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Hidden Talent Online  作者: ナート
1章 ぶらりソロの旅
19/148

1-18

 私と時雨がハヅチの控室を訪れると、ハヅチは手元のモニターで先程の試合映像を見返していました。


「惜しかったね」

「実力差だよ。スキルも、技量も届かなかった」


 負けたことを何かのせいにせず、自身が未熟だから。そう受け入れているようです。何かのせいにして負け惜しみを言うよりは何倍もいいです。


「そんじゃ、次のエキシビションマッチでリベンジしなさい」

「そう、だよな。でも、よかったのか?」

「んー、面倒事があった時の後始末をお願いしてるけど、まだ何かしてもらうようなこともなかったから、たまには使わないとって思ってね」


 使わずに放っておいて無効だなんて言われたら、面倒ですし、あるものは使うべきです。


「まあ、いいんならいいが」


 ハヅチが控室にあるモニターをつけると、試合会場の映像が映し出されました。

 そこでは、マスタークンフー対ブゥードゥーという3位決定戦が行われていました。少し気になりますが、今はハヅチの方ですね。


「そんで隠し玉なくなったけど、どうすんの?」

「それなんだよなー」


 ハヅチのスクロールは、もう隠し玉にはなりえません。存在がバレている以上、対策は取られるでしょう。というか、ショートジャンプの奇襲を初見で防ぐって、おかしいですよ。


「とりあえず、使ったスクロールの補充、頼んでいいか?」

「りょーかい」


 対策を考えるのはハヅチに任せましょう。そもそも、相手のチームメンバーを知りませんし。

 ハヅチと時雨が何かを話し合っていると、付けっぱなしだったモニターから歓声が聞こえました。

「勝負あったにゃー。勝ったのは、ブゥードゥーにゃー」


 おや、ビキニアーマーの人が勝ったようです。しかし、あのビキニアーマーは壊されたらどうなるのか見たかったですね。

 この後、簡単なインタビューを挟んでエキシビジョンマッチの選手紹介が行われています。


「それでは、先にザインチームの紹介にゃ。まずは、リーダーザインにゃ」


 これは誰でも知っています。今まで試合していたので大して紹介することがないようで、すぐに次へと移ろうとしています。


「二人目は、源爺にゃ。鍛冶職ではトップと言っていいプレイヤーにゃ。流石は最前線のプレイヤー、凄いつにゃがりにゃ」


 二人目は、着流しに刀を差し、散切り頭のプレイヤーです。鍛冶職人というよりは、浪人風ですが、鍛冶職ではトップと言われているらしいので、その刀は業物なのでしょう。


「三人目は紅一点、服飾職人のエレーナにゃ。見た目良し、性能良しの防具を作る、トッププレイヤーの一人にゃ」


 三人目は狩人風の女性です。こちらは防具担当のようですが、装備を作った人もトッププレイヤーで揃えるとは、流石です。


「では、あちきはハヅチチームに事前インタビューをしにいくので、しばらく休憩にゃ。トイレ行くにゃら今のうちにゃ」


 そういってネコにゃんは姿を消しました。ザインさんが勝者で私達は挑戦者ということで、相手の構成がわかりました。それでは、今の情報をもとに簡単な作戦を立てておきましょう。


「それじゃあ、ハヅチはザインさんと、時雨は源爺さんと、私はエレーナさんと戦えばいいのかな?」

「ちゃんと武器も持ってくれてるから、それが正しいならその割り振りでいいと思うけど、具体的にどうする?」

「正直、情報が無いからこれ以上は決められないよ。それに……、せっかくのイベントなんだから楽しまないと」


 私と時雨で話を進めていますが、その間ハヅチは先程の試合映像を見続けています。まったく。


「こんにちはにゃー。インタビューに来たにゃ」


 おや、もう来てしまいましたか。私はハヅチを突っついて対応を任せました。消耗品の補充は終わっているので、ゆっくりしましょう。


「いらっしゃい。事前インタビューってことですけど、何を聞きに来たんですか?」

「では、まずは二人を紹介して欲しいにゃ。それと、運営の方からマスタークンフーのように特殊なスキルや特殊な組み合わせをしている場合、その説明をしていいのか許可をもらってきて欲しいと言われているにゃ」


 スキル構成に関しては個人情報とも言われていますし、取得条件が難しいスキルも多いそうなので、事前に許可を取ることにしているようです。まぁ、取得方法を口にしなければ変なものを持っていると言われても気になりませんが。


