その後の世界
ベランダに出た、大輔の息も心も乱れていた。
そして、なによりもその瞬間、涙をこらえるのに必死だった。
一歩ずつ、踏みしめるようにベランダの縁へと歩む。
沙耶香の家のベランダに、数枚の便箋と花が生けてあった。
その花は、以前話したことがある大輔の好きな花だった。
鈴蘭・・・花言葉は幸運が戻ってくる。
でも、彼の元に幸運はもどってはこない。
そして、便箋を手に取った。
そこには、一言『ありがとう』と書いてあった。
彼女は、大輔に言いたかった言葉をたった一言に表した。
涙が零れた。
もし、幸運が戻ってくるのなら、沙耶香が戻ってくるのなら大輔は人だって殺せるだろう。
でも、彼女は帰ってこない。
それが、すべてでそれ以上でも以下でもないのだ。
ただひとつ、彼女は帰ってこない。
今、泣けるだけ泣こうと思った。
涙は人間の感情を表現するなかで一番便利だと、この時知ったのかもしれない。
そして、この時決意した。
彼女を忘れない。
もう泣かないし、これから恋だってするだろうし、大切な人が何人も出来る。
でも、彼女を忘れない。
あの月に誓って。
その後の世界は何も変わらなかった。
月曜日にはちゃんと学校にも行った。
そう、沙耶香の死は世界になんの影響力もないのだ。
これが、死ぬってことなのかもしれない。
人の命にはそんな力は備わっていないのかもしれない。
彼女の死を通して、変わったものが一つある。
大輔だ。
何も変わっていないようで、すごく変わった。
誰も気づかないほどだけれど、確かにほんの少し変わったのだ。
彼が、この先大人になってもそれは続くだろう。
その変化は、大人になっても彼に残るのだ。
その後の世界・・・それは大輔が彼女の思うための世界。
その夜も、夜空には紅い月が輝いていた――紅月――。
お疲れ様でした。
初作品で全く納得いってはいないんですが、これからも様々な作品を作っていきたいと思います。
現在、もう一つ連載中ですので是非そちらも。




