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クロノクラウン  作者: 冬原パトラ
第1章 ゴレムと王冠。
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☆006 王冠と、辻斬り。





「あんたね、王冠クラウンって言ったら、「能力持ち」の中でもさらに突出したハイレベルのゴレムよ? そんなのが辻斬り?」

「だからあくまで噂ですよ。腕の立つ「能力持ち」も何人かやられてますし……だからそんな噂が立ったんじゃないですか?」

「ふん……」


 古代遺跡から発掘される古代機体レガシィのゴレムの中には、強力無比な能力を持つゴレムも存在する。その中でもさらにズバ抜けていると言われるのが、「王冠」と呼ばれるゴレムだ。

 これらは「クラウン・ゴレム」とも呼ばれる。古代王国の天才ゴレム技師、クロム・ランシェスが創り出した、クラウンシリーズと言われるゴレムだ。機体に王冠の刻印があることからそう呼ばれる。

 基本的にゴレムとは全く違う製法で造られており、別物と言ってもよい。何体かの王冠が確認されているが、全部で何体いるかも判明していないという。

 噂では一体で戦局をひっくり返すほどの力を秘めているとも言われる。


「本物か偽物か……さて……」

「ノルンさん?」


 沈思黙考を始めたノルンを訝しげにコレットが見つめる。ノルンは傍らのノワールと視線を合わせると、左の掌に右拳をポンと打ち付けた。


「よし! そのゴレム、探しに行こう!」

「は?」


 突拍子もない発言にコレットの目が一瞬、点になる。

 わざわざ辻斬りに会いに行くとか、自殺願望でもあるんだろうか、この少女は。腕利きのゴレム使いが、何人も犠牲になっていると言ったのに。

 興味本意で首を突っ込むと、痛い目どころか命を落とすことになりかねない。さっきのチンピラとはわけが違うのだ。


「私の探してるゴレム技師って、「王冠」の研究をしてたのよ。何か手がかりがあるかもしれない」

「はあ……」


 理由を聞いて、なるほどと思ったコレットだったが、だからって無謀なことには変わりはない。

 自分には関係ないとはいえ、どうしたものかとコレットが悩んでいると、スタスタと黒騎士を連れてノルンが歩き始めた。途中で振り返り、コレットに呼びかける。


「ほら行くわよ。さっさと来る!」

「え!? 私も!?」


 いきなりのことに、コレットが自分の顔を指差してしまう。どうして自分が同行しなければならないのか。しかもついさっき知り合いになったばかりの相手と。


「だって私、この街のこと知らないもの。案内がいるでしょう?」

「だ、だからってなんで私が……。それにもうすぐ日も暮れますよ?」

「? それが何よ?」

「小さい子が夜に出歩くのはどうかと……」


 その言葉を聞いた途端、ノルンが電光石火の素早さでコレットの前まで駆け寄り、彼女のスカートの中に手を突っ込んで、ずりいぃっ! とパンツを膝下までずり下ろした。


「ぎゃ────────────ッ!!!!」


 絶叫を上げてコレットがスカートを押さえ、その場でぺたんとしゃがみ込む。相棒のハヤテが、周りの目からその体でガードしてくれていたが、恥ずかしさが消えるわけがない。


「小さいってゆーな! こう見えても14よ!!」


 なんと。自分と3つしか違わないという少女を、頭から足の先まで改めて眺める。こんな14歳がいるのか!? と驚きの目をしているコレットがボソッとつぶやいた。


「6歳くらいにしか見えな……」

「なにおう──────!!」


 飛びかかってきたノルンがコレットのスカートを無理やり引っ張り上げようとする。


「ちょっ! やめて! スカート引っ張らないで! 脱げちゃう! 見えちゃう───────!!」


 暮れなずむ町並みに、眼鏡少女の絶叫が響き渡った。





 日も沈み、魔光石による街灯の明かりが、シルエスカの町並みを闇より浮かび上がらせる。

 夜の街は昼とは違い、賑わいを見せていた場所が逆転する。昼間は人々が行き交っていた広場は人気ひとけが無くなり、逆に静かだった酒場や色街は賑わいを見せ始める。

 辻斬りが出るにはまだ少し早いように思えるので、二人は食事処へ入った。ノワールは小さいので店内へ入ったが、ハヤテは少々邪魔になるので外で待機することになった。


「シンシン鳥の串焼きと銀星魚の塩焼き、それとリーブソースのパスタ大盛り、グローブ野菜のサラダ、あ、あとマル揚げ団子にグレーフルの果実水ひとつ!」


 席に着くや否や、ノルンが注文した量にコレットが驚いて目を開く。やがて注文した料理が届くと、片っ端からノルンがフォークで突き刺して、次々と口の中へと消していった。


「よく食べますねえ……」


 呆れたように対面に座るコレットがつぶやく。この小さな身体のどこにこれだけの量が入るのか。逆に言うと、これだけ食べているというのに、全く成長が見られないというのは、ある意味不気味である。14歳と本人は言っていたけれど、どうも疑わしい。性格だって子供っぽいし。

 がつがつと料理を片付けていくノルンを見て、食欲が無くなったコレットは注文したサラダを食べるのをやめた。見ているだけで腹がいっぱいになりそうだ。

 フォークを置いて席を立つ。


「どこ行くの?」

「ちょっと……」


 トイレか、と思ったが、先ほど衣料品店で買った紙袋を持っているのを見て、ノルンは、ああ、と声を漏らした。


「パンツ穿き替えてくるんだ。汚れちゃったもんね」

「ちょっ! 言わないで下さいよ! それとその言い回しはやめて!」


 真っ赤になりながらコレットがお手洗いへと駆け込んで行く。店に入った時は使用中で入れなかったらしい。


『考慮、気遣い』

「なにそれ?」


 ノワールの発言に鳥の串焼きを咥えながら、ノルンが首を傾げる。その主を見て、黒騎士がダメだこりゃ、と肩をすくめた。









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