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Hidden Talent Online  作者: ナート
3章 夏に向けて
40/148

3-4

 7月21日金曜日、今日から正式に夏休みが始まりました。大型連休と違い、毎日家事をする必要がないので、時間があるというものです。

 今日の13時から第二陣のログインが始まるため、私は時間よりも早めにログインしました。

 ログイン地点であるポータルはセンファストの中心にあるのですが、ここを見渡せるいい場所は……。おや、見覚えのあるうさ耳ハットをかぶった巫女服のプレイヤーがいます。あそこはNPCが経営している喫茶店ですね。気にしていなかったのですが、始めからあったのでしょうか。向こうも私に気付いたようで、大きく手を振りながら私を呼んでいるようです。

 やれやれ、時雨も私と同じでログインラッシュを眺めたいようです。


「早い、ね……」


 おや、一人だと思っていたら、もう一人いますね。ですがこの人、このかなりお年を召した浪人風で、反射的に首を守りそうになってしまいました。ついでに時雨を盾にしています。


「はっはっは、その反応じゃと、覚えられとるようじゃな」

「いえ、覚えてはいないけど、本能で首を守ったんだと思いますよ」


 覚えていないということは、面識のある人だとは思いますが、この人は知りません。けれど、本能で首を守ったという一点に関しては、正しいですね。時雨の言葉を肯定するために無言で首を縦に振っていますが、それを見た相手の人は愉快そうに笑っています。


「はっはっは、そうかそうか。まぁ、話はしとらんし、そのか細い首を落としただけじゃからのう」


 何が楽しいのかわかりませんが、私はこの人に首を落とされたようです。……あ。


「えっと、確か……。げ……、げ……、幻十郎さん」

「源爺さんだよ」

「きっとそれ」

「はっはっは」


 きっと思い出しました。確か大型連休後のトーナメントのエキシビジョンで戦った人の一人のはずです。ええ、だから反射的に首を守ったんですね。

 それにしても――。


「時雨っておじさん趣味を通り越して、老人趣味なんてあったっけ?」

「流石にそれは源爺さんにも失礼だよ」


 おっと、口に出したら怒られてしまいました。まぁ、間違ってはいませんが。


「失礼しました。時雨の知り合いで、リーゼロッテといいます」

「はっはっは、気にせんでええわい。ワシが爺さんということに違いはないからのう」


 さて、挨拶も終わりましたし、私は私でいい場所を探しましょう。


「リーゼロッテもここで見てけば?」

「邪魔じゃない?」

「ワシも、ここにいないといかんからのう」

「源爺さんも新規プレイヤーのログインラッシュを高笑いしながら眺めるという悪辣な趣味をお持ちで?」


 新規プレイヤーがログインして右往左往したり、ログイン地点に陣取っている第一陣との装備の差に嫌気がさしたりするのを見て笑い飛ばしたいとは、いつの時代も酷い人はいるものですねぇ。


「いや、流石にそんなことするのリーゼロッテくらいだから」

「ワシは、【MAKING&CREATE】の所属でのう。新規プレイヤーを確保する気のない中立クランということで、大型クランが自分達で決めた取り決めを守ってるか見届けるために来たんじゃよ」


 なるほど、勧誘合戦を防ぐための審判ですか。生産クランは生産者を囲い込むというよりも相互扶助が主な活動内容のようなので、勧誘合戦に加わる必要がないということですね。


「私は、鍛冶のことで聞きたいことがあったから、源爺さんの用事に合わせてここにいるの」

「なるほど。じゃあ、私がここで新規プレイヤーを眺めていても問題ないと」


 それさえわかれば他のことを気にする必要ありません。時雨の隣に腰を下ろし、ログインラッシュを待ちましょう。

 時雨は時間ギリギリまで何かを聞いていますが、私には関係ないことなので耳にすら入れていません。

 ちなみに、ここはオープンカフェのような場所で従魔を呼んでもいいようなので、ヤタを肩に、信楽を膝の上に乗せています。

 そして、13時になりました。けれど、ログインしてくるのは装備の整ったプレイヤーばかりで、ほとんどが第一陣です。課金装備は事前に確認しているので見ればわかりますが、身に着けている人はいませんね。