「私は時雨です。ハヅチの武器を作ったプレイヤーです。スキルに関しては、特殊な物はないので、問題ないですよ」

「ありがとうですにゃ。ちなみに、その装備は誰が作ってるにゃ?」

「私達の布装備はハヅチが作ってますよ」

「そうにゃのかにゃ! それで、そちらは……?」


 この人、猫耳を付けているのはしっていましたが、尻尾も装備してます。これがドロップ品なのか、プレイヤーメイドなのかはわかりませんが、……あ、動いた。面白いですね。


「私はリーゼロッテ。スクロール担当です。スキルに関しては……、ま、見せたスキルなら、隠す気ないかな」

「そうですか、リーゼロッテさんかにゃ……、にゃ? リーゼロッテ?」


 ふむ、何か混乱しているようなので名前を表示させましょうか。


「本物にゃ……」

「それで、他に何か聞きたいことはありますか?」

「あ、いや、後は試合の実況だから、大丈夫にゃ」


 ほぼ名前だけを聞いて去っていきました。もしかして、入場の時に名前が必要だから聞きに来たのでしょうか。まぁ、もういないので考えてもしかたありませんね。


「ねぇリーゼロッテ、ちょっと頼みがあるんだけど……」


 時雨の頼みに耳を傾けながらエキシビションマッチの開始を待ちました。私達三人でPTを組んだのは一度だけなので、チームプレイも出来ません。そのため、基本的には一対一をすることになりました。





 エキシビションマッチ開始の時が迫り、闘技場の中央にはザインさんのチームが姿を現しています。


「さー、とうとうこの時が来たにゃ。ザインチームは紹介が終わってるので、ハヅチチームの入場と紹介にゃ。まずは、今回のトーナメント、二位のハヅチにゃ」


 まずはハヅチが入場しました。挑戦者という立ち位置になるため、会場からは声援が聞こえます。それに対して手を振って答えているため、会場を敵に回すことはなさそうです。


「ハヅチは防具の担当者でもあるから、次は武器を作ったプレイヤーにゃ。皆の衆、嫉妬の準備はいいかにゃー? では、時雨の入場にゃ」


 次は巫女風の装備を身に着けた時雨の入場です。胸が大きくとも、和装が乱れていないのはゲームの補正によるものだとは思いますが、凛とした雰囲気を醸し出しているため、コスプレ巫女とはいえ、様になっているはずです。


「補足情報だけど、時雨の防具はハヅチが作ってるにゃ。和装職人で有名とはいえ、自分の作った服を着てくれるおんにゃの子がいるプレイヤーが羨ましいかにゃーー」


 その瞬間、怨嗟の声が聞こえました。なるほど、胸ですね。後は、趣味丸出しの服を文句を言わずに着てくれるという点でしょうか。それにしても、たったそれだけで会場の大多数を敵に回すとは。ハヅチ、馬鹿なことをしました。


「それでは次のおんにゃの子にゃ。え? 武器と防具を作ったプレイヤーは揃ってるにゃ? そうだにゃ。でも、もう一つあるにゃ。スクロールを作った、リーゼロッテにゃーーー」


 名前を呼ばれたので入場しましたが、会場の雰囲気がよくわかりません。一部から戸惑いの声が聞こえますが、何であれ女の子が二人いるハヅチを羨んでいる層がいることに変わりはありません。


「久しぶりだな、リーゼロッテ。……気に触ったか?」

「お久しぶりです、ザインさん。別に、苦労するのはザインさんなので、構いませんよ。それと、ユリアさんにはちょっと前に会いましたよ」

「そうか……。それでハヅチ君、賭けをしないか?」


 おっと、その相談をするのを忘れていました。あ、あれにしましょう。スキルの取り方を教えただけで、渡していませんでしたし。まぁシェリスさんから流れている可能性はありますが。


「いや、だから賭ける物なんて……」

「よし、私達が負けたら西の砂漠のマップデータとMOBデータを渡しましょう」


 私は探索スキルにあるマップとMOBのデータを筆写スキルで書き出し、今作ったマル秘メモを見せつけました。大して探索しているわけでもないので、ここで賭けの賞品にしても惜しくはありません。


「そうか、なら、俺達が負けたら北の鉱山のマップデータとMOBデータを渡そう」

「にゃにゃ、にゃんと、両チームに先日公表された筆写スキル保持者がいたにゃー。しかも、探索スキルににゃっているから、データのやり取りが出来るとは、便利にゃ」

「ふ、当たり前だ。そこのリーゼロッテが見つけて、教わった俺達が流したんだからな」

「……私の名前は出さなくていいですよ」

「……それはすまない」


 なんとも気まずい雰囲気が流れています。それにしても、ザインさんは何故私との関係を公にしたがるのでしょうか。ここまで露骨だと、裏に何かあると考えてしまいます。


「それでは、そのデータはこちらで預かります」


 空気を読まずに運営の人が私達の手にある紙を何処かへ転移させました。約束を守らせるためだとは思いますが、負けたのに渡さない理由はないので、演出的な面もあるのでしょう。

 それでは、後はハヅチに任せましょう。


「ま、全部持ってかれましたけど、リーゼロッテは強いですよ」

「PTメンバーに全部持っていかれたハヅチからは哀愁が漂っているにゃ。まぁそれは置いといて、そろそろ試合を始めるから、それぞれ位置について欲しいにゃ」


 ネコにゃんがそう言うと闘技場に円が二つ表示されました。それがお互いの開始位置のようで、すぐに詠唱を始めても魔法によっては接近される、そんな距離です。これは最初の選択が大事ですね。


