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Hidden Talent Online  作者: ナート
6章 ハロウィンイベント
100/148

6-6

 月曜日、今日は祝日なので学校は休みです。けれど、いつもの様に早く起きたので、二度寝をしてからいろいろとやることを済ませました。

 そして、午後のログインの時間です。日課を済ませてから、生産クランへ不滅の水の納品です。水曜日からテスト1週間前になるのでログインはしませんが、次の締め切り前にはテストも終わるので、納品が滞ることはありませんね。月曜に納品していますが、実際の締切は6日後の日曜日ですから。

 不滅の水が入った樽と空の樽を交換し終わったのを見計らい、肩に手を置かれました。


「待ってたよ」

「あー、シェリスさんですか。お久しぶりです」


 不敵な笑みを浮かべているので、いつでも逃げられるように退路を確認しましょう。えーと、入り口には……げっ、源爺さんがいますよ。詰みましたね。


「ちょっと来てもらっていい?」

「これから不滅の水を汲みに行くんですけど、汲みながらでもいいですか?」

「私達も連れてってくれるんならいいよ」


 しれっと達っていいましたよ、達って。


「いいですけど、何の用ですか?」


 答えの代わりにパーティー申請が来たので承諾すると、私とシェリスさんと源爺さんだけだったので、ヤタと信楽を召喚することにしました。まぁ、生産クランの人が私に用があるなんて、一つしかありませんよね。


「それじゃ、移動しますよ。【テレポート】」


 一瞬の暗転の後、視界には砂漠が広がりました。滅んでいる泉に水を流しながら樽を放り込み、いつもの石版で言語学のスキルレベル上げです。ちなみに、シェリスさんと源爺さんも樽を放り込んでいます。


「ワシは護衛じゃから、気にする必要はないからの」


 そんなことを言いながらも会話が聞こえる位置に座っています。まぁ、ここのセイフティゾーンは広くないので、そんな位置になってしまいますね。


「それじゃあ、あのワールドメッセージについて聞いてもいい?」

「あー、これですね。【オープン】」


 それ以外に考えられなかったので、杖からウィンドウを引き出しました。百聞は一見にしかずというので、これで済むでしょう。


「へー、これがスロットエンチャントなんだ。ヘルプにはオーブの入手方法は書いてなかったけど、あるってことは知ってるってことだよね」

「スロットエンチャントを覚えた時に一緒に覚えました」


 その後も根掘り葉掘り聞かれたので、素直に端的に答えておきました。必要な素材はダンジョンに出現したMOBのドロップですし、オーブの素材はどこでも手に入ります。ええ、簡単に答えられる答えしかありませんよ。


「口が固いなー」

「そうですか? すっごい簡単に答えてますよ。ところでシェリスさん、これらの情報の対価は何ですか? まだ聞いてなかったので、答え次第では固くなりますよ」

「それなんだけど、リーゼロッテが欲しくて私が提供出来るのって杖の値引きくらいだけど、またそれにする?」

「そうですねぇ……。ちなみに、精錬って取りました?」


 対応した生産スキルを持っていないと精錬出来ないらしいので、私はシェリスさんに頼む以外の選択肢がありません。


「もちろん。今は限定精錬の仕様確認中だから、どれがいいかはわかってないよ」

「そうですか。では、それが確認できたら+4までお願いしますね」

「わかった。材料こっち持ちでやってあげる」


 ふっ、私の勝利です。順調にクエストをこなせば覚えられるアーツの情報で杖の強化が約束されました。そんなわけで、習得までの流れを詳しく説明しました。ちなみに、途中で樽は回収してあります。