「流石にスキル取得とチュートリアルがあるから、すぐにはログインしないか」

「一応、あのサーバー、制限時間はあるけど、加速の倍率が高いらしいよ」

「そうなの?」

「制限時間はリアルで一時間だけど、倍率はちょっとわかんない」


 常時加速は三倍が法律の上限ですが、制限内容によっては倍率を上げることが出来るので、それを利用しているのでしょう。実際、スキルの情報は出回っているので、そこまで悩む人はいないでしょうし。

 そんな話をしていると、ようやく初期装備を身に着けたプレイヤーがログインし始めました。辺りを見渡し、今までのフルダイブとの違いに驚いているようです。私は年単位でのブランクがありましたが、直近まで他のフルダイブゲームをやっていた人はどう感じるんでしょうかね。

 おや、飛び跳ねたり、手を握ったり開いたりして動きを確認している人がいます。後は、第一陣の知り合いと待ち合わせをしていた人や、第二陣同士で待ち合わせしていた人達もいます。

 ふむ、つまらないですね。もう少し見ていて面白みのあるプレイヤーはいないものでしょうか。お、課金装備を身に着けたプレイヤーがログインしました。ここからでは距離があるので詳しい容姿はわかりませんが、初心者丸出しの女の子に声をかけています。課金装備で第一陣の振りをしてナンパでもしているのでしょうか。あ、断られましたね。というか、声をかけられた相手がいきなりしっかりした鎧を装備したので、第二陣の振りをした第一陣のようです。く、その手がありましたね。まったく、面白そうな発想をする人です。

 おやや、第二陣の振りをしていた人が仲間を呼んでナンパしてきた人を強引にどこかへ連れて行ってしまいました。今のは勧誘の手段だったのでしょうか。ちょっと付いていきたい気もしますが、面倒なので止めておきましょう。


「ふむ、ワシの出番じゃのう」


 そう言って源爺さんは席を立ち、私が面白がって見ていた人達の後を追いかけていきました。大型クラン同士の勧誘合戦にしか口を出さないと思っていたのですが、違ったのでしょうか。


「同じところ見てたと思うけど、いくつかの中小クランも取り決めに参加してるらしいよ」

「そうなんだ」


 何かしらの利点があるから参加しているとは思いますが、そういった取り決めを破るには、それ相応の覚悟が必要というものです。


「一応、先に声をかけたクランの邪魔をしないって決めてるらしいんだけど、興味ないか」

「全くもって」


 しばらく眺めていると、どこからか源爺さんが戻ってきましたが、段々とログインラッシュも落ち着いてきましたね。そろそろ場所を変えましょうか。


「おい、今回は我々が先に声をかけたんだぞ」

「何言ってんだ。先に彼らが俺達に声をかけたんだ」


 おや、揉め事ですか。同じような文様を鎧に付けた一団と、統一性のない一団が何やら言い争っています。ここまで届く声から察するに、第二陣に声をかけた集団と、第二陣から声をかけられた集団ですか。ここまで勝敗のはっきりしている勝負もないと思うのですが……。あ、案の定、源爺さんが仲裁に向かいました。

 そこからは騒ぎが大きくならず、鎧の一団が引き下がっていきました。何ともあっけない結末ですが、前もって仲裁役を用意しているのなら、こんなものですね。


「それじゃ、そろそろ場所変えるね」

「その前にいいか?」


 おや、誰かと思えばハヅチです。まぁ、私がここにいることは想像に難くないと思いますが、何のようでしょう。


「どしたの?」

「二人に渡すものがあってな」


 そう言うとハヅチからトレード申請が送られてきました。とりあえず受け取ると、二つの装備品でした。あー、これは前もってどんな物にするのか決めていたようですね。


「あんがと」

「もう用意してくれたんだ、ありがとうね」


 おや、時雨の方も用意が終わっていたようです。それに、よく見てみれば、ハヅチの口元を隠しているマフラーも、少し青みがかっていました。

 それでは、私も装備を変えましょう。

  まずは【魔女志願者の夏用ブラウス】です。メニューから装備欄を弄ると、今までの白い長袖のブラウスから、薄い水色のノースリーブのブラウスに変わりました。よくある一部を強調してチラ見せするかの様に首元へ斜めになっているものではなく、本当に袖がないだけのものです。もしも時雨に装備させるのなら、前者ですが、装備する相手のことをちゃんと考えていますね。