「そんじゃ、リベンジといきますか」

「私は胸を借りることになりそうだけど」

「……。じゃあ、それなりに援護しながら暴れるとしますか」


 全員が位置に着くのを待ったネコにゃんが大きく息を吸いました。


「それじゃあ、エキシビションマッチ、開始にゃーーーー」


 ハヅチと時雨はそれぞれがザインさんと源爺さんに向かいました。私には魔法しかないので、エレーナさんの様子を見ながらも魔法陣を展開しました。

 弓を番えようとしていたエレーナさんは魔法陣を展開した私がしばらく動けないと判断し、口を開きました。


「【クイックショット】」

「【エリアシールド】」


 魔法陣の展開とエレーナさんのアーツがほぼ同時に発動しました。狙いもそこそこに放たれた矢は光のエフェクトを纏い私へと向かってきます。どうやら速射系のアーツのようで、魔法の発動を妨害するつもりだったようです。けれど、その矢はエリアシールドにぶつかり、広範囲にヒビを入れるだけでした。威力によってヒビの入る範囲が違うので、これは用心しなければいけません。


「クイックショットによる奇襲を防いだにゃ。でも、にゃんにゃ今のは。始まった瞬間から詠唱していたとはいえ、詠唱の長いエリアシールドが間に合ったにゃー」


 さて、驚かされたのでお返しをしないといけません。ただ、エリアシールドが破損したままというのも具合が悪いので、同時に出来るか試してみますか。黄色の魔法陣を展開しながらエリアシールドにMPを流し修復します。


「【ライトニングボルト】」


 下級スキルとは言えレベル1で覚える魔法なら展開はあっという間です。さらに、雷魔法は発動後の速度が早いので、見てから避けることが出来るのは、色んな意味でおかしい人くらいです。


「え、きゃっ」


 まずは一撃。ダメージに関しては期待していませんでしたが、本当に少ないですね。ここから先は、他の人達の動きに注意しながら動かないといけないので、チクチクやるしかないでしょう。


「【マジックランス】」


 ディレイが終わり、次の魔法を発動しました。ですが、ライトニングボルトによる行動阻害は一瞬なので、マジックランスの発動は間に合っていません。魔法陣自体は無色ですが光っているので何かをしようとしていることはわかりますし、同じように光っている魔法自体も、見難いですが認識できる範囲なので、見て避けることは出来ます。まぁ、エレーナさんはやりにくそうに避けていましたが。


「【スピードダウン】」


 それでは余計に避けにくくしましょう。付与魔法は対象指定なので回避不可能ですし、魔法耐性や状態異常耐性を上げないと防げないので、とても便利です。


「もう、何なのよ」


 あ、怒っています。ですが、緑色の魔力が集まってるので、魔法を詠唱しているようです。ということは、あれは怒っているふりでしょう。それなら魔法で迎撃です。緑色は風属性なのでぶつけるのは火属性ですね。


「【エアーランス】」

「【フレイムランス】」


 今のがランス系の光り方ですか。他の人が魔法を使うのを意識して見るのは初めてなのでいい勉強になります。

 エレーナさんの放ったエアーランスはフレイムランスに焼かれました。なるほど、魔法同士をぶつけるとこうなるわけですか。フレイムランス自体は避けられてしまいましたが、相手が使う魔法がわかるというのはアドバンテージになりますね。ま、魔法陣を展開すると分かる人には全部バレますが。……私は近くで見たとしても、判別出来る自信はありません。


「凄いにゃー。魔法を迎撃したにゃ。でも、何で使う魔法がわかったにゃ? お天気さん、教えて欲しいにゃ」

「ええ、事前に許可をもらった範囲なので、お答えします。魔力視というスキルで判断しています。ただ、属性以外に使う魔法も判断していたかは不明です」

「魔力視にゃ? それはどんなスキルにゃ?」

「魔力を視るスキルです。属性があれば、色がついて見えます」

「お答えありがとうにゃ。とりあえず、対人戦においてかなり有利になるスキルにゃ。あ、ちなみに、取得方法については公言しにゃいので、頑張って探して欲しいにゃ」


 魔力操作と鑑定で取れましたよ。他の組み合わせがあるかは知りませんが、目に関わるスキルなら取れそうな気がします。


「そう、属性が見えるの……」

「【メタルボルト】」


 魔法攻撃力と物理防御力で計算する魔法ですが、そこまで早くないのが難点ですね。本来は魔法防御力が高い敵に使う魔法ですけど、軽装のエレーナさんにとっては、油断出来ない魔法でしょう。


「ちょ、貴女聞いてるの!」


 昔から敵の言葉に耳を傾ける馬鹿はいないと言います。戦っているのですから、聞く必要はありません。次はこれです。少し時間がかかりますが、実験も兼ねているので構いません。