「なるほど。師範システムが関わってくるわけね。ちなみに、どんな素材でどんなオーブが作れるかはわかってるの?」

「はい、どうぞ」


 そのリストをマル秘メモで渡せるようになっているので、現段階でわかっている分を手渡しました。特殊な素材は調べていないので、秘匿するほどの価値はありません。


「ありがと。こっちでもリストを更新したら、渡すよ」

「ありがとうございます」


 そんなわけで、交渉が穏やかに終わりました。リストのやりとりは不滅の水の納品の時に出来るようにしてくれるそうです。

 ああ、いいことを思いつきました。


「シェリスさん、木工って生産の時に何使うんですか?」

「急にどうしたの? まぁ、工作用ナイフとか、ヤスリとか、色々使うけど」

「いえねぇ、オーブには、生産時の性能UPとかもあるんですよ。確か、鍛冶の場合はインゴットでしたね」


 その言葉を聞いた瞬間、シェリスさんがインベントリをあさり、一つのアイテムを取り出しました。


「木の板、これは、オーブ化出来る?」


 ただの木材だと、植物特攻とかになり、生産スキルでひと手間加えた材料をオーブ化すると、生産用のオーブになると考えたわけですが、どうでしょう。


「【オーブ化】」


――――――――――――――――

【オーブ・生産力アップ】

 効果:木工系スキルによる成果物の性能上昇(小)

 装備場所:生産道具

――――――――――――――――


 ちなみに、渡された板は魔木でした。そこそこに良い素材だと思うのですが、まだまだ上があるのでしょう。


「へー、これはいいね」

「それで、スロットエンチャントしますか?」

「いいの?」

「シェリスさんの腕が上がるのは、私にも利点がありますから」


 昨日は破損した回路を追加で集めたので、数には余裕があります。今日もこの後向かう予定なので、1個や2個減ったところで問題はありません。


「【スロットエンチャント】、【マウント】、【クローズ】」


 手早くスロットエンチャントを終え、オーブを付けて工作用ナイフを返しました。ちなみに、工作用ナイフを見ているシェリスさんの口元がニヤついていますね。何せ、他の人が手に入れるには時間のかかるものですから。


「のう、嬢ちゃん、ワシにも頼めるかのう?」

「ひぇ」


 何故か首筋に寒気が走りましたよ。まったく、護衛と言いながら遠くにいたんですから、近くに来るなら先に言って欲しいですよ。


「そう怖がらんともいいじゃろうに」

「いいですけど、対価はどうします? 短刀なら間に合ってますよ」

「ふむ、生産クラン1と言われとるワシの得意分野で断られるとはのう。なら、嬢ちゃんからワシへの貸し一つでどうじゃ?」

「いいですねぇそれ。では、スロットエンチャントしたい装備とオーブ化したい素材を出してください。ちなみに、時雨が持ってたインゴットは全部小でしたよ」


 まぁ、小という表示ではありますが、内部でも同じとは限らないので一番いいであろう素材のオーブを使っていました。


「なるほどのう。これはテクザンで少量見付かったばかりでのう、やっとインゴットに出来たんじゃ」


 ウ……ウーツ鋼、ですか。流石は生産クラン、とんでもないものを持ってきますね。

 ちなみに、結果はこれです。


――――――――――――――――

【オーブ・生産力アップ】

 効果:鍛冶系スキルによる成果物の性能上昇(中)

 装備場所:生産道具

――――――――――――――――


 それにしても、どんな物が作れるかの前にこうして使ってしまうとは、恐ろしい人です。

 この後手早くスロットエンチャントを行い、鍛冶用の金槌を返しました。源爺さんへの貸し一つ、これは大事にしないといけませんね。

 この後はマギストで【魔力の渦】に潜ります。他の場所へ行ってもいいですが、もうすぐテスト前になるので、中途半端になると集中できませんから。





 マギストの魔力屋本部を経由し魔力の渦4階へやってきました。今回はヤタと信楽も一緒です。召喚コストは合計でMP三割とSTR一割ですが、問題はないでしょう。MPが足りなくなれば休めばいいんですから。

 ここは魔力の渦という名称でもMPの回復速度が上がったりはしないので、期待はずれです。

 マギドールが見えたら属性を確認し、弱点属性のボムを2個用意し、ある程度近付いてから投げていますが、距離によっては爆発に巻き込まれています。

 自身の魔法でダメージは受けませんが、影響は受けるので、熱かったり、寒かったり、吹き飛ばされたりしています。マギドールが動かなければ巻き込まれないのですが、このくらいは必要経費ですね。