 次は、【魔女志願者の外套・夏物】です。説明を見るとコートと書いていますが、夏にコートですか。まぁ、ローブを身に着けている私が言えたことではありませんね。装備してみると、これは紺色ですかね。まぁ黒っぽいといえなくもありませんが、そんな色です。それにしてもこの外套、不思議な作りをしています。袖を通してはいますが、二の腕の中間くらいから上が後ろへと垂れています。子供がぶかぶかのコートを着ている時になりそうな感じですが、丈自体は短いので、大きいというわけではありません。コートを着ていても肩が出ており、動きの邪魔にもならず、ずり落ちない。流石はゲームです。

 ちなみに、性能はこうです。

――――――――――――――――

【魔女志願者の夏用ブラウス】

 魔女を目指すものが身に着けている涼し気なブラウス

 水属性:極小

 耐久:100%

 防御力:▲

 魔法防御:▲

 INT:▲

 MP:▲

 MP回復量:▲

――――――――――――――――

【魔女志願者の外套・夏物】

 魔女を目指す者が身に着けている涼し気なコート

 耐久:100%

 水属性:極小

 防御力:▲

 魔法防御:▲

 INT:▲

 MP:▲

 MP回復量:▲

――――――――――――――――

 性能から見るに素材は上質な茶色い皮を超える物ですね。候補としては絹の糸から作った物でしょうか。とりあえず両方共に魔力付与をしておいて……。時雨の方には色合いの変化がありません。これはハヅチなりのこだわりなのでしょう。……この和装好きめ。


「嬢ちゃん達、随分と豪気じゃが、人目は気にした方がいいぞい。君も、注意してやらんか」

「あはは……」

「ああ、源爺さん、戻ってこれたんですね」


 一方が簡単に引き下がったとは言え、そう簡単には戻ってこれないと思っていたのですが、話は後始末含めて簡単に終わったようです。


「リーゼロッテはともかく、時雨まで着替えるとは思いませんでしたよ」

「せっかく作ってくれた物ですから」

「気にする意味もありませんよ」


 現実の体型を模しているとは言え、所詮は作り物ですし、いちいち誰かを気にしているとも思えませんし、気にしてもしかたありません。


「そういうものかのう」

「そういうものですよ。それじゃ、私はこれで」


 手を振り、私は東へと歩き出しました。実際に水属性の装備を身に着けると、気にしないようにしていた暑さが気にならなくなりました。いえ、それどころか涼しさすら感じます。やはり、早めに素材を集めて正解でした。

 そういえば、ハヅチには頼み事をすると言ってありますが、クランメンバーの分が終わっているかわからないので、後にしましょう。





 センファストの東門を出てラビトットのいる草原へと足を踏み入れました。予想通りここは人でごった返しています。ほとんどが初期装備や課金装備のプレイヤーですが、一部レベリングの手伝いをしていると思われる第一陣もいます。

 ちょうどいい場所を探して歩いていますが、ヤタと信楽が目を引いているようで、視線を外した後にMOBから思わぬ攻撃を受けた声が聞こえます。フィールドの真ん中くらいにちょうどいい木が見つかりました。ここで軽業スキルの本領を発揮し、跳び上がって幹を蹴り、木の枝へと跳び乗ります。

 木の枝に腰を下ろし、ここからラビトット相手にレベリングしているプレイヤーを見渡します。そして――。


「【アタックアップ】」


 普通に詠唱して辻支援です。隠れるのは辻支援道に反している気もしますが、まぁ、気にするのはやめましょう。私が楽しめればいいのです。

 向こうは突然付与魔法が掛けられ、驚いたのか周囲を見渡していますが、私を見付けられずにいます。ちゃんと頃合いを見計らっているので、攻撃や防御など、行動の最中に付与魔法を掛けるようなヘマはしません。突然身に覚えのないエフェクトが現れると、驚いて行動を失敗しかねませんから。


「【マジックアップ】」


 魔法を使っているプレイヤーにはこちらを使います。私の記憶が正しければ、ラビトットはボルト系で二発だったので、付与したところで倒すまでの回数が変わるとも思えませんが、これは辻支援の勝利条件の問題なので、気にしてはいけません。

