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クロノクラウン  作者: 冬原パトラ
第1章 ゴレムと王冠。
13/22

☆013 ゴレムと、ゴレム使い。




御主人マスター


 ノワールが砕けたパラディンのボディから、掌に乗るくらいの大きさの、立方体の結晶を取り出した。ゴレムの中枢核、Gキューブである。

 薄暗い中、鼓動するかのように緑色の燐光を発しているそれをノルンは受け取り、ほっとしたように息を吐いた。

 これさえ無事ならこのゴレムは甦ることができる。記憶や能力は失ってしまうが、こんな辛い記憶なら無い方がいいのかもしれない。


「次はいい使い手(パートナー)に出会えるといいわね」


 微笑んで、ノルンが静かにキューブを撫でると、呼応するかのように緑の光がわずかに強く光り輝いた。


「あっ!」


 何かを思い出したように、ノルンが急にあたふたと挙動不審になる。


「これ持ってて!」

「え? え?」


 キューブをコレットへ手渡し、近くの欄干に取り付けられた街灯へと走り出す。街灯に背中をピタッと合わせて立つと、ノワールが主人の元へ駆け寄って欄干に上り、どこから出したのか、メジャーでその身長を測り始めた。


『……112.3cm』

「うあああ〜……1センチ以上も減ってるうぅ〜!」


 がっくりと膝をつき、四つん這いの状態でうなだれるノルン。ものすごい落ち込みっぷりに、いたたまれずコレットが声をかける。


「ど、どうかしたんですか?」

「……ノワールの能力は使うと反動があってね……。使い手の「時」を巻き戻してしまうのよ。肉体だけだけど……」


 自嘲するかのようにコレットの方を見ながらノルンが力無く笑う。

 コレットは14歳の少女がなぜこんなに小さいのかを瞬時に理解した。それと同時に、こんなになるまで能力を使わなければならなかった、彼女の過去に戦慄を覚えた。

 王冠の力は凄まじい。しかし、代償無しに使用できる力ではないのだろう。もしもそうなら、王冠の使い手がすでに世界を支配しているはずである。

 「王冠」とは人が手にするべき力ではないのかもしれないと、コレットはノワールを見ながらその秘められた力に恐怖を抱いた。






 すでに夜は明けようとしていた。

 コレットが自ら所属する隠密部隊「カンパネラ」に通報したことにより、警備兵が駆けつけ、あっさりとザレムは逮捕された。

 手錠をかけられ、犯罪者移動用の多脚型ゴレムに乗せられようとしていたザレムに、ノルンが声をかける。


「ひとつ聞いておきたいんだけど。あのゴレムの成長の特性……誰に聞いたの?」


 うなだれていたザレムが生気のない顔を上げ、ノルンへと視線を向ける。


「……誰かは知らん。ゴレム技師だと言っていたな。私のゴレムをひと目見るなり、「もったいない」と言い出して……」

「ボサボサ頭でビン底メガネの女ね」

「そうだが……」


 間違いない。その女こそノルンが探しているゴレム技師だった。ひと目でゴレムの特性を見抜く輩がそうそういるわけがない。

 連行されていくザレムを見送りながら、舌打ちとともにノルンが今の心情を吐露する。


「ちっ……。まったく余計なことを……」

「ノルンさーん」


 警備兵と挨拶をかわし、何やら書類を受け取っていたコレットがこちらへ駆け寄ってくる。


「犯人逮捕にご協力ありがとうございました!」

「あー、別にいいって。それより……」

「あ、はいはい。えーっとお探しの方はですね、半年前に北へ向かったそうです」


 受け取った書類をめくりながらコレットが報告する。ノルンの探していた人物は北の門から出国していることが記録されていた。かなりインパクトのある外観なだけに、門の護衛兵もしっかりと覚えていたらしい。