 ヤタと信楽がいるので安心して休憩出来るので、前より精神的に楽になった気がします。ああ、そういえば、一つやっていないことがありましたね。スロットエンチャントが出来る回数が1回の武器にスロットエンチャントをすると、特にメッセージは出ません。けれど、2回以上出来る武器の場合、続けて行いますかというウィンドウが出ます。あの時はキャンセルしてしまいましたが、私の【願いの長杖】にはそのウィンドウが出ました。つまり、最低でも後1回は出来るということです。今の所INTが上がるオーブはなかったので、付けるのは魔石のオーブですが、ないよりはましですし。


「【スロットエンチャント】、【オーブ化】、【マウント】、【クローズ】」


 特に詠唱時間やディレイがあるわけでもないので、あっという間に完成です。すぐにしまいましたが、オーブが二つ付いた状態は満足感がありますね。ちなみに、私の杖は2回が限界でした。

 装備のことからこの後の狩りへと意識を切り替えるその一瞬に、ふと、あるスキルが思い浮かびました。ええ、マギドールが動かなければ、ボム系の爆発に巻き込まれることはありません。つまり、動けなくしてしまえばいいんですよ。私にはそれがあるではないですか。相手の属性によっては防がれるかもしれませんが、それは確認すればいいことです。

 属性相性から土属性のマギドールを探してうろついていると、とうとう発見しました。茶髪のマギドールです。識別でも確認したので、間違いありません。


「【風鎖眼】」


 ええ、魔眼です。きっと私の翠色の瞳が怪しく緑色に光っているはずです。あまり変化がなさそうですが、怪しく光るというのが大事です。

 見てみると、マギドールが動きにくそうにしています。MPが少しづつ減っていくなか、アースボムを2個用意し、巻き込まれない位置から投げつけました。

 すると、茶色い爆発が起き、マギドールがポリゴンとなりました。成功ですね。お遊びに使った程度の魔眼でしたが、こんなにも役に立つとは思いませんでした。

 その後も試してみましたが、耐性を持っている火属性には全く効かず、同属性である風も微妙でした。水には土ほどには効きませんでしたが、手早く処理をすれば問題なく倒せそうです。

 ちなみに、土属性の石化眼ですが、これも似たような効果を示しました。まぁ、これは少しづつ石化させるので、効き目が出るまで時間がかかりますが、火属性に対してある程度の効果があるので、相手によって使い分けるべきですね。ちなみに、風は土属性に耐性があるので、使い物になりませんでした。

 今更ですが、光と闇属性のマギドールはいないのでしょうか。ほとんどが4属性のどれかなので、閃光魔法と暗黒魔法のレベル上げが出来ませんよ。まぁ、力場魔法は属性がないので、同じ属性が連続で来た時に重宝しています。今のところはないですが、3連続で同じ属性が来て、クールタイムがまだでしたら、光と闇も使うようにしましょう。あー、鉄と雷も使えますね。4属性で等倍を考えるのとか面倒ですし。

 そんなことを考えていると、やはり、噂をすればなんとやらですね。出てきましたよ。黒髪でボロ布を着たフランス人形です。

 早速動きを封じるために風鎖眼を使おうとしましたが、メニューが光っています。向こうも何故か一定距離で止まっているので、確認しましょう。

 えーと、インベントリの……。

 一応マギドールを警戒しながらなので操作がゆっくりになっています。おや、霊石が光っていますね。とりあえず、1個取り出しましたが、何でしょう。


『KARAN』


 マギドールが首を傾げています。ただ、その視線は私の手に固定されているのが不気味ですね。


『KARAN,KORON』


 私が視線を向けられている方の手をあちらこちらへ伸ばしてみると、ベルの様な音をならしながらマギドールの顔が向きを変えます。何でしょうこれ、凄く覚えがあるのですが、思い出せません。

