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クロノクラウン  作者: 冬原パトラ
第1章 ゴレムと王冠。
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☆003 尋ね人、ゴレム技師。





「聞きたいこと……ですか? はあ……」


 コレットは答えながらも、ビクビクとハヤテと呼ばれた紫色のゴレムを盾にする。またスカートを捲られてはたまったもんじゃない。


「この人知らない?」

「……?」


 差し出されたのは色褪せた一枚の写真。コレットが手にとって見ると、そこには一人の女性が写っていた。歳は20代前半、ボサボサの長い銀髪、分厚いレンズの眼鏡。汚れた白衣を着て、手にはなにか工具らしきものを持っている。技術者だろうか。


「ゴレム技師なんだけど……知らない?」

「女性でゴレム技師って珍しいですね。でも……すいません、私は見たことないです」

「そう……」


 コレットから写真を受け取ると力無くノルンは呟く。じっと写真を見つめて、小さく溜息をついた。

 ゴレム技師はゴレムの製造、再生、調整、整備などを生業とする者達だ。

 ゴレムには大きく分けて二つの種類がある。工場ファクトリー産と発掘された古代機体レガシィである。工場ファクトリー産はその名の通り、工場ファクトリーで生産されたゴレムを指す。そして古代機体レガシィは古代遺跡などから発掘されたゴレムの事である。つまり、古代大戦の遺産だ。

 遥か幾星霜の時を超えても、「レガシィ」には起動するものがそれなりにある。しかしあくまでそれは少数だ。大概は何処か破損していたり、使えなくなっているものである。

 起動する古代機体は特殊な能力を持っているものが多く、「能力持ち」とも呼ばれる。魔法の如きその不可思議な能力のため、そういった古代機体はとても高価な金額で売買されていた。

 それに比べ、工場ファクトリー産のゴレムは格段に安くなる。古代機体レガシィを元に、ゴレム技師たちが現代技術で製造した「紛い物」であるからだ。

 とはいえ、工場ファクトリー産のゴレムでも一般家庭年収の数倍ほどはする高価なものだ。おいそれと買えるものではない。能力を持たない古代機体レガシィもいるため、最高級の工場ファクトリー生産機体は、それを上回ることもある。

 ゆえにゴレム技師は、この世界で一目置かれる存在だった。製造や再生のノウハウなど、一子相伝のものもあり、有名なゴレム技師の家系もあるくらいだ。


「えっと、あなた……ノルンさんでしたっけ? 誰なんですか、その写真の人?」

「エルカって言ってね、私の」


 コレットの質問に答えようとしたノルンの目の前に、大きな木箱が飛んで来た。勢い良く石畳に叩きつけられ、バラバラになった箱の中から様々な野菜が辺りに散らばっていく。


「わあっ!?」


 コレットが驚いてその場から後ずさる。目の前にいたノルンをふと見ると、まさに大きなカボチャがノルンの頭部を直撃し、ぐきっ、と首が曲がっていた。あれは痛い。

 いったい何事かと辺りを見回すと、通りの向こうで何やら騒ぎが起きている。どうやら騒ぎの場はあの八百屋のようだ。目の前に散らばった野菜はあそこのものなのだろう。

 コレットが注意深く見てみると、スキンヘッドの男が、大きなゴレムを従えて、八百屋の店主の胸倉を掴み上げていた。


「おい、オヤジ。もう一度言ってみろよ」

「でっ、ですからお代を……!」

「ほお……俺様のゴレムを見て、まだそんな口をきけるとはいい度胸だな」

「ひっ……」


 どうやらスキンヘッドの男がゴレムを使ってなにやら因縁をつけているようだった。

 ゴレム使いにはああいった輩も少なくない。強力なゴレムであればあるほど、自分を律することのできない者は力に溺れる。

 ゴレム使いは人々の憧れでもあり、また、恐怖の対象ともなるのだ。


「うっわー……。ガラ悪……」


 八百屋の前で息巻いているスキンヘッドに顔を顰めると、コレットは正面のノルンへと目を向けた。が、そこには荷物を頭に乗せた黒騎士だけが佇んでおり、どことなくその顔も困り顏に見える。ゴレムのくせに表情が豊かな機体だ。


「あれ? ノルンさん?」


 コレットが周りをキョロキョロと見渡していると、ノワールがさっきの八百屋の方を指差す。

 その先を視線で追うと、ちょうどスキンヘッド男へと全力疾走していたノルンが石畳を蹴り、宙に舞う瞬間だった。


「な……ッ!」


 コレットが驚きの声を上げたと同時に、ノルンの飛び蹴りがスキンヘッドの側頭部を捉える。ゴッ! という音が聞こえて、そのままスキンヘッドの男が顔面から地面に倒れた。


「ぶうっ!?」


 突然の襲撃者に辺りがザワつく。八百屋の店主もいきなりのことにポカンと口を開けたままになっていた。


「こっ、この野郎!? なにしやがる!?」


 流れる鼻血を押さえながら、スキンヘッドの男が小さな襲撃者に声を荒げる。それを無視してノルンはつかつかと八百屋の前までいき、リンゴが山積みになった大きな木箱に手をかけた。


「それは……」


 ぐぐぐっと何十キロもありそうな木箱をノルンが持ち上げていく。


「こっちの、セリフだッ!!」

「どわ──────ッ!?」


 ノルンが力まかせにスキンヘッド男へと、その木箱をぶん投げた。その体格からはあり得ない力である。

 慌てて回避した男の目の前にドグシャッ! と木箱が落下し、中身をぶちまけて盛大に壊れた。

 八百屋の店主が泣きながら叫ぶ。


「ウチの商品が────ッ!?」







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