「北……」

「あ、写真お返ししますね。お姉さんだったんですね、その人」


 書類に挟んであった色褪せた古い写真をノルンへと手渡す。


「エルカ・パトラクシェ博士……別名「再生女王レストアクイーン」。ゴレム研究において世界で五本の指に入る天才技師……。通り名の方なら私も知ってたんですけど」

「ゴレムのことになると見境無くなるバカ姉よ。絶対面倒事に巻き込まれているに違いないわ」


 写真を見ながら微笑むノルン。やおら顔を上げ、はるか北の空へと目を向ける。


「まったくどこへ行ったのやら……」


 そう簡単に死んだりする姉ではないと思うが。護衛のゴレムもいることだろうし。ただひたすら余計な騒動を起こしてないかが心配である。


「とりあえず北へ向かうとしますか。ノワール! 行くわよ!」

『了解』


 勇ましい掛け声とともに、小さな主従は朝焼けの中を北へと歩き始めた。






「このまままっすぐ行けばゴルドス。カジノの都と呼ばれています」

「ほうほう」

「東よりの道を行くとルセイユ、貿易と漁業の港町ですね」

「ふむ……どっちに行ったものかしらね……」


 北の城壁門を抜け、長閑のどかな街道を進むと、始めての岐路にぶち当たった。地図を広げ、これからのルートを確認する。

 コレットが言うにはルセイユの港町には商人が多く集まり、情報が集まりやすい。一方、ゴルドスの都は金持ちが多く、ゴレム使いの多い都市ということだが……。


「って……なんでアンタが付いて来てんのよ!?」


 当たり前のように横にいるコレットに、思わず突っ込みを入れるノルン。当然相棒であるハヤテも一緒にいる。


「いやー、実は勅命が下りまして。ゴレム技師の権威であるエルカ博士を見つけ出し、これを保護。あわよくば我が国へ招聘せよ……と」


 ノルンの姉、エルカ博士はどこの国にも所属していない。どの国も自分の国へ引き込みたい優れた人材である。辻斬り事件がきっかけとはいえ、その妹である少女との繋がりができたのだ。これを見逃す手はない。


「スカウトってこと?」

「まあ、そういうことです」


 表向きはそうだ。しかしコレットにはもうひとつ隠された任務があった。つまり「王冠」であるノワール、その使い手であるノルンの監視である。

 「王冠」の力は凄まじい。大きな代償を払うという枷があるとはいえ、もしもその力が悪用されたり、暴走したらどうなるか。そうならないための監視であり、制御役である。

 だがコレットは任務とは別に、この少女に興味を持ち始めていた。この少女との旅は、どのようなものになるのかまったくわからない。だからこそ、楽しそうな予感がするのだ。この少女は、自分がまだ見ぬ何かを見せてくれるのかもしれないと。

 そんなコレットの思いなどまったく気づかないノルンは、彼女の懐に素早く潜り込むと、両拳を思いきり上に振り上げた。


「勝手なこと抜かすな!!」


 バチーンッ!! と小気味よい音を立てて、コレットの大きな水蜜桃が二つとも上方へと跳ね上がる。


「痛ぁ───────────!?」


 地味に痛い。ぶるんぶるんと弾む胸を押さえ、涙目になって、コレットは鼻息荒く拳を振り上げたままのノルンに抗議する。


「なっ、なにするんですかー!?」

「やかましい! このダブルメロン!!」

「ノルンさんはセクハラが酷い!!」

「なにおう!? ぱんつ脱がしたろかー!!」

「ぎゃ──────────ッ!!」


 スカートの中に手を突っ込んできたノルンから逃げるように後退するが、時遅く、すでに指をかけられていた。伸びる下着をスカートの上から押さえ付け、抵抗を繰り返す。

 主たちのどうでもいい争いを見ながら、黒と紫のゴレムはその場に佇む。ゴレムだって、これがたわいのない争いにすぎないことを承知していた。

 やがて紫のゴレムが腕を組み、我関せずとバイザーを下ろした。


『謝罪……』


 それを見て申し訳なさそうにノワールが小さな声でつぶやく。


 ゴレム。

 それは古代文明が生み出した機械仕掛けの人形たち。

 幾星霜の時が流れた今でも、人々はゴレムと共にある。

 そしてそのゴレムを使役し、自由自在に操る者を───。


 人々は「ゴレム使い」と呼ぶ。








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