「もう……、【アローレイン】」


 エレーナさんが空に矢を放つと、それが分裂し、雨のように降り注いできます。私の方はもう少しかかりそうです。ハヅチが詠唱しながら動いていたので、魔法陣を展開しながら矢が降ってくる範囲からはずれようと試みました。その結果、魔法陣を展開していても動けるのが確認出来たのはありがたいです。完全な固定砲台から、ほぼ固定砲台に変化しました。矢がエリアシールドに触れると、ほんのすこしヒビが入りました。ですが、これはアローレイン。つまり、何発も降ってくるということです。急いで修復しましょう。

 エリアシールドを修復しながらも、攻撃の手を緩める気はありません。


「【フレアブラスト】」


 魔法が発動した瞬間、エレーナさんがその場から離れようとしたため、ほんの少ししかダメージを与えられませんでした。対象指定の爆破魔法ですが、発動し始めると位置が固定されてしまうので、スピードダウンが掛かっていなければ完全に避けることが出来そうです。スピードダウンの維持も考えないといけませんね。

 先程は魔法の発動と被らないように魔力を一気に流し込んだのでわかりませんでしたが、ディレイ中も魔力操作が使えるとは。魔法使用後のディレイはアーツの使用制限といったところでしょう。

 アローレインとそれによる土埃が晴れると、エレーナさんが距離を詰めていました。それにスピードダウンも効果が切れているため、結構な速度で移動しています。


「健在にゃー。アローレインを無傷で耐えきっているにゃ。てっきり最初の一撃でエリアシールドを破棄したと思ってたにゃ。そこんところ、どうにゃっているにゃ?」

「それは――」

「エリアシールドは魔力操作でMPを流せば修復できますよ。だって、これが出来ないとサボテンにやられますから」

「おーっと本人からの回答にゃ。近づかれてるのに随分と余裕にゃ。ちなみに、魔力操作については聞いていいにゃ?」


 いえ、余裕のあるなしではなく、試したいことを試しているだけです。


「このっ、舐めないで」


 エレーナさんは短剣を取り出し襲い掛かってきました。弓による遠距離攻撃だけでなく、接近専用に武器を用意しているわけですか。その点については見習わなければいけません。武器防御のスキルはなくとも杖で防ぐことは出来ますし、動きを見ればある程度は避けられます。けれど、プレイヤースキルという点で、私は大きく劣っています。そのせいか、武器の耐久を無駄に削っている気がしますし、受け損ねて切られています。


「エレーナのラッシュがリーゼロッテの魔法を妨害しているにゃー」


 かする程度なら問題無いのですが、まともにくらってしまうと吹き飛ばされると魔法陣が消え、MPの消費損になってしまいます。普通の詠唱なら詠唱に使った時間分のMPですむのですが、魔法陣の場合、最初にMPを必要分を全部消費するので、つらいところです。


「これで」


 エレーナさんが隙もないのに突きをしてきたので、跳躍スキルを使い思いっ切り後ろに跳びました。その上で、跳びながら魔法陣を展開しています。


「……く」


 どうやらエレーナさんが思っていたよりも後ろに跳んだようです。まぁ、後衛職が跳躍スキルを持っているとは思いませんよね。ただ、慣れていないせいで着地した後は転びそうになりました。


「【ショートジャンプ】」


 私が跳んだ瞬間、エレーナさんは背後を確認しています。それもそうでしょう。失敗したとはいえ、ハヅチはザインさんとの試合で後ろに現れましたから。ですが、影に覆われているのですから、気付いてもいいと思います。


「【マジックスィング】」


 空中でアーツを発動した場合、動きが決まっているものなら物理法則よりも、決められた動きが優先されるようです。そのため、空中に移動し、落下していた私は、魔法攻撃力で打撃を加えるアーツを発動し、物理法則を半ば無視したような動きで回転しながらアーツを叩き込みました。私から見て横薙ぎの一撃はエレーナさんの頭に直撃し、回転速度からは想像できない威力で吹き飛ばしました。

 もちろん、頭に当たったのは偶然です。ショートジャンプのディレイからこのくらいの高さなら問題なく発動出来ると考え跳んだのですが、偶然というのは怖いものです。


「決まったにゃー。当たらないけど当たると怖い魔法職によるマジックスィングにゃー。今の吹っ飛び方からして、かなりのダメージにゃ」

「へぶ」


 ただ、跳ぶ前から体勢を崩しており、アーツで無理やり動いたせいで、妙な体勢のまま地面に落ちました。いえ、万全の体勢でも落ちる自信はありました。見栄を張ってはいけませんね。

 すぐに立ち上がりエレーナさんの様子をみると、HPが危険域に入り、気絶のデバフがかかっています。HPを急激に失うとかかりやすいようですが、無慈悲に追撃しておきましょう。