 うーむ。


『KARARAN』


 マギドールがゆっくりと動き出しました。私が警戒して一歩下がると、マギドールが両手を突き出しながら更に進み始めました。

 ……うーむ。

 試しに視線を向けられている手の中にあった霊石を見やすくつまみ、見せびらかしながら近付いてみました。よく考えてみれば、警戒をしているヤタと信楽が敵意を見せない時点で、普通の状況ではないということです。

 ええ、思い出しましたよ。霊石を取りやすいように近付けると、マギドールが恐る恐る手に取り、そのまま口に入れました。


『KARAN』

「まだ欲しいとは、食いしん坊め」


 そう言いながらもう一つ上げました。上手くいったらハヅチに言って買取をしてもらわなければいけませんね。

 3個目の霊石を口にした瞬間――。


 ピコン!

 ――――System Message・従魔イベント進行中―――――――――

 【調教】を発動することが出来ます。

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 懐かしいですねぇ。最後に出たのは信楽の時ですね。【はい】【いいえ】が出ているので【はい】を押しました。どこかに赤い光点が出ているはずなのですが……。あ、ありました。というか、マギドールが手を上げたので見せたと言った方が正しいですね。

 赤い光点が出ている手にハイタッチをしました。


 ピコン!

 ――――System Message・従魔イベント進行中―――――――――

 【調教】が成功しました。

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 キャンペーン後は初ですが、成功するんですねぇ。というか、失敗ってどうなるんですかね。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 【名称未設定】 種族・マギドール 属性・闇 属性値・小

所持スキル・【闇魔法LV30MAX】【格闘LV30MAX】【速度上昇LV30MAX】

【跳躍LV30MAX】【身体耐性LV1】【精神耐性LV1】【幼体】

なつき度:1%

 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 あー、ヤタと信楽は属性がないので、項目自体がなかったわけですね。ちなみに、外見はあまり変わっていないようです。ところで、身体耐性と精神耐性だけスキルレベルが1ですね。まだ名前を付けていないので詳しいことは見れないので、ここまでにして戻りましょう。





 クランハウスへ戻ってきました。ただ、誰もいないのでガランとしています。マギドールの属性は所持している魔法スキルによるのでしょう。けれど、魔法を使うそぶりは見せませんでしたし、最初に近付いてくるので、格闘主体なのかもしれません。

 おっと、名前を決めなければいけませんね。マギドールということで、人形ですから……、クルミは割れそうですが、あの人形って名前あるんですかね。ヤタや信楽の時は、そのものズバリな名前が出てきましたが、人形だと幅が広くなりますからねぇ。

 えーと、あー、あれは何でしたっけ。確か……コ、……コ、……コッペ、コッペリ、コッペリオ……、いえ、コッペリアでしたね。よーし、この子はコッペリアです。


――――――――――――――――――――――――――――――――

 【コッペリア】 種族・マギドール 属性・闇 属性値・小

所持スキル・【闇魔法LV30MAX】【格闘LV30MAX】【速度上昇LV30MAX】【跳躍LV30MAX】【身体耐性LV1】【精神耐性LV1】【幼体】

なつき度:6%

――――――――――――――――――――――――――――――――


「コッペリア、よろしくね」

『KARAN』

『KAA』

『TANUNU』


 コッペリアには声がないようで、動くとたまにベルがなるような音がするので、これが意思表示なのでしょう。ちなみに、コッペリアは身長30cmくらいで、顔が少し大きめですね。この濡れ羽色の髪は綺麗ですが、服がボロボロのワンピースらしきもので、体には何ヵ所か罅が入っています。この辺りは、なつき度が50%を超えたら綺麗な服を着せて隠しましょう。

 そして、維持コストですが、MPとDEXが減るので、信楽タイプですね。

 3体を召喚していると、MPだけでも五割五分を持っていかれるので、半分以下になってしまいます。さらに、DEXも減るので、これは詠唱速度や魔法陣を描く時間に影響します。つまり、魔法を放つまでに時間がかかるようになるということです。コッペリアには悪いですが、しばらくは散歩以外には出せそうにありませんね。

