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紅月  作者: 倉岡玉由
7/9

最初で最後のキス 〜First and Last Kiss〜

華火が、これからの彼らの祝福になったらどれだけ幸せか。

9時から始まった華火は、夜空を照らしながら儚く散っていく。

大輔の決意と勇気によってもたらされたその言葉によって、二人の想いは重なった。


でも、大輔はわからない。

これから自分がどうすればいいのか。彼女になにをしてあげられるのか。

自分は何をすべきなのか。

でも、もうそんなこと悩んでも仕方がないことに気づいた。

いくら悩んでも終わりはやってくるのだから。

だから、彼は今の幸せな時間を楽しむことにした。

『これ一緒に食べようと思って買ってきたんだ』

そう言って、祭りで買ってきたたこ焼きや、焼きそばなどを差し出した。

『ありがとう。せっかくだから冷めないうちに食べよう』

にっこり笑ってそう言ってくれたのが何よりも救いになった。

彼らは、この時間を楽しんだ。

華火を見ながら、出来るだけ明るい話をした。


しばらくして沙耶香が口を開いた。

『あのね』

『ん』

『聞いてほしいの』

『うん』

『私が死ぬのは分かるよね。だから、その前に伝えたいことがあるの。

私は大輔君が好き。今、一番大事なのはあなた。』

『うん、僕もだ』

『うん、だけどそれだけじゃなくてもっと大事ななにかを伝えなければならない気がするの。

私は、大丈夫。自分の死だもの。自分でちゃんと整理をつけられる。

でも、残された大輔君のことが心配なの。』

悲痛な叫びだったが、大輔も痛いほどその気持ちがわかった。

『分かってる。僕も分かってる。

君が死ぬなんて本当は信じられない。いや、信じたくないのかもしれない。

でも、それが本当なら僕は泣かないよ。

でも、君を忘れない。それだけで十分だと僕は思ってる。』

大輔は本当に思っている気持ちを伝えた。

精一杯の可能な限りの言葉であり、もしかしたら最善の言葉だったのかもしれない。

そして、これからの二人にとって大事な言葉だったのかもしれない。

『うん、大輔君なら大丈夫。』


それから、しばらく沈黙が続いた。

口を開いたのは、大輔だった。

『これからは、ちゃんと毎日来るよ。君がそこにいる限り。』

それから沙耶香も口を開いた。

『うん、ありがとう』

花火も終盤に差し掛かり始め、どんどん空を彩っていく。

今日が晴れだったことが何よりも幸いだった。


それから、たわいのない話をした。

好きな花の話。夢の話。

お互いの事をちゃんと知らない、彼ら。

でも、本当はちゃんと知っている。お互いがどんな存在なのか。

とにかく、話をした。

やっぱり、少し悲しい気持ちと雰囲気は収まらなかった。


でも、華火が終わるころ彼らに小さな奇跡が舞い降りた。

大きな枝垂れ柳の三尺玉が上がり、続いて大小様々な大きさの華火が上がった。

きっかけは単純。

お互いにそうしたかったからそうしただけ。

大輔と沙耶香はキスをした。

それは、ほんの数十秒だったかもしれないし、数分だったかもしれないし、もしかしたらほんの数秒だったかもしれない。

そんなことは彼らにとってどうでもよいことなのだ。

彼らは、形が欲しかったのかもしれない。

それが、たんにこういう形だっただけの話だ。


ベランダからお互いに体を伸ばした変なキス。

それが彼らにとって最初で最後のキスになった―――。

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