「【マジックランス】」


 マジックランスを始め、倒しきるまで魔法を連射しました。これで、まずは一人です。


「酷いにゃ。気絶してる相手に魔法の連打にゃ。鬼にゃ、悪魔にゃ、血も涙もないにゃ」


 いいえ、魔女です。

 HPが0になったエレーナさんは解説席へと出現しました。どうやら倒されるとあそこに飛ばされるようです。二人はまだ戦っていますが、闇雲に手を出して邪魔をしては意味が無いので、MPの回復を兼ねて座って休んでいましょう。疲れましたし。


「倒されたエレーナさん、リーゼロッテについてどう思うにゃ?」

「……それ、私に聞くんですか?」

「だって、対戦相手に聞くのが一番わかりやすいにゃ」

「……まず、詠唱が恐ろしく早いわ。それにあの足元のは何かしら」

「詠唱短縮と詠唱省略を最大まで上げた場合、どのくらいににゃるのかにゃ?」


 それは私も気になりますね。魔法陣を使っているせいでスキルレベルが大して上がっていませんが、そのうち上げるかもしれません。


「最前線のプレイヤーでも、あそこまで早くはないし、あんなエフェクトなかったわ」

「そうかにゃ。じゃあ、そこで休憩しているリーゼロッテさんに聞いてみるにゃ。どういうことか教えて欲しいにゃー」


 ああ、休んでいるのがバレていましたか。隅に移動していたとはいえ、座っていれば目立ちますね。


「んー、詠唱省略は大して上がってませんよ。後は運営の人にお任せします」

「それでは、答えられる範囲で。まず足元のエフェクトですが、あれは魔法陣スキルによるものです。あの魔法の発動速度もそのためです」

「ま、魔法陣スキルにゃ? wikiに使えにゃいとか、取るだけ無駄とか、使用方法が未実装とか書かれているあの魔法陣にゃ?」

「プレイヤーの皆様からのそのような評価を受けている魔法陣スキルです。先程口にされたヒドゥンスキルの魔力操作が必須のスキルではありますが、スキルレベル次第で発動までの時間を大きく短縮出来ます」


 やはりヒドゥンスキルでしたか。これで、マスタークンフーの気功操作と私の魔力操作、今取得者のいる二つのヒドゥンスキルの名前がわかりました。


「にゃんとー、二つ目のヒドゥンスキルにゃー。しかも、使い方不明の魔法陣スキルの使い手にゃー。……あれ、とにゃると、スクロールも魔法陣関係だと思うのだけれど、インベントリの付与されたウェストポーチも、おにゃじかにゃ?」

「スキルの細かい仕様については使用者のみに開示しています」


 さて、これ以上根掘り葉掘り聞かれても面倒なので、試合に集中しましょう。


「しーぐーれー、手ー、出したほうがいいー?」

「ちょっと、今、声、かけな、い、で!」


 怒られてしまいました。見た感じ源爺さんには余裕が見えますが、時雨は精一杯のようです。そこに連携の取れない私が手を出してもいいことはないでしょう。それなら、ハヅチにしましょうか。


「はーづー――」

「こっちもいい」


 しくしく。『の』の字を書いていじけておきましょう。もう、私だけリタイアして解説席に移ってしまいましょうか。


「リーゼロッテさーん、いじけてにゃいで、教えて欲しいにゃー。……ダメにゃ、いじけて聞いてにゃいにゃ」


 さて、どうしましょうか。そのとき、一際大きな歓声が聞こえました。



「おーと、時雨が一矢報いたけど、本気を出した源爺に斬り捨てられたにゃー」

 おや、これはまずいのでは。源爺さんが納刀し、息を整えている様子が目に写りました。そして、私の方を見据ると、居合の構えを取っています。


「ひっ」


 その瞬間、得体の知れない恐怖が首筋を襲いました。とにかく逃げなければいけない。それが私の頭を埋め尽くしました。そして、慌てて魔法陣を展開しましたが、一瞬の暗転の後、私は解説席にいました。


「首、繋がっ、てる?」


 思わず首を触り確認してしまいました。よかった、つながっています。


「にゃんにゃん、リーゼロッテさん、今どんな気持ちにゃ?」

「あ、ああ、あの、人、何?」

「以上、恐怖でよくわかってにゃいリーゼロッテさんでしたにゃ」

「とりあえず、私が倒されて、リーゼロッテが倒された。それはOK?」

「お、おーけー」

「それで、倒されたから、ここにいる。OK?」

「おー、けー」

「後は、ハヅチが残ってて、ザインさんと戦ってるけど、源爺さんは見物してる。それが今の状況」


 よくわかったので頷いておきます。その状況なら、私が言うべきことは一つです。


「ハヅチー、女の子二人の敵は取ってねー」


 その瞬間、傍から見てもわかるくらいにハヅチへ羨望の眼差しが向けられました。そこまで女の子に応援されるのが羨ましいのか。源爺さんは私の発言を聞いて大きく笑い、ハヅチとザインさんの勝負が終わるのを待っているようです。まぁ、さっき勝てなかったハヅチが勝てるとは思いませんが。