 ちなみに、身体耐性と精神耐性ですが、これは下級スキルのようです。状態異常耐性系スキルの複合スキルのようですが、MOBの場合は下位スキルを持っていない場合もあるんですね。

 さて、少し早い気もしますがログアウトしましょうかね。今から何かをするにしても時間が中途半端ですし。


「ふー、限定精錬用の素材、ドロップ場所がわかってるのはそろったよね」

「うむ、後は我らの上質な魔木だけだ」

「イベントMOBからのドロップだから、通常フィールドだと、場所がわからないね」


 おや、時雨達が戻ってきたようです。そういえば、シェリスさんに限定精錬の素材は持ってもらうことになりましたが、肝心の素材のドロップ場所はわかっているのでしょうか。私の杖も上質な魔木ですし、私はもう持っていませんから。


「おかえりー」

「リーゼロッテ、いたん……、その人形、どうしたの?」

「コッペリアだよ」

『KARAN』


 おー、丁寧にお辞儀をしていますよ。なつき度は低いのですが、きっちりとしたいい子ですね。


「汝、新たな使い魔と契約したのか」

「……人形、系の、MOB」

「人形が従魔になるんなら、ゴーレムもいけるよね」

「モニカ、ゴーレムは錬金の分野だぞ」

「マギドールって言って、マギストのダンジョンにいたんだよ。ダンジョンのMOBは無理って聞いた気がするけど、いけたんだね」

「前のキャンペーン以降、従魔イベントの発生率が激減しているらしく、ほとんど情報がないらしいぞ。私も、従魔が欲しいんだが、どうにも機会に恵まれなくてな」


 ……アイリスが哀愁を漂わせていますが、これで3体目の私には何も言えませんね。


「ところでグリモア、そのゴシック系の服を頼んでる人を紹介してもらってもいい?」

「構わぬが、汝は我と異なる系統のはずだが?」

「コッペリア用の服を作ってもらおうと思ってね。まだなつき度が足りないけど、準備しておくことは出来るし」

「うむ、これも巡り合わせであろう」


 ……受けてもらえたってことですよね。


「あんがとね」


 違えば否定されるはずなので、服の心配はないでしょう。


「そういえば、今日の夜に仮装ランダム袋使ってコスプレ大会しようって話してたんだけど、リーゼロッテはどうする?」

「おー、なら、仮装装備袋も用意しといた方がいい?」

「一応10個づつ用意してるよ」

「りょーかい、用意しとく」


 急いでセンファストの冒険者ギルドへ移動し、ジャックランタンの元へ行きました。確か、普通に納品してポイントを貰うか、10個を仮装装備袋に替えるか選ぶんですよね。全体の納品数が襲撃イベントの難易度に影響するらしいのですが、今回は納品ではなく交換です。


「僕はジャックランタン。この街は狙われているよ」

「なるほど、では、この袋を仮想装備袋に替えてください」

「わかった。今度はその袋の力を僕にちょうだい」

「今度ね」


 さて、仮装装備袋を10個用意しました。ランダム仮装袋を100個使いましたが、これは狩りをすれば集まるので、マギストのダンジョンにこもれば問題ありませんね。

 では、一度ログアウトです。





 夜のログインの時間です。ランダム仮装袋を使って遊ぶということで、少し早めにログインしてみました。


「こんー」


 定型文で挨拶しましたが、まだ全員は揃っていないようです。それに、このクランの黒三点がいませんね。


「後はグリモアとリッカだけだね」

「ハヅチ達は?」

「誘ったんだけどね、恥ずかしがって不参加」


 おや、そういうことですか。まったく、うら若き乙女たちのコスプレパーティーに参加する度胸がないとは、そんなんだからハヅチはぬるま湯に浸かったままなんですよ。

 食べ物を用意しているうちにグリモアとリッカも来たので、全員揃いましたね。

 時雨パーティーの時雨、アイリス、モニカ、リッカ、グリモアとはたまにどこかへ行きますが、ハヅチパーティーの花火とヒツジと影子の3人とはパーティーを組んだことはありませんね。あっちは6人の固定ですから、しかたありませんが。