 そう、辻支援とは、相手に支援をして、お礼を言われる前に立ち去るのです。本来は、全てのバフ系の魔法と回復をするのですが、今回は付与一つです。回復に関しては、ハイヒールでは回復量が過剰なのと、そうそう攻撃を受けるマップではないということを考慮し、省いています。

 それにしても、こうして支援していても、案外気付かれないものですね。

 おや、わざと盾で攻撃を受けているプレイヤーがいます。恐らくは盾系のスキルを上げているようなので、それ用の支援をしましょう。


「【ディフェンスアップ】……【ハイヒール】」


 なっ! 私は背後から魔法を掛けているはずなのに、空いている手をこちらに向けて振ってきました。まさか後ろに目があるかのように気付かれるとは、迂闊です。

 一敗を喫した私は、気を取り直して次の辻支援に移ります。


「【デフェンスアップ】……【アタックアップ】……【マジックアップ】」


 第二陣のペアもいるので、その場合は適した支援を両方にかけます。ちなみに、スピードアップをかけないのは、動きの感覚が変わるからです。常時かけるならともかく、一度かけられただけでは迷惑にしかなりません。

 しばらく続けていると、ヤタと信楽が私を突き出したので、それぞれにゴブリンの丸焼きの大成功品と焼き魚の大成功品を上げました。私も、満腹度が減ってきたので、普通の焼き魚を食べましょう。


「そこの魔法使いさん、さっきはありがとう」

「もが?」


 下から声がしたので魚を咥えながら見てみると、剣と盾を持ったプレイヤーがいました。ええ、この第二陣は覚えています。私が辻支援で一敗を喫した相手です。


「食事中だったのかな?」

「食事中ですけど構いませんよ。辻支援で負けた相手なので、話を聞かないわけにはいきませんから」


 勝者にはそれなりの権利があるというものです。ここは大人しく耳を貸しましょう。


「すまん、ちょっと意味がわからない」

「そうですか。私はただ気ままに辻支援しているだけなので、気にしないでください」

「そ、そうか。……じゃなくて、物は相談なんだが、料理アイテムに余裕があれば売ってもらえないか?」


 あー、そういえば私達の時とは違って満腹度が実装されていますし、普通の鞄すら持っていないようなので、料理アイテムを確保しておくのも大変ですよね。満腹度一つでここまでやりやすさが変わるものだとは。料理の経費もかかりますし。


「満腹度1%につき、100Gらしいので、一個500Gですが、何個いりますか?」


 おや、悩んでいます。まぁ、それも仕方のないことです。私のは間に合わせの料理アイテムですから。


「それじゃあ、9個売ってくれ」


 なるほど、1スタック分ですね。それではトレード申請をだしましょう。私は高い位置にいるのですが、案外届くものですねぇ。


「毎度ありー」

「ありがとう。それと、不躾だが、もう一度支援を貰えないか?」

「いいですよ。……【デフェンスアップ】【ハイヒール】」


 滅多に行わない複魔陣による異なる魔法陣の同時発動です。いえ、実験したかもわからないので、ほぼ初ですね。


「ありがとう」


 そう言って剣と盾を持ったプレイヤーは離れていきました。さて、会話をしていたせいで視線を集めてしまいました。ここは場所を変えましょう。まずは行く先を信楽をモフりながら考えます。ワタワタのいる森は初心者には難易度が高そうですし、流石にエスカンデに行っているとも思えません。コケッコーの方まで進むのもありですが、ここは、北側へ場所を変えましょう。こちら側はフルダイブ初心者向けのマップなので、HTO初心者向けである北側なら、人が多いはずです。





 そういうことで北側のスコッピーが出現するマップを訪れました。予想通り多くのプレイヤーがいますが、身を隠せる場所がありませんね。この辺りは岩場なので木があまりなく、あっても枯れ木のようなので、登っても身を隠すための生い茂る葉がありません。まぁ、辻支援をしてすぐに伏せれば隠れることは出来ますが、不審ですし、面倒です。ここは堂々と背後から支援して振り向かれる前に無関係を装い立ち去りましょう。

 そうと決まれば行動あるのみです。

 ミニマップを確認しながら進んでいると、課金装備に身を固めた男性達に見るからにちやほやされている後衛と思わしき女性のPTがいました。あそこは辻支援しても面白そうではないので、次を探しましょう。

