☆012 決着と、制裁。
「王冠……!」
「バカな……! こんなクズゴレムが王冠だと……!? 認めん……! 認めんぞ!!」
呆然とするコレットと、怒りに震えるザレム。王冠、クラウンシリーズはその数もはっきりとはしてはいない。
パナシェス王家の所有する、青の王冠「ディストーション・ブラウ」、義賊団・「紅猫」の首領が持っているという、赤の王冠「ブラッド・ルージュ」などいくつか有名な機体もあるが、噂だけならいくらでもあるのだ。
その強力無比な機体は、ザレムにとって目標であり、超えるべき存在だったのだ。そのゴレムがこんなみすぼらしいちっぽけな機体で、それを操るのが10にも満たない生意気なガキだなどと、とても許せることではなかった。
「認めてたまるかあッ!!」
パラディンが上空に伸ばした右腕に、氷がまとわりついていき、巨大な剣の形を成していく。その大きさはパラディンの三倍にもなろうかという巨大なものだ。
「氷が……!!」
「見ろ! この力を! 我がゴレムこそ王冠にふさわしい!!」
狂ったようにザレムはパラディンを操り、目の前の小さな黒騎士目がけてその巨大剣を振り下ろす。
「砕け散れッ!!」
バキャアァッ!! っと冷気と爆風を辺りに振りまきながら、氷の大剣が橋の上にあったものをバラバラに粉砕する。石畳はメチャクチャに砕け散り、氷と石の破片が周辺にばら撒かれた。
「くっ……!」
吹き荒ぶ冷風に耐えながら、コレットは横のノルンを覗き見るが、腕を組んだ仁王立ちのまま、少女は前を見据えていた。
「はははは!! どうだ!! 王冠と抜かしてもこの程度か!! ざまあみろ! ははははは!! は……」
背後の闇の中になにかを感じ、振り向くザレム。そこには白いマフラーをなびかせて、たった今潰したはずの小さな黒騎士が立っていた。
ズンッ!! っと、突然襲われた重圧にザレムが膝をつく。そのまま両手をも地面について、動けなくなってしまった。
「!? ぐ、ぐうッ!? 身体が重い……ッ……! 貴様……なにをした!!」
まるで鉛を背負わされたかように、身体が重くて動かすことができない。這いずるように首を動かし、目の前で腕を組む少女を睨みつける。
「ノワールは別の時間・別の世界から、あらゆるものをちょっと拝借してこれるのよ。一秒前、二秒前……一秒後、二秒後……。あらゆる時間からアンタの「体重」を借りてきて、現在のアンタに上乗せした」
「ぐっ……!」
ノワールが呼び出せるものは物質に留まらない。短時間ではあるが、「重さ」や「力」、「回数」といったものも呼び出せる。様々な世界でそれぞれのノワールが存在し、繋がっているのだ。
「そんなことまで……」
コレットがノワールの力を目の当たりにし、掠れた声を漏らす。
「王冠は世界を変える力」
その姿勢を崩すことなく仁王立ちのノルンが這いつくばるザレムに言い放った。
「その重さは今のアンタよりはるかに重いわよ」
そう語る少女を睨み返して、ザレムは傍らに立つ白銀の騎士に命令を下す。
「パラディンッ!!」
銀騎士は作り上げた氷の刃を再び振りかざし、小さな黒騎士へと斬りつける。しかしその刃は黒騎士に触れることなく虚しく空を斬った。
高く飛び上がったノワールは自らの能力を、両手に持つ特殊な愛剣に発動させる。
『刀剣重量、増加-固定。増加-固定。増加-固定。増加-固定。増加-固定。増加-固定。増加-固定。増加-固定。増加-固定。増加-固定……』
いくつもの世界から呼び出して重ね掛けした、何トンもの重量をまとった剣を、パラディンに振り下ろす。
メキャアッ!! と頭が潰れて胴体にめり込み、支えていた足も膝から砕け、銀の騎士は仰向けに倒れた。砕けたパーツの転がる残響音が、切なく辺りに広がる。
『Au revoir』
ノワールが小さくつぶやく。古代語で「さようなら」を意味する言葉が、銀の騎士に届いたかどうか……。
完全に機能を停止したパラディンを見て、ザレムは途方もない絶望感に襲われていた。
なぜこうなった? どこで自分の計画は狂ってしまったのか。あんな中途半端なゴレムに浮かれ、踊らされたことに腹が立つ。あいつさえもっとマシならこんなことにはならなかったのに。
「出来損ないめ……」
この期に及んでも、この男はゴレムを道具としてしか見ていなかった。さらに全ての責任を自分のゴレムに押し付け、自己を正当化しようとさえしている。
逃げなければ。さもないと身の破滅が待っている。振り向いた男の目に、月を背後に背負って、飛び上がったノルンの姿が映った。
全体重をかけた強烈な飛び蹴りが、ザレムの顔面に炸裂する。
「がはっ!?」
美貌を歪ませ、鼻血を撒き散らしながら倒れた男に、トドメとばかりにノルンの容赦ない鳩尾蹴りと金的蹴りの二発が放たれる。
「ぐふぇっ!?」
ダラダラと脂汗を流しながら、ザレムは意識を手放した。かくん、と首が地面に落ち、口からは泡を吹いている。
ノルンはそれを見て、右拳を突き出し、親指を下へ向ける。
「成敗!」