 ついでに従魔も召喚しているので、賑やかですね。


「さて、全員そろったし、始めようか」


 こういう時はアイリスが仕切ってくれるので楽が出来ます。

 全員で一気にコスプレしてもごちゃごちゃしてしまうので、今回は一人づつ仮装袋を使っていくことになりました。


「始める前に、設定の確認はしといてね。特にリーゼロッテは」


 おや、名指しされてしまいましたよ。まぁ、そんな設定の存在自体しらなかったのでしかたありません。設定といっても、露出確認くらいで、通常の装備枠に設定してある装備以上に露出がある場合は警告が出るというものです。この時に【いいえ】を選ぶと、コスプレの内容が表示されたウィンドウが出ます。更に、3Dモデリングを表示できるようですが、ランダム仮装袋の効果時間よりも短い時間しか表示されないらしいです。

 私の場合、普段から露出の範囲が狭いので、警告の出る数値をいじらないと毎回警告が出てしまうので面倒になります。時雨に聞いて、ちょうどいいくらいに設定し直したので、準備完了です。


「それじゃあ、私から始めるぞ」


 まずはアイリスです。普段から騎士とか剣士風の装備を身に着けており、金髪との組み合わせがかっこいいのですが、どんな装備になるのでしょうか。

 アイリスがカボチャのエフェクトに包まれ、それが弾けると、黒系のスーツの様な……、いえ、違いますね。


「燕尾服だ」


 そうです、それですよ。隣にいたモニカが一番早く反応しましたが、口に出すのを憚られる虫の羽のような……、いえ、読んで字の如し、燕の尻尾のような物がついたジャケットのスーツですね。これは、男装の麗人という感じでしょう。白い手袋もあり、細かいところまでこだわっていそうです。


「おー、かっこいい」

「そ、そうか? ありがとう……」


 おや? 何というか、少し残念そうな顔をしていますね。ちなみに、ランダム仮装袋の効果中に仮装装備袋を使うと同じ装備が手に入るそうで、狙った仮装が出れば、ほぼ確実に手に入るそうです。ほぼと付く理由は、露出確認でいいえを選んだ場合は、高確率での入手に変わるそうです。


「それじゃあ、次はあたしだよ」


 元気いっぱいなモニカの番になりました。


「よーし、いくぞー」


 掛け声と共にカボチャのエフェクトが出てきました。そして、出てきた姿は。


「がおー」


 ええ、狼男です。なので、吠え方が違います。


「モニカさん、それではライオンになりますよ」

「あー、そっか。これ、キグルミ系だね。面白そうだから確保しとこ」


 キグルミですか。昔のフルダイブシステムは、キグルミを着ているようと言われていましたが、実際はどうだったんでしょうね。キグルミを着たことがなかったので、これがキグルミかとは思っていましたが。


「次は私ね」


 時雨の番ですね。基本的にフルダイブでは初期装備以降は和装というか巫女服なので、他の装備を見るのは新鮮です。まぁ、他のゲームで見たのは結構前でしたが。

 カボチャのエフェクトが消えた後に出てきたのは、いつも通りの時雨でした。


「……流石にこれは着れない」


 そういって見せてきたウィンドウには……、あ、これは無理ですね。


「……サキュ」

「汝が、夢魔を引くとは……」


 これは危険ですよ。ええ、とても危険です。そう、下手に動いたらこぼれてしまいそうなくらいですから。


「よーし、次は私だ」


 ランダム仮装袋を選択肢、使うを押します。

 ポチッとな。

 カボチャのエフェクトに包まれ、弾け飛ぶと、そこにはカボチャがありました。


「これ、どうなってるの?」

「ジャックランタンの衣装ですよ、お姉様」


 ほう、顔が大きく、胸から上が全部カボチャで、下はひらひらとしたマントと闇に包まれた内側があり、手袋が浮かんでいるだけです。まぁ、闇の内部には何もないようなので、体が透過しているようですね。

