、何のことだ」


 おや、図星ですか。まったく、この――。


「ペド……」

「いやちげーから」

「……私、そこま、小さく、ない」


 おや、リッカからも反論されてしまいました。しかたありません。これ以上突きすぎるとまずいですね。藪蛇になりかねませんし、吹っ切れると楽しみづらくなります。

 何より、リッカが怒ってしまいますね。


「今回はここまでにしてあげる。それで、話は変わるけど、青色の欠片、残ってない?」

「……完全な別件になったな。ロングトードは慣れればいい狩場だから、結構残ってるぞ」

「一個何かと交換して。四属性の欠片をコレクションとしてもっときたいから」


 これは完全に個人的な趣味の範囲です。そのため、私が預けた物を渡せとは言いません。何かを作るのに使うのなら、理由を話して提出させますけど。


「別にリーゼロッテが持ってきたもんだから、普通に返すぞ」

「んー、クランに物納したからねー。とりあえず、緑色の欠片と交換にしといて」

「まぁ、リーゼロッテがそれでいいんなら」


 そんなわけで青色の欠片を再び入手しました。すると――。


 ピコン!

 ――――System Message・アーツを習得しました―――――――――

 【属性付与】を習得しました。

 付与魔法から選択することが出来ます。

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 おや、何かの条件を満たしたようです。詳しく見てみると、異なる属性を持ったアイテムを四種類入手することで、解放されるそうです。効果としては、一時的に武器もしくは防具に属性を付与するそうで、触媒に使うアイテムによって属性値が変わるそうです。欠片を使った場合はその属性の極小になるのでしょう。


「おーい、どうした?」

「リッカ、魔力付与、どうする? グリモアに頼む?」

「……グリモア、最近、忙しそう。……お願い」


 とりあえず他のことをしてこれをどうするか考えましょう。ああ、確認しなければいけませんね。


「それじゃ、付与するから、許可してね。それで、ハヅチ、付与魔法の属性付与って見付かってる?」

「あー、噂だと、持ってるやつはいるらしいぞ。詳細はいつものように秘匿されてる」

「ふーん、欠片四種類で取れたよ」

「……扱いはいつもの様にか?」

「うん、任せた」

「……ハヅチ、これも、渡し、とく」


 どうやらリッカからは茶色の欠片を提供されたようです。とりあえず、取るだけなら困らなそうですね。


「詳細聞いていいか?」

「一時的に武器か防具に属性付与出来るよ。触媒として欠片を使うけど、結晶とかになれば、属性値も変わると思うよ」

「そうか。結晶のこと知ってるってことは持ってそうだけど、それは今度だ。全属性の触媒の買い取り進めとくから、クランで行動する時には渡せるようにしとく」

「りょーかい」


 付与の触媒を用意してくれるのはとてもありがたいです。今後は属性持ちのMOBも増えそうですから。ただ、光と闇、雷や鉄といった属性にも触媒があるのか気になりますね。雷は効果もわかりやすそうですが、鉄属性を付与した場合、どうなるのやら。


「あ、後、クラン倉庫にポーションの材料入ってるから、作っといてくれるか?」

「あー、いいよ」


 この後、刻印やら、クラン倉庫にある材料を使ってグリーンポーションを作り、MPの回復の間に宿題を続けたりと、クランハウスに引きこもって過ごしました。

プレイヤー名:リーゼロッテ


基本スキル

【棒LV30MAX】【剣LV15】【武器防御LV5】【格闘LV14】

【火魔法LV30MAX】【水魔法LV30MAX】【土魔法LV30MAX】

【風魔法LV30MAX】【光魔法LV30MAX】【闇魔法LV30MAX】

【魔法陣LV30MAX】【魔力操作LV30MAX】【詠唱短縮LV30MAX】

【錬金LV30MAX】【調合LV30MAX】【料理LV30MAX】

【言語LV30MAX】【鑑定LV30MAX】【発見LV28】

【再精LV30MAX】【跳躍LV30LVMAX】【索敵LV30MAX】【隠蔽LV30MAX】

【毒耐性LV3】【麻痺耐性LV1】【沈黙耐性LV1】【睡眠耐性LV1】【幻覚耐性LV1】

【調教LV24】


下級スキル

【杖LV50MAX】

【炎魔法LV18】【氷魔法LV11】【地魔法LV20】

【嵐魔法LV12】【聖魔法LV20】【冥魔法LV14】

【雷魔法LV13】【鉄魔法LV13】【空間魔法LV42】

【治癒魔法LV14】【付与魔法LV26】【無魔法LV17】

【魔力陣LV50MAX】【魔力制御LV50MAX】【詠唱省略LV16】

【錬金術LV15】【調薬LV15】【料理人LV13】

【言語学LV6】【識別LV26】【魔力視LV25】

【魔力増加LV38】【軽業LV9】【探索LV25】【隠密LV25】


中級スキル

【杖術LV4】

【魔道陣LV2】【魔法操作LV2】


称号スキル

【探索魔法】【魔術】【筆写】


【残りSP135】

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― 新着の感想 ―
[一言] カオルコ、手っ取り早いのはヒーラー・バッファーで支援メインにすればよかったんじゃとか思わなくもない
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