「それでは、解説しがいのない試合は置いといて、唐突に切り替えたリーゼロッテさんにいろいろ聞いてみたいにゃ。まず、インベントリを付与した装備についてにゃ」


 あー、逃げられないのは面倒です。でも、答えても面倒になりそうです。


「便利だと思って作りました。以上」

「……それだけにゃ?」

「それだけにゃ」


 語尾だけではつまらないのでネコっぽいポーズも取ってみました。何だかネコにゃんさんの顔が引き攣っていますが、それ以上何かを言う気はないので、それだけです。


「そ、そうかにゃ。じゃあ、西の砂漠についてにゃ」

「さっきも言いましたけど、空間魔法のエリアシールドでサボテンの狙撃を防いで、魔力操作で修復して突っ切っただけですよ」

「……もう少し詳しく教えて欲しいにゃ。例えば、オアシスのポータルへの行き方とかにゃ」


 オアシスのポータルは私が岩をよじ登って解放してからは何の苦労もなく入れるようになっています。そのため、行き方と言われても、砂漠を越える方法以外に言うことはありません。


「オアシスは巨大な岩だったんですけど、解放したら普通のオアシスになったんで、知らせるようなことはありませんよ」

「そうにゃのかにゃ。じゃあ……、おーっと、自爆覚悟で突っ込んだハヅチが見事に返り討ちにあったにゃー。これでエキシビションマッチはザインチームの勝利にゃ」


 おっと話し込んでいる間にハヅチが負けてしまいました。まったく、ちゃんと敵を取ってと言ったのですが。


「それでは、表彰式に移るにゃ。1位から3位までの選手とその協力生産者は舞台に集合にゃ」


 ネコにゃんさんがそう言い、運営の人が何か操作すると私の前にウィンドウが現れました。えーと、OKボタンを押すと、闘技場に転送されるそうです。それでは、押してしまいましょう。ポチっとな。

 光に包まれ暗転すると、2位の台座の上に現れました。そこにはハヅチと時雨もいますが、案外広いですね。1位にはザインさんを含めた先程戦った人達と知らない人が、3位にはブードゥーさんがいます。けれど、生産者がいないのは何故でしょう。


「それじゃあ表彰式を始めるにゃ。まずは、第三位、ブードゥーさんにゃ。協力生産者はザインさんと同じで源爺さんと頑固丸さんにゃので、一人での受賞にゃ」


 源爺さんはあの格好ですから刀を作っていそうなので、恐らくは武器担当でしょう。そうなると、あのビキニアーマーは頑固丸という人が作ったことになります。果たして、ブードゥーさんが頼んだのか、頑固丸さんが決めたのか……。


「次に、第二位、準優勝のハヅチと協力生産者の時雨とリーゼロッテにゃ。両手にはにゃで嫉妬の視線が凄いにゃ」


 ハヅチは一応大きく手を振っています。私と時雨は控えめにしているのですが、時雨と目が会い、自然と頷き合いました。そして――。


「野太いブーイングが聞こえるにゃーーーー。ハヅチは人気者にゃね」


 その原因は私と時雨です。二人揃ってハヅチの大きく振っている手を掴み、そのまま抱きしめたのですから。ハヅチの慌てている顔を見るのは楽しいですね。時雨に対しては満更でもない顔をしていますが、私に対してはヤラれたという雰囲気を醸し出しています。後で文句を言われるかもしれませんが、今が面白いので気にしません。


「ブーイングの中申し訳にゃいけど、最後に優勝者、ザインさんとその協力生産者にゃ。武器担当の源爺、防具担当の頑固丸とエレーナにゃ。金属鎧と皮装備があるから、防具は二人にゃ」


 ハヅチへの妬みの声が収まるとザインさん達を称賛する声が聞こえ始めました。せっかくのイベントですから、優勝者を称えておきたいのでしょう。


「では、次にお天気さんからエキシビションマッチで賭けたマップデータの贈呈にゃ」


 そういうと二つのマル秘メモがザインさんの目の前に現れました。それを手にし、大きく掲げています。


「みんにゃ拍手にゃー。そんで、次に賞品の授与にゃ。出場者部門と生産者部門で賞品はおにゃじだけ用意してあるから、安心するにゃ。では、ザインさん達、賞品を選ぶにゃ」


 表彰台の一番上にいるザインさん達は手元を見て悩んでいます。恐らく他人には見えないウィンドウが出ているのでしょう。一応、メニューから賞品の一覧は見えますが、欲しいものはなかったきがします。ザインさんは何かに迷っているようで、時間がかかると思っていたら、源爺さんが一歩前に出ました。


「ワシらは今回の賞品であるクラン創設権を取得し、生産クランを作る。上位生産者と呼ばれる者の内、何人かも加わることになっておる。最初は30人までだが、徐々に大きくするつもりなので、門戸は広く開いておる。窓口は用意しておくので、希望者は待っていて欲しい」