 この浮かんでいる白い手袋も透過している腕で繋がっているので自由に動かせます。これはこれで面白そうなので、取得しておきましょう。ジャックランタンの口から顔を出していますが、引っ込める事も出来るので、この格好で街中をうろつくのもありです。


「次は私の番ですね」


 私の次は花火です。普段はケープの付いたワンピースなど、清楚なお嬢様風ですが、どんなコスプレになるのでしょう。


「お姫様系?」


 ティアラとかがあるので、間違いではないと思うのですが、該当するものが多すぎて特定は難しいですねぇ。


「靴がガラスだからシンデレラかな?」


 ヒツジが大胆にもスカートを捲っていますよ。流石にちょっと持ち上げるくらいですが、仲がいいんですね。


「まったく、やめてください、ヒツジさん」

「あー、ごめんごめん。ま、次は私だね」


 今度はキュロットスカートやへそ出し肩出しのチューブトップ的な服装で露出過多なヒツジの番です。

 さて、何が出るやら。


「ばーん」


 ヒツジが引いたのは海賊風の衣装です。手にした銃も衣装の一部らしく、武器としての性能はないそうです。ですが――。


「僕もその衣装欲しい」


 影子が体のあちこちに付いたドクロマークには目もくれず、その銃だけを見てそうつぶやきました。この装備、セット装備で分解出来ないので、汎用性は低いと思うんですが。


「取得しとくから、後で何かと交換だね」

「わかった。交換出来る衣装が出たら教えて」


 そう言いながらカボチャから出てきた影子は、テンガロンハットや長いムチが似合うカウボーイの格好でした。


「銃、あった」

「別に仮装装備袋と交換でもいいよ」

「うん、お願い」


 満足げな影子を尻目に、グリモアもコスプレを始めていました。そして、腰に手を当て、堂々と変化を待ちました。


「ち、力が入らぬ」


 その姿を確認した瞬間、グリモアがぐったりとしてしまいました。


「輪っかに翼って、天使だね」


 いつものゴシック系の服を白くしたような衣装に、天使セットという、紛れもない天使系の衣装です。ですが、本人が倒れ込んでいるため、こころなしか、輪っかや翼も元気がなさそうです。


「……グリ、モア、……普段、から、……白、あまり、着ない」


 ほう、部分的に白いことはありますが、黒を基調としたものしか見たことありませんが、やはり、そういうことなのでしょう。


「……次、私」


 一巡目の最後はリッカです。夏の時はくノ一風で、その後は斥候らしい装備に戻っていましたが、またくノ一風になっています。恐らくは、装備新調の時にハヅチに頼んだのかもしれませんね。


「……これ、何?」


 うーん、青いふわっとしたワンピースに、白いエプロンのような衣装ですか。これは、何でしょうね。


「アリスだな」


 あー、そう言われてみればそうですね。というか、アイリスが物凄く食いついていますね。まぁ、内緒話モードなので聞こえませんが。

 その後も、元ネタの候補が多すぎる衣装や、動物のパジャマや、よくある仮装など、様々な衣装が出てきました。誰も魔女系の衣装を引かなかったのは残念ですが、私はこのカボチャで楽しみましょう。

 ちなみに、牛のパジャマを引いたのは時雨です。


「アイリスはその赤ずきん気に入ったの?」

「あ、ああ。その……」


 普段からかっこいいとか言われているけれど、可愛いのが好きな人もいますからね。まぁ、好みは人それぞれなので、とやかく言うことはありませんし、欲しいのが手に入ったのなら、よかったねと声をかけるだけです。


「今度こそ」


 時雨は何度目でしょうか。最初は夢魔、次は鬼、牛のパジャマ、チアガール、ミイラなどなど、欲しいと思う衣装が出ないようでした。


「巫女服?」

「そうだけど……」


 巫女服から巫女服へ変化しましたが、種類が違いますね。ノースリーブで、肘から先に袖がついて、巫女服の下にあるサラシがちらっと見えています。ええ、これはあれです。腋巫女と言われるやつですよ。