 おお、順当にスコッピー相手に何度も盾で攻撃を受けているプレイヤーがいました。ええ、さっきの人とは違いますが、今度こそ成功させてみせましょう。


「【ディフェンスアップ】……【ハイヒール】」


 ふっふっふ、成功です。頃合いを見計らい、邪魔にならないように付与をし、すぐさま立ち去りました。もちろん、周囲にいるプレイヤーに紛れ込んだので、見られたとしても私とはわからないはずです。

 それでは気分良く次の辻支援です。

 何度か辻支援しながら進んでいると、ロックスネークが出現する場所まで来てしまいました。ここまで来ると流石にPTで来ていますね。場合によっては第一陣の保護者もいるくらいなので、ここから先へ進んでも、辻支援のしがいがなさそうなので、戻りましょう。

 帰り道では私が辻支援したのを見ていたと思わしきPTから、あからさまに付与が欲しそうな視線を向けられましたが、乞われて支援をするのは私の辻支援の考えに反します。そのため、あまり辻支援出来ずに戻っていますが、これもまた仕方のないことです。





 センファストへ戻ってきてしまいました。ここからまた場所を変える気にはならないので、一度クランハウスへと戻ります。流石に時間が微妙なので誰もいないと思っていたら、ハヅチが工房から出てきました。いつも疑問に思っていたのですが、クランハウスの出入りを知る方法でもあるのでしょうか。まぁ、私が使うことはないとおもうので、その内調べましょう。


「水属性の付与、涼しかったろ」

「ほんと助かるよ。これからどんどん暑くなると思うと、やってられないからね」

「それで、頼みがあるって言ってたけど、何なんだ?」


 ハヅチの方から話を振ってくれるとは、切り出し方を考えずにすみました。


「ほら、来週の土日に第二陣向けのフリーマッケットあるじゃん。あれに怪しい露店を出そうと思ってね。100,000Gで売れる水属性付与の装備を用意したいんだよ」

「……流石に数は用意出来ねーぞ」

「そこは心配ないよ。こうね、私が気に入ったプレイヤーにしか存在を教えない商品だから、1個あれば十分だよ。それでね、誰でも使えるようにマントかローブあたりが欲しいんだけど」


 私の言葉を聞き、深い溜め息をつきながらも何かを考えています。


「……はぁ。一応確認すっけど、鞄も出す気か?」

「出さないよ。リコリスに渡したのは前からの約束だったからだけど、今はもうクランで作ってるアイテムだからね」

「それでいいならいいけど。素材は上質な茶色い皮と綿、どっちがいい? 上質な茶色い皮だと、少し足が出るが、綿だとある程度の利益が出るぞ」

「綿で性能の調節して100,000Gまで底上げ出来ない?」

「出来なくもないが、そこまでいいもんにならねーし、もう少し出して上質な茶色い皮の装備買った方がいいくらいだ」


 何とも悩ましいことです。値段にこだわると割高な商品になってしまいます。それならいっそ――。


「よし、秘蔵の商品を特別にまけるって文言を使えばいいから、上質な茶色い皮でお願い。あ、もちろん費用は値切らないからね」


 そうです。怪しい露店ですから、何でもありですよ。私が楽しめればいいのですから、一点ものは少し奮発しましょう。


「それじゃ、費用はツケと相殺しとくから、また何か持ってこいよ。……まだ有り余ってるけどな」


 ふむ、大量に青色の欠片を渡したのが効いているようです。何せ、今は需要過多でもおかしくありませんからね。

 さて、ログアウトするにはまだ早いので、早速新機能を試しましょう。メニューのー、えーと、どこでしょう。あ、提携という欄がありました。そこには学業用フルダイブの一覧があり、事前に設定しておいたものが白文字で表示されています。なるほど、ここから前もって取り込んでおいた宿題データを展開出来るようです。その後、机代わりの板やら筆記用具やらを展開し……、ああ、ここからは学業用と同じですね。


「……目の前で宿題始めるの、やめてくれないか?」

「展開内容見えるの?」

「いや、真っ白のウィンドウがあるだけで、読めない。でも、そんなもん展開するのは宿題くらいだろ」


 まったく、いつも私のやった宿題を写しているから、宿題を見るのも嫌がるんですね。そんなことを言っていると、見せてあげませんよ。

 今日はある程度宿題を進めてログアウトです。

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