 あー生産クランですか。まぁ、どんなゲームにもありますよね。素材のやり取りをするためや、作ったものを持ち寄って何かを作ったりなど、その内容は多岐にわたるはずです。ゲーム的にはあった方がいろいろな面でゲームが活性化するので、いいことでしょう。

 その結果、生産者部門の賞品からクラン創設権の30人用が消えました。次に、私が納品した鞄が消えました。残りの二人の内のどちらかが選んだのでしょう。後は、何かの生産者向けのアイテムですね。この流れで言うと、私達もこの場で決めなければいけないようです。しかし、前にざっと見た限りでは、碌なものがなかったと記憶しています。


「GM177に聞きたい。このクラン創設権というのは、クラン実装後に手に入るもので間違いないな?」

「ええ、メンテナンス後に同じものが手に入るようになります。ただし、クエストをこなす必要はあります」

「わかった、ありがとう。俺は、この鞄にする。同じものが手に入るようになるまでどれだけ時間がかかるかわからないからな」


 最後の一言、私に向けられていたようですが、インベントリの大が刻印出来る素材がいつ手に入るのかわからないので、それは運営に聞いて欲しいです。まぁ、教えてくれそうにありませんが。


「ザインさんザインさん、クラン創設権はいらにゃいにゃ?」

「始めはそれにする気だったのだが、仲間からは鞄にしとけと言われていてな。その理由はさっき言ったし、クランを作るためのクエストというのも体験したいしな」

「最前線のプレイヤーらしい答えでしたにゃ。次は2位のハヅチさん達に賞品を選んでもらうにゃ。ただ、鞄はもうにゃいけど、3人は何にするにゃ?」


「俺はクラン創設権の30人用だ。まぁ、メンバーはそんなにいないけど、広いに越したことはない」


 ハヅチはクランですか。各種生産用アイテムはありますが、基本値の物が作れればそれでいい私にとって、品質向上のアイテムは優先度が低いです。まぁ、それしかなければそれにしますが。


「私は、鍛冶用簡易修復セットにします。これを買おうとすると結構しますから」


 前にハヅチは私の装備をその場で修理していましたが、高いのに持っていたということでしょうか。まぁ、便利だから手にしれた可能性もありますね。さて、私は何にしましょうか……。


「んー」

「リーゼロッテさんはにゃやんでるにゃ?」

「目ぼしいものがなくて……」


 おや、簡易料理セットですか。どこでも料理が出来るアイテムらしいですが、料理スキルがなければ無用の長物です。そういえば、屋台のおっちゃんは料理スキルの取得法を公開すると言っていましたが、スキルが使い物になるまでにどれだけの時間がかかるかわかりません。明日からはテスト一週間前になるので、ログインは控えますが、経験値ブーストのあった連休と比べるわけにはいかないので、自分で取ったほうが面倒がないかもしれません。とりあえず、これにしてスキルも取ってしまいましょう。


「よし、決めた」

「おや、簡易料理セットかにゃ? 料理スキルの取得法も知ってるのかにゃ?」

「知りませんよ。いつの間にか取れるようになってたので」

「あー、そのパターンですかにゃ。皆普通に遊んでたら取れるようににゃってたって言うから取得法不明にゃ」

「まー、そのうちひょっこり出てくるんじゃないですか」

「残念ですにゃ。それじゃあ、気を取り直して次に行くにゃ」


 流石にこれ以上は何も出ないと思ったのでしょう。三位のブードゥーさん達に賞品の取得をさせに行きました。この場にいる三位までの取得が終わらないと戻れないようなので、暇ですね。


「ハヅチ、クランは結局どうするの?」

「んあ? 作るに決まってんだろ。そのために選んだんだし。とりあえず後で全員集合だ」

「りょーかい」


 私の返答を聞くと、何か含みのある笑みを浮かべています。何だか気になるので、後でしっかりと聞き出しましょう。

 そんなこんなでネコにゃんさんから興味を外していると、表彰式が終わりを迎えているようです。


「それでは、表彰台のみんにゃに拍手にゃー」


 そんなネコにゃんさんの言葉でトーナメントは終わりを告げました。私達はその場に残されましたが、ハヅチの控室に転移出来るようです。


「リーゼロッテ、少しいいか?」


 渋い声で名前を呼ばれたので、誰かと思い顔を向けると源爺さんでした。


「少しならいいですよ」

「ふ、そうかい。じゃあ、手短にいくとしよう。ワシらの生産クランに入らないか?」

「お断りします」


 少しで終わりました。私は生産の深みにはまったわけではないので、生産クランに入るつもりはありません。それに、自由気ままに動くのが好きですから。


「そうか。まぁ、何であれ他では作れない物を作れるプレイヤーは優先的に勧誘している。気が向いたら来てくれ」

「そうなると行くことがなくなりますね。それでは――」

「待ってくれ。リーゼロッテ、君に借りを返しておきたい。受け取ってくれ」


 そういって話に割り込んできたザインさんはマル秘メモを取り出しました。内容を識別すると、北の鉱山のマップデータのようです。


「出来れば貸したままにしておきたいんですが……」

「それじゃあ、今度俺のPTメンバーのもう一人の魔法使いに魔力操作を教えてくれ。これはその対価の先渡しだ」

「……まぁ、いつになるかはわかりませんよ」

「それでいいが、なるべく早くしたい。ちょっと最前線のことで耳に入れておきたいことがあるんだ」


 抵抗むなしくマル秘メモを受け取ることになりました。それにしても、耳に入れておきたいこととは何でしょう。そんな関わりのない場所のゴタゴタには巻き込まれたくないんですが。とりあえず、これで私の用事は終わったので、会話が終わるまで待っていたハヅチ達と控室に転移しました。そこではハヅチと時雨のPTメンバーが待っていたので、そのままクランについて話すことになりました。


「それじゃあ、前から言っていた通り、クランを作ろうと思うわけだが、改めて説明しようか」


 そういってハヅチはゲーム開始前から決めていたことを話し始めました。内容としては、ハヅチ、時雨、私の三人で身内クランを作るつもりだったこと。そして、PTはあくまでも半固定PTであるため、クランに入ることは強制しないなどの、放任主義のようなことでした。実際、クランについてはそれとなく話していたようですし、二つのPTで何度か交流しているとのことなので、異論は出ませんでした。この中で一番絡みが少ないのは私ですが、放っておけば勝手に何かをしているので、気にしなければ気にならないと思います。ですが、一応確認しておきましょう。


「私はほとんど交流してないけど、いいの?」

「そもそもリーゼロッテが何かしでかす前に把握しておきたいからだから、気にすんな」


 他のPTメンバーも気にしていないようなので、気にしないでおきましょう。気にするなと言われたのに気にし続けては相手に悪いですから。


「それで、クラン創設権の説明にあったんだが、クランシステムの実装はされているらしい。ただ、クラン創設権を手に入れるためのクエストが実装されていなかったり、いろいろと歯抜けになってるらしいがな。そんで、最初のクエスト以外の歯抜けになっている部分は今日の夜までにオンメンテで実装するらしいから、夜に集まってクラン作らねーか?」


 今日は日曜日で、明日からは私達学生はイン率が減少するはずです。それを考えると、次に全員が揃うまでに一週間以上の間が空いてしまいます。それなら、今のうちに作るのはありでしょう。


「皆にも予定があると思うんだけど、どうかな?」


 皆が現実の予定を確認しているので、一つ確認しておきましょう。


「クラン作るのってどのくらいかかるの?」

「冒険者ギルドの受付で申請するだけだから、数分で終わるぞ。どっちかというと、ギルドからいけるクランハウスの確認の方が時間かかると思うけどな」


 そういえばこのゲームのクランシステムについて詳しく確認していませんでした。クラン専用のプライベートルームが手に入れられるゲームは多いですが、HTOも例にもれないようです。


「そこんところもうちょっと詳しく教えて」

「ああ。玄関とリビング、最大人数分の個室があって、ゴールドで拡張すれば生産設備を作れるらしい。他の拡張内容は不明だけど、今後も増えるらしいぞ」


 ふむふむ、よくあるクランシステムですね。装備をハヅチと時雨に任せている身としては、修理しやすくなるのは歓迎です。それに、錬金と調合に関してはオババの監修が必要ない範囲をやる場所が手に入りますし。

 そういえば、肝心なことを聞いていませんでした。


「クランの名前って決まってるの?」

「は! 我らが同士となるための名、我にも聞かせて欲しい」


 いつの間にかグリモアが私の後ろにいました。驚いてしまいましたが、クランを作ることに関しては異論がないようです。


「あー、俺達の中には予期せず名前が売れた人がいる」


 突然何のことかわかりませんが、ハヅチの目線をたどるに、ワールドメッセージを流した私とアイリス、トーナメントに出た私とハヅチと時雨……、私に視線が二度向けられた気がしますが、否定出来ないので諦めましょう。


「そこで、『隠れ家』と付けたい」

「……」


 隠れ家ですか。懐かしいクラン名に似た名前ですね。私達三人にしか覚えのないことだとは思いますが、それをここで出すとは思いませんでした。まぁ、もっともらしい理由を付けているので、気付かれることはなさそうですね。


「俺達は前もって聞いているし、了承してるぜ」

「私達にも異論はない。他のクランに入る気もないし、クラン名のアイディアもないしな」


 クラン名も決まり、夜の待ち合わせ時間も決めたので、一旦解散となりました。私も晩御飯に呼ばれる前にはログアウトしたいので、料理スキルだけ取って落ちましょう。そう思っていたら。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 誰かと思えばザインさんからです。もし時間があるなら話がしたいそうです。さっき言っていた耳に入れておきたいことというのも気になるので、今から行ってきましょうかね。

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