「うーむ、なんだろう、この細かい部分の既視感は」

「リーゼロッテもそう思うんだね」


 時雨も同じことを考えていたようです。これは、問いただすしかないようですね。

 この巫女服は確保したようで、その後には割烹着や仲居服など、和装系が立て続けに出て確保していました。

 みんないくつかの衣装を確保したあたりで仮装袋を使うのをやめ、好きに話したり、情報交換をしたりして過ごすことになりました。





 何度か補充した料理がなくなりかけた頃、ポータルの方で動きがありました。


「ふー、結構集まったな」

「集められる内に集めるべきだ」

「仮装袋はイベントの報酬にもかかわるしな」


 おや、うちの黒三点が戻ってきたようです。何でも、他の親しいクランの人達に助っ人を頼まれていたそうです。まぁ、ハヅチ達が言うように、イベントの報酬にも関わるので、今回のように使うのを強制は出来ませんからね。


「あ、ハヅチ、口を割る気はある?」


 優しく笑顔を向けて答えやすくしてあげましょう。


「いや、まず聞きたいことを言えよ」

「え? あの時雨の格好を見ればわかるでしょ」


 例の巫女服を着ているので、聞きたいことは一目瞭然でしょうに。


「……も、黙秘権を行使する」

「そんなものないよ」


 残念ながら私の弟である以上、そんな権利は認めません。姉の理不尽さを思い出すべきですね。


「まぁ、イベントも始まってるから黙ってる必要もないんだけどな。確かに、それは俺が作って提供した装備の一つだよ」


 ハヅチの自供によると、9月初めに運営から連絡があったそうです。一部の生産スキルを持っているプレイヤーに対し、ハロウィンイベント用の仮装衣装製作依頼だそうで、ある程度の守秘義務は課せられますが、ちょっとした報酬があったそうです。ハヅチの場合は和風の衣装という方向性の指定はあったそうですが、基本的にはそれぞれの得意分野や、よく作っている分野の衣装を依頼されたらしいです。


「へー、そういうこと。ところで、魔女風がないのはなんで?」

「知らねーよ。運が悪かったんだろ。聞いた話によると、依頼がなかったのは水着系とサンタ系だけらしいし」


 まぁ、その二つは時期ものですからね。ちなみに、私のカボチャは運営作成の衣装らしいです。体の透過設定とかは、運営でないと弄れないそうですし。

 その後は確保した衣装を見せたり、出た衣装の話をすると、わずかにですが、後悔の様子が見えました。まぁ、眼福でしたからね。

 さて、そろそろログアウトです。





 10日の夜、明日からはテスト一週間前になるので、しばらくログインしません。そのため、日課をこなしながら何をしようか考えていました。候補は二つですね。

 一つは、途中で止めたままの時計塔ダンジョンでの討伐クエスト、もう一つは、魔力の渦での回路集め兼スキルレベル上げです。うーむ、どうしましょう。

 まぁ、討伐クエストのカウントを切りの良いところまで進めるだけにしました。今は64なので、100と言いたいですが、あそこの出現率を考えると80か90がいいところでしょう。

 そんなわけで、なんとかカウントを90まで進めましたが、天之眼や魔眼は便利ですね。もっと早く取得したり、ちゃんとした使い方を考えたりするべきでしたよ。

 それでは、そろそろログアウトです。


なろうのシステム上はこれで100話です。

ええ、100話ですよ。読むのを探すときに100話くらいあるとがっつり読めるぞ!と思いながらもあっという間に読み終わるので、きっとこれもすぐにヨメルヨネ。文字数? はて、なんのことやら。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] コッペリアの身体耐性と精神耐性が名前を付けただけで30MAXに上がっていますがこれは正しいのでしょうか? また、下級スキルならMAXレベルは50では? [一言] 100話おめでとうござ…
[気になる点] >>「いいの? シェリスさんの腕が上がるのは、私にも利点がありますから」 [いいの?]と[シェリスさんの]以降は別の話者ではないかと [一言] 大台到達おめでとうございます。今後の更新…
[良い点] 100話おめでとうございます。 いつも楽しく読ませてもらっています。 これからも頑張